距離感バグ女のせいでもれなく全員バグる話   作:とねうこ

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「あ、もう祓い終わったから。帰ろうぜ」

 綺麗な円状に更地が出来上がった山を見て、世那は今度こそブチギレた。

 この独りよがりなバカ男をなんとかしなければならない、と。

 

 

 

 入学後の初任務が終わってから、チラホラ任務が入るようになった。とはいえ世那は六月も半ばを過ぎようとする現在も四級で、任務に行くには二級以上の術師の同伴が必須になる。必然的に悟か傑と一緒に行くことになっていた。

 傑はまだいい。彼は自身に割り振られた四、三級相当の任務を「世那の訓練用ね」と把握し、「後ろで見てるから頑張って」とのんびりしている。二級相当の任務なら「まあサポートできそうなら手伝ってよ」という感じだ。世那は防御という面に関してはそれなりと自負しているし、そこについては傑も信用してくれているのだなと思う。

 問題は悟のほうだ。どんな任務であろうと世那を置いて術式を使って瞬間移動し祓い、遅れて到着したころにはもうすべて終わっている。しかも現場はほぼ荒らされているときた。

 協調性という単語が脳内辞書に載っていない。そうに違いない。

 

「悟、ウチはいつも言ってるよな? 勝手に一人で行くな、ウチにもやらせろって」

「四級のザコ一人に何ができるってんだよ。俺一人でやった方が早えだろ」

「任務の中には四級のもあっただろ! あのなあ、なんのためにウチがアンタの任務に着いてってると思ってンだよ、夜蛾先生に「面倒見てやれ」って言われてたのも忘れたのか? アンタがウチに面倒見られてどーすんだよ!」

「防壁呪術なんてしょせん壁張るだけの術式だろ。まあ努力はしてるみてえだけど? 俺からすりゃ大したレベルじゃねえよ」

「……言ったな」

「図星突かれてキレんなよ」

「防壁」

 防壁で悟を包む。

「は!? おい、世那!」

「壁張るだけの四級のザコ術式だ。なんとでもできるんだろ?」

「ッ……術式順転「蒼」!」

「フフ……。そんな興奮したらさあ、ダメじゃんね」

 その独り言じみた呟きは悟の耳には届かなかった。

 これが呪詞と掌印まで行った純度100%の「蒼」ならば破壊されていただろう。だが驕りか焦りか、省略して放たれたそれは防壁に当たり────跳ね返った。

 術式を使用しての防御に成功したときの挙動は二パターンある。単純に相手の攻撃が霧散するか、今のように跳ね返るかだ。相手の攻撃の種類にもよるが、防壁を展開する際に呪力を多く注いで強度を上げれば跳ね返る確率は上がる。正直「蒼」がどうなるかは五分だったが、賭けに勝ったようで何より。

 四級、非術師家庭出身、攻撃に不向きの術式を前に、自身が強者であるという自覚。塵も積もればなんとやら。

「しまっ……」

 防壁の中に白い煙が舞って見えなくなる。が、致命傷は負っていないようだ。

「ギリギリのところで無下限を張ったか」

 基本の無下限を維持しながら術式順転「蒼」の発動をするのは相当難しいらしい。しかし流石の反応速度。跳ね返って直撃する間際で無下限を発動し、「蒼」が消滅した。

 防壁を解除する。悟はボロボロの状態で膝を突いたが、意識があるならそれでいいと世那は話を続ける。

「アンタなんで呪術高専に来たわけ? 御三家は独自の組織体系があるから、ウチらみたいな一般家庭出身と違って高専の入学は自由なんだろ? テメーのワンマンやりたけりゃ家に帰れよ。ここは学校っつー社会なんだぞ」

 脚に力を入れて立ち上がろうとしたのを、輪っか状にした防壁で縛ることで阻止する。悟の正論嫌いはこの二ヶ月でよく理解している。図星突かれて理詰めのレスバで負けるのがよほど嫌いなんだろう。精神性がガキだ。

「それともアンタが日本中の四級から特級まであらゆる任務全部やってくれんのか? そりゃいい。ウチも万年四級どころか呪術師やんなくてもいいわけだ。帰ったら退学届けでも出しに行くかな」

 しゃがみこんで顔を覗き込む。サングラスの奥にあるお綺麗な蒼い瞳は、なにやら複雑そうな感情に歪んでいた。

(うーわ。弟みてえ)

 兄弟の居る世那には分かった。正論で怒られて、自分が悪いと分かってるのに素直にごめんなさいが言えない時の弟そっくり。

「オラ、言えよ。アンタどうしたいんだよ。思ってることなんて言わないとわかんねーぞ」

「……し、」

「ア?」

「知り、たかった、から」

 六眼と無下限呪術を併せ持って生まれるのは非常に稀で、悟自身でさえ自覚があるほどチヤホヤ甘やかされて育てられた。家の連中が煩わしかったのも少なからずある。けれど、それ以上に。

「知りたかったんだよ、家の外のこと」

 普通を。自分と並ぶほどの強者を。見ず知らずの他人を。見たことのない世間を。家の中にはない、ありとあらゆる可能性を。

「……ウチも傑も硝子もそんな弱くねーぞ。そりゃ強くもねーかもしんないけど、アンタの後ろで指咥えて見てるような連中じゃない」

「…………」

 術式を解き、ぐいと腕を引いた。さすがにそこそこ重い。

「悟は攻撃最強、傑は手数最強、硝子は回復力最強、ンでもってウチは防御最強だ」

 指折り数えて悟の目を見る。

「こりゃ四人で永久機関ができちまうな。向かうトコ敵ナシ」

 全員お互いにないものを持っている。凸凹を補い合うみたいに。

 世那より少し背の高い男を抱きしめた。

「で? 誰が壁張るだけの四級のザコだって?」

「…………取り消す」

「謝り方も知らねえのか。こういう時は「ごめん」って言え」

「ごめん」

 あーあ。デカい弟が一人増えちまった。そんなにまぐれで一本取られたのがショックかよ。

 柔らかい銀の髪を撫でる。身長差がちょうどいいのか、悟の顎が世那の肩に乗った。震える手がしがみつくように制服を握る。

 いままで無下限を破られたことも、膝を突かされたこともなかった。悟の小さなミスの積み重ねの上。針の穴に糸を通したようなものだった。それでも負けは負けだ。悔しいが、悟は認めるほかなかった。

 なんとなく。世那の力だけで今後悟に勝利するということは二度とないだろうな、と思う。術式を考えれば負けることもそうないとは思うが。でも、こういう才能があるうえにプライドが高く負けず嫌いな奴は、少し目を離すとすぐ成長していくから。

 目を閉じると、瞼の裏には淡い少女期の思い出が呼び起こされる。青空と太陽のまぶしい夏。

「オマエらは……違うのか」

 期待していいのか、悟には分からない。

 一面に咲く花を踏まないよう眺めるばかりの日々に。その孤独に、終わりが来るのかは。

「……ちゃんと言えよ。後悔してからじゃおせーんだから」

 初めて認める感情ばかりでいっぱいいっぱいの悟は、世那の声に滲んだわびしさに気が付かなかった。

 

 

 







たぶん今後もろくに登場することはない兄弟


・世那の2つ上。ゲーマーで口が悪い。オタク気質ではあるが、運動もできてノリもいいのでカースト上位のクラスメイトともそれなりに仲良くなれるタイプ。なんだかんだ人生上手く行っている。めんどくさがりゆえの効率厨。



・世那の3つ下。甘えっぽく口が悪い。甘やかされて育ったのをいいことに調子に乗ってガチの怒られがたびたび発生し、拗ねる。かなりディープめのオタク。高校〜大学生ぐらいの時期にパンピーの前で淫夢語録で喋り倒してドン引かれて孤立し、大人になった時に黒歴史になる。
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