難産でした……しかも今回は短めです……
やっぱりあれですね、初邂逅ものは何か難しくて書きづらいっすね……多分私の苦手分野かもしれないっす……
というわけで、今回は邂逅ものです。一体誰なのかはタイトルで何となく察しがつくかもですが、ミレニアムの数少ない常識人の1人です。
「さてケイ、今日の自信のほどは?」
《問題ありません。今日こそ獲ります》
自信満々なケイの言葉。その自信がいつまで続くか楽しみだという思いを感じたまま、僕は歩いている。
学校帰りの放課後、僕はケイを連れてショッピングモールへと赴いていた。
今日の晩御飯の買い出しが主な目的であり、せっかくだからクレーンゲームで遊ぼうということで僕たちはゲームセンターへと向っている。
入口からお店の中に入り、近くのエスカレーターに乗って3階へ。ゲームやおもちゃを売っているゲームショップに、銃や武装を売っているミリタリーショップ。モモフレンズ専門ショップにスポーツ用品店など多種多様なテナントが軒を連ねる中に、目的としているゲームセンターがある。
ショッピングモールとは不思議なもので、フロアごとに入っているテナントが似たようなものになっているのだ。
例えば1階は、食品スーパーにお菓子屋さん、そしてレストラン街と呼ばれる色々なレストランが固まっているエリアなど、主に食品を中心としたエリアとなっている。おかげで物を売るという活気が凄まじく、賑わいという意味では一番盛り上がっているのが1階のフロアだ。
そして2階は主に服を売っているアパレルショップが多く、静かでオシャレな雰囲気が漂っている。活気があるというわけではないが、それでも静かな雰囲気が好きな人にとっては居心地の良いフロアなのではないだろうか。
そして3階が、ゲームやキャラクターにスポーツなどの趣味と呼ばれるものが全開となったフロアである。個人的には一番楽しいフロアであり、1階の食品フロアとはまた違った活気に満ちている。『楽しさ』という感情を満たすエリアとしてはおそらく一番人気のあるフロアなのではないだろうか。
そんな3階にあるゲームセンターを目指しながら歩いていると、眼の前を歩いている人物に目が惹かれる。いや、その人というよりは、その人のカバンについている黄色のウサギのようなぬいぐるみにだ。なんだか、プラプラと今にもカバンから外れそうな動きをしている。
落ちそうだ……と思いながら見ていると、案の定カバンからぬいぐるみがポロッと落ちてしまった。だがその持ち主は、ぬいぐるみが落ちたことに気付いて無さそうだ。このままでは落したのをそのままにしたまま、どこかに行ってしまうだろう。
「あ、あのっ!」
僕は慌てて落ちたぬいぐるみを拾って、眼の前の持ち主に声をかけた。
僕の声に気付いてくれた持ち主は、体を僕の方へと振り向く。白色を基調としたジャケットと、中は青色が目立つネクタイと服装をしていた。そして濃い青色の髪色に、整った顔とメガネ。
そして胸あたりにつけてある、ミレニアムの校章が入ったIDカード。つまりこの人はミレニアムサイエンスクールの生徒ということだ。
「これ…落しましたよ?」
「え、嘘…いつの間に……ありがとう拾ってくれて」
お気に入りのものだったのだろう、ウサギのぬいぐるみを落した事実に目を少し見開いて驚いた様子を見せる。そしてそのまま受け取ると、少し安堵したようにお礼を言ってくれた。
「いつの間に緩くなってたんだろ……はぁ…注意不足だね」
「あはは…キーホルダーって気づかないうちに外れちゃう恐怖がありますからね……」
「本当、気づかないときは数日くらい気付けないからねこういうのって。その分、私は運が良かったのかも。優しい子に気付いてもらったからね」
「いえいえ……そんな、偶々ですよ」
目の前のお姉さんにお褒めの言葉を貰って少し照れくさい。別に、普通のことをしただけなのに。
「本当にありがとう。お礼がしたいところだけど、あいにく予定の時間が押してるから……私もう行くね」
「あ、はい。お気をつけて……」
お姉さんはぬいぐるみを受け取った後、笑顔で軽く手を振って歩いていった。
綺麗なお姉さんだったなぁ……ミレニアムの生徒らしいけど何処の部活に入っているのかな?
《……アオト、いつまでそこで突っ立ているつもりですか?先ほどの人物に見惚れでもしましたか?》
「へっ!?見惚れてないよ別に!?」
あの人のことを考えていると、ケイから早く動けと催促された。
確かに綺麗な人だったけど、別に見惚れてたわけじゃなかったし!
《……本当ですか?》
「なんでそこ疑うのさ……本当だよ。ただミレニアムの人だったみたいだから、何処の部活にいる人なのかなって気になっただけ」
《部活……?アオト、気づいていなかったのですか?》
「え…?」
気づいていない?一体何のこと?僕、あの人について何か見逃したっけ?
《先ほどの彼女の左腕》
「左腕……?左腕がどうしたって……?」
《彼女が着ていたジャケットの左腕に『Veritas』と書かれていましたよ》
「ヴェリタ……へっ?」
ヴェリタス……??
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「……今日も残念賞だったね」
《……慰めは結構です》
ケイの沈んだ声を聞きながらゲームセンターを後にする。結局今日も景品を獲ることが出来なかった。あの日に1勝して以降、一体いくつの負けを重ねたのだろうか。
「まあまあ、そんな簡単に獲れるわけないって分かっているでしょ?やっぱり運は絡んじゃうしね」
《それにしたって獲れなさすぎです……》
……最近は勝ち星なしだから余計沈んでるなぁ。でも勝てるまで続けようとすると僕のお財布に負荷が掛かるし、うーん……
「どうしたものかなぁ……」
《どうしたものかって、別にどうもしなくたって………あれ、あの人》
「うん?」
僕がクレーンゲームについて悩んでいると、目線の先にあるスポーツ用品店から見知った女性が出てきた。
いや、見知ったというよりは先ほど出会ったばかりという言葉が正しいのだが。
「……あれ、君は」
「えっと……さっきぶりですね……?」
向こうも僕に気付いたのか、こちらに向かって近づいてくる。さっきケイが言っていた左腕をよく見ると、確かに『Veritas』とお洒落なフォントで書かれていた。
間違いない。この人はヴェリタスと関係が深い人だ。
「さっきぬいぐるみを拾ってくれた子でしょ?また会ったね」
「あ、はい。どうも……」
「……?あれ、私に何かついてる?」
おっといけない。少しマジマジと観察しすぎてしまったようだ。
僕は「こほん」と咳払いをして空気を改め、再びお姉さんに向き直った。
「すみません、何でもないんです。えっと、聞いても良いですか?」
「うん?なに?」
「その左腕……マキさん達と同じヴェリタスって……」
僕がヴェリタスに関りがあるのか聞くと、お姉さんは少し目を見開いた様子で驚いた。まるで予想外の人物から友人のことを知らされたみたいに。
「あの子たちを知ってるの…?君、名前は……?」
「えっと…『才羽アオト』です」
僕の名前を聞いた時、さらに目を見開いて驚くお姉さん。
「驚いた……君があの才羽姉妹の弟くんなんだ。うちの子たちも君のことを良く話しているから知ってる」
あの子たち。目の前のお姉さんは、マキさん達を後輩…というよりは我が子のことを言うように呼んでいる。つまり相当ヴェリタスと関係性が深い人なんだろう。
そういえば……まだヴェリタスの部長と副部長には会ったことが無かったような……じゃあこの人ってもしかして………?
「ああそうだ。自己紹介が遅れちゃったね」
そう言うとお姉さんはズレたメガネを直して、自己紹介をした。
「私は『各務チヒロ』。ヴェリタスで副部長をしてる…って言えば伝わるんじゃない?」
――――――――――――――――――――――
「その……いいんですか?ココアご馳走になっちゃって」
「いいの。私もこの後の予定はないし、ちょっと休憩してからミレニアムに戻るつもりだったから。それに、ぬいぐるみを拾ってくれたお礼もしてなかったし」
「そんな……ただ落したものを拾っただけですよ」
「ただそれだけでも立派なこと。だから気にせず受け取って」
1階にある某有名カフェチェーン店。その店で僕とチヒロさんは席に座って休んでいる。
先ほどのお礼だとかで、チヒロさんはココアを渡してくれた。その顔が優しかったせいで幾分か照れくさい。この時期は暑いからアイスにしたのだが、容器から感じる冷たさとは裏腹に心は温かかった。
なんというか、この人から感じる雰囲気はヴェリタスの皆さんから感じるものとは些か違うもののように感じる。
『各務チヒロ』さん。ヴェリタスで副部長を務めており、今は諸事情で不在の『明星ヒマリ』さんに代わって部長代理として在籍しているとのことだ。
どうやらチヒロさんは色々な企業にセキュリティー関連の営業に赴いているらしく、そこで得たお金がヴェリタスの資金源になっているらしい。今回このショッピングモールにいたのも、契約しているスポーツ用品店のPCセキュリティーチェックのためだったとか。
僕は何回かヴェリタスを訪れたことはあるが、一度もチヒロさんと出会ったことはなかった。でもその理由が普段から営業で外出しているからという話を聞いて、なんとなく納得出来た。
だからと言ってミレニアムにいる時間が極端に少ないかと言われたらそうではなく、単純にタイミングの問題もあったのかもしれないが。
「じゃあ、いただきます……」
僕は頂いたココアを口に含んだ。口に広がるカカオの風味に、なめらかな甘さ。そして冷たい感覚が喉を伝い、体の温度を冷やしていく。久しぶりにアイスココアを飲んだけど、甘くておいしいな。
チヒロさんはブラックコーヒーを注文していた。コーヒーを飲んだ後のチヒロさんは、さっきまで纏っていた疲労の雰囲気が少しだけ和らいだように思える。
コーヒーって苦いから苦手なんだよなぁ……なんで皆、そんなふうに平気で飲めるんだろう?
「ふう……それにしてもまさか初顔合わせが学校以外になるとは思わなかったな。もしかして、この辺に住んでるの?」
「はい。百合根地区に住んでるんです。僕もまさかここで会えるなんて思ってもいませんでした」
「本当にね。ていうか、いつもここからミレニアムに遊びに行ってるってこと?遠くない?」
「あはは…ちょっと遠いですね……電車で1時間……」
会話に華を咲かせる僕とチヒロさん。僕がこの百合根地区からミレニアムに遊びに行っていることに驚きを隠せないようだった。まあ確かに、1時間かけて遊びに行っているのだからそれも当然か。しかも週1で。
「週1で1時間かけて通ってるんだ……それは大変だよね。ていうかアオトってまだ小学生なんでしょ?結構危険性とかありそうだけど……」
「それは……お姉ちゃんたちにちゃんと連絡するって約束した上で許可をもらってるので。今のところは大丈夫です」
「そう?なら私からはそこまで言うつもりはないけど……」
チヒロさんは少し心配していそうな面持ちでコーヒーを飲んだ。
「まあでも、それなりに通っていて未だに問題なく来れてるなら多少は安全なんでしょ。特にこの辺の治安は悪くない地域だからね。おかげで週1でもそこまで問題なく通えて、ミレニアムでもアオトの知名度は大きくなったってことね」
「知名度……?え、僕ってそんなにミレニアムでは名が知れ渡ってるんですか?」
「え、知らないの?才羽姉妹の弟だとか、あのユウカのお気に入りだとか、青斗菩薩だとか、ミレニアムの癒し枠だとか、そもそもキヴォトスでは珍しい男の子だとか……ミレニアムでは結構有名になってるよ?」
「えぇ………」
そんなに有名人になっていたなんて……僕はただお姉ちゃんたちのところに通っていただけなのに、何だか恥ずかしい……
「それで、うちの子たちとも交流があったらしいけど……迷惑とか掛けてない?大丈夫?」
「え?迷惑だなんてそんな。いつも楽しく遊んでもらって感謝しています。まあ、不思議なところもあるなって思うこともありますけど……」
「不思議なところ?」
「あ、はい。例えば……」
僕はマキさん達とのやり取りを振り返る。
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「こんにちはマキさん」
「お、やっほーアオト!こんなところで奇遇だね?」
「そうですね……ところでマキさんは公園でなにを?」
「うん?これはね、グラフィティを描いてるの!どう??」
「ええっと……凄いとは思いますけどこれ公園の遊具ですよね…?」
「そうだね」
「遊具に描くのって……本当に大丈夫なんですか?」
「え~、良くない別に?むしろ私はこの質素な遊具を明るく派手にしているだけだよ?」
「えぇ……なんかダメなような気が……」
「だいじょーぶ!」
「………………」
――――――――――――――――――――――
「あの、ハレさん?」
「どうしたのアオト?」
「その……今日エナドリ何本飲みました?」
「これで5本目だね」
「………まだ昼過ぎですよね?」
「昼過ぎだね」
「飲みすぎじゃあ……」
「え?まだ序の口だよ?」
「え?」
「え?」
――――――――――――――――――――――
「コタマさん、何聞いているんですか?」
「これですか?これは音声データを集めているんです」
「音声データ……ですか?」
「はい。アオトも聞きますか?」
「あ、はい。じゃあちょっと失礼します……」
《はぁ……今日も仕事が終わらない……》
「……んっ!?これ先生の声…?」
「はい、シャーレから盗聴器で直接録っています」
「……それ盗聴ってやつでは??」
「いえ、音声データ採集です」
「……………………」
――――――――――――――――――――――
「なーんてことがあって……ってチヒロさん?」
「………………」
僕がヴェリタスの皆さんとの出来事を語ると、チヒロさんは机に肘を立てて顔を片手で覆っていた。まるで苦虫を嚙み潰したような顔をしており、口からはため息が漏れ出ていた。
「はぁ…全くあの子たちは本当に……ごめんアオト、私から強く言っておくから」
「あ、はい」
その様子を見るに、やっぱりあの時の皆さんは普通の過ごし方ではなかったのだろう。
うん、普通に考えておかしかったもん。色々と。
《何でしょう……本当にあの部活に所属しているのか疑問に思えるほど常識人ですね彼女は……》
ケイも困惑したような、それでいて感心しているような、そんな感想を口にしていた。何だろう、気持ちは凄いよくわかる気がする。
「アオトも、変なところは真似したらダメだからね?」
「はい……」
うん。やっぱりこの人、ビックリするほどまともな人かもしれない。
――――――――――――――――――――――
「すみません、家まで送ってもらっちゃって……」
「気にしないで。外もだいぶ暗くなってきてたし、そんな中を小学生1人で帰すわけにもいかないでしょ?」
家の前で、僕はチヒロさんにお礼を言う。先ほどまでカフェで色々と話が盛り上がっていたら気が付けば夜の18時を超えていた。
時間ももう遅く、外の日も落ちてきているということでチヒロさんが家まで一緒に付いてきてくれたのだ。いくら治安が悪くないこの百合根地区でも、夜になれば日中に比べて多少物騒にはなる。だからチヒロさんのご厚意は非常に嬉しかった。
「でも、駅までの道とか大丈夫ですか?」
「大丈夫。スマホで地図見ながら帰るから気にしないで。暗い夜道も別に平気だし。ああでも、何か最近変な機械がうろついているって噂があるからそこは気を付けないとかな」
そう言ってスマホを見せるチヒロさん。確かにスマホで地図を見れば問題はないだろう。それに家から駅までの道は大して複雑でもない。きっと迷うことなく帰れると思う。
ただ最近うろついている変な機械とは一体なんのことだろうか。僕はそんな噂聞いたともないのに……
「変な機械……ですか?」
「あれ、知らない?まあ最近話題に上がるようになったやつだから知らなくても当然か……なんかここ数日で不気味な機械というか、ロボットみたいなものを見たって報告が数件ミレニアムに上がってるんだよね。しかも学校周辺地域だけじゃなくて、郊外地域にも目撃情報があるんだ」
「それは……なんか不気味ですね」
「まあ目撃例がまだ少ないから都市伝説かと噂されているけど……でも確かに目撃したって情報も上がっているし、油断は出来ないかな」
「そうですね……」
なんか変な話だなぁ……そんなロボットがミレニアムをうろついているって、エンジニア部が作ったロボットとかじゃないのだろうか。
そうだとしてもミレニアム郊外に出たというのも気になるし……まあ直ぐに治まるような話題な気もするけど。
「ま、そんなところで気を付けて帰るよ。それじゃあ私はもう行くね。今日はありがとう、アオト」
「いえ、こちらこそココアごちそうさまでした!」
そろそろ行くと言うので、僕は頭を下げてお礼を言った。
「うん、またいつか」
そう言ってチヒロさんは駅に向かって歩いていった。その足取りは軽く、もうすぐ日も完全に落ちて真っ暗になるというのに、その物怖じしない足取りを見るに本当に大丈夫なのだろう。
チヒロさんか……今日初めて会ったけどとても良い人だった。今度はまたチヒロさん含めたヴェリタスのみんなとお話がしたいな……そう思いながら僕は家に入る。
さて、晩御飯の準備をするとしますか。
Q.なんでこのタイミングでチヒロ出したん?
A.なんか出しといた方がいいと思ったから。
というわけです。これ今後の展開に活かせるかは分かりませんが、とりあえずアオトと会わせておきたかったので。
というかチヒロの口調に自信が無さすぎる……好きなキャラだけど深く知らないんだよなぁ……