距離感バグ女のせいでもれなく全員バグる話   作:とねうこ

9 / 28
脱衣麻雀と巻き込まれ歌姫


8.5

 

 カツカツと古びた廊下を踏み鳴らす足音には怒りが滲んでいた。巫女服を模した仕事着に身を包んだ庵歌姫は、鼻息荒く女子寮へ足を進めていた。

「なんで私が五条の迎えなんか……!」

 心底毛嫌いする後輩との任務。歌姫は常日頃「五条と組ませるな」と公言してはばからないというのに、歌姫自身の常識人ぶりと悟への容赦のなさのせいか、ストッパー役を期待されて組まされることがたまにあるのだ。

 そして悟は案の定遅刻である。というか、予定時刻を三十分も過ぎている。いくら普段から微妙な遅刻癖があるとはいえ、三十分は言い訳できないレベルだ。辛抱たまらず東京校へ乗り込めば、たまたま居合わせた灰原が言った。

「加乃舌さんの部屋じゃないですか? みんな暇な時はいつもそこにいますよ!」

 漫画もゲームもそれなりに揃っているから溜まり場になっているらしい。どこかの誰かさんにも見習ってほしいほど素直で可愛い後輩に礼を言い、歌姫は世那の部屋へとせっせこ急いでいるのである。

 普段ならば他人の、しかも同性の後輩の自室に入るとなればノックのひとつやふたつするところだが。歌姫の苛立ちのボルテージは上がり切っており、いかに今日こそ悟をどうにか一発殴れないかを画策していたため、その手は勢いのままに扉を開く。

「五条ォ! いるんでしょ!? アンタいつまで……ギャーーーーッ!?!?」

 部屋の中はなぜかだだっ広く、中央に緑の四角いテーブルと、その上に裏が黄色い駒が並んでいた。麻雀卓である。しかし、問題はそこではない。

「ちょっと歌姫〜。そんなジロジロ見んなよ、恥ずかしいだろ」

 そう言う悟は制服を着ていない。というか、服を着ていない。パンイチである。

 それだけではない。硝子は上半身キャミソールで、世那はラフなパーカー姿だが下に何も履いていない。傑だけが上着を一枚脱いだ程度の良心的な格好である。

「な、に、脱衣麻雀しとんじゃああああ!!」

 しかも男女四人。完全にアウトな絵面だ。

「はいロン。悟の負け」

「はあッ!? オイ! 折角良い役作れそうだったのに!!」

「捨て牌から察してたけど緑一色(リューイーソー)じゃん。傑強すぎわろた」

「五条脱げよ〜」

「クソッ、しゃあねえなあ。俺の裸体なんて貴重なんだぞ。拝めよ」

「見慣れてるっつーの」

 当然のように下着に手をかける悟に、歌姫は慌てて待ったをかける。ただでさえ現状の絵面に目眩がするというのに、嫌いな男の全裸など見たくもない。見慣れてるとかいう世那の不穏なセリフは聞こえなかったことにする。

「五条! これから! 任務!」

「はァ〜? あと一局残ってんだけど?」

「もうこれ以上脱ぐものないんだからやっても意味ないだろう、悟。諦めなよ」

「しれっとオーラスでも五条が負ける想定でウケんね」

「悟、運ないなー」

「運って言うかロマン狙いすぎ。役満狙いが透けて見える」

「そう言う硝子は断幺九(タンヤオ)ばっかだけど」

「漢は黙って鳴かずに立直(リーチ)

「むしろ漢からは程遠いプレイングなのでは……?」

「そもそも漢じゃねーじゃんってツッコミいる?」

 頭が痛くなってきた。歌姫は額に手を当ててあまりの状況に熱が出ていないか思わず確認した。ちょっと熱いが激昂して興奮したせいだろう。誤差の範囲内だ。

 のそのそ制服を着た悟が渋々といった様子で歌姫の居る部屋の入り口までやってきた。

「じゃあ行ってくるから、歌姫俺の代わりにやっといてよ。負けたら罰ゲームな」

「やらんわ!!」

 この数分で一生分の声量を出した気さえしてきた。歌姫は叫びすぎて酸欠気味になってきた胸を抑える。発熱と浅い呼吸。つらい。これ労災ってことにならないかな。ならないか。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告