狩人は休暇を満喫する   作:烏賊下足

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3話 変人と変人の邂逅

 見慣れぬ地に狩人が訪れてはや3ヶ月。

 狩人は退屈していた。

 

 冒険者を名乗って良いものか悩む程度に狩人は街の外へ赴かず、大抵の時間は迷子犬探しや草刈り、破損した道や壁の補修作業などの雑用とも言える依頼をこなしていた。

 原因は討伐依頼の少なさにある。

 

 ここアクセルは駆け出し冒険者の街と呼ばれているだけあって、周辺に危険なモンスター

が生息しておらず、稀に現れても一部の高レベル冒険者によってすぐに討伐されてしまう。

 

 なぜ実入りの少ない駆け出し冒険者の街に高レベル冒険者が一定数留まっているのかは不明である。

 ホームシックだろうか?

 

 例外として、ジャイアントトード駆除の依頼は冬を除いて一年中あるものの、狩人はどうもカエル狩りの気分にはなれなかった。

 "ジャイアントトード"の文字列を見るだけでも腹が痛い気がしてくるので仕方の無い話である。

 一体どうしてこうなってしまったのだろうか。

 狩人はやるせない気持ちでいっぱいだった。

 

 そんなある日。

 

 足を痛めた老婦人からの買い出しの依頼を終え、貰った飴を口に含みながらギルドのカウンターで完了報告をしている狩人の耳にこんなやり取りが飛び込んできた。

 

「どうしてですか! 私の爆裂魔法であのカエルどもを吹き飛ばして見せたじゃないですか!」

「吹き飛ばしちゃったからこそ納品する肉が消し炭に……あぁいやほら、ね! 君のような上級職の人は僕らなんかのパーティーにはもったいないというか! ね!」

「え、ええそうね! 貴女はもっと優秀なパーティーに入るべきよ! 私たちはもう少しコツコツ冒険するから!」

「さっきは私がアークウィザードと聞いて喜んでいたではないですか! ちょっと、どこに行くつもりですか!?」

 

 そそくさと逃げていく男女と、それに縋るように手を伸ばしたポーズで項垂れる少女。

 その姿には思わず涙しそうになる程の哀愁が漂っていた。

 

 暫くして少女は膝を手で払いながら何事も無かったのように立ち上がる。

 

「ふん、私という最強の魔法使いを仲間に引き入れないとは! 全く見る目が……」

 

 不満気な様子を隠そうともせず恨み言を吐く少女と、一連の流れを飴を舐めながら見守っていた狩人の視線が交わる。

 二人の間に一瞬の緊張が走った。

 そして次の瞬間、つば広で奇抜なデザインの帽子を被ったその少女はマントを翻し名乗りを上げる。

 

「我が名はめぐみん! 紅魔族の次期族長にして、爆裂魔法を極めんとする者! という訳で、私とパーティーを組みませんか!」

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 翌日。

 狩人と魔法使いの少女―――めぐみんは街から少し離れた森の中を歩いていた。

 鬱蒼と繁る木々により日が遮られ、日中だと言うのに薄暗く視界が悪い。

 携帯ランタンを装着し先導する狩人の後ろを、少し怯えたように周囲を警戒しながらめぐみんが歩いている。

 

「本当にパーティーを組んでくれないのですか? 結構役に立つ自信がありますよ?」

 

 街を立ってから三度目になる問いかけに、狩人は変わらずNoと答えた。

 背後からじっとりとした視線を感じる。

 

「……まぁいいです。今回の共闘で私の有能さを見せつけ、その考えを覆して見せましょう!」

 

 ふんすと気合を入れ邪魔な枝葉を杖で払いのけるめぐみんを横目に、狩人は思案する。

 今回狩人が彼女に提案したのは一時的な共闘である。

 

 今まで狩人は一度もパーティーを組んだことがない。

 強力な獣と相対する際に何度か古狩人や連盟員と協力したことがある程度だ。

 今までほとんど単独で戦ってきた狩人にとって、気を配る必要がある仲間という存在は実質足枷であり、めぐみんがどうこうという話ではなくそもそも誰ともパーティーを組むつもりはなかった。

 

「にしても一撃熊の討伐依頼とはなかなか危険なものを選びましたね。貴方の職は冒険者だって話でしたが、本当に大丈夫なんですか?」

 

 一撃熊。

 大きな前腕と鉤爪で以て一撃で冒険者の命を奪うことからそう名付けられ、それなりの場数を踏んだ冒険者パーティーでも油断のできない危険なモンスターだ。

 

 不安げなめぐみんに心配ないと返し、携帯ランタンの火を落とす。

 目撃情報はこの辺りのはずだ。

 

 慎重に歩みを進めるとやがて視界が開ける。

 木々がなぎ倒されて出来た空き地。

 その中心に巨大で黒い塊。

 街を行き来する馬車を三つ四つ積み重ねれば丁度このくらいの大きさだろうか。

 地響きのような寝息を立てているのは今回のターゲットである一撃熊だ。

 しかし。

 

「ちょっ……なんですかこの大きさ! 見たことないですよこんなの!?」

 

 めぐみんが悲鳴のように耳打ちをする。

 そう、大きすぎる。

 通常個体よりも歪に骨格が肥大化し、その分筋肉が異常に発達し隆起しているのが見て取れる。

 森の主だろうか。

 近くには他に生き物の気配はない。

 恐れて逃げ出したか、あるいは須く食い尽くされたか。

 

 割に合わない、そう思った。

 少なくとも駆け出し冒険者が請けられるような依頼ではない。

 

「逃げましょう! 今ならまだ間に合いますよ!」

 

 狩人の袖を引くめぐみんの手は震えている。

 無理もない。

 彼女は上級職とはいえ、冒険者になってから日が浅い。

 認識されただけで死が殆ど確定するような相手は初めてなのだろう。

 

 対して狩人は高揚していた。

 ここ最近の退屈な日々を全部ひっくり返して尚お釣りがくる様な相手に出会えたのだ。

 だんだんと血に飢えてきていた狩人にとっては絶好の相手だった。

 

 狩人はめぐみんに告げる。

 

 奴を野放しにすればそう遠くないうちに人命に関わる被害が出るだろうと。

 確実にここで仕留めるには君の力が必要だと。

 

 めぐみんは逡巡するかの様に目を泳がせた後、歯を食いしばりながら狩人を見つめた。

 

「……ああもう分かりましたよ! やればいいんでしょうやれば! 爆裂魔法の発動には時間がかかるので、時間稼ぎは任せますからね!」

 

 殆どが建前で狩人はただ戦いたいだけだったのだが、言いくるめは上手くいったらしい。

 めぐみんが距離を取り、狩人は標的に近づく。

 同時に一撃熊が顔を上げ、狩人を睨んだ。

 

 奴は最初から二人に気が付いていたのだ。

 その上で無視し、昼寝を続けていた。

 まるで狩人達を脅威とすら思っていないように。

 人間がいちいち地を這う蟻を警戒しないように。

 

 だがその蟻が敵意を持って近づいてくるなら話は別だ。

 鬱陶しい虫は潰さなければならない。

 

 森の主が、明確な殺意を持って立ち上がった。

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