距離感バグ女のせいでもれなく全員バグる話   作:とねうこ

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 胸元に装飾のあるブラウス。ぴたっとしたスキニー。靴は厚底のスニーカーで、荷物は……買い物をするわけではないから、財布だけポケットにねじ込む。

 寮の出入り口には既に傑が待っていた。無地のTシャツの上に前を開けた柄シャツを重ねた装いだ。世那は軽やかにステップを踏みながら、飛びかかって驚かすように傑の肩を突いた。

「おー、今日のウチは傑より高い!」

「似合ってるよ。世那って私服の幅広いよね」

「なに着てもキマっちゃうからなー」

「悟は?」

「知らね。部屋隣じゃん、傑が知らないならわかんねーよ」

「昨日私と硝子がもう寝るって言ってもまだ世那の部屋に残ってたから。あのあと帰ったの?」

「起きたころには居なかったから帰ったと思うけど」

「世那が寝たあとも入り浸ってたの……?」

「アイツずっとデジモンやってるよ、マジで」

「まだ寝てるのかなあ。いつも早く寝ないと朝困るよって言ってるのに」

「母親すぎわろた」

 傑が携帯を出して電話をかけている。その手に目が行って、空いたほうの手を掴んで指をなぞった。

「ネイルしてる!」

「硝子にやってもらった。あ、悟? 起きてる? 早く来ないと置いてくよ」

 服の色とお揃いのネイル。訓練で手合わせしていると気付かないうちに欠けていたりするので、ちゃんと整えられたものだとひと目でわかった。

 硝子は京都校の先輩と任務だと言っていた。任務終わりに合流するか聞いたが、予定を伝えると嫌そうな顔で「パス」と言われてしまったのだ。

「今起きたって。追いつくから先行けってさ」

「言い出しっぺが寝坊かよ」

「先に全部回って帰ろっか」

「アハッ、いいんじゃね?」

 

 

 

 テレビやネットでスイーツの話題が出るたびに「ここ行きたい」と悟が言い、先日ついに「次の休みに行こうぜ」と提案してきたのだ。合計十一ヶ所のスイーツめぐり。甘いものが苦手な硝子が嫌な顔をするはずである。

 一足先に最初の目的地の最寄駅に着いた傑は世那を置いて手洗いに行っていたのだが、戻ると彼女は見知らぬ女性二人組に話しかけられていた。

「あー……すんません、このあと予定あるんで……」

「よかったらご一緒しますよ、ね?」

 そっぽ向いて後頭部をがしがし掻いている。お困りのようだ。

 世那はなんというか、妙に同性から好かれる。逆に男性から誘われているのは見たことがないくらいだ。

「よお。なんかおもしれえことになってんな」

「あ、悟」

 ちょうど改札から悟が出て来て合流した。ゆるだぼのTシャツとズボン姿である。寝坊したことを悪びれもしない。世那を見る蒼い瞳がいたずらっぽく光った。

「ちょっと、悟。やめたほうが……」

 察した傑の静止も聞かずぐんぐん世那へ向かっていく。

(ああ……世那、不機嫌にならないといいけど)

 世那の横に並んだ悟が彼女の肩に腕を回した。

「世那ァ、そんな奴らより俺のこと見ろよ。な?」

「……、フフ、ずいぶんかわいい子猫ちゃんだ」

(え、いいんだ?)

 頭を抱えるように引き寄せるほど乗り気な様子に傑は瞬いた。こういうノリはおふざけでも嫌がるかと思って世那の前では控えていたのだが、見たところ無理をしているわけでもないらしい。杞憂……というより、成長か。数ヶ月前の彼女なら絶対に機嫌を悪くしていただろう。なんだかすこしじんと来るものがあった。

 それならば。傑はウズウズしてたまらず、大股で歩み寄った。悟の腕から奪うように世那を後ろから抱く。

「ひどいな。独り占めはやめろよ」

 横で悟が「ッ……フ…………」と笑いを噛み殺すのが聞こえた。抱かれている世那の身体がプルプル震えていて、つられて笑いそうになるのを全力で堪える。

 世那の指先がするりと傑の耳裏を撫でた。顔を寄せ、しかし視線は女性二人に向けて。

「そういうことだから。ごめんね?」

 

 三人はしばらく無言で歩いていたが、駅からある程度距離が離れたところで誰からともなく笑い出した。

「あーおっかし! ウチもー腹よじれるかと思った!」

「オマエ全然誤魔化せてなかったって、すげー声震えてたもん」

「向こうは気付いてなかったみたいだし大丈夫だろう」

「これさあ、全員分のパターン考えね? みんなけっこう絡まれンじゃん、ウチ硝子にやりたいことあんだけど」

「乗った!」

「ま、聞くだけ聞いてあげるよ」

 傑は悟の背中を勢いよく叩いた。

「痛ッ……急になんだよ!」

「いや、べつにぃ〜?」

 世那の事情を知っている傑は、彼女にまだ少し遠慮している部分があった。知らないからこそ傍若無人な悟が単身乗り込んで、傑の余計な心配を取り払ってくれたから。

 ありがとうとは、世那のために言わないでおくけど。

 

 コツ、コツ、とスプーンで表面を軽く叩いてみる。硬い。垂直に突き刺すとパキリと割れて、下からこそぐように掬って食べる。ザクザクとやわらかさが共存した甘さ。

 世那がクリームブリュレをつついていると、向かいに座った悟が「ひとくちちょーだい」と言い出した。彼のひと口は信用できないので、世那が手ずから食べさせてやる。「うま」と悟が小さく呟いているのを、その横に座る傑が見ていたので、なんとなくもうひと口ぶん掬って差し出す。言葉もなく素直に飲み込まれていく。

「ほら、やるよ。感謝しろ」

 そう言って悟がパフェの一部を差し出してきた。甘い。美味い。世那が咀嚼している間に、傑にも「ほらよ」と分け与えている。

「私のもいる?」

「甘いの食ってる最中におかずが食えるかよ」

「ウチはもらう」

 コーヒーで甘くなった口の中をリセットさせて、フォークに巻かれたパスタを頂戴した。

 それにしても。料金を追加することでトッピングできると噂のパフェは、悟の手により見事な欲張りセットになっていた。

「この調子で行ったら帰るころにゃ腹はち切れてんじゃねーか?」

「いけるいける」

「どっからその自信が湧いてくんだか」

「悟は一回痛い目見ないと学習できないよ」

「ア?」

「クリームついてる」

 傑が悟の口の端に付いたホイップクリームを指で拭って、極めて自然な動作で舐め取った。怒られる前に気を逸らさせてうやむやにする高等テクニックである。

 同じ店内に居た他の人間はタッパのでかい男女三人組の距離感が妙におかしいことに気が付いていたが、当人たちは知る由もなかった。

 

「もう無理」

「だから言ったじゃん」

 公園のベンチにだらしなく身体を伸ばした悟がうめくように言った。

 そっと寄った傑が悟の腹を撫でた。介抱するつもりかと思っていたら、何か感じたらしくしばし硬直し、「悟、立って」とその腕を引っ張る。

「ねえ世那、ヤバい、悟のお腹パンパン」

「エッ、ンフッ、マジで?」

 促されるまま撫でてみる。胸の下あたりはいつも通り細身ながら鍛え上げられた感触だったが、下腹はゆるやかなふくらみが感じ取れた。

「マジじゃん、クソワロタ、いま何ヶ月目でちゅか〜? アハッ、アハハハハハハッ」

「写真撮ろ。もう見ただけでわかるレベルだねコレ、クッ……」

「悪ィ、なんか反応する気力もねえわ」

 ざわ、と呪いの気配。一斉に構えた三人の視線の先には、三級程度の呪霊が複数体発生していた。

「おっ。ちょうどいいところに」

「ま、食後の運動にはなるかな?」

「術式使ったら瞬殺しちまうから運動になんねーよ。呪力強化だけな」

 パキポキ指を鳴らす。

 呪術師は休日でも呪術師であった。

 

 

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