大変長らくお待たせしました…
最近ちょっと仕事の疲れが溜まってたので気力回復に努めていました…申し訳ないです…
一応これが原作開始前の最終話です。ここまで来るのに1ヶ月近く経ってるってマジですか…
「いや~今日は遊んだね~」
「いつも遊んでばかりな気もするけど……まあいいや、楽しかったし。」
「あはは…僕も久々にお姉ちゃんたちと遊べて楽しかったよ?」
日は既に沈み、夜空に浮かぶ星々が神秘的な情景を浮かばせている。暗い道を街灯が照らし、その道を才羽三姉弟は歩く。
モモイとミドリは、帰るアオトを家まで送り届けていた。
「それにしても最後の最後にねえ…?」
「あんなにドタバタするなんて…」
「……僕はあの人、悪い人ではないと思うんだけど…?」
「「悪い人ではないけどさあ…」」
帰り道、三人の会話は帰る直前当たりの出来事を話題にしているようだ。そこに現れたとある人物にモモイとミドリは因縁(?)のようなものを感じているようで…?
一体何が起きたのか、場面は1時間程前の部室に置き換わる…
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1時間程前────
ゲーム開発部の部室内でアオトは帰る準備を始めていた。帰る準備と言ってもそこまで荷物を持ってきている訳ではないので、すぐに終わるのだが。
「ところでさ、アオト?」
「うん?どうしたのモモイお姉ちゃん?」
帰る準備を進める途中に突然モモイに話しかけられたアオト。何事かと思ったアオトはモモイの方へ振り返る。
「「テイルズ・サガ・クロニクル」の改善案を挙げるとした…何を挙げる?」
「あー、それ私も聞きたい。」
「わ、私も…」
「えー…改善案…?」
先ほどまでアオトがプレイしていた「テイルズ・サガ・クロニクル」。アオトは意識を飛ばしながらもクリアし、「自分は面白いと感じた」という感想を残していた。
さらにそこで改善案がないかと問いかえるモモイ。ミドリとユズも開発者として興味があるのか、同調してアオトに耳を傾ける。
「うーん…正直に言うと、感想の時も言ったけど……」
「「「うんうん」」」
「シナリオとか難易度とか、挙げだしたらキリがない…」
「「「……」」」
挙げだしたらキリがないと言うアオト。面白いとは感じたみたいだが、「それはそれこれはこれ」のようだ。それもそのはず、改善案がそこまで出てこなかったらクソゲーランキング1位なんてもの取ってはいないだろう。ツッコミどころが多いからあんな不名誉な賞を取ってしまったのである。
「ひ、一つ!」
「え?」
「特に改善すべきものを一つ挙げるとしたら!?」
「シナリオ」
「ブボォアッッ!!」
特に改善すべきものはシナリオ。つまりはこのゲームで一番悪かったところはシナリオだということ。そう言い放ったアオトの言葉はシナリオライターに深く突き刺さりモモイは後方へ吹っ飛ばされた。
「おお、素晴らしい飛びっぷり。今回は何メートル飛んだかな?」
「………ミドリ」
「ん?どうしたのユズちゃん?」
「アオトくんってもしかして…モモイに対して当たり強い?」
「…………たまに?そこまで多くは無いけど、アオトに強い当たりをカマされた時は大抵体が吹っ飛ばされてるかな?」
「モモイはアオトくんに弱いんだね…」
アオトは鋭い一撃をモモイにおみまいすることが偶にある。モモイも弟の一撃はかなり弱いのか、どの攻撃もモモイの心にクリティカルヒットし体が後方へ吹っ飛ばされることが多い。
「ぐっ…弟ォ…!シナリオライターの私に向かってシナリオが一番悪かったとは言うようになったではないかァ…!」
「いやでも、本当にシナリオが一番やばかったし…」
「グググ…!な、なんでシナリオが一番やばいって思ったのさ!他の部分にもツッコミどころはあるんでしょ!?」
シナリオが一番悪いというところに納得がいっていないのか、それとも認めたくないのか、モモイはアオトに何とか食い下がろうとしていた。
「あるよ?理不尽極まりない難易度とか。」
「じゃあなんで…!」
「でもその難易度も死にゲーみたいなものって考えれば大丈夫というか…むし攻略してやるってつい熱中しちゃったんだよね。僕が面白いって感じたのは多分その部分。」
「…」
「ゲームシステムに関してもツッコミどころが全くないわけではないけど、他に比べたらマシというか…」
「……」
「僕が思うに、理不尽寄りの死にゲーが好きなら楽しめるかもしれないゲームだと思うんだ。だからそういう層を狙っていくなら難易度とかシステムに関する改善は最悪しなくてもいいかも?」
「……アオトくんってまだ10歳なんだよね?とてもそうは見えないような分析をしてるんだけど…?」
「TSC」に関して自分なりに分析をするアオト。難易度やシステムに関して全く否定をせず、むしろ客層を絞るならそこまで改善する必要性はないのではというとても小学生とは思えない分析をするアオトに思わず驚嘆の声を上げるユズであった。
「そ、そこまで言うならシナリオも───
「ただしシナリオ、テメーはだめだ」
「なんでぇ!?」
「プッ…!」
一蹴。あまりにも無慈悲な一蹴を食らい半泣きになるモモイ。弟に泣かされる哀れな姉がそこにあった。
なおその光景を見ていたミドリは一人噴き出していた。
「腹違いの友人。」
「うっ…」
「結局意味わかんなかったしあの設定。」
「そうだそうだー」
腹違いの友人という謎の日本語。そこを突っ込まれると何も言えないのか、うめき声をあげるのみのモモイ。
なおミドリは面白おかしそうにガヤを入れていた。ユズはこのノリについていけないのか、困惑の表情を浮かべるのみであった。
「それに「私は植物人間ですので」っていうセリフ。やってるときはスルーしたけどあれどうゆう意味なの?」
「い、いやあれは…誤植というか…」
「あれはお姉ちゃんが「草食系」っていう言葉が思い出せないからそれを「植物人間」って書いたからだよ。」
「そこっ!余計なことを言わないっ!!」
ビシィッ!とミドリに指をさすモモイ。対して指をさされたミドリはプイッとそっぽを向いた。その表情こそ真顔であったが、心の中では相当面白がっているに違いない。
「あーもう!アオトったら私を正論でぶん殴ってきたり、スマシスでボコボコにしてきたり、そんないじわるな子に育てた覚えはありません!」
「でも大体悪いのはモモイお姉ちゃんだよね?」
「でも大体お姉ちゃんのせいだよね?」
「キーーーー!!!!」
妹と弟から正論パンチを食らい金属音のような声しか出せないモモイ。もはや姉の威厳なんてものは欠片も残っていなかった。
長女の姿か?これが…
「うう…そんな正論で殴ってきたり有無を言わせなかったりするその姿…まるでユウカみたいじゃないかー!」
「ユ、ユウカ…?誰なのその人…?」
「…あーそっか、アオトは知らないんだもんね。ユウカっていうのはね、正論や数字でこっちを一方的に取り締まろうとしてくる悪魔のことだよ!いわばゲームに出てくる最低最悪のラスボス的存在のこと!」
「へえ、悪魔ねぇ…私を悪魔で最低最悪のラスボス呼びなんて随分な物言いをしてくれるじゃない。」
「ふーんだ。冷酷な算術使いなんてもはや人間じゃな…
……………ん?」
「モモイお姉ちゃん…ドアに人が…」
「「「……」」」
モモイ、ミドリ、ユズ、アオト。この四人ではない第三者の声、ましてや聞き覚えのある声が聞こえてきたことに違和感を覚えたのか、急に黙り始めるモモイ。
ドアに人がいる。その言葉を聞いた途端に顔が青ざめるアオト以外の開発部一同。そして三人同時にギギギ…と壊れた人形のように首を振り返る。そこには…
「こんにちは、ゲーム開発部。」
「ゲエッ!?ユウカァッ!!?」
「人の顔見て「ゲエッ」とは失礼ね!」
セミナーの会計、早瀬ユウカが立っていた。
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「な、なんでユウカがここに…ていうかノックしてよ!」
「ノックはしたし声もかけたわよ!あなた達が騒いでいて気づかなかっただけでしょ?」
突如ゲーム開発部に現れたユウカ。彼女のことを知っているモモイ、ミドリ、ユズはどうやら警戒度を上げているようだ。対して彼女のことを知らないアオトは困惑の表情をしている。
「ところで、どうしてユウカがここに来たの?」
「そうだよ!もしかしてまた廃部云々の話を…!」
「それに関しては何回でも言いたいところだけど今回は違うわよ。」
「じゃあどうして…」
開発部の三人はよほど警戒しているのか、緊張感が伝わってくる。何も知らないアオトはなんだか置いてけぼりにされているような感覚を覚えていた。
「今回あなた達に用があって此処に寄ったわけではないの。用があるのは…」
ユウカはそのままモモイの後ろにいる…
「そこにいる男の子よ。」
アオトに指をさした。
「「!!」」
その言葉を聞いたモモイとミドリは素早くアオトの前へかばうように立つ。二人の警戒度がさらに跳ね上がったかのような雰囲気を醸し出していた。ユズもまたアオトに気持ち少し近づき守ろうとする姿勢をとる。
「な、なによ…別にこの子を取って食おうだなんて思ってないわよ…?」
開発部三人の番犬が歯をむき出しで威嚇しているような雰囲気に困惑しているのか、アオトに何かしようとしているわけではないことを伝えるユウカ。それでも三人は警戒を緩めようとしない。
「…そもそもユウカはアオトに何の用なの?」
「そうだよ!まず、何でアオトのこと知っているのさ!」
「…いや、別にノアから聞いたからなのだけど…」
「…えっ、ノア先輩から?」
「そうよ。ノアにモモイとミドリの弟が遊びに来ているって聞いたの。あのモモイとミドリの弟よ?どんな子か気になるじゃない?だから様子を見に来たのよ。」
ノアからアオトの存在を聞かされたユウカ。どうやらあのモモイとミドリの弟であるということに興味を持ったらしい。
「えっと…モモイお姉ちゃん、ミドリお姉ちゃん…」
「ん?」
「何?」
「あの人に挨拶したいんだけど…いい?」
「「…」」
「お姉ちゃん…?」
状況が全く飲み込めないアオトは、なぜモモイとミドリが自分を守るように立っているのか分からなかった。守ってくれること自体は嬉しいが、だからといって初対面の人間に挨拶しないのはいかがなものかと思ったアオトは姉二人によけてもらうように頼んだ。
「………分かった、生きて帰ってきてね…?」
「アオト…どうか無事で……貴方の好きなカレー作って待ってるから…」
「いや、挨拶に行くだけだよ!?何で僕が戦場に行くみたいな雰囲気になってんのさ!?」
いくら何でも挨拶に行くだけでこの心配のされ具合。アオトは本当に何も理解できずユウカと相対するのであった。
「えっと…」
「こんにちは。貴方がアオトくんね?」
「あ、はい。才羽アオトって言います。10歳です。お姉ちゃん二人がいつもお世話になっています。」
「ふーん?モモイとミドリよりも礼儀正しいわね……私は早瀬ユウカよ。ミレニアムのセミナーで会計をやっているわ。よろしくね、アオトくん。」
「あ、はい。よろしくお願いします、ユウカさん。」
(いや、全然普通の人じゃん…何でお姉ちゃんはあんなに警戒しているんだろう…?)
特に問題なしに滞りなく進んでいく挨拶。ユウカはどうやら、アオトのことをモモイとミドリよりも礼儀正しい人間だと思ったらしい。アオトもユウカのことを別になんてことはない普通の人間だと思ったらしく、姉二人が警戒する理由が余計に分からなくなっていた。
「…どう思うミドリ?」
「うん、アオトに被害なし。特に問題はなさそう…ユズちゃんは?」
「も、問題ないんじゃないかな…」
「そこー、聞こえてるわよー」
「……」
二人のやり取りに問題がないかチェックしている姉二人とユズ。本当にいくらなんでも警戒しすぎではないかと思うアオトであった。
「全くあの子たちは…」
「あのユウカさん…」
「…?」
「もしかして、お姉ちゃんたちはいつもユウカさんにご迷惑をおかけしているんじゃ…」
「「!!」」
「えっと……」
アオトの心配そうな目がユウカを射抜く。アオトは姉二人がユウカにいつも迷惑をかけているが故に、彼女に後ろめたさがあるからユウカを警戒してるのではないかと考えた。
モモイとミドリは今までユウカに迷惑をかけていることを自覚しているのか、それをアオトに知られたらマズいと感じているのだろう。それに対しユウカは…
(たしかにモモイとミドリの二人に対して色々と大変な思いをしてるけど…でもそれをしっかりしているアオトくんが知ったら悲しむんじゃ…それに大変な思いをしているとアオトくんに愚痴るというのもアオトくんが可哀そうだし…)
すごく返答に悩んでいた。
迷惑はかかっているのは事実だが、弟にそのことを言うのは忍びないし、モモイとミドリも姉として弟には悪いところをみられたくないと思っているのではないかと推察するユウカ。彼女はどう返答するのか。
ちなみにモモイに関してはもうたっぷり悪いところを見られていると思うのだが。
「ま、まあ…大変なこともあるけど…だ、大丈夫よ!うん、大丈夫!」
(弟くんのために、今回は誤魔化しといてあげる…!)
結局、彼女は迷惑がかかっていることを言わず、自分は大丈夫であるとアオトに伝えた。これはユウカなりの優しさなのだろう。
「そ、そうですか…なら良かったです…」
「「ホッ…」」
とりあえず一安心の姉二人。アオトも姉二人が特に大きな問題は起こしていないのだろうと思いホッとする。
「それにしても、あなたたち三姉弟のやりとりを少しだけ見ていたのだけど…すごく仲が良さそうね?アオトくんはモモイとミドリのことがそんなに好きなのかしら?」
「…?何を言っているんですかユウカさん…そんなの当たり前じゃないですか。」
「…へえ?」
「モモイお姉ちゃんもミドリお姉ちゃんも僕は大好きですし、お姉ちゃんみたいになりたいっていつも思っていますよ。」
姉弟仲について聞かれたアオトは純粋な笑顔で、姉二人が大好きだと答えた。その満面の笑みからは本当に姉二人のことが好きだということがユウカに伝わってきた。
「きゅ、急にそんなハッキリと大好きって言われたら照れるなあ…それならもっと私に優しくしてくれも良いんだよ?」
「…不覚。不意打ち食らった…ズルいよアオト…」
急に弟の好意を食らった姉二人は、その会心の一撃により照れが隠せずにいた。それと同時に嬉しかったのだろう、ニヤニヤが止まらない姉二人であった。
「ふーん?」
(この子、モモイとミドリのことが本当に大好きみたいね…私が部室に入ったときのあのやり取りを見るに姉弟仲も良さそうだし…それに挨拶したときは大人っぽい礼儀正しい子だと思ったけど笑う顔はとても子供っぽい顔して、ああやっぱりこの子はちゃんと小学生なんだなって思った……この子は何というかその…)
「かわいい…わね?」(ジトォ…)
「…!?(ゾッ…)」
突如アオトに襲った悪寒。ユウカが「かわいい」と発言する際に一瞬見せた目。その目はまるで獲物を美味しく頂こうとする捕食者そのもの。その目を見たアオトは捕食者に狩られる鹿のような感覚に陥った。
そのユウカの目を見たのはアオトだけではなく…
「「ストオオオオオオオオオップ!!!!!!!」」
「!!?」
「ムグッ...!?」
その目を見たモモイとミドリはすぐさまアオトとユウカの間に割り込み、アオトを庇うかのようにユウカと対面した。モモイは全力で両手を広げてアオトを守るように、ミドリはアオトに強く抱き着き覆いかぶさるように守っている。
「一体何のつもりなのユウカ!アオトにそんな目を向けるなんて!!」
「ちょっ、何、何なのよ!?私この子に何もしてないし変な目も向けてないわよ!!?」
いきなり変な疑いを持たれたと思ったユウカはモモイとミドリに抗議をする。おそらくユウカがした目は無意識にやったことであり、アオトに変な目を向けた自覚がないのであろう。
「嘘!ユウカさっき凄い目でアオトを見てた!!あれは獲物を食らってやろうって目だった!!とても異性の小学生に見せて良いものじゃなかった!!!」
「そうだよユウカ!!6歳下の小学生に高校生が手を出すなんてキヴォトスでは恥ずかしいことなんだよ!!!」
「出さないし出すつもりもないわよ!!」
そもそも高校生が小学生に手を出すのはキヴォトスじゃなくても恥ずかしいことだと思うのだがそれはいかがなものだろうか。
「ミ、ミドリお姉ちゃん…苦ぢい・・・」
「…!だ、大丈夫だよアオト…!私がちゃんと守るから…!!」
「ぢ、違う…嬉じいけどそうじゃない…僕はお姉ちゃんに……う゛っ゛…!こ゛、こ゛ろ゛さ゛れ゛る゛ぅ゛…!」
「へっ?あっ…ご、ごめんアオト……」
「プハァッ!はぁはぁ...」
一方、守られる側のアオトはミドリに抱き着かれ口と鼻が塞がり酸欠で死にかけていた。必死になって訴えかけた結果何とか解放してもらえたアオト。あと一歩遅ければ昇天していたかもしれない。
「と、とにかく!私はアオトくんに何かしようと思ってないって!!」
「ほ、本当…?」
「本当!!」
「じゃあなんであんな目をしたの…?」
「いや、だから変な目はしてないってば…!」
一方、モモイとユウカはまだ言い争っていた。ユウカは何もしようとしていないと言うが、モモイは頑なに認めようとしない。
「でもアオトを見て何か思ったんだよね?正直に話して…!」
「えっ、えっとそれは───
……………アオトくんの笑顔が可愛くて食べちゃいたいなって思ったけど…」
「「────」」
食べちゃいたい。おそらく無意識に出た言葉。ユウカは食べちゃいたいくらい可愛いというニュアンスで発した言葉だと考えられるが、今のこの状況下でこの発言をした場合モモイとミドリがどう反応するのかなんて分かり切ったようなものだった。
「……アオト!逃げるよ!!」
「へっ??」
「アオト、帰る準備はもう出来てたよね?家まで送っていくよ。」
「へっ??へっ???」
「ちょっ…!」
いつの間にかミドリがアオトの準備が出来たカバンを持ってきて、モモイがアオトの首根っこを掴んで、まるで駅を通過する快速電車のような速さで三人はユウカの横を通り抜けた。
「だっっっっっしゅつぅぅぅぅ!!!!」
「撤収~」
「ちょっ、モモイお姉ちゃん速いっ…!ユズさーん!ユウカさーん!今日はありがとうございましたー!!………」
…静寂。段々と遠くなっていくアオトの声が聞こえなくなった途端、まるで嵐が通り過ぎた後のような静けさに残ったユウカとユズは茫然としていた。
「…………えっ、帰ったのあの子?」
「そう、みたいですね…」
「「………」」
しばしの沈黙。少し自分を落ち着かせようと思った二人は、言葉を発さずただ三人が通り抜けていったドアを見つめていた。
その沈黙を破ったのは、先ほどまで空気に徹していたユズであった。
「えっと、その…ユウカ先輩…」
「…?何よユズ。」
「えっと…ごめんなさい…?」
「なんで疑問形なのよ……別に大丈夫よ。」
とりあえずユウカに謝っておくユズ。多少疑問形になってしまったのは状況がよくわからなかったからに違いない。ユウカも別に大丈夫と答えるが、心なしか疲れているように見える。
「はあ……まあいいわ、セミナーに戻るから。」
「あ、はい。その…頑張ってください……」
セミナーに戻ると言い、ドアに向かうユウカ。この後の業務は大丈夫なのかと少し心配になったユズは、一応ねぎらいの言葉をかけるのであった。
「ありがとう……ところで気になってたんだけど、そこにある白い粉の山は何なのよ?なんか怪しいんだけど…」
「あっ…あれはモモイの燃えカスなので…気にしなくても大丈夫です…」
「そうなの…?ならいいけど、ちゃんと掃除しておきなさいよ?
…………………………えっ?燃えカス?」
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そして時間は現在に戻り…
「いやーあれは本当にアオトを食う目をしてたね。間違いない。」
「これに関してはお姉ちゃんに完全同意。」
「…確かに変な目はしてたけど違うと思うなあ……」
才羽三姉弟は自宅の前で談笑していた。既に外は真っ暗で、小学生が一人で出歩くのは禁止されているような時間帯である。そのためモモイとミドリはアオトを家まで送り届けたのだが。
「…もうこんな時間だね。」
「…私たちもミレニアムに帰ろっか、ミドリ。」
「…うん、そうだねお姉ちゃん。」
「あれ?家に顔出さなくていいの?」
「んー?今日はいいかな?」
「うん、私も大丈夫。」
家に顔を出さなくていいのかと聞くアオトに今回は出さなくてもいいと答える姉二人。時間も時間なので仕方ないのだろう。
「…あ、そうだ。」
「…?どうしたのアオト?」
「今後もミレニアムに…お姉ちゃんたちのところに遊びに行ってもいいかな…?」
今後もミレニアムに遊びに行きたいと言うアオト。それに対してミドリは少し心配そうな顔をアオトに向ける。
「……一人だと危なくない?」
「…やっぱり?」
「うん、何かあったら困るし…」
「え?いいんじゃない?」
「…?お姉ちゃん?」
一人だと危ないのではないかと懸念するミドリ。姉として心配なのは当然だろう。それに対してモモイは良いのではないかと答える。
「ただし、ちゃんと連絡を入れること!」
「連絡?」
「そう。いつ行くとか、何時に家を出るとか、何時に着く予定とか、出来るだけ具体的にね。それが守れるなら来ても良いよ?」
ちゃんと連絡をすれば一人で来ても大丈夫。そう条件を付けたモモイの提案に対してアオトの答えは一つしかなかった。
「…うん!わかった!ちゃんと連絡する!」
「…よし、決まり!ミドリもそれでいい?」
「…まあ、お姉ちゃんがそう言うなら……」
一応ミドリも納得したみたいで、今後もアオトはミレニアムにやってくることが決まった。
「…それじゃあ、帰るねアオト。」
「寂しくて泣かないでよー?」
「な、泣かないよ!もう10歳なんだから!」
「ハハハッ!冗談冗談!……それじゃあアオト。」
「うん、ミドリお姉ちゃんも。」
「はいはい、それじゃあ…」
「「「またね!」」」
こうしてアオトが初めてミレニアムを訪れた一日は終わり、また新たな一日が始まる。
モモイ、ミドリと同じ血を持つ少年は、ミレニアムでどう過ごしていくのか。
これは才羽家の長男であり、末っ子でもある一人の男の子の、ちょっと愉快(?)な物語である。
ちなみに後日、アオトに対するユウカの誤解は解けて普通にお話しできるようになったとか。
原作開始前編終了です〜
次回からやっとパヴァーヌ編に入る予定です。
タグにキャラを入れてる癖に全然登場しないタグ詐欺的なことをやらかしてしまっていますが、しっかりと登場させますので今しばらくお待ちください…
それとパヴァーヌ編から地の文を一人称視点に変えようと考えています。というのも、気持ち三人称視点で書いていましたが何か書きづらさを感じていたんですよね…
書いてみて全然ダメそうだったら三人称視点に戻すかもしれませんが、とりあえず実験的に一人称視点で書かせてください。
よろしくお願いしますm(_ _)m