魔女は今世でも彼女と一緒にいたい!!仲良くなりたい!!守りたい!!   作:猫とふりかけ

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日本の魔女、ダイアゴン横丁にて再会する

「忘れ物ないか?」

 

「ないです」

 

「飛行機のチケット持っているだろうな」

 

「大丈夫です、心配し過ぎです」

 

「お前のことだ。あれもないとこれもないと言われても困るからな」

 

ガヤガヤと騒がしい空港の中、サラリーマンや、家族連れ、ツアー旅行客達を縫うように通り抜けながら、幸治叔父さんと一緒に歩いていた。

 

ムッスリと相変わらず不機嫌そうな顔して、私に大丈夫かと聞いてくる。私はかというと、心配症な叔父にため息を吐いた。普段は気にしないのに、こういうときだけは気にするのだ。いや、忘れ物をいちいち送るのが面倒くさいかもしれない。

 

(それにしても、叔父さんとお祖父ちゃんには助かるな)

 

留学が決まったあの日のうちに、幸治叔父さんは私の祖父にあたる人物に留学費用と飛行機代を払うことを快く決めてくれたので、流石としか言いようがない。ありがとう、幸治叔父さん、お祖父ちゃん。私は心のなかでそっと手を合わせた。

 

空港で手続きを終えて、後は飛行機が来るのを待つだけである。飛行機は乗ったことないので楽しみだ。

 

「じゃあ、俺は行くからな。帰国後に待ち合わせになるな」

 

「そうですね、いってきます」

 

「さっさと行ってこい」

 

叔父さんは無愛想にそう言うと颯爽と行ってしまった。それから、私は本を読みながら、胸を高鳴らせる。待っていろ。ホグワーツ。

今、私が行くのだからな。

 

飛行機に乗って、また乗り継いで、14時間。やっとの思いで私はイギリスの空港にやってきた。

正直なところヘトヘトである。まさか、ここまで、14時間も暇をつぶしすることが大変とは思いもしなかったからだ。本を読んでは、寝る、本を読んでは、寝る。そんな繰り返しをしていたので、暇で暇で死にそうになった。

 

げっそりとヨボヨボに歩いていると風変わりな高齢の女性がいる。髪を一つにまとめていて、四角い眼鏡をかけていた。エメラルド色のローブが派手で、歩く人達は二度見をしながら見ていた。

 

はっきり言うと目立っている。でも、そのおかげで私はすぐにその人物に近寄った。女性は私に気づくと声をかける。

 

「ミス・ギンバイ。よく来てくれましたね」

 

「はい、マクゴナガル先生。あの、初めまして、柘榴・銀灰です。よろしくお願いします」

 

緊張しつつも私は目の前の教師、ミネルバ・マクゴナガル先生にお辞儀をする。お辞儀を知らないのか、先生は不思議そうに見ていた。そして、空港を出た後に誰もいない人気のない路地裏へ連れてかれた。そして、さも、当たり前のように手を差し出してくる。首をかしげる私にマクゴナガル先生は言った。

 

「時間がありません。ここからは姿現しで行きます。手を」

 

「え?あっ、はい!」

 

皺だらけの手を握る。そして、姿現しでとある場所へ飛んでいった。気がつくと狭い路地裏に飛ばされている。そして、路地裏から出るとすぐ横に寂れたパブが建っていた。漏れ鍋と錆びついた看板の下のドアを通り抜けると騒がしい客であふれている。

 

すると、バーカウンターに来ると腰の曲がった男が来た。そして、嬉しそうにしながら、接客のスマイルで言う。

 

「お久しぶりですね。マクゴナガル先生」

 

「ええ、お久しぶりですね。トム」

 

トムさんは私を見ると、にこりと笑う。私は会釈した。そして、マクゴナガル先生に言う。

 

「マクゴナガル先生。ついさっき来ましたよ!あの、ハリー・ポッターが!」

 

嬉しそうにするトムさんとは正反対に、マクゴナガル先生はにこりともせずに平然としている。

 

「ハリー・ポッター?」

 

私はトムさんに聞き返した。記憶の中を総動員で思い出している私に彼は不思議なことを聞くもんだと言わんばかりに話す。

 

「お嬢さん、ハリー・ポッターをご存知でない?」

 

「……あ、いえ、すみません。実感がなくて……」

 

「実はね……私も実感がないのですよ」

 

こっそりと言うと私達はお互いにあはは、と笑い合う。思い出した。本で読んだことがある。ハリー・ポッター。例のあの人から生き残った男の子。イギリスの魔法界では有名人の彼。会ってみたいなと思っている。だって有名人だよ?サイン欲しい人もいるでしょ。マクゴナガル先生は私に話しかけた。

 

「すみませんが、ミス・ギンバイ。もう一人来る予定ですので、少々、お待ちになってよろしいでしょうか」

 

「はい、わかりました」

 

「すみませーん!」

 

しばらく、トムさんが出した紅茶を飲みながら、待っているととある人物がこちらへ歩み寄る。そして、その人物の顔を見た途端に私は紅茶を吹き出しそうになった。なぜなら、その少年は私は知っている。お金が大好きで、いつも学業とアルバイトをかけ持ちしていた少年。

 

紺色に近い黒髪と特徴的な声が何よりの証拠だった。私は心臓が高鳴り、思考が停止する。あり得ない。そして、とある台詞を思い出した。"あり得ないことはあり得ない"。でも、やっぱり(あり得ない)と思った。

 

「さーせん。おまたせ、したっす。……え?」

 

うん、わかるぞ。少年。私は彼の予想していた反応に心のなかで頷く。彼は目を大きく見開いていた。しばらくの沈黙の後に彼、摂津のきり丸は呟いた。

 

「銀灰……先輩?」

 

「久しぶりだね、きり丸」

 

「おや?お二人ともお知り合いなのですか?」

 

「えっ……いや……」

 

「そうなんです!知り合いなんですよ!ね!きり丸!」

 

「え?あ、はい……」

 

マクゴナガル先生の疑問に私はさらっと言った。まあ、事実ちゃあ、事実である。嘘は言っていないからな。不思議とマクゴナガル先生にツッコまれることもなく彼女は言った

 

「そうですか。なら、自己紹介はいりませんね。それでは、行きましょう」

 

くるりと背を向け、ひらりとエメラルド色のローブをなびかせる。

にこにこと笑う私にきり丸はじっと見ていた。それはもう、穴が空くほどに。彼ははくはくと酸素不足の金魚のようになっている。まあ、しょうがないか。私は少しだけ首をすくめた。なんせ、私も実はパニックになりかけていたからね。

 

「先輩……?」

 

「なんだい?きり丸」

 

「本物っすか……?」

 

信じられないと私を見る彼がおかしくて、くすりと笑う。ああ、やはり、間違いなく摂津のきり丸なんだなと。それから、私は未だにドクドクと鳴る心臓を密かに押さえて、言う。

 

「それ以外に誰だというのかね?」

 

「だって……あり得ないっすよ。まさか……本当に……」

 

困惑するきり丸に私は、とある台詞を口にする。

 

「きり丸、"あり得ないことはあり得ない"のだよ」

 

ぽかんとする彼に私はクスクスと笑った。そして、その台詞をゆっくりと飲み込むように理解した彼は呟いた。

 

「"あり得ないことはあり得ない"……」

 

「そうだとも、考えて見給え。輪廻転生や魔法が存在する世界があるのだよ。なら、こんな偶然が起きてもおかしくないじゃないか」

 

しかし、理解できても納得できないきり丸は唸るように言う。

 

「うーん……。そんなもんっすかね」

 

「そういうものだよ。少年」

 

「けど……やっぱり、実感できないっすよ」

 

「おいおい、きり丸。そんなことで驚いてちゃ、身が持たないぞ。これから見る景色は、驚きが詰まっているのだからね」

 

私はきり丸にウィンクをした。

 

「先輩は知っているんすか?」

 

「知っているとも。なんせ私は……おっと、いけない。ここから先はシークレット。入学式のお楽しみさ」

 

疑問符を浮かべるきり丸に、私は人差し指を唇に当てて静かにするよう示す。それから、困惑するきり丸をよそに、私は入学準備の買い物を楽しむことにした。

 

まず、買うべきものは……と、きり丸は買い物リストを見つめている。

 

マクゴナガル先生に案内されてパブの裏口から外へ出ると、そこには寂れた庭が広がっていた。椅子が一脚、ゴミ箱が一つ置かれているだけの、静かな場所。しかし、先生は庭には目もくれず、目の前のレンガの壁に向かう。

 

マクゴナガル先生は無言で杖を構え、レンガの特定のブロックを軽く叩く。すると、レンガが自動で動き始め、やがてアーチ状の入口が現れた。

 

先生は優しく微笑み、言った。

 

「ようこそ、ダイアゴン横丁へ」

 

そこには、見たこともないような不思議な店が立ち並んでいた。きり丸は目を見張り、思わず見惚れている。

 

そして、まず私たちが向かうべき場所に到着する。

 

「ここが、グリンゴッツ銀行だよ」

 

白い大理石でできたような堂々たる建物を前に、私は説明を加える。

 

「きり丸、ここで魔法界のお金に換金するんだ」

 

「うっす」

 

私たちはマクゴナガル先生と共に中へ入る。中では小鬼たちが慌ただしく行き交い、宝石を吟味したり、金貨を秤で量っていた。

 

「銀灰先輩、あいつらは……?」

 

きり丸が小声で私に尋ねてくる。

 

「ああ、彼らは小鬼だよ。礼儀正しくしていれば問題ないけど、あまり関わらない方が無難かな」

 

私の説明にきり丸は真面目に頷いた。

 

ここからは別行動となる。私は一人で換金の手続きを行うため、祖父から預かった日本円を持って、受付の小鬼の前へ向かった。

 

帳簿にペンを走らせていた小鬼は、私に気づいて手を止めた。

 

「あの、日本円の換金をお願いしたいのですが……」

 

「承知しました。係の者を呼びますので、少々お待ちください」

 

ほどなくして現れた係の小鬼に、日本紙幣を渡すと、小鬼は手早く数え、そして忙しなく奥の部屋へ消えていった。

 

数分後、小鬼が持ってきた袋は、ジャラジャラと金属音を立てていた。その重さに、思わず私は口をあんぐりと開けた。

 

受け取った袋はずっしりと重く、日頃の筋トレのおかげで何とか持てるものの、やはり重いものは重い。私はそのまま集合場所へ向かった。

 

集合場所にはすでにきり丸とマクゴナガル先生が待っていた。私の持つ袋に気づいた先生は少しだけ目を見開き、心配そうに声をかけてきた。

 

「ミス・ギンバイ、大丈夫ですか?」

 

「ええ、普段から鍛えてますので、これくらいは」

 

金貨の袋を、トランクの中へ入れることにした私は、その場にトランクを置き、中へ潜り込む。きり丸は驚きの表情を隠さずに私を見ていた。

 

このトランクは、空間を広げる魔法がかけられており、内部は学校の教室ほどの広さがある。中には机、布団、本棚などがきちんと整っていて、生活できるようになっている。

 

押し入れを開けると、頑丈な金庫がある。私はダイヤルを回し、使う分のお金と保管用のお金を分けて収納し、再びダイヤルを回して金庫を閉じた。

 

そしてトランクの外へ這い出る。

 

「マクゴナガル先生、すみません。お待たせしました」

 

「ええ、それでは行きましょうか」

 

歩き出した私に、きり丸が興味津々といった様子で尋ねてくる。

 

「なんすか、そのトランク」

 

「ああ、これ? 空間を広げる魔法がかかってるんだ。叔父さんから、五歳の誕生日に贈られたの」

 

「すごいっすね……」

 

感心しながらきり丸はトランクをまじまじと見ていた。

 

そして、私もひとつ気になることを口にする。

 

「きり丸は、お金、どうしたんだい?」

 

「僕ですか? よく分かんないっすけど、身寄りのない子供とか、親がいない子は魔法省が費用を負担してくれるみたいっす。小鬼が言ってました」

 

「へえ、そうなんだ」

 

その言葉に、少し気になるところはあったが、あえて深くは聞かないことにした。本人から聞くべきときに聞けばいい。

 

こうして、私たちはグリンゴッツ銀行を後にした。

 

それから、歩いて、数分でその店に着いた。

そう、まずは制服を仕立てなければいけない。仕立て屋には、たくさんの服があった。すると、マクゴナガル先生はふくよかな店主と何やら話している。それから、店主は私達に手をちょいちょいと招いた。それから、女店主に招かれると巻き尺で身長や肩幅を測りだした。

ひとりでに動く巻き尺にきり丸は驚いている。一通り測り終えると女店主は店の奥へと引こったんだ。

 

「おい、そこの君」

 

「ん?」

 

右側にプラチナブロンドのオールバックの少年が話しかける。冷たいアイスブルーの瞳に尖った顎が特徴的な少年はまるで、上から目線で威圧的に私に見ていた。ああ、と私は彼を見て、納得する。

 

だって、見るからにどこぞの貴族のお坊ちゃんだとわかるから。私は(わ〜。上から目線だ〜)と思いながら、少年を見た。

 

「君は?」

 

「僕はドラコ・マルフォイ。君は?」

 

「私は柘榴・銀灰。よろしくね」

 

「ああ、そこの君は?」

 

「きり丸……」

 

きり丸は少しだけ、嫌そうに答える。どうやら、彼からすれば、マルフォイ君はあまりいい印象ではないようだ。しかし、彼は気づいていないのか、ペラペラと父上は箒を買ってくれないとか脅して買わせて、内緒で持ち出してやると息巻いていた。

 

「箒?」

 

マルフォイ君の言葉にきり丸は反応する。すると、マルフォイは眉をひそめた。

 

「なんだい?箒といえばクディッチだろ?」

 

「いや、俺、知らねーし」

 

「まさか……君はマグルか?」

 

その言葉には嫌悪感が含んでいる。マグル。イギリスの魔法界では魔法を使えない人間を指す言葉だ。日本で言えば只人と呼ぶ。ますます、わからないきり丸は首を傾げる。それから、当然のようにマルフォイ君は私に言う。

 

「君は純血だろ?」

 

「うん、まぁ、そうだけど……」

 

そう、私の両親はどちらも魔法使いだった。だから、純血であることは間違いない。マルフォイ君はきり丸を見て、私に問う。

 

「彼はマグルかい?」

 

「さあ。知らないね」

 

「ふーん」

 

そして、マルフォイ君はまるで、品定めするような目つきで私達を見ている。それから、入り口で待っている大男の悪口を言い出した。よく見るときり丸の横にいるボロい眼鏡をかけた少年は不愉快そうに見ている。まるで、友達を悪口言われたことに腹を立てているみたいだ。私は正直にマルフォイ君に言う。

 

「ねぇねぇ、マルフォイ君。駄目だよ。そういうこと言っちゃ」

 

「なんだい。ギンバイ。本当のことだろ?」

 

「本当のことだとしても、あまり大声で言うもんじゃない。悪口って自身の品格を貶めるんだよ。」

 

「なんだい?君はあのデカブツの味方をするのかい?」

 

私の言葉が気に入らないのか少しだけ不機嫌になった。うーん。イギリスの貴族の子供って、正直なところ面倒くさい。それから、私は慎重に言葉を選びながら言う。

 

「うーん。私は目の前の大男の人格を知らないから、何と言えないけど……。君は父上を尊敬しているかい?」

 

「当たり前だ。父上は尊敬に値する。」

 

マルフォイ君は誇らしげにふんっと鼻を鳴らした。

 

「君は父上のような貴族を目指したいかい?」

 

「もちろんだとも」

 

「君が父上のようになりたいのなら、誰にでも、友好的に接するべきだよ。仮に心の中で嫌悪していてもね」

 

「まさか、マグルにでも頭を下げるべきだと言うのかい?」

 

「ああ、そうとも。」

 

マルフォイ君は納得できないような顔をする。いやー。まだまだ青いね。少年は

 

「僕はマグル相手に頭を下げたくないね。あの大男にも。本当のこと言って、何が悪いんだい?」

 

「君……!」

 

眼鏡の少年は怒って言おうとするところを私は制した。少年は不機嫌そうに私を見る。そんな少年を無視して、私は続けた。

 

「だからね。言ったはずだ。悪口はその人の品格を貶める。つまり今の君は第一印象は、私や他の人からすれば良くないのだよ」

 

「僕が?」

 

「そう、君が悪口を言えば言うほど君の品格は悪くなる一方だ。今の君は悪口を言う嫌な奴さ」

 

「なっ!」

 

「だって、そうだろ?はっきり言って悪口を聞いて、普通は嫌な気分なるのは当然だろ?貴族として、君はまだまだ半人前だね」

 

すると、きり丸はフッと笑っている。それに気づいたマルフォイ君は顔を青白い顔を真っ赤にして、きり丸を睨みつけた。そして、その場で、大声で"言っていけない"言葉を言う。

 

「何がおかしい!穢れた血め!」

 

「こら!お坊ちゃん!そんなことを言うんじゃありません!」

 

いつの間にかいる女店主はマルフォイ君に叱りつける。すると、どこからか青年の静かな声が聞こえた。

 

「そうだね。彼女の言う通り、君はあまりそう言うことを言わないほうがいい」

 

そこにはハンサムな、私達よりいくつか上の少年が言う。見るからに善法寺先輩みたいに穏やかそうで、お人好しな印象がある。よく見ると彼の瞳は笑っていない。怒っているようにも見えた。

 

「なんだい?君は?」

 

マルフォイ君はハンサムな少年を見て、少し威圧的に言う。

 

「ああ、すまない。先に名乗るよ。僕は、セドリック・ディゴリー。ハッフルパフの四年生」

 

「ハッフルパフ?」

 

彼は馬鹿にしたように笑う。私は慌てて止める。

 

「いや、マルフォイ君それは良くないって、言ったはずだよ。」

 

「ハッフルパフは……」

 

「マルフォイ君。君は全くわかってないね。父上のようになりたいなら、臨機応変になるべきなんだ。悪口を大声で言わない、それが最低限のマナーだ。でないと、恥をかくのは君だよ。マルフォイ君」

 

「僕が、恥を……?」

 

マルフォイ君の顔には信じられないと書いてある。

 

「そうだ。こんなこと言ってくれるは私かセドリックさんぐらいだよ。大人になったら、誰も言わない。そして、今の君がそのまま大人になって、他国の貴族は君のことをこう思う、君はあまりにも品がないって」

 

「僕が、品がない?じゃあ、君は本当にマグルにでも頭を下げるのかい?」

 

「ああ、下げるよ。それは貴族だろうが、平民だろうが、関係ない。それが、マナーだから。そら、周りを見てごらん。今の君はすごく印象が悪い」

 

マルフォイ君は恐る恐る周りを見た。そう、気づいていないが、彼が穢れた血といった瞬間、周りの人達は彼を不愉快そうに見ていた。ようやく自身の立場に気づいて、マルフォイ君は気まずそうにした。私は彼がまだ、何も知らない子供だと、改めて再認識した。

 

「……ようやく、理解したかい?そういうことだよ。今の君は"嫌な奴"と周りにそう認識されているのさ」 

 

私はため息を吐きながら、彼を諭す。

 

「……」

 

「それにね。マグルをあまり舐めないほうがいい。彼らは、魔法を使わなくとも月までいけるんだから。」

 

「マグルが、月に?」

 

ドラコ君は驚いたように声を上げる。私はうんうんと頷きながら、微笑む。内心、「しめた」と悪い顔をしながら……悪い女ですね。あっしは。

 

「ああ、そうとも。彼、アームストロングと言う人物は、月に行って、降り立ったった。有名なユーリ・ガガーリンはこう言った。「地球は青かった」ってね」

 

「本当かい?マグルが宇宙に……」

 

「本当だとも、マグルの技術は凄い。魔法がなくとも魔法使いができないこと不可能を可能にする。それが科学さ」

 

「科学……」

 

ドラコ君は噛み締めるように呟いた。そして、顔を上げると私に質問を投げかける。

 

「マグルが宇宙に行った日はいつなんだ?月に着陸したのは?」

 

「宇宙に行ったのは1961年で、月に着陸したのは1969年だよ」

 

「そんな昔に……マグルはもう、月に……?」

 

彼は心からに驚いている。イギリス界の貴族はそんなことも知らないのか。日本の平民でも、知っていることなのに。どうやら、彼の父上は意図的にそういった情報を教えていないのかもしれない。

 

「もう一度、聞く。君は父上のような、立派な貴族になりたいのかい?」

 

「……なりたいさ」

 

「家の中ならともかく、父上は外で、大声で悪口を言っていたかい?」

 

「……父上は皮肉は言うが、あまりそういうことはしなかった」

 

「だろう?すぐに謝れとは言わない。でもね、貴族として立派になりたいなら、大声で悪口を言うのはやめた方がいい。それが“大人のマナー”ってやつさ」

 

「大人のマナー……。そっか、僕はまだ、貴族として半人前ってことか……」

 

ドラコ君は、しょんぼりと肩を落としていた。ふぅ、ようやく響いたみたいだ。そんな彼に、私は穏やかに言葉をかけた。

 

「でもね、マルフォイ君。今こうして間違いに気づけたってこと、それだけで十分すごい。考えて見給え。もし大人になってもそのままだったら、それこそ恥ずかしいことだよ?」

 

私が軽く茶化すと、マルフォイ君は真剣な目で問い返してきた。

 

「もう一度、聞くけど——」

 

彼はゆっくり、しかしはっきりとした声で言った。

 

「君は……マグルの技術や文化が、僕たち魔法族と同じくらい価値があるって、そう言いたいのか?」

 

私は少し考えてから、静かに頷いた。

 

「うん。魔法も科学も、それぞれに素晴らしいところがある。どちらかが上って話じゃない。どちらも“人の知恵”の結晶だよ。だから私は、どちらかを頭ごなしに見下したくはないんだ」

 

「……ふん。変わった考え方だな」

 

マルフォイ君は、どこか戸惑ったような、それでいて少し納得したような顔をしていた。完全に受け入れたわけじゃない。でも、確かに彼の中に何かが刺さった。それで十分。人はすぐには変わらない。でも、種を蒔くことはできる。そういうものだ。

 

「じゃあ、ギンバイ。君は……どっちの味方なんだ?」

 

その問いは、少し寂しげに聞こえた。

 

「私はどっちの味方でもあるし、どっちの味方でもない。ただ、自分が正しいと思うことを言っただけさ。……ドラコ君にも、きっと分かる日が来るよ。たぶん、それは“今”じゃないってだけでね」

 

沈黙が流れるなか、きり丸がふっと息をついて呟いた。

 

「……先輩。銀灰先輩って、もしかして……けっこうズルい性格してますよね」

 

「おや?どうしてそう思うのかな?」

 

「だって、完全に論破してるのに、最後はフォロー入れて逃げ道作ってる。……悪い女っすね」

 

私は肩をすくめて、にっこり笑った。

 

悪い女、か……。それすら、今の私には褒め言葉だよ、きり丸。

 

「だって、怒らせるだけじゃ芸がないだろう?」

 

その場の空気が、ほんの少し柔らいだ気がした。ドラコ君はまだ渋い顔をしていたけれど、「穢れた血」なんて言葉を口にすることは、もうなかった。

 

——こうして、ちょっとした意見の衝突は、ほんの少しだけ、誰かの考えを揺らす結果になったのかもしれない。

 

マルフォイ君は気まずそうに仕立て屋を後にした。セドリックさんはその背中を見送りながら、少し心配そうに、けれど優しく微笑んで言った。

 

「今回のことで、彼が変わるきっかけになればいいけど……」

 

「そうですね。でも、彼の中に私の言葉が残った。――私はそう信じています」

 

力強くそう言って、私は去っていくマルフォイ君の背中を見送った。

 

「そうだといいっすけどね」

 

きり丸はため息混じりに呟いた。まるで、面倒な子供に巻き込まれたような口ぶりだった。

その隣で、セドリックさんが柔らかく笑う。どこか共感しているような、清々しい瞳だった。

 

きり丸は暇そうにあくびをしていて、眼鏡の少年はまだ不機嫌そうにしている。

 

「いい話だったね。君、名前は?」

 

「銀灰柘榴(ぎんばいざくろ)です。今年からホグワーツに入学します」

 

「隣にいる彼は?」

 

「僕は摂津きり丸です。よろしくっす」

 

「キリマルにザクロか。覚えておくよ。ハッフルパフに来たら、いつでも歓迎する」

 

セドリックさんは爽やかな笑顔を向けて、店内に戻っていった。

それと同時に、店の空気も少しだけ和やかになった。他の客たちも制服を仕立てたり、生地を眺めたりしている。

きり丸が小声でつぶやいた。

 

「でも先輩、ちょっとだけかっこよかったっすよ。……ちょっとだけ、スカッとしたし」

 

「……え? そうかい?」

 

後輩に「かっこよかった」と言われて、なんだか少しだけ照れくさかった。

 

眼鏡の少年は、まだ納得できないような顔で、じっとこちらを見ていた。おっと、忘れていた。

私は慌てて彼に向き直り、頭を下げた。

 

「少年、君の怒りをないがしろにして、すまない」

 

謝罪の言葉に、彼はまだ不満そうだったが、少しだけ表情が和らいだ。そして落ち着いた声で口を開く。

 

「君は、少しズルいよ」

 

「――ああ、全くだ。それだけは、事実だね」

 

「僕は怒ってる。ハグリッドを馬鹿にしたマルフォイに。そして、どちらでもない君にも、少し苛立ってる自分がいる」

 

その声には確かな怒りが宿っていた。

ハグリッド……なるほど、あの大男の名はそういうのか。彼は店の外でのんきに少年を待っている。

 

ああ、そうだとも。私は黒でも白でもない、曖昧なグレー。どっちつかずの夕焼け。

だから、彼が苛立つのも、ズルいと言うのも、どこか理解できる気がした。

 

「君の言う通り、私はどっちつかずで、苛立つ相手だろう。それに、偉そうに語って……すまなかったね」

 

少年は私を真っ直ぐに見つめ、そして小さく息を吐いた。苛立ちを隠そうとしないその姿は、確かに子供らしかった。だが、それでいい。苛立つのは、きっと彼だけじゃないのだから。

 

純血も、半純血も、マグル生まれも、誰もが感じるだろう――「私はズルい奴」だと。そして、腹が立つと。

 

だからこそ、セドリックさんが「いい話」と言ってくれたのは、彼の優しさゆえなのだ。

 

「でも、ありがとう」

 

まさか、お礼を言われるとは思わなかった。私は驚いて顔を上げた。

 

少年は、まだ納得していない顔だったが、どこか清々しい空気も感じさせていた。むくれてはいるが、素直な声だった。

 

「君がマルフォイに『嫌な奴だ』って言ってくれたときだけは、ほんの少しだけど……スカッとしたんだ」

 

「そうか……」

 

少年は本当にスカッとしたのか、少しだけ笑った。

その笑顔を見て、私はそっと胸を撫で下ろした。

 

よかった。やっと笑ってくれた。やっぱり、人は笑顔が一番だ。

 

私はマルフォイ君と同じように、少しばつが悪そうに笑った。

きり丸は外で待っているハグリッドさんに目をやりながら、言葉をかける。

 

「ハグリッドって言うんだな。どんな人なんだ?」

 

「そうだね……」

 

少年は、照れくさそうにハグリッドの良さを語り始めた。

どうやら、両親のいない彼は、親戚に虐待されていたこと。そんな彼を救ってくれたのが、ハグリッドだったのだ。

 

優しくて、温かい人――少年はそう言って、どこか誇らしげだった。

 

私は黙ってその話に耳を傾けた。

隣のきり丸はあくびをしながら、相変わらず眠そうにしていた。

 

やがて仕立てが終わると、少年は踏み台から降りた。

そして、私ときり丸を見て、手を振りながら別れを告げる。

 

「じゃあね、キリマル、ザクロ。また会おうね!」

 

少年は軽やかに走って、ハグリッドの元へと向かっていった。

私ときり丸は、その背中をしばらく見送った。

 

制服も仕立て終わると、私達は店を出た。後は、本屋で教科書を揃えて、あとはいろいろな道具を一年生の必要なリストを見ながら、揃える。

きり丸の杖だけになったが、その頃には正午を指していた。

 

マクゴナガル先生は、お昼をご馳走してくれた。昼食は大変美味で、心も満たされた。

 

それから、また重い荷物を運びながらしばらく歩き、ようやく杖屋に辿り着いた。なんとも古びて、どこかボロっとした店である。私たち三人が店内に入ると、そこはまたホコリだらけで、思わずむせそうになった。

 

壁一面には、細長い箱がびっしりと詰め込まれている。どれも杖なのだろう。すると、店の奥から店主らしき人物が姿を現した。年配の男性で、にこやかに私たちを迎える。

 

「これはこれは、東洋人が二人も。腕が鳴りますなぁ」

 

「えっと、あなたは……?」

 

私の問いに、店主は穏やかに笑いながら答えた。

 

「失礼しました。私、この店の店主オリバンダーと申します。確か……マクゴナガル先生の杖は、モミの木にドラゴンの心臓の琴線。硬く、しなやかで――」

 

私は思わず目を見開いた。まさか、マクゴナガル先生の杖を覚えているとは。驚いた私は、恐る恐る尋ねた。

 

「あの、オリバンダーさん。覚えていらっしゃるのですか?」

 

「もちろんですとも。まるで昨日のことのようにね。さて、まずはあなたからだ」

 

「えっ、すみません。私はもう、杖を持っています」

 

「ほう、それはそれは。失礼ですが、その杖を見せていただけますか?」

 

私は懐から杖を取り出し、オリバンダーさんに手渡した。彼は杖をじっと見つめる。

 

「ふむ……桃の木にセストラルの尾。お嬢さん、この杖はどこで手に入れたのですか?」

 

「確か……椿屋という店で買いました」

 

「なるほど。あの小僧から、か」

 

オリバンダーさんは目を細めながら、穏やかな口調で「小僧」と呟いた。どうやら、その店主のことを知っているようだ。私は気になって尋ねた。

 

「ご存知なんですか?」

 

「ええ、もちろん。なにせこの杖は、私の先々代が作ったものですから。それを椿屋がいくつか仕入れたのです」

 

「へぇ……すごい偶然っすね」

 

きり丸は、私の杖を興味津々に眺めている。マクゴナガル先生は懐かしそうに目を細めた。

 

「鷹雄さんは元気にしているかね?」

 

「はい。無愛想でしたが、元気そうでした」

 

「それは良かった。さて、君にぴったりの杖を探しましょう。杖腕は?」

 

「杖腕?」

 

「利き手のことだよ」

 

「あ、右っすね」

 

すると巻き尺が自動で動き出し、腕の長さ、脚の長さ、果ては鼻の穴のサイズまで測り出した。

 

やがて、オリバンダーさんは細長い箱を持って戻ってきた。いよいよ、杖選びの始まりだ。

 

「まずは、イトスギにドラゴンの琴線。振ってごらんなさい」

 

きり丸が杖を受け取り、軽く振った瞬間、棚の一部から箱が雪崩のように落ちてきた。きり丸は目を丸くする。

 

「きり丸、大丈夫だよ。私のときもそんな感じだったから」

 

「そ、そうっすか……」

 

オリバンダーさんは苦笑しながら、杖を取り上げてまた奥へと引っ込んだ。そして次の杖。黒く光るそれをきり丸が振ると、今度は花瓶が割れ、カウンターが水浸しになった。

 

「う〜む……」

 

と呟きつつも、オリバンダーさんはどこか嬉しそうな様子だった。その後も箱の雪崩が続き、四回ほど失敗が続いた。

 

私のときも、なかなか杖が見つからなかったな、と懐かしく思う。

 

そして、七本目の杖が手渡される。美しいルーン文字が彫られた杖だった。器用な細工に、私は内心感心する。

 

「トリネコにユニコーンの毛。さあ、振ってみなさい」

 

きり丸が恐る恐る杖を振ると、杖の先からふわりと雪の結晶が舞い上がった。その光景に、オリバンダーさんは拍手をし、マクゴナガル先生も見惚れていた。きり丸自身も、初めての魔法に驚いている。

 

「ブラボー!素晴らしい、なんと見事な魔法!」

 

オリバンダーさんは満足げに微笑み、きり丸を見つめながら語った。

 

「キリマルさん。トリネコは、自らの信念や目的を持ち、容易には揺らぎません。そして、真の持ち主とは深く結ばれるのです。あなたも、その信念を大切にしなさい」

 

「……はい」

 

きり丸は、自身の杖をまるで宝物のように大事に箱へと収めた。代金を払い、私たちは店を後にする。

 

これで、ようやく一年生に必要なものが揃った。外に出ると、空はもう夕焼け色に染まっていた。

 

マクゴナガル先生は私達が帰れるか、心配そうにしていたが、きり丸は大丈夫です。と答えた。ちなみに私は駅から近いホテルで泊まる予定だ。すると、きり丸とバスを待ちながら、お喋りをすることにした。マクゴナガル先生に買ってもらったフローリアン・フォーテスキュー・アイスクリーム屋のアイスを食べながら。

 

きり丸はポツリポツリと、自分のこれまでのことを話してくれた。

両親のことはわからず、幼い頃から孤児院で育てられたという。けれど、孤児院の院長の優しさ、同じ孤児の子たちや職員の温かさに助けられていることをきり丸は

なんだか、嬉しそうに話していた。すべてを聞き終えた私も自身の経緯を語った。

 

「そうなんすか……。土井先生は銀灰先輩の担任だったっんすね」

 

「うん、土井先生はきり丸やは組のみんなを一日たりとも、忘れずに気にかけていたよ」

 

「土井先生……」

 

「きり丸。暇ができたら、手紙書き給え。きっと、土井先生も喜ぶだろう」

 

「そうします。でも、なんて、書けばいいのか……」

 

きり丸は少しだけ、悩んでいる。

私はそっと彼の頭に手を乗せ、優しく撫でた。きり丸は驚いたような顔をしたが、やがて安心したような表情に変わった。穏やかな声でありのままを伝える。不安そうなきり丸を安心させたいから。

 

「ありのままの気持ちを伝えればいいんだ。ただそれだけだよ」

 

「銀灰先輩……」

 

「ほら、しゃんとしたまえ。大丈夫。なんせ、この私がいるからね。わからないことはじゃんじゃん聞き給え!」  

 

えへん、と胸を張って言うと、きり丸はぱっと明るい声で「はい!」と返してくれた。それから、バスが来て、彼とバスに乗り込んだ。彼は途中で降りていった。最後まできり丸は手を振ってくれた。その子供らしい一面にキュンとときめく。それから、駅の近くのバス停に降りた。

 

ホテルについたときはすぐに荷物の準備をして、それから眠りについた。ワクワクする気持ちを抑えながら、ベッドに横になる。そうしていくうちに眠くなり、夢の世界へ誘われた。




金塚鷹雄

杖を扱う椿屋の店主

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