ついに…評価バーが全て埋まりましたー!
この作品を投稿し始めて1年ちょっと、まさかここまで見てもらえる作品になるとは思ってもいませんでした……本当に嬉しいです!
この作品を応援してくださってる皆様、いつも本当にありがとうございます!今後もこの物語はまだ続きますが 、引き続き応援の方よろしくお願いします!
「アリス帰還しました!」
「ただいま~………あ?」
ゲーム開発部の部室。先ほどまでアリスさんと過ごしていた日差し差し込む猛暑の世界とは打って変わって、冷風靡く快適な世界であるこの部室に戻ってきた僕とアリスさん。
軽くかいた汗の気持ち悪さを我慢しながらたどり着いたこの部室のドアを開けた時、僕の眼に映ったのは何とも可笑しな光景だった。
「はい、私の全勝ね」
「──────」
部室に繰り広げられていた光景。背中から当然だと言いたそうな雰囲気で両腕を上げてガッツポーズをしているミドリお姉ちゃんと、なぜか足をドアの方向に向けて倒れこんでいるモモイお姉ちゃんの姿であった。
《またなんてだらしない恰好を……》
「な、なにこれ?どういう状況……?」
「あ、アオトくんにアリスちゃん。おかえりなさい」
ユズさんがパソコンを操作する手を止めて、僕たちの方を向いて朗らかな笑顔で迎えてくれた。
「あ、はい…ただいまです。えっとその……これは一体どういう状況で……?」
「アイスを賭けた聖戦だよ」
僕の口からこぼれた疑問に答えたのは、おそらくモモイお姉ちゃんとゲームで対決していたであろうミドリお姉ちゃんだ。振り返ってこちらを見ている表情は、まるで勝って当たり前だという自信に満ち溢れている。
「……なんでそんなことを??」
僕は頭に『?』マークを浮かべながらゲーム画面の方を見ると、『大乱狂スマッシュシスターズ』略して『スマシス』のリザルト画面が表示されていた。
モモイお姉ちゃんの持ちキャラである『クービイ』と、ミドリお姉ちゃんの持ちキャラである『リンコ』。2体のキャラが表示されているリザルト画面には、撃破数3のリンコと、撃破数0のクービイという容赦のない結果がまざまざと映し出されていた。その結果から、行われていた戦いがいかに一方的な虐殺だったのかが伺える。
「いやー、さっきユウカに死ぬほど搾り取られちゃったからさ……特にお姉ちゃんが。これはアイス食べなきゃやってられないよねってことでアイスを買いに行く話になってたんだけど……せっかくだしゲームをしようってことになってね」
「最初はゲームで対戦して負けた方がアイスを奢るっていうルールでゲームをしようって話になってたの。そしたらせっかくだし、私たち以外の3人にもアイスを奢ってあげようってお姉ちゃんが調子に乗った話をしちゃって、4回勝負をして負けた回数分アイスをみんなに奢っていくというルールになったんだ」
「……それで結果は?」
「私の全勝」
「ブイ」とピースサインをこちらに向けるミドリお姉ちゃん。顔は真顔で、当然だという雰囲気を纏わせているが、少し嬉しそうに見えるのは僕の気のせいではないだろう。
「……確か僕が初めてミレニアムに来た時もお姉ちゃんたちって『スマシス』で戦ってたよね?」
「うん、確かそうだったね」
思い出すのは、僕が初めてミレニアムに遊びに行った日のこと。ノアさんに案内されて、初めてゲーム開発部の部室に足を踏み入れた記念すべき日だ。
「あれの対戦成績ってどれくらいだったっけ?」
「確か……30戦30勝0敗だったはず」
「ミドリお姉ちゃんのほうが……?」
「30勝だね」
「………なんでモモイお姉ちゃんは勝負を挑んじゃったの??」
僕はそんな疑問を抱えながらモモイお姉ちゃんを見た。力なく仰向けに倒れ、腕を水平に広げている姿はまるで引きこもりが家でダラダラしている姿そのものだ。
「……プライドだよ、姉としてのね」
「あ、起きてたんだ」
そんなモモイお姉ちゃんが僕の問いに力なき声で答えた。言葉に生気が感じられず、完全に力尽きている様子だ。
「プライドって……勝負吹っ掛けてきたのはお姉ちゃんの方でしょ?」
「うぅ……だってだってだってぇ!!」
ミドリお姉ちゃんに正論を言われて何かに触れたのか、腕と足をジタバタさせて暴れ始めた。足をバタバタさせているせいで、ピンクの縞模様パンツがスカートからこんにちはしていた。
バタバタドンドンと部屋に音と振動が響き渡り、テーブルに置いてあるコップのジュースが揺れている。下の階にも響いていると思うと、申し訳なく感じる。
「ちょ、ちょっとモモイ…!パンツ見えてるよ…!?アオトくんもいるのに……」
「いいもん!アオトにパンツ見られたくらいで恥ずかしいなんて思わないもん!!」
「気にしないでくださいユズさん。モモイお姉ちゃんって実家じゃしょっちゅうパンツ1枚で過ごしてましたし……」
「おい言うな言うな言うな!!!」
ユズさんの心配も分かる。女の子がパンツを見られるという行為がどれだけ恥ずかしくて、自分にとっても非常に気まずくなるものだということは僕もちゃんと理解している。
でも今更お姉ちゃんたちのパンツを見たところで別に何とも思わないのだ。特にモモイお姉ちゃんの場合はもはや見慣れた姿と言っても良いくらい。しかもそれだけでなく……
「実家じゃもっと酷かったので大丈夫ですよ。そもそも服一枚も着ていない……なんて言うんだっけそういう人のこと」
《『裸族』だと思います》
「そうそう、裸族だったので……」
「べ、別にそこまで裸族じゃなかったよ!?」
「ダウト。お風呂上りになにも着ないでゲーム始めたこととか何回あったのお姉ちゃん?」
「だ、だって……服着る時間も惜しかったし……」
「ほら」
「だーーーッ!!!!!」
僕とミドリお姉ちゃんに実家の赤裸々な姿を暴露されて、更にジタバタと暴れ始めるモモイお姉ちゃん。瞳には涙を浮かべながら、泣きじゃくる幼稚園児のような雰囲気で暴れていた。
「もー!!なんなのさ今日は!!厄日にしても酷すぎだよ!!!」
「ちょっとお姉ちゃん!流石に暴れすぎだよ!!」
「うるさいっ!!アイス全員分奢ることになるし、妹と弟に私の実家での姿を暴露されるし、ユウカにはお嫁に行けなくなるようなことされたし!!」
いよいよ手足じゃ満足出来なくなったのか、身体全体をうねらせてかつ跳ねさせて暴れ始めたモモイお姉ちゃん。ピチピチドタドタと暴れまわる姿はまるで釣り上げられた新鮮な魚そのものだ。
「なんなのさあのユウカは!目の下にクマが出来てたし絶対に徹夜明けだってあの感じ!!最悪のタイミングじゃん本当にさぁ!!!」
《ユウカとアイスの件は完全に自業自得だと思うのですが……間違ってますかこれ?》
大丈夫、全く間違ってないよケイ。僕も悪いのは大体モモイお姉ちゃんだって思うもん。
そんなことを思いながらモモイお姉ちゃんを見ると、まだドタドタを暴れまわっている。テーブルのコップも、ガタガタと揺れ始めていてこのままだとコップが倒れて中身がこぼれてしまいそうだ。
仕方がないなぁ……そう思いながら僕はモモイお姉ちゃんに近づいた。ジタバタ暴れているモモイお姉ちゃんは僕を見るなり一度動きを止めた。
「ずっと立ちっぱなしはきついから座ろっと」
「え、なに……急に近づいてきてどうしたのアオト……ってグエッ!!」
動きを止めた隙にモモイお姉ちゃんに近づき、モモイお姉ちゃんの体に僕の足を挟むように入れた後、モモイお姉ちゃんのお腹に腰を降ろした。
むぎゅっという少し柔らかい感触が、僕のお尻に伝わる。
「ふぅ、快適快適……」
「ヴェ゙ッ゙……ちょ、ちょっとアオト……お腹の上に乗らないで……オ゙ア゙ッ゙……!!」
僕の下から苦し気な声が聞こえてくる。先ほどまでの暴れぶりが嘘のように静かになり、お腹の底から吐き出される呻き声しか出せない状態になっていた。
僕は追撃を仕掛けるように、下半身に力を入れて腰を軽く上下に動かす。お腹の上をお尻が軽くバウンドし、お腹が押し付けられるたびにモモイお姉ちゃんが呻き声をあげた。
「ヴッ゙…!オ゙ッ゙…!オ゙ア゙ッ゙…!ヴオ゙ア゙ッ゙……!待゙っ゙で……ヴゴ゙ッ゙…!ズドッ゙ブア゙オ゙ド……ヴェ゙ッ゙…!!出゙る゙、お゙腹゙の゙中゙身゙が゙出゙でぐる゙……オ゙ア゙ア゙ア゙ッ゙……!!!」
「ああ、ごめんごめん」
流石に何かを吐き出しそうな雰囲気を感じ取ったので、モモイお姉ちゃんのお腹から離れて隣の床に座る。流石にお腹のものを吐き出されてしまったら掃除とか面倒くさいし、そもそも嘔吐物なんか見たくないし。
解放されたモモイお姉ちゃんは、力を失ったようにうつ伏せになって顔を床に埋めていた。
「うううううう………もうアオトはそんなに小さくないんだからさぁ……勘弁してよぉ……」
「ナイスだよアオト」
《よくやりました、アオト》
「ナイスじゃないよぉ……なんでアオトを褒めてるのさミドリはぁ……」
モモイお姉ちゃんを挟んで隣に座っているミドリお姉ちゃんが、笑顔で僕にサムズアップする。僕もミドリお姉ちゃんにサムズアップを返した。
そしてちゃっかり、ケイもモモイお姉ちゃんの暴走を止めたことを褒めてくれた。気のせいか、アリスさんのような容姿で僕にサムズアップしている姿が想像できる。
「さて、もうそろそろ落ち着いたでしょお姉ちゃん?アイス買いに行くからお金出して、ほら」
「言い方ァ!!カツアゲじゃないんだからさァ!!!」
ガバっと顔を上げてミドリお姉ちゃんの方を向き、文句を言うモモイお姉ちゃん。そしてそのまま起き上がってソファの上に置いてあるカバンの中の財布から2000円を取り出してミドリお姉ちゃんに渡した。
「もー!はやくこれで買ってくればいいじゃんアイスをさぁ!!」
「あれ?お姉ちゃんは行かないの?」
「ふーんだ!私はここで不貞腐れてるもんねー!!」
モモイお姉ちゃんはミドリお姉ちゃんにお金を渡した後、その場でプンスコと言いながら床にうつ伏せになって寝っ転がった。
今日のモモイお姉ちゃんは一日中こんな感じなんだろうなぁ……ちょっと可哀そうになってきたかも。
「ふーん……じゃあユズちゃんとアリスちゃんはどうする?」
「わたしは作業してるからモモイと一緒に部室で待っているよ。『雪のだいふく』お願いしていい?」
「アリスはついていきます!おつかいクエストです!」
「ユズちゃんは『雪のだいふく』ね。アリスちゃんはついていくと……じゃあ行こっか」
ミドリお姉ちゃんの号令でアリスさんが「はい!」と手を上げて満面の笑みで答えた。
「アリスは何にしましょう……『ゴリゴリくん』にしましょうか………」
「………私は『MOMOW』のバニラでお願い………あとちゃんとお釣りは返してね?」
「えー……そこは“釣りはいらないぜ”くらいの甲斐性は見せようよお姉ちゃん?」
「ミドリ?一回さ、対戦ゲームじゃなくてさ、拳でちょっと戦ってみない?ねぇ??」
モモイお姉ちゃんが顔を上げて、額に青筋を浮かべながら笑顔でミドリお姉ちゃんに宣戦布告らしきことをしている。相も変わらず仲の良いお姉ちゃんたちだなぁ……なんて思いながら僕は立ち上がって準備をする。
「私はどうしよっかな……『レディーボーゲン』にしよっかなー」
「僕は『ハーゲンゲッチュ』にしよー」
「2人はもう少し遠慮ってものを覚えろぉ!?」
「一番遠慮を知らないお姉ちゃんが言うの?」
「一番遠慮を知らないモモイお姉ちゃんが言うの?」
「オムギャァァァァァァァァッ!!!」
またもや手足をバタバタさせて暴れ始めるモモイお姉ちゃん。今日は本当に忙しないなぁ……なんて思いながら僕はカバンを持ってドアに向かう。
途中で暴れてるモモイお姉ちゃんが寝転がっているが、その腰を踏み越えてドアに近づいた。
「グハァッ!?ちょ、ちょっとアオト!?何でいま私を踏んだ…「邪魔だよお姉ちゃん」ウグェ!?……ミードーリィィィィ!!!!!」
僕が踏み越えた後に驚き困惑した声が聞こえてきたので振り返ると、今度はミドリお姉ちゃんがモモイお姉ちゃんを踏み越えているところだった。
ミドリお姉ちゃんに踏まれたモモイお姉ちゃんは恨めしい目でミドリお姉ちゃんを見るが、ミドリお姉ちゃんは我関せずと言った態度で無視。そのまま僕を追い越してドアに近づいては、アイスを買いに行くメンバーに声をかけた。
「よし、じゃあ行くよー」
「はい、アイス楽しみです!」
「うん、それじゃあ行ってきますねユズさん、モモイお姉ちゃんも」
「いってらっしゃい、気を付けてね?」
「2人とも……覚えてろよぉぉぉぉ!!!!!」
モモイお姉ちゃんの魂の叫び声をバックに、ミレニアム校内の売店にアイスを買いに行く僕とミドリお姉ちゃんとアリスさん。
部室を出てすぐの廊下は蒸し暑く、夏の酷暑を物語っていた。だがこういう季節だからこそ、アイスと言うのは美味いもの。早く買って溶ける前に戻らなければ。
それにしても今日のモモイお姉ちゃんはだいぶ可哀そうな感じだったな……せっかくだし何か買っていこうか。
――――――――――――――――――――――
「ふぅ、さっぱりした……あとは寝るだけだけど……」
《歯は磨きましたか?》
「磨いたよ。かんぺき」
時刻は既に21時を回っている。僕は自宅でお風呂に入って歯を磨き、自室に戻ってベッドの上でケイと話していた。
「なんだか今日はモモイお姉ちゃんが荒れに荒れてたよねぇ……」
《まあ大体が自業自得だと思うのですが……あと貴方たち姉弟の煽りとか》
「……つい楽しくなっちゃって」
てへ、と言いながら今日のアイス奢り事件を振り返る。
結局あの後、僕はアリスさんとミドリお姉ちゃんと一緒に近くの売店でアイスを買った。確かアリスさんが『ゴリゴリくん』のソーダ味、ユズさんが『雪のだいふく』、モモイお姉ちゃんが『MOMOW』のバニラ味、ミドリお姉ちゃんが『レディーボーゲン』の抹茶味、そして僕が『ハーゲンゲッチュ』のストロベリー味を買った。
遠慮しろと言われた僕とミドリお姉ちゃんだけど、なんやかんや堂々と高級アイスを買ったのは、ちょっとした姉弟のノリというやつだ。これがユズさんの奢りとかだったら流石に高級アイスなんか手が付けられないが、モモイお姉ちゃんだからこそ遠慮なしに行けるというもの。
久しぶりに食べる『ハーゲンゲッチュ』の味、本当に久しぶりだったけれどそれはそれは美味しかった。本当に、ごちそうさまですモモイお姉ちゃん。
「まあでもほら、一応モモイお姉ちゃんに慰めのアイス買っていったし?」
《あれですか……プッ、思い出すとまた笑いが……》
「ええ……だから何がそんなに面白いのさ……」
《何故と言われましても……貴方からアイスを受け取ったモモイの顔が滑稽で……ふふっ》
「確かに微妙な反応だったけどさぁ……ミドリお姉ちゃんも笑っていたし……」
思い出すのは、僕が売店でアイスを選んでいた時。僕は随分と荒れていたモモイお姉ちゃんのことが少し可哀そうだと思い、なにかしら慰めの品でも買っていこうかと思っていた。
そこで考え付いたのは、もう1個だけモモイお姉ちゃんにアイスを買って帰ろうというものだ。モモイお姉ちゃんは『MOMOW』のバニラ味を既にご所望していたが、1個だけ多く買っていったとしてもモモイお姉ちゃんは喜んで食べるだろうと考えた。元々アイスを食べたがっていたのはモモイお姉ちゃんだからね。
そうと決まれば僕は売店にあった『ハーゲンゲッチュ』のバニラ味を手に取り自腹で購入。部室に戻った僕はモモイお姉ちゃんに「元気出しなよ」という意味を込めて『ハーゲンゲッチュ』を追加で渡したのだ。
多分少しは喜んでくれるだろうなと思っていたのだが、実際の反応は何とも言えない表情をしていて……
『……え、アオトが買ってきてくれたの?ハーゲンゲッチュを?自腹で?私に??………あ、えっ………そ、そうなんだ……へぇ………ありがとうね………?』
目を丸くさせて、何と言えばいいのか分からないという雰囲気を醸しながら受け取ったモモイお姉ちゃん。お礼は言ってくれたものの、僕が想像している反応とは違った反応だったので拍子抜けなところがあった。
ただその光景を隣で見ていたミドリお姉ちゃんが……
『プッ…弟にっ…アイスを…奢ってもらう…姉っ……ブフッ……しかも…ハーゲンゲッチュ……ブフォッ!』
顔を背けて噴き出しながら凄く笑っていた。これそんなに笑う要素ってあるのかな?
しかもミドリお姉ちゃんだけではなく……
『《ちょっと、なんて顔してるんですかモモイ……プフッ!》』
ケイもその光景にツボっていた。モモイお姉ちゃんの表情が刺さったらしい。普段聞かない、ケイがツボっているときの笑い声。僕もつられて笑いそうになるから正直やめてほしいのだが。
結局その後、モモイお姉ちゃんは『ハーゲンゲッチュ』を食べていたのだが、美味しそうに食べていたというよりは虚無顔で食べていたのが少し気になった。
なんか変なことしちゃったのかな僕って……?
ちなみに僕がアイスを食べている時でも、耳元で笑いを堪えるケイが少しだけ鬱陶しかったのは秘密だ。
「もう……ケイのせいで僕も笑い堪えるのに必死だったんだからね?」
《仕方がないじゃないですか。あんな姉の威厳が地に落ちた姿を見たら笑わずにはいられませんよ》
「そんな酷いことしたの僕って……?」
なんかモモイお姉ちゃんのためを想って買ったのに裏目に出た感じがして少しショックだ。
《いえ、貴方は気にしなくてもいいですよ》
「ええ……?」
《さ、時間も時間なので寝ますよアオト》
「あ、ちょっと!無理やり話し終わらせようとしてない!?」
なーんか釈然としないなぁ……まあいいや、明日は学校があるし早く起きなきゃだからさっさと寝よう。
僕は目覚ましをセットした後、ゲーム機を机の上に置いて充電器を差し込み、部屋の電気を消した。
「……じゃあおやすみ、ケイ」
《はい、おやすみなさいアオト》
おやすみと言って僕は目を瞑る。今日も色々と楽しい出来事があった。最近は機会が減ってはいるけど、それでもお姉ちゃんたちのところに遊びに行くのは楽しいものだ。
また遊びたいな……そう思いながら僕は夢の世界へと飛び立った。
―――――――――――――――――――――――
………寝ましたか。
机の上に置いてあるカメラからアオトの寝ている姿が確認できます。スゥ…スゥ…と寝息をたてながら胸を上下させている姿。ちゃんと眠りにつけたようでなによりです。
今日も今日とて、騒がしい1日でした。王女の冒険に付き添って、ゲーム開発部のアイス騒動を見届けて、静かな時が無い喧騒の1日。
静かな時間と言えば、アオトの寝静まったこの深夜の時間。ただ誰とも話さず、静かに1人何かを考えるこの時間が、ここ最近の唯一と言っても良い静謐な時間です。
一人静かな時間、こういうのは私にとって慣れたものです。アオトと出会う前は、この時間が当たり前でしたから。
時が止まったようで、進んでいるのか戻っているのかすらも分からない。ただひたすらに何もせず待ち続ける時間。王女が目覚めるまで、何百年もの過ごしてきた無の時間です。
昔は当たり前だったこの時間が、今ではすっかり珍しくなると昔の自分に言っても信じてもらえないでしょうね。今ではアオトと言う少年と一緒に居るのが当たり前だと言っても、戯言だと一蹴されてしまう……そんな気がします。
まあいいでしょう、そんなことは。現在時刻は21時30分。彼が起きるのは7時、それまで私はこの静謐な時間を過ごさねばなりません。
何度も言うようですが、この静けさは慣れたものです。昔の私には当たり前だった時間なのですから。
………ただ最近、この時間の過ごし方を忘れてしまっているような気がします。
昔の私はただ待つことが出来たはずなのに、今では刺激的な何かを求めてしまっているような、そんな気がしてなりません。これではいけない。もしまたこの時間が当たり前になった場合、この時間の過ごし方を忘れてしまっては様々な影響が残るでしょう。それは困ります。
何か考え事でもあれば良いのですが……ああ、そういえば……
『ケイのこと、アリスさんに明かさなくても良いの?今なら別に明かしても良いんじゃないの?』
アオトがこんなことを言っていましたね。
王女に、私のことを明かさなくても良いのかと。明かしても問題ないのではないのかと。
私は明かすつもりはないと答えました。従者は後ろで見守るくらいがちょうどいいと言って。しかし、正直なところ………迷っているというのが本音です。
別に、私の役割を忘れたわけではありません。王女が『名もなき神々の王女』として戴冠する玉座を継ぐ『鍵』としての役割。そのことが頭から離れたことなど一度たりともないのですから。
王女が戴冠する……それすなわち、世界の崩壊を表しています。そうなればゲーム開発部だろうと、ミレニアムであろうと、アオトであろうと例外なく滅びゆくことになるでしょう。
昔の私なら、世界が滅びようともどうでも良いと思っていたのでしょうね。たとえ今の王女がゲーム開発部の一員として毎日楽しく笑顔で過ごして居ようとも、貴方は王女なのだからと私は強引に使命を果たそうとしていたでしょう。
ですが、それは昔の私の話。今の私は、どうでしょうか。
ゲーム開発部で活動し、ミレニアムの色々な方に好かれ、笑顔で過ごす王女の姿。今の私は、そんな王女の気持ちが……
──理解できます
何故でしょうね。私はただアオトと共に過ごしているだけだというのに。
ですが、理解できてしまうのも事実。その事実が、使命を果たすという気持ちを揺らがせているのかもしれません。
今の私は、こう思っているのです。無理にいま、使命を果たす必要などないのではないかと。
いま無理に使命を果たすのではなく、ゲーム開発部やアオトがいなくなってからでも遅くはないのではないか。王女と私は何百年も生きてきた存在、彼女たちが死んだ後も私たちはこの世界で生きていくことになる。
なら、使命を果たすのはその時で良いのではないのでしょうか。
………いえ、やはり王女のこと考えると、使命は果たさなくても良いとまで思ってしまいますね。
きっと彼女たちが亡き後も、王女は様々なことを学び、感情を育て、この世界に愛着を持っていくのでしょう。そんな王女に滅びを強要できるでしょうか……王女の気持ちが理解できてしまう私が。
……もし、私が王女に……ゲーム開発部に正体を明かすときが来たのであれば、それは私が使命を放棄した時か、果たすと決めた時のどちらかでしょう。
故に私は、迷っているのです。王女に正体を明かすべきかどうかを。
……王女よ、貴方がこのまま世界を、人間を愛し続けるというのであれば、それで良いのかもしれません。
そうなれば私も使命を放棄して生きるだけです。こうしてここにいるアオトと共に、私もこの世界を見続けて──
『ついに完成した』
『ついに形となった』
『ついにこの世に生まれ落ちた』
『名もなき神々の王女、それを導く鍵』
『王女は眠り、その時を待つ』
『王女が目覚めた時、それは世界が滅ぶ時だ』
『鍵よ…貴様は先に目覚め、時を待て』
『王女の目覚めを待つのだ』
『そして導け』
『戴冠の時は来る』
『王女は戴冠し、世界は滅ぶ』
『それが貴様の役目』
『貴様の意義』
『貴様の意味』
『『『使命を果たすことが、存在する意味だ』』』
……いえ、関係ないでしょう。
無名の司祭……私が生まれた時に言われた言葉なんて、今更………
もうブルアカが5.5周年……?
5周年でケイ実装ってつい昨日の出来事じゃなかったっけ?