距離感バグ女のせいでもれなく全員バグる話   作:とねうこ

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15.玉成

 

 呪術高等専門学校京都校にて。

 前年の勝利校が次の姉妹校交流会の開催場所になるので、去年は京都校が勝ったのだろう。悟は実家があるので複雑そうな顔をしていたが、世那たちとしては馴染みのない土地への訪問にそれなりに心踊るものがある。

 交流会は二日。一日目が団体戦で、二日目が個人戦。とは言いつつも毎年数種類の種目を回しているので、先輩後輩間の情報共有さえあればその内容は察せられる。

 しかし。告げられた内容に世那たちは顔を見合わせた。

「呪符争奪戦?」

「そうだ」

 もうすぐ学長になるからだろう、東京校の学長に代わってその仕事の引き継ぎをはじめているらしい夜蛾が答えた。

 京都校内の敷地に散りばめられた計20枚の呪符。これらを制限時間終了時により多く所持しているチームの勝利。もちろん相手から奪うも良し。

 例年ならば敷地内に放たれた呪霊をより多く祓ったほうが勝ちというルールが定番だ。そうでなくとも、基本的にお邪魔要素として呪霊が放たれているものだ。

 ついでのように傑に対して「呪霊は二級以下を五体までだ」と制限もかけられた。傑は既に千を超える呪霊を抱え込んでいるので、正直それらを全部出されたら向こうは負け確定なのである。

「呪霊操術対策に余念がないね」

 三十分間の作戦会議で、今年の団体戦ルールについて傑がそう所感を語った。

「敷地に高専管理の呪霊を出さないのも、高専側で用意した呪霊なのか、夏油さんの呪霊なのかわからなくなるからですか」

「つーか、そんなん想定済みの上で戦略考えんのが普通だろ。怖気付きやがって。つまんねえな」

「夏油の呪霊操術がなければ京都側に有利になるよう調伏なり縛りなりをした呪霊を放つ気満々だっただろ、アレ」

「こっちは五人なのに向こうは十一人って、人数差スゴくないですか!? 夏油さんの呪霊入れたとしてもですよ」

「悟の高専入学をよく思わない御三家の連中が対抗してきてるんだ。まあ、ほとんど本家筋ですらないらしいけど」

「人数不利だろうが初手で叩きのめして残りの時間好きにすりゃいいだけだろ。呪符集めは悟に任せた」

「ハア!?」

「この中で索敵ができるのは五条さんだけです。アナタなら呪符の呪力を見れば一発でしょう。それに、下手に暴れられても困ります」

「よろしくお願いします!」

「オイオイオイオイ七海ィ、言うじゃねえかオイ、今ここで暴れてもいいんだぞ俺はよ」

「近付かないでください」

「悟は単独で呪符集めでいいか。他はそれぞれ京都校側の妨害。班分けは……」

「ウチと硝子と七海。傑は灰原とで。どう?」

「夏油は遠中近どれも対応できるし、中〜近距離の加乃舌と組むなら近接しかできない私と七海とで固めたほうがいいしな」

「灰原。夏油さんはアナタの言うことならわりと聞いてくれます。うまくやってください」

「もちろん! 任せてよ七海!」

「後輩に手綱握られてンのわろた」

「ウケんね」

 ある程度方針が固まったことで残りの時間はなんとなく雑談ムードに以降していた。世那はあぐらをかいた脚に頬杖を突き、なんとも言えない予感が胸中に渦巻くのを感じていた。

「……加乃舌?」

「ンー……」

 横に座る硝子の問いかけに目を閉じたまま曖昧に答える。

 京都校側にとって東京校の脅威は悟と傑がツートップ。次点で回復と盾役の硝子と世那だが、おそらく向こうは悟と傑さえ押さえられればあとは大した戦力ではないと考えるだろう。

 傑は呪霊と視覚共有ができずルール上の勝利条件である探索必須の呪符収集そのものには向かない。現地に高専が管理する呪霊が放たれていない以上紛れさせて場を混乱させることもできないので、この団体戦において傑の役割は純粋な手数のみ。それも制限付き。

 傑だけこんなに対策されていて、悟に何もないなんてありえるのか。悟を索敵要因にせざるを得ないという時点で戦力を削られてはいるが、それでも彼ならば会敵すれば嬉々として潰しに行くだろうし、さしたる障害ではない。

 あるとすれば────……。

「……だとしてもやる事は変わんねーか」

 全員ブッ飛ばす。それだけである。

 

 

 

「呪符ねえんだけど!」

 バカでかい声を通した電話をやや離しながら、世那は「だろうな」と返事した。

「「呪符」とは言ってるが、たぶん呪力のないただの紙なんだろ。アンタの六眼を欺くには楽で手っ取り早い方法だなァ」

「オマエわかってたのか!?」

「可能性があるとは思ってた」

「言えよ!」

「言っても変わんねーだろ。セコセコ呪符集めに勤しめよー」

 抗議の言葉を無視して電話を切る。この戦いは時間との勝負でもあるのだ、余計なことに時間は使っていられない。

「わかってはいましたが、やはり運営側もグルですか。はあ……」

 東京校側の鼻っ面をへし折りたい上層部の思惑が絡んでいるのだろう。電話口から漏れ聞こえる声で事情を察したのか、七海がいかにも面倒ですという顔をした。

 硝子、世那、七海の三人で構成された家入班は、硝子を先頭に呪力の感じるほうへ向かっていた。二人は気配を消して隠れながら硝子の後ろをついて行っている。

「それより、家入さんに先を行かせていいんですか。てっきり私たちで護衛しながら移動するものだとばかり」

「ハハ、護衛? おもしれー冗談」

「……………………」

 そうこう言っていると前方から何かがやって来た。京都校の生徒だ。向こうも数は三人。

 飛び出そうとした七海を引き留める。

 無抵抗に見えた硝子は、最小限の動きで一人目の初撃をかわし、流れで背負い投げ反対側に居たもう一人を巻き込んだ。最後の一人は遠距離タイプなのか向かって来ようとしない。世那は防壁で後ろから攻撃し、三人まとまったところを四角い箱状にした防壁で拘束した。

「ナイスー」

 そう言った硝子の横に並ぶ。

「……家入さんは囮でしたか」

「舐めプすンのが目に見えてたからな」

「これでも毎日クズどもの相手してるんだぞ、こっちは」

 これで三人は無力化。念のため呪符を持ってないか身ぐるみを剥がさせてもらったが、それらしきものは出てこなかった。

 

 傑と灰原はといえば、言われた通りに二級以下の呪霊五体を放出し相手側の妨害に勤しんでいた。

 仮にも御三家に名を連ねる者たち。二級呪霊ならば……と思っていたのだろう。

「いやあ、春に虹龍を失ったのは本当に惜しかった。あれは今までで最高硬度を誇っていたんだが、等級は二級だったからね」

 ザリ、と靴底で地面を擦る。

「呪霊の等級がどうやって決まるのかは知っているかい? 二級と準一級の間には大きな壁があるんだ」

「はい夏油さん! 術式の有無です!」

「その通り」

 生まれた時から呪術界を生きる者からすれば、一般家庭出身の人間から呪術の基本を語られるのは屈辱的だろう。

「たとえどれだけ強かろうが、術式がなければ二級呪霊だ。油断したかな? 良い勉強になっただろう」

 なお相手は地面に転がって伸びているため、完全に死体蹴りである。

「あ、これ呪符ですかね?」

 灰原が懐を探って紙を取り出した。達筆な文字が書かれており、かすかに呪力を感じる。

「いいね。この調子で奪っていこう」

「了解です!」

 

 背後から矢が飛んできたのを防壁で防ぐ。

「流石。この程度じゃ不意打ちにもなれへんか」

 木を陰に男が顔を出す。黒髪に切れ長の鋭い瞳は、呪術の世界に身を置いていれば一発で禪院の血筋であることが察せられる。

 以前勝手に顔合わせをさせられ、勝手にフられた時のことを思い出した。

「あー……誰だっけ、禪院の分家の分家の…………」

「西院な」

「そうそう、アンタ前ウチに結婚申し込んできたヤツだろ。悪ィな、何度アプローチされても気持ちには答えらんねーよ」

「ジブンみたいな背ェ高い女こっちからお断り言うたやろ」

「そう怒んなよ、男子高校生ならまだ伸びるって」

 女子は男子より成長期が早い。世那も例に漏れず高専に上がるころには成長はほぼ止まっていて、この一年は一センチ程度しか身長は伸びていない。対して男子は高校に上がってからぐんと身長が伸びることも珍しくはない。世那の弟も二年前までは女子の平均に劣る低身長だったが、最近は会うたびに見違えていて驚くほどだ。

 慰めのような煽りを受けた西院は額に青筋を浮かべた。握っている弓の呪具がギリギリ音を立てている。

「加乃舌さん」

「黙って見てろよ、それか先行っててもいいぜ」

「見逃すと思っとん?」

 どうせ西院の狙いは世那だ。三人まとめてかかってもいいが、こういうのは一対一のほうが面白い。どうやら他の奴よりは多少骨もありそうだし。それを察したのか七海と硝子は一歩引いたところで待機した。

 西院は木陰に身を隠し、遠方から射撃した。しかしそれらはすべて防壁に阻まれる。悟のようにフルオートで術式の展開はできずとも、来るとわかっていれば怖いものなどない。世那を相手に遠距離攻撃は不利だ。絶えず移動するものに対しては防壁の展開が追いつかなかったり咄嗟の目算がズレる可能性を鑑みれば、接近戦を挑まれるほうがよっぽど有効である。

 しばらく無駄な攻防を続けて相手もそれを悟ったのか、放たれた矢と反対方向から飛び込んできた。

「ハハッ、弓で殴ってくる奴があるかよ」

「呪具やから頑丈なん」

 相手の手から奪い取るように弓を掴み、殴ると見せかけて膝で股間を強打した。観戦している七海がビクッと身体を硬直させる。

「ぎっ……あ゛ッ…………クソアマァ……!!」

「男とヤるならまず狙うに決まってンだろ。目の前に弱点ぶら下がってんだから」

 生殖機能に影響が出ることもあるらしいと聞くので、さすがに同級生や後輩相手にはしない。ただどうでも良い野郎相手ならば、たとえ彼が末代となったとしても世那の良心には響かないので問題なし。というか、仮にも戦いの中に身を置くならばプロテクターくらい着けておくべきだろう。急所を守らない相手が悪い。

 奪った弓を後方に投げ捨てて西院の服をまさぐる。

「ほーら出すもん出せ」

 上着の内ポケットからバラッと呪符が出てきた。当たりだ。しかし何か違和感を感じ、世那は首を傾げる。

 が、突如として西院の手に握られた弓が世那の顎を打った。

「いッ……てえ!」

「油断っ……した、やろ?」

 ぐわんと揺れる脳を落ち着かせるように額に手を当てる。チラと背後を見る。世那が奪って捨てたはずの弓は確かにそこにあった。しかし、それとまったく同じものを西院は持っている。先ほどまではなかったはずだ。

「へ……内股で強がってんじゃねーよ、子鹿ちゃん」

 西院がパッと手を離すと弓は霧散した。

「複製呪法。直前に触れたもんをそっくりそのまま作り出す。生き物は無理やし術式解いたら消えるけど、構築術式よりかは使い勝手ええんよ」

 親指と中指を擦って指を鳴らすと、世那の手にあった呪符が綺麗さっぱりなくなっていた。

 それと同時にブザーが鳴り響く。時間切れだ。

 やられた。

 呪符に呪力が篭っていないことは悟からの連絡でわかっていたはずだった。先ほどまで持っていた呪符は術式によるものだったために呪力を纏っていた。違和感はそれだったのだ。

「この勝負に勝って試合に負けた感……」

「……とりあえず戻りましょう」

「五条達が集めてくれてるといいけどね」

 

「ハア!? オマエら呪符なし!?」

「だって! 急に消えたんですよ! パッて!」

「あのな悟、報連相はしっかりしてくれよ。こっちは本物の呪符に呪力がないことなんて知らなかったんだぞ」

「いや、世那が傑に言うかと思って」

「伝言ゲームする気はねーよ。どう考えても悟の仕事だっただろ」

「そんなん言われてねえし」

 開始地点に合流して不毛な言い争いをしていると、遅れてやってきた京都校側がクスクス笑い出した。

「まんまと策略にハマってくれて嬉しい限り。ジブンらみたいなバケモンと正面からやり合うわけないやん。ココがちゃうんよ、ココが」

 西院がコンコンと頭を叩いて見せる。まだ痛いのか、弓を杖代わりにしている時点で威厳はない。

「集計結果出すぞ」

 夜蛾がボードを引っ張り出す。

「京都校4枚。東京校13枚。未回収3枚だ」

「なんッッでやねん!!!!」

 投げられた弓がボードを貫通した。正しくない使われ方ばかりでかわいそうだ。

「今のコッチが勝つ流れやったやろ!?」

「五条、どうやって集めたんだ?」

「フツーに飛び回って探した。あと奪った」

「シンプルに探索効率が良かったのか。呪符が消えた時は本当に焦ったけど……なんとかなって良かったよ」

 戦犯でありながらMVPでもある。

 備品を壊された夜蛾は苛立ちを滲ませながら、「明日は個人戦だ」とボードの穴を覆うように紙を貼り出した。

「トーナメント形式の呪術戦。今日のうちに心構えをしておくように」

 団体戦で協力した東京校のメンバーも、明日には敵だ。普段の組み手やじゃれあい紛いの喧嘩とはまた違う。

「楽しみだなァ」

 世那の上擦った声がちいさく響いた。

 

 





今更な話。
五条、硝子は面白い時は「うける」と言いますが、オリ主は「わろた」と言います。ネットにかぶれているので。たぶんもう少し時代が進んだら「草」って言う。
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