魔女は今世でも彼女と一緒にいたい!!仲良くなりたい!!守りたい!!   作:猫とふりかけ

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夢主が組み分けされる話
皆さん、大変お待たせしました。
最新話をどうぞ!
クーラーの効いた部屋での執筆作業は楽だな。


日本の魔女、組み分けされる

「ふむ、そろそろ着く頃だね」

 

私が呟くと乱太郎達は興味深そうに、窓の外の景色を覗き込んだ。

汽車はスピードを落とし、やがて完全に停車する。すると、コパートメントの扉は開き、生徒達がぞろぞろと通路を出ていく。通路はあっという間に大混雑となり、私達は身動きが取れなくなってしまった。

 

コパートメントから覗き込めば、

大勢の生徒が我先に出口へ向かっている。しばらく待つ必要があるようだ。

 

……かれこれ、十分くらい待っているが、一向に空く様子はない。きり丸は眠そうに大きなあくびをした。しんべヱは?……うん、汽車であれだけお弁当とお菓子を食べたのにどうやら空腹のようだ。燃費が悪いのにも程がある。

 

「なかなか空きませんね……」

 

乱太郎は小さくため息をつきながら、呟く。私はそんな彼の隣で、冷静に人の波を観察した。目を凝らすと加藤団蔵と黒木庄左衛門の姿が見えた。ふと、どこかで見覚えのある少年を見つけた。

 

一年は組の山村喜三太。

 

彼は大事そうに壺を抱えている。

相変わらずのナメクジ好きに思わず苦笑してしまう。彼のナメクジへの情熱には感心するしかない。

 

本来なら学校には関係ないので、持ってきてはいけないのだが、私も似たような物を持っていくつもりなので、人のことは言えない。

ハーマイオニーあたりなら、

厳しく指摘しそうである。私は自分が抱えているものをそっと見つめた。乱太郎はそれに気づいて、疑問を抱いたようだ。

 

「先輩、それって……」

 

「ん?ああ、これ?皆には内緒だけど……かくかくしかじか」

 

「え!?まじっすか!?」

 

きり丸が即座に反応し、しんべヱも目を丸くしている。私は少し気恥ずかしくなり、顔を横にそらしながら小さく笑った。

 

「……内緒にしてくれると助かるよ」

 

「大丈夫っす!絶対に口外しませんから!」

 

「僕も!」

 

「私もです!」

 

きり丸が力強く頷くと、乱太郎としんべヱも真剣な顔で同意する。私はその姿がとても頼もしく感じられ、心から信頼できる後輩たちだと思った。抱えているものを、ぎゅっと優しく抱きしめた。

 

あの三人なら口外する心配はないだろう。本当にいい後輩を持ったものだ。私は楽しみだねと話す後輩を見て、思わず頬が緩んでしまう。可愛い後輩達が楽しみにしているのだ余興には腕が鳴る。やはり宴は楽しいものではないと。

 

「おっ、やっと空いてきた」

 

きり丸は嬉しそうに言っている。

人の流れも落ち着いていき、ようやくコパートメントから出る事ができた。人混みに紛れて汽車を降りる。すると、涼やかな空気とともに、どこか異国の香りが漂ってきた。夜空には星々が輝いており、そのひとつひとつが美しい絵画のようだった。

 

プラットフォームには、大きな体のハグリッドさんがランタンを掲げて立っていた。ハグリッドさんの後を着いていき、暗い道を辿れば、大きな湖が見えてくる。きり丸としんべヱと別れ、私は乱太郎と同じボートに乗り込んだ。

 

ボートは人の手を借りなくても、自動で、進んでいく。魔法で動くボートに乱太郎は興味津々で目を輝かせている。子供らしくはしゃぐ姿が微笑ましく、私はその様子に笑みを零す。時折、抱えているものをそっと確認してしまうのは癖のようなもので、壊れやすいわけではないのだけれど、やはり心配だった。

 

今回の余興は楽しみだ。今まで、練習してきた日々。初めて披露したときは親戚達に喜ばれた。あのときのやり遂げた達成感は今も忘れない。特に銀灰家の当主、私の祖父、銀灰鷹典は満足げに頷き、

笑いかけてくれた。あの、仏頂面の祖父が見せた微笑み。それは何よりも、私の自信にも繋がった。

 

それから、親戚の宴会になるといつも披露して、宴会を盛り上げる役になった。私は披露するときのあの温かい空気が好きだ。誰もが喜び、笑い合う。そんな空間が私は何よりも愛している。大丈夫。

あのときみたいに、楽しい気持ちで披露すれば、きっと届く。

 

「先輩」

 

「なんだい?」

 

「先輩、なんだか楽しそうですね」

 

「そう?」

 

乱太郎よ。楽しいじゃない。楽しみなんだ。この余興を盛り上げる役に出れることが。私は想像する。皆の拍手と笑い合う声を。そして、心から皆が楽しんでくれることを。誰かを楽しませたい。そんな気持ちを込めて、私の持てる全てを出し切ろう。それが、今の私にできることだ。

 

ホグワーツ城が見えてきた。幻想的な空気をまとい、私を迎えてくれる。見ていてください、親戚の皆、お祖父ちゃん。あなた達が心から喜んだ私の大切な物を今度はホグワーツの皆に届けにいきます。城に着くと、一年生たちはぞろぞろと城の前に集められた。ハグリッドさんは大きな扉をドンドンと叩く。扉の向こうからマクゴナガル先生が現れた。

 

「マクゴナガル先生、イッチ年生をお連れしました」

 

「ご苦労様です、ハグリッド。ここから先は私が預かりましょう。それから、あなたにはまだ仕事が残っています」

 

先生とハグリッドさんは、何やらひそひそと話している。そしてハグリッドさんが、小さく手招きした。私は乱太郎と別れ、誰にも見つからないように裏口からハグリッドさんと一緒に学校に入り、客室へと案内された。

 

客室のドアの向こうからは、パチパチと拍手の音が聞こえてくる。どうやら、儀式が始まったようだ。新入生を迎えるための儀式――けれど、それがどんなものか、私はまだ知らない。隣にいるハグリッドさんは私の持つある物に目をつけた。

 

「お前さん、その手に持っとるのは……なんじゃ、そりゃ?……ヘビ革が貼っておるな」

 

「これは三線(さんしん)って言うんです。沖縄の伝統楽器で、細長い棹に蛇革を張った胴体が特徴的です」

 

 私がずっと抱えていたもの、それは――三線。私にとって、とても大切なもの。音色を聞くだけで、心が癒やされる。三線は、もはや私の生活の一部だ。

 

「すごいな。お前さん、そんなものも演奏できるのか」

 

「はい。これには、かなり自信がありますよ」

 

私は胸を張って答える。

 

「そうか。楽しみにしちょるよ」

 

「ふふ、私も……」

 

 そのとき、マクゴナガル先生が客室から入ってきた。

 

「ミス・ギンバイ。そろそろです。準備はよろしいですか? 扉の前で待機してください。出番になったら、扉は自動で開きます」

 

 先生はそう言い残し、拍手が聞こえる扉の方へと去っていった。私は扉の前に立ち、深呼吸をひとつ。待機すること数分。緊張で胸が高鳴る中、ついに――扉が、容赦なく開いた。

 

 拍手が響く方へ、私は一歩、力強く踏み出す。顔は狐のお面で隠している。誰にも正体が分からぬように。手には、三線。

 

 ざわめきが場内に広がる。誰もが囁き合い、目を凝らしてこちらを見つめている。

 

 私は古びた帽子が置いてある椅子の前に立ち、静かに三線を構える。そして、ゆっくりとバチを動かした。

 

――響き渡るのは、「唐船ドーイ」。

 

演奏が始まると、ざわめきは次第に静まり、会場には三線の音色が響き渡った。

 

しなやかに弾かれる旋律は、南国の風を思わせる明るさと、どこか郷愁を誘う柔らかさを併せ持っていた。狐面に隠された表情は誰にも見えない。だが、その音には――確かに心が宿っていた。

 

リズムが弾けるたびに、観客の肩が揺れる。手拍子がぽつり、ぽつりと起こり、やがて会場全体が一体となってその音楽に身を委ねていた。私は体が動くままに弦をかき鳴らす。思い出すのは親戚達の笑い声と祖父の笑顔。

 

私はホグワーツの皆を楽しませている。それだけで、心が弾む。今、この場を盛り上げているのだ。

 

唐舟ドーイの軽快なリズムが最高潮に達し、最後の音が鳴り終わると、一瞬の静寂の後、会場には割れんばかりの拍手が起こった。

 

狐面をつけたまま、私は深々と一礼した。

 

――楽しかった。

そして、届けられた。

お祖父ちゃん、皆、見てくれましたか?私は今、誇れるものを得た気がします。

 

そして、全校生徒前で狐のお面をつけたまま、さらに高まる緊張に私は噛まないように気をつけながら、頭の中の脚本を思い浮かべ、私は口を開いた。

 

「ホグワーツの皆様。マホウトコロから来ました。柘榴銀灰(ざくろ ぎんばい)です。よろしくお願いします」

 

狐のお面を外した瞬間、広間を満たしていた拍手が、一瞬だけ止まる。張り詰めた沈黙。だが次の瞬間、再び湧き起こる大きな拍手が、空間を満たした。

 

目の前に広がる大広間。生徒たちの顔。教師たちの視線。

そのすべてが、私を“歓迎”してくれている――そんな気がした。

 

マクゴナガル先生が優しく手を差し出し、私は導かれるように椅子に腰掛けた。

次の瞬間、古びた帽子が私の頭にすっぽりと被せられる。

 

「ふむ……これは、なかなか興味深い」

 

帽子が喋った。思わず背筋が伸び、心臓がバクバクと高鳴る。

どんな儀式なのかも分からない。目の前の出来事が未知で、好奇心と不安がないまぜになっていた。

――まあ、どちらかと言えば、好奇心のほうが勝っている。

 

周囲の視線が一斉に私に注がれていた。

見上げれば、大広間の生徒たちがこちらを見つめている。

どのように進むのかもわからないまま、緊張だけが募っていく。

 

「ほうほう……君は、誰よりも勇気がある。忍耐強く、知識も豊富だ。そして、誰よりも狡猾……これは選びがいがあるぞ」

 

(あの……)

 

「どうした? 若き芽よ」

 

(結局のところ、私はどこでやっていけるんだい?)

 

「ふふ、どこでもやっていけるさ。パフスルパフでも、レイブンクローでも、スリザリンでも……君の中には、そのすべての資質がある。だが、君にはもう一つ、特別な素質がある」

 

(……特別な?)

 

「転生者よ」

 

心臓が跳ねた。思わず目を開いて周囲を見渡す。

……けれど、生徒たちは変わらず静かにこちらを見ているだけ。

まさか、この声は――私にしか聞こえていない?そんな私の心を見透かすように、帽子が言った。

 

「大丈夫だとも。若き芽よ。君の秘密は守ろう。この声は誰にも聞こえまい。たとえ、アルバス・ダンブルドアであってもね。安心して、私に委ねたまえ」

 

(は、はぁ……)

 

流石は創設者の魔法道具。

数百年を生き抜いてきた魔法の知性体――ダンブルドアでさえ敵わないわけだ。

私は思わず、ホグワーツの創始者たちに敬意を抱いてしまいそうになる。

 

「褒めても何も出ないさ。だが、それは君だけではない」

 

(それは知ってるよ。他にもいるんだろ?)

 

「ああ、そうとも。だが、君はその中でも特別だ」

 

(私が?)

 

「君は――令和から室町時代に転生し、さらにその室町から、今この“平成”に転生した存在だ」

 

(……え?)

 

理解が追いつかない。けれど、帽子は嘘をついているようには思えない。

私の心を探るように、帽子が静かに囁いた。

 

「私は嘘はつかないさ」

 

(……は、はあ)

 

「転生者たちは“救い”であると同時に“異物”でもある。そして、人々の“願い”でもある。

彼らは、君たちに助けを求めている。――救ってほしいのだ」

 

(……救って? 誰を?)

 

「そして、世界もまた助けを求めている。君の知識で言うとアヤラの抑止力のような存在もまた、サーヴァントを呼ぶように君達を呼んだのさ」

 

 

(アラヤの抑止力?サーヴァント?)

 

「さあ、そろそろ時間だ。若き芽よ。あとは、よろしく頼む。ホグワーツの未来を、そしてイギリスの未来を――君たちに託そう。さて、君が入るべき寮は……」

 

 

(えっ、ちょ、ちょっと待って――)

 

「もう決めた。グリフィンドール!」

 

……あっさりと決まってしまった。しかもグリフィンドールとは……。人生は何が起こるのかわからない。私は椅子から降りるとグリフィンドールの席へと歩を進めた。ハリーやロン、ハーマイオニー、一年は組の皆が手を振ったり、拍手で迎えてくれている。そんな彼らに嬉しく思った。

 

双子らしき生徒が「留学生を取った!」と肩を組んではしゃいでいる。たくさんのグリフィンドール生が私を温かく迎えてくれた。歓迎されるがままに、私は空いている席に腰を下ろした。テーブルにどんなご馳走が出るのか楽しみだ

 

すると、隣の席から、懐かしくも聞き慣れた声が聞こえた。声がする方へ顔を向けると用具委員の食満留三郎先輩がそこにいた。

 

「久しぶりだな。柘榴」

 

「食満先輩!コパートメント以来ですね」

 

「ああ、あのときは腰を抜かしたぜ」

 

私は食満先輩が驚いたときのリアクションを思い出して、クスリと笑う。「いいリアクションベスト100」の上位に食い込むほどのいいリアクションでよかった。

 

善法寺先輩がひっくり返っていたときに巻き込まれるところは思い出すだけで、腹が捩れそうだ。すると、向かい側からも聞き覚えのある声が飛んできた。

 

「まあ、お前らしいけどな」

 

「竹谷!久しぶりだね」

 

 

ゴワゴワとした髪質が特徴的な生物委員の竹谷八左ヱ門が笑っている。

 

「銀灰先輩!あのときは驚きましたよ!」

 

「ああ、浜君か。あのときは。ナイスリアクションだったよ」

 

熱血な少年、浜守一郎君は元気よく声を上げていた。相変わらずの元気な声に内心、苦笑する。彼の声は誰よりも力強かった。本当に変わらないな。そういうところは。

 

「ということは……。忍術学園、全員集合!ってなりますね」

 

「そうなるな。小松田さんもグリフィンドールだぜ」

 

「え?どこです?……」

 

「あれ」

 

食満先輩は顎をクイッとグリフィンドールのテーブルの端の方へ向けて動かした。探してみるとグリフィンドールのテーブルには同級生と仲よさげに話している小松田さんの姿があった。

 

彼の人の良さそうな笑顔は今も変わらずにいる。ホグワーツのローブが浮いているようにも見えるのは気のせいだろうか。

 

「小松田さんもグリフィンドール……」

 

「みたいだな。らしいちゃ、らしいけど。まあ、あの性格なら選ばれるだろ」

 

「なるほどね」

 

竹谷の言葉に深く頷いた。確かに彼の気質上、グリフィンドールがお似合いである。なんというか、赤色とかあの騒がしい雰囲気とかグリフィンドール的だ。あとで利吉さんにも教えてあげよう。ついでに小松田さんにも……ね?

 

もしかすると、「わ〜!利吉さんだ!」「小松田君!?」というコントのようなシーンがいつかは見れるかもしれない。大変楽しみである。

 

「でも、まさか皆さん揃って同じ寮になるなんて……」

 

「ま、他の寮に行った奴もいるがな。今んとこ、この寮が一番多いかもな。とりあえず、食べながら話そうぜ」

 

食満先輩の言葉にほんのりと温かくなるのを感じた。ここが異国の魔法界だけなのもあっても、仲間がいる。それだけで、こんなにも安心できるなんて。すると、教師の席にいる校長のアルバス・ダンブルドアが両手を広げ立ち上がった。そして、ニッコリと笑いながら、言う。

 

「おめでとう!ホグワーツ新入生、おめでとう!歓迎会を始める前に、二言、三言、言わせていただきたい。そーれ!わっしょい!こらしょい!どっこらしょい!」

 

そう言ってダンブルドア校長は席へ座ると全校生徒は歓声し、拍手をする。私はとりあえず拍手だけはすることにした。やはり、有名な校長と聞いていたが、どこかおかしい。有名人ほど変人が多いと聞くがそういうものだろうか。

 

「うちのも負けていないけれど、ここの校長も変人だね」

 

誰にも聞こえないようにポツリと呟いた。そのとき、テーブルの上に現れたのは金の皿、湯気を立てた料理だった。ローストビーフ、ステーキ、ラムチョップ、ポークチョップ、茹でたポテト、グリルポテト、フレンチフライ、豆、にんじん、茹でトマト、たくさんのご馳走が並んでいる。なぜか、飴が料理のなかにあった。

 

「わぁ……!」

 

マホウトコロでも新入生祝いに、豪華な会席料理が振る舞われたが、日本とは違う異国の料理に私は感嘆の声をあげた。さて、どれからいただこうか。まずは、あの肉々しいステーキからいただこう。赤身のある肉を皿に取り寄せる。

 

「いただきます」

 

ナイフでステーキを切り分けて、口に運ぶ。口の中で、肉汁が溢れ、後から胡椒が効いてくる。ミディアムレアなのか血と肉汁が混ざって、肉の良さを引き立てていた。胡椒と塩で焼くというシンプルさながら、美味である。やはり、シンプルイズザベスト。茹でたポテトはホクホクで素材の味が活かされている。同様に茹でトマトは瑞々しくて、野菜の甘みがあって食べやすい。

 

肉の味が癖になるラムチョップ、揚げたてのフレンチフライ。茹でたポテトとはまた違うグリルポテト。ソースが美味しいローストビーフ。甘いにんじん。

イギリスのご馳走に手が止まらない。会話そっちのけで、食べる私に食満先輩や竹谷、浜君は驚いていた。それもそうか、普段はあまり食べない印象があるから、驚くのも無理はない。竹谷が聞いてきた。

 

「お前、そんなに食うキャラだったか?」

 

「家ではよく食べるよ」

 

「どれくらい?」

 

「軽く米、5合はいける」

 

「まじか……」

 

竹谷は呆気にとられる。食満先輩は嬉しそうにしていた。私が黙々と食べる姿を見て、微笑ましそうにしている。浜君はまだ驚いていた。そして、ポツリと言う。

 

「銀灰先輩って意外と大食いキャラ?」

 

私はラムチョップを食べている竹谷に声をかけた。

 

「ねぇ、竹谷」

 

「なんだ?」

 

「他の五年生はどこの寮なの?」

 

「よくぞ聞いてくれた」

 

竹谷は嬉しそうに答える。久々知はレイブンクロー、不和と蜂屋はスリザリン。尾浜はハッフルパフ。うん、バラバラになったな。見事に別れている。久々知ならわかるが、尾浜がパッフルパフとは意外だ。不和がスリザリンなのも不思議である。

 

「他の人はどこにいったんだ?」

 

私の疑問に反応したのは食満先輩だった。彼は得意気に話してくれた。善法寺先輩はハッフルパフ、中在家先輩もハッフルパフ。立花先輩はレイブンクロー。七松先輩は……。うん、いた。グリフィンドールの席にいる。確かに七松先輩はグリフィンが性に合う。あとに残るは……。

 

「潮江先輩は?」

 

「ああ?文次のことか?スリザリンだよ。スリザリン」

 

「潮江先輩がスリザリン!?」

 

「ビックリですよね!俺もビックリです!」

 

浜君はステーキを頬張りながら、同意している。いや……でも……。あり得るかもしれない。忍者とは狡猾な生き物だ。いつも忍者をしている潮江先輩が選ばれるのも納得できる。

 

「潮江先輩がスリザリンか……。あり得る話ですね」

 

「どうだっていいだろ。この話題は辞めだ辞め。飯が不味くなる。」

 

「あはは……」

 

潮江先輩と食満先輩は前世の頃から犬猿の仲だ。しかも、チラッと聞いた話ではスリザリンとグリフィンドールは仲が悪い。なら、余計にいがみ合うだろう。火にガソリン。このまま激しく燃えなきゃいいけど。

 

食事を終えるとお次はお待ちかねのデザートである。空になった皿は消えて、テーブルには甘いデザートが並んだ。

 

アイスクリーム、ライスプディング。エクレア、糖蜜パイ。ジャムドーナツ、トライフル、イチゴ。

ゼリーなどなど……。

 

まずは無難なアイスクリームから。王道のバニラアイスから食べることにした。スプーンですくった白いバニラアイスは、まるで雪のかけらのように繊細で、口に入れた瞬間、ひんやりとした冷気が舌の上に広がった。

ゆっくりと溶けていくにつれて、バニラの甘くまろやかな香りが鼻に抜け、ほんのりとミルクのコクが残る。

 

「まるで、ミルクと天使の舞踏会や……」

 

「お前は何と戦っているんだよ」

 

竹谷が呆れ顔でツッコんでくる。でも、いいんだ。今の私は誰にも止められない。これは戦いじゃない、素晴らしい儀式なのだ。それと武道会じゃない、舞踏会だ。

 

「バニラの純粋さに、心が洗われていくようだ……」

 

「もう宗教じゃん……」

 

それでも私は止まらない。バニラアイスを一口、また一口。溶ける前に、至高の甘味を堪能しなければ。

 

バニラという清らかな儀式を終えた私は、次なる挑戦者――チョコレートと向き合っていた。

 

「まずは深呼吸……カカオの香りが、もう……濃厚すぎて正気を保てない……!」

 

「開始早々ぶっ飛ばしてんなお前……」

 

スプーンですくったチョコレートアイスは、まるで闇そのもののように艶めいていた。バニラが光の使者なら、これは甘美なる漆黒の誘惑。口に含んだ瞬間、舌の上をとろりと滑り、ほのかな苦みと深いコクが広がっていく。甘さだけじゃない、大人びた余韻が脳を揺さぶる。

 

「……まるで、ダンディな英国紳士の抱擁や……!」

 

「どこの発想だよ!?ていうか例えが渋すぎる!」

 

私の脳裏に浮かんだのは、片眼鏡をかけたチョコレート擬人化紳士。カカオの渋みと甘さのバランスは、あまりにも絶妙だった。

 

「チョコレート……お前、ただの甘味じゃない……甘いのに、ほろ苦い……人生みたいだな……」

 

「アイス食ってるだけで何を悟ろうとしてるんだよ!」

 

一口、また一口。濃密なカカオの世界に溺れながらも、私は冷静だった。これは誘惑、これは試練、だが乗り越えることで人は成長するのだ。

 

「……うん、やっぱバニラとは違う深みがある。大人の階段を一段上った気がする」

 

「アイス一個で成長すんな」

 

器の底が見えるころ、私はそっと目を閉じた。チョコレートとの闘いは熾烈だったが、充実感とともに幕を閉じた。

だが――そう、これはまだ第二章。終わりではない。

 

「次は、いちご……いちご……甘酸っぱい青春が私を呼んでいる……!」

 

「お前、絶対あとでお腹壊すからな……」

 

バニラの純粋、チョコレートの深淵を越え、私はついに――青春の扉を叩く。

そう、ピンク色に染まったこのスイーツ。名前はストロベリー。甘酸っぱき、初恋の味。

 

「……この色、この香り、この瑞々しさ……これはもう、果実の初恋や……!」

 

「お前の比喩、どんどん恋愛寄りになってない?」

 

スプーンの先には、まるで朝焼けを閉じ込めたような、淡くて可憐ないちごのアイス。

ひとくち口に含むと、冷たい甘さの奥に、ほのかな酸味が弾ける。それはまるで、まだ言葉にできない想いのように、胸をきゅっと締めつけた。

 

「……ああっ、なんて儚いの……甘さのあとに、すぐに来る酸味……このツンデレ感、まさに青春……!」

 

「いちご味に人格与えるな。てか、ツンデレって言っちゃったよこの人」

 

舌の上に残るのは、どこか懐かしい感覚。夏の日に食べたショートケーキ、遠足の帰りに買ってもらったジュース、そして――何でもない時間を一緒に笑って過ごした、誰かの記憶。

 

「ストロベリー……。君は私の思い出の中にいつもいたんだね……」

 

「なんかもう、日記でも書けよ……!」

 

スプーンが器の底をすくったとき、私はそっと目を伏せた。バニラが原点、チョコが試練なら、いちごは原風景。

ふと、遠くの空を見上げたくなるような、そんなアイスだった。

 

「……やっぱりアイスって、人生だな」

 

「いや、それは違う」

 

アイス三種の巡礼を終えた私は、ついに“番外”とも言うべき領域へと踏み込んだ。

アイスの深皿の端に、堂々と鎮座していたそれ――エクレア。

光沢のあるチョココーティング、ほんのり香ばしいシュー生地、そしてその中に詰まった濃密なカスタード。

 

「……これはもう、おやつというより……スイーツ界の色香担当やな……」

 

「お前、エクレアに色気見出すのやめろよな」

 

フォークで切ろうとしても、その柔らかさに生地がすぐ崩れる。だが、それもまた美しさ。

慎重に口に運べば、外のビターなチョコの香りがまず鼻に抜け、そのあとすぐに、ふわっと甘いカスタードが舌に溶けて広がる。

 

「うっ……この一体感……!まるで、長年連れ添った夫婦のような信頼感……!」

 

「ツッコミ疲れてきたんだけど!?なんでエクレアで熟年夫婦語ってんの!?」

 

シュー生地がほどけていく食感の中に、どこか懐かしいぬくもりを感じる。

これは気高き甘味の貴婦人、もはや優雅な午後の紅茶の似合うデザートだ。

 

「……この重厚感……お腹も心も包まれていく……」

 

「だからその表現、なんでいつもポエム寄りなんだよ……」

 

一口、また一口。もはやこれはアイス道の枠を超えていた。スイーツとして、堂々たる風格。

それなのに、どこかほっとする、母のような包容力すらある。

 

「……エクレア、お前……いいやつだったんだな……」

 

「何と和解してんだよ……」

 

最後のひとくちを口に含み、私は静かに目を閉じた。

スイーツに迷える者たちよ。たまには、番外の扉を開いてみるといい。そこには、思わぬ癒しと深みがあるのだから――

 

「仲いいなお前ら」

 

食満先輩は呆れ混じりに、でもどこか微笑ましそうにこちらを見ていた。

 

「僕は好きでツッコミなんかしてませんよ!」

 

竹谷の絶叫は、もう背景音になりつつある。

私は神聖なるスプーンを片手に、次の巡礼場所へと足を踏み入れた。

それは――異国の地から届いた素朴なる優しさ、ライスプディング。

 

「……これが“米”の到達点か……」

 

見た目は地味だ。だが、そこに潜むのは、白米という存在への深い敬意と愛。米をミルクと砂糖で優しく煮込み、シナモンがほんのり香る――それはまるで、甘味界の炊き込みご飯。

 

「米は偉大や……米は……スイーツにすらなれる……!」

 

「日本人の本能が爆発してない? お前それほとんど涙声だぞ」

 

スプーンですくって口に運ぶ。温もりと優しさが、舌から喉へ、そして胸へと広がっていく。

甘すぎず、柔らかすぎず、穏やかで、でも確かな個性がある。

 

「……これは、遠くの国のお母さんの味や……」

 

「知らんけど絶対いい人なんだろうな。そのお母さん」

 

口に広がるミルクとお米の共演。それはまるで、異文化が手を取り合って一緒に踊っているような……優雅で、平和な時間。

争いなど何もない。ただ、あたたかな鍋の中で、米と乳がとろけ合っている。

 

「……これはもう、デザート界の平和条約やな……」

 

「お前がノーベルおやつ賞にノミネートされろ」

 

器の底をすくいながら、私は改めて米の万能性に感謝した。焼いてよし、煮てよし、握ってよし、そして――甘く煮ても、なおよし。

 

「米……お前は、主食に甘んじている器ではなかったんやな……!」

 

「何その侮ってたのに惚れ直したみたいな展開……!」

 

静かにスプーンを置き、私は目を閉じた。米の旅は、まだ終わらない。だが今日、ここで、確かにその可能性を知ったのだ。

 

次なるスイーツを前に、私は息をのんだ。その姿はまるで、光を反射して輝く黄金の盾――糖蜜パイ。艶めく表面、パリッと焼かれたパイ生地、その中にとろりと流れる蜜……!

 

「これは……!もしや……!」

 

「また始まったぞ……」

 

竹谷のぼやきすら届かない。私の意識は、完全にこの一片に集中していた。ひとくち噛んだ瞬間――表面のパイが、ぱりっ、と小気味よく割れ、内側の蜜が舌の上に広がる。ああ、甘い。甘すぎる。だが、それがいい。

 

「……これは……食べる爆薬や……!」

 

「爆発してんの舌だけじゃん!?」

 

糖蜜の甘さは鋭利だ。優しさじゃない、これは“試練”。

ふだんの甘味が「癒し」ならば、これは「挑戦」――

甘さという力を、真正面から叩きつけてくるスイーツ。

 

「……胃にくる……でも、もう一口いきたい……!」

 

「やめとけ!それ戻ってこられないやつだよ!」

 

パイ生地の香ばしさと、糖蜜の濃密さがせめぎ合う。まるで戦場。それでも私はフォークを止めない。戦士のように、一口、また一口。そして悟った。

 

「これは……覚悟の味やな……!甘さと戦う覚悟!」

 

「どんだけ命がけでスイーツ食べてるんだよ……!」

 

ラストひとくち。

私は静かに、だが確かな決意とともに、それを口へ運んだ。

 

「……完食……糖蜜……完落ちや……」

 

「完全に戦場だったな、今のデザートタイム……」

 

糖蜜パイ。それは、心して挑む者のみが味わえる、至高の“甘味決戦”。食後には、ほんの少しの罪悪感と、満ち足りた沈黙が残るのだった。

 

「大変美味である。我の心も腹も満たされた……。」

 

「そうかい……。俺はツッコミ疲れたよ……。もう、疲れたよ、パトラッシュ……」

 

天使が迎えに来そうなほど、竹谷は項垂れている。心なしか、「立つんだ!ジョー!」と聞こえるのは気のせいだろうか。いや、気のせいだろう。ここはリング場でもないし、彼はボクサーではない。そんなやりとりをしていると食満先輩はやはり呆れながら、懐かしそうに呟いた。

 

「いつもの忍術学園って感じだな……」

 

「行くぞ!我はスイーツの聖地へ巡礼せし者!」

 

「もう、勝手に行ってくれ……」

 

竹谷が完全に白目になりながら手を振るのを背に、私は次なる聖地へと進軍する。

 

目の前に鎮座するのは――

 

トライフル。

 

透明なグラスの中に、幾層もの誘惑が重なるスイーツ界のパフェ貴族。 スポンジ、カスタード、生クリーム、そしてフルーツ。 断面図だけで既に満貫、いや役満。 これはもはや、フルーツの宝箱や〜!(※彦摩呂さん風)

 

「宝箱開けたらデザートしか出てこなかった!誰得!?ってツッコミたくなるけど……ありがとう……!」

 

ひと匙すくえば、まずは生クリームが柔らかく舌に落ちる。 甘い。でも、それだけじゃない。 その奥に、カスタードのコクと、スポンジのふわふわが重なり――

 

「う、うま……っ!……口の中で食感が三国志……!」

 

「どういうことだよ!?」

 

竹谷が遠くから叫ぶ。無視だ、今は食に集中。

 

フルーツの酸味がカスタードの甘さを中和し、しかし生クリームがまた甘味の濃度を押し上げてくる。 それが層ごとに波状攻撃のように押し寄せるのだ。

 

「これは……まさに……スイーツの大連立政権や……!」

 

「いやもっと美味しそうな例えにしろ!あと政治混ぜるな!!」

 

スプーンを進めるごとに、味の変化が楽しめる。 まるで、一杯でフルコース。

 

パフェとは違う、構造美。味の起伏が絶妙な緩急となって――

 

「……まるで、味のジェットコースターや……。一度乗ったら、降りられへん……!」

 

「そろそろ降りて!?胃袋から降りて!!」

 

それでも、私は食べる。 宝箱は、まだ開ききっていないのだから。

 

「……ごちそうさま。やっぱり甘味は、人生の彩りやな……」

 

「もうなんか悟ってる!?」

 

食後、私はグラスの底を名残惜しそうに見つめながら、静かにこう呟いた。

 

「甘味……それは癒しであり、試練であり……そして、旅路や……」

 

「もうそれ“スイーツ道”とかいう宗教じゃん!」

 

こうして、私のスイーツの巡礼の旅は終えた。私は胃が疲れて、竹谷はツッコミ疲れ。けれど、我は満足している。たくさんのスイーツを堪能して、夢のような気分だ。いっそのこと、スイーツの為に留学を延長するのもいいのかもしれない。グリフィンドールの生徒も私も幸せの余韻に浸っているなか、竹谷は……。ああ、燃え尽きている。燃え尽きているよ。真っ白に。

 

「立つんだ!ジョー!立て……!ジョー!くそっ!ザオリク!」

 

「誰がジョーだ」

 

あ、よかった。生き返った。竹谷は蘇りの呪文で生き返った!

竹谷はレベルが上がった!竹谷はツッコミすると疲れるを覚えた!こうして、竹谷の旅は続くのであった。

 

「続かねぇわ。RPGみたいに言うな」

 

「あれ?言ってた?」

 

「バッチリとな」

 

どうやら、私のRPGの解説は聞こえていたようだ。なんにせよ、竹谷が生き返ってよかった。食満先輩は……。あ、まだ呆れている。そんな微笑ましい雰囲気のなか、ダンブルドア校長は立ち上がる。すると、あれほど騒がしかった生徒達は水を打ったように静まり返った。それから、校長によるいくつかの注意事項が言われ、その後に彼はこう言った。

 

「四階の廊下は立ち入り禁止じゃ。入った者には恐ろしい死が待っておる。皆、くれぐれも入らぬように」

 

「立ち入り禁止ね……。食満先輩、今までそんな警告はありませんでしたか?」

 

「いや、ねぇな。今回が初めてだ」

 

食満先輩の言葉に私は眉をひそめた。この世界の常識は、私達の世界の常識とは違うとわかっている。けれど、そんな警告を、入学初日に校長がわざわざ言うのは、よほどの理由があるということだ。

 

「竹谷はどう思う?今回の件は」

 

「俺か?俺は……四階に危険な生き物を飼っているんじゃないか?」

 

「……なるほどね」

 

私は竹谷の言葉に頷いた。けれど、仮に飼うとしても、わざわざ飼うのになぜ四階なのだろうか。それとも、四階には私には知らない秘密が隠されているのだろうか。いや……。その前に……。

 

「学校にそんな危険区域作るなよ」

 

思わず口に出た私の本音に、食満先輩が噴き出した。

 

「たしかにな。普通はそう思うよな」

 

「忍術学園にも危険な場所はあったけど、ちゃんと封印されてるか、委員会で管理されてましたし……」

 

「まぁ、ここは“魔法”の学校だからな。俺たちの常識だけじゃ測れねぇことも多いだろ」

 

そう言って食満先輩は首をすくめたが、納得しきっているわけではなさそうだった。

竹谷は真剣な顔で言葉をつなぐ。

 

「それでも、生徒にあんな警告を出すってことは……かなりの“何か”があるんだろうな。魔物か、呪いか、それとも……」

 

浜君は顎に手を当てて、真剣な顔で呟いた。

 

「何か、守っているんですかね……」

 

その瞬間、全員の視線が浜君に集まった。本人は気まずそうに目を逸らしながらも、言葉を続ける。

 

「いや、あの……死ぬほど危険な場所に、あえて何かを隠しておく。人を近づけないようにするって……忍の里でも、そういう戦略があったじゃないですか」

 

「確かに」

 

私は静かにうなずいた。

「死が待っている」という物騒な表現。それは、侵入者への警告であると同時に、“守る価値のある何か”がその先にあることを示唆している。

 

結局のところ真相はわからないまま、宴は静かに終焉を迎えた。一年生たちは監督生の後に続いて移動を開始し、その群れの中に金吾と団蔵の姿を見つける。私はそっと二人に近づいた。

 

「こんばんは、お二人さん」

 

「銀灰先輩!」

 

ひっくり返っていた団蔵がこちらを見上げる。目を見開き、まるで亡霊を見たような顔をしていた。

 

「本物……ですよね? 生きて……いますよね?」

 

吹き出しそうになるのをぐっと堪えながら、私はさっき乱太郎に言ったのと同じ言葉を返した。

 

「それ以外に誰に見えるのかね?」

 

「銀灰先輩です」

 

「そうとも。まあ、ふつつかものですがよろしくお願いします」

 

「「よろしくお願いします!」」

 

三人で軽く一礼を交わす。礼儀正しい姿に、思わず口元がほころぶ。変わらないな、君たちは。本当に。

 

その様子に安心感を覚えつつも、いつの間にか列から遅れていたことに気づき、慌てて三人で駆け足で追いかけた。

 

やがて寮の前に到着する。だが、ドアノブはなく、代わりに太ったピンクの絹のドレスを纏った婦人の絵画が飾られている。絵はひとりでに動き、話し出した。マホウトコロでも動く絵は珍しくないが、こちらはずいぶん主張が強そうだ。

 

監督生が絵の前に立つと、婦人は尋ねた。

 

「合言葉は?」

 

「カプート・ドラコニス」

 

その言葉を合図に、扉が音もなく開く。中に足を踏み入れると、談話室は円形で、赤を基調とした暖かな空間だった。フカフカの肘掛け椅子が整然と並び、暖炉の火がやさしく揺れている。冬になったら、ここで本を読むのが楽しみだ。まだ読み切れていない漫画もたくさんある。

 

金吾と団蔵に別れを告げ、私は女子寮の部屋へと向かった。疲れた体を引きずるように。

 

同室の相手はハーマイオニーらしい。軽く声をかけておくことにした。

 

「ハーマイオニーさん」

 

「あら、ザクロじゃない。同室だったのね。これからよろしくね」

 

「よろしくお願いします」

 

すると、背後から声がかかった。

 

「ねえ」

 

振り返ると、整った顔立ちのインド系の少女がにこやかに微笑んでいた。私は軽く会釈する。

 

「あなたの演奏、とてもよかったわ。聞いているだけで楽しくなっちゃった」

 

「ありがとう。君は?」

 

「私はパーバディ・パチル。双子の妹がいるの」

 

「へぇ、妹さんはどちらに?」

 

「レイブンクローよ」

 

レイブンクロー。確か、知性や機知が重んじられる寮だったはず。帽子も私の知識を評価して、そこも候補に挙げていたから、きっとそんなところだろう。ああ、立花先輩もあの寮だったな。

 

「立花先輩と同じか……」

 

「立花先輩?」

 

「知り合いでね。彼もレイブンクローなんだよ」

 

「ああ!チラッと見たわ。綺麗な顔立ちよね!日本人とは思えないわ!」

 

「……まあ、確かに整ってる」

 

立花先輩は美形だ。色白で、どこか神秘的な雰囲気もある。ただ、付き合いの長い人しか知らないが、意外と沸点が低い。

 

「これからもよろしくね、ザクロ」

 

「よろしく」

 

パーバディは軽く手を振って、自分のベッドに戻っていった。私はその背中を見送りつつ、そっと自分のベッドへ腰を下ろす。

 

ハーマイオニーはすでにベッドの上で分厚い本を開いていた。ちらりとこちらを見て、微笑む。

 

「いい人だったでしょ、パーバディ。ちょっとおしゃべりだけど、根は本当に真面目よ」

 

「うん。そんな感じがした」

 

トランクを開けながら、私は胸元にそっと手を当てる。まだ慣れないこの学校。知らない人ばかり、けれど頑張ろうと思った。

 

「皆、寝てるかな……?」

 

時刻は夜中の2時。草木も眠る時間。私はそっと起き上がり、普段使うトランクとは別の、それ専用のトランクを開けられた。トランクに体を滑り込ませると、私は机に向かった。引き出しからノートを取り出し、シャーペンの芯を出す。消しゴムを脇に置き、さらさらと今日の出来事を記録していく。

 

〈9月1日 ホグワーツ滞在・一日目〉

 

芯が紙を滑る音だけが、静寂の中で小さく響いていた。組み分け帽子の言葉、転生のことについて。思い出しながら書き記す。

 

〈ほとんどの忍術学園の生徒が記憶を保持したまま転生している。 組み分け帽子の話によると、あらゆる人の願いが呼び寄せた現象だという。〉

 

だいたいこんなところだろうか。私はノートを閉じ、引き出しへしまう。そしてロウソクの火をそっと吹き消した。トランクから抜け出し、ベッドに潜り込む。ふと、胸の奥が少し温かい。

なんとなくこの学校生活が楽しくなりそう、そんな気がした。

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