魔女は今世でも彼女と一緒にいたい!!仲良くなりたい!!守りたい!! 作:猫とふりかけ
「やっと終わった〜!」
私は勢いよく皿に盛られたサンドイッチの山に手を伸ばす。
まずはBLTサンドイッチ。カリカリに焼かれたベーコンに、シャキシャキのレタス、トマトの瑞々しさが口の中で絶妙に絡み合う。
続けて、チーズとハムのサンドイッチを皿に取る。
「どうだ? 初めての授業は」
「……なんだ、竹谷か」
「おい、もうちょっと喜べよ」
向かいの席に竹谷がドカッと腰を下ろすと、サンドイッチをいくつか手に取り、遠慮なくかぶりついた。豪快な食べっぷりが妙に清々しい。次に手を出したのはタラの揚げ物。
私はポテトフライを自分の皿に盛る。
ホクホクとした櫛形のポテト。塩気がちょうどよくて、ついつい手が伸びてしまう。タラの揚げ物も魅力的だけど、やっぱりソースがほしくなる。中濃ソースか、しょうゆか……。うん、次から持参しよう。
そんな決意を胸に秘めていると、竹谷がこちらを見て言った。
「で? 授業どうだった?」
「ああ、かくかくしかじかって感じでね」
私はできるだけわかりやすく、今日の魔法薬学の出来事を説明する。
竹谷は話を聞くうちに、徐々に苦笑いを浮かべ始めた。
「……あるある、って顔してるね?」
「まあな。俺も一年の頃はネチネチ言われた。今もだけどな」
「え、今も?」
「スネイプ先生はな、筋金入りだ。特にグリフィンドールには厳しい」
「うん……でも。あの先生、ハリーに対しては“厳しい”っていうより……“執着してる”ように感じがしたのだよ」
「考えすぎじゃね?」
「そうかもだけど……あの視線、ただの憎しみじゃなかった。もっと複雑で……深い感じがした」
私はサラダに手を伸ばす。キュウリとトマトの入ったサラダにドレッシングをひとまわし。パリッと噛む音が、自分の迷いを打ち消してくれる気がした。
スネイプ先生――セブルス・スネイプ。
ハリーとロンが言っていた通り、グリフィンドールには冷たく、スリザリンには妙に甘い。その理由が“寮だから”だけではないような気がしてならなかった。
ふと、隣に人の気配を感じて振り向くと――ハリーが立っていた。
「ザクロ」
「ん?なんだい?」
「今日の放課後、ハグリットのところに」
「りょーかい」
それだけ言って、ハリーはロンのいる席へと戻っていった。
私は紅茶に砂糖を入れて、一口飲む。
芳醇な香りとほのかな甘みが、ざらついた心をゆっくりと和らげてくれる。
「お前、ハグリットの家行くのか?」
「うん、行ってくる」
「なら、楽しんでこいよ」
竹谷はおもむろに私の頭をワシャワシャと撫でてきた。
撫で方がなんだか妙に落ち着く。彼は一年生の面倒を見ることも多いらしく、子どもの扱いには慣れているらしい。
だから、きっと――これが彼なりの励まし方なのだろう。
「私、一応中身14才なんだけど」
「昔は、だろ? 今は可愛い後輩」
「む……言い返せない……」
結局その後もしばらく、私は竹谷にされるがままだった。
◆♢◆
授業がすべて終わり、私はハリー、ロンとともにハグリットの家へと向かっていた。
大きな木製の扉の向こうからは、犬の吠える声と爪で引っ掻く音が聞こえてくる。ロンが扉を開けると、黒く巨大な犬――ファングが彼に飛びかかり、顔中をベロベロと舐め回していた。
「ファング、下がれ!」
ハグリットが引き剥がしにかかる。
家の中は、まさに“自然と共にある生活”といった風情だった。
暖炉に吊るされたハム、大きなベッド、年季の入った木のテーブルと椅子。まるで狩人の家のような、温かみのある空間。
「いいですね、こういう内装。好きです」
「そりゃ嬉しいな。そういや、お前さんとは組み分け以来か」
「はい。ようやく少し慣れてきました」
ハグリットはにこやかにうなずき、それからロンに目を向ける。
「お前さん、ウィーズリーの子だな? えーと……双子の兄貴らにはずいぶん苦労させられたもんだ」
「……それは、大変だね……」
ロンが苦笑する。ハリーとロンはハグリットの話を相槌を打ちながら聞いていたが、途中からは石のように硬いロックケーキとの格闘になった。
私もガリガリと齧りながら、話に耳を傾けていた。
やがて話題はスネイプ先生へと移る。
「スネイプは僕を憎んでるんだ」
と、ハリーがぽつりと漏らす。
「馬鹿な。なんで憎まにゃならん」
「うーん、憎むっていうより……」
私は、昼に竹谷に話したことを二人に打ち明けてみた。
だが――
「それはない」
即座にハグリットさんに否定された。ハリーも、それ以上は口をつぐんだ。
気まずさが漂うなか、話題はロンの兄・チャーリーの話へと移る。彼は現在、ドラゴンの飼育に関わっているそうだ。話が盛り上がっていたそのとき――
「……これ、見て」
ハリーがテーブルに置かれた新聞を指差した。
“グリンゴッツに侵入者”――その見出しが、私たちの目に飛び込んでくる。
「ハグリット! 侵入があったのって、僕の誕生日だよ! 僕たちが行った日じゃないか!」
ハリーが声を上げると、ハグリットはどこかぎこちない笑みを浮かべた。
「さあさ、ロックケーキでもう一つどうだ?」
明らかにごまかしている。その態度は、“何かを隠している”と物語っていた。
その帰り道、私はこっそりハリーに話しかけた。
「ねぇ、グリンゴッツのこと、もう少し詳しく教えて?」
「……あの日、ハグリットが金庫から何かを取り出してた。小さな、古びた包みを」
「ふーん……その包み、侵入者の目的だった可能性もあるってことだね?」
「……わからないけど」
「ハリーがわからないんじゃ、僕もわかんないよ」
ロンは手を挙げて降参ポーズ。
私は口元をニヤリと緩める。
「ふむ、実に興味深い――」
◆♢◆
スリザリンとの合同授業は魔法薬学だけだと思っていた。寮の談話室に『お知らせ』が張り出されるまでは……。
《飛行訓練は木曜日に始まります。グリフィンドールとスリザリンの合同授業です》
張り紙を見たときのグリフィンドール生の顔はどこか憂鬱としていた。ネビルに関しては真っ青である。私はハニートーストを噛りながら、マホウトコロの飛行訓練を思い出した。……なんだろう、あまりいい思い出がない。
一方、マルフォイは自慢話をスリザリンの仲間に聞かせている。箒で空を飛んだ来たときにヘリコプターを避けたとか、なんとか。まあ、大方、嘘だと見抜いたが。
すると、珍しく乱太郎達が向かい側の席で朝食を摂っていた。そして、きり丸はソーセージを食べながら、質問してくる。
「先輩は箒の経験あるんすか?」
「ん?あるよ。一応ね」
「どれくらい上手なんですか?」
今度は乱太郎がオートミールに蜂蜜をかけながら、聞いてきた。
「普通だね」
「僕、初めてだから不安だな……先輩、何かコツとかありませんか?」
しんべヱは不安そうに私にアドバイスを受けようとしている。
「コツねぇ……」
と、言われてもコツなんて存在しない。そもそも箒なんてものは感覚で覚えるものだ。コツとかヘタっくれもない。
「う〜ん。感覚……とか?とにかくたくさん飛んで覚えるしかないよ。」
「やって覚えろってやつっすね」
「そういうこと」
「やっぱり……実践あるのみですね」
乱太郎はため息を吐きながら、オートミールをかき回した。
「頑張れ、三人とも!」
すると、遠くのテーブルが何やら騒がしい。よく見ると他のスリザリンの生徒とハリーとロンが何やら揉め事を起こしているようだった。今度は私がため息を吐いた。
「全く……あの二人は……」
「賑やかっすね」
きり丸が口元をぬぐいながら肩をすくめた。私もパンの耳をちぎって紅茶に浸しながら、視線を揉めている方へと向ける。他のスリザリン生が、どうやらロンとハリーと言い合いになっている。
「何を揉めてるんだろうね……」
私が呟くと、きり丸が一言。
「多分、食い物の取り合いっすよ。あの手の喧嘩、大体そんなもんっす」
「……ありえる、かな?」
なんか違う気がする。私が紅茶を啜っていると、大広間の入口の方から足音がして、ハーマイオニーが腕に何冊も本を抱えてやってきた。ぴしっとした歩き方と、ややキツめの表情に、グリフィンドール生たちは道を空ける。どうやら、彼女は今日の飛行訓練に向けて、しっかりと予習をしてきたらしい。
「おはよう、ザクロ。あなた、飛行得意なのよね?」
「得意……ではないけど、まあ、それなりに」
「よかった。私、飛行なんて一度もやったことがなくて。落ちる夢まで見たのよ。だから、ちゃんと理論から入ろうと思って」
「……理論って、飛行に?」
「そう。空気の流れ、箒の重心、魔力の伝導率、それに上昇と安定の関係……この本にはちゃんと書いてあるのよ」
ハーマイオニーは机の上に『魔法具飛行理論入門』という分厚い本をドン、と置いた。思わず、きり丸としんべヱがその重さにビクリとした。
「でも、そんなので飛べるのか……」
きり丸が正直な感想を漏らす。
「まあ、実践には勝てないからね。結局は感覚」
私は笑いながらも、ハーマイオニーがどこかで怪我をしないか心配になった。あの子は「完璧」を求めすぎるところがある。
そして、ふと感じる。
今日の飛行訓練――何かが起こりそうな気がしてならなかった。
マルフォイの視線も、なにやら含みのある笑みを湛えてこちらを見ていた。ロンとハリーも、朝の一件でやや不機嫌気味だ。
「さて、そろそろ行きますか」
私は立ち上がって、皿を重ねる。
きり丸と乱太郎、しんべヱもそれに続くように動き出した。
「頑張ろうね、乱太郎、しんべヱ。あと……絶対に、落ちないようにね」
「は、はい……!」
「僕、祈っときます……!」
しんべヱがやたらと真剣な顔で言ってくるので、私は思わず吹き出した。
その笑い声に、どこか張りつめた空気が少しだけ和らいだ気がした。
――そして、飛行訓練のフィールドでは、確かに“事件”が起こるのだった。
飛行訓練が始まったのは午後三時頃。乱太郎たちと正面階段から校庭へ向かった。箒は全部で二十本、芝生の上に整然と並べられている。飛行訓練の教師、マダム・フーチが鷹のような目で生徒たちを見渡していた。
「なにボヤボヤしているのですか!」
開口一番、マダム・フーチの叱責が飛ぶ。
「皆、箒のそばに立って。さあ、早く!」
その声に急かされながら、生徒たちは各々の箒の隣に立つ。
「右手を箒に突き出して、上がれ!」
グリフィンドールもスリザリンも、皆、真剣に「上がれ!」と叫んだ。私の箒は素直に手元に飛び上がり、すっぽりと収まった。他の子たちはというと……ハーマイオニーは箒がころんと転がっただけ、乱太郎は顔面にヒットしていた。あれは痛い。きり丸としんべヱは苦戦しつつも、なんとか持ち上げられたようだ。
スリザリンを見ると、マルフォイは得意げに箒を掲げ、伝七も佐吉も難なく成功している。
「さあ、私が笛を吹いたら、地面を強く蹴ってください。箒はぐらつかないように押さえ、二メートルぐらい浮上して、それから、前かがみになってすぐに降りて来てください。笛が吹いたら、ですよ。一、二の――」
マダム・フーチが笛を吹こうとした、その瞬間だった。
「こら、戻ってきなさい!」
怒声が校庭に響いた。
「ネビル!?」
空中に、ネビルが浮いていた。本人の意思とは裏腹に箒が浮上し続けている。顔面は蒼白で、身体が硬直していた。
「ネビル! 落ち着いて、前かがみ! 前かがみだ!」
私は叫んだが、ネビルには届いていない。次の瞬間、彼の体が空中でバランスを崩し――
ドサッ、と地面に落ちた。静かな「ポキッ」という音が聞こえたのは、気のせいじゃない。
マダム・フーチがすぐさま駆け寄り、ネビルを確認する。
「この子を医務室へ連れて行きます。その間、動いてはなりませんよ。箒もそのまま置いていくように。さもないと、クディッチの“ク”の字を言う前に、ホグワーツから出ていってもらいますからね!」
そう言い残し、ネビルを連れて立ち去っていった。
生徒たちは一様に沈黙し、その場に佇んでいた。そんななか――
「見ろよ! ロングボトムの婆さんが送ってきたバカ玉だぜ!」
スリザリン生の一人が草むらから拾い上げたのは、小さなガラス玉――ネビルの忘れ玉だった。
意地の悪い笑みを浮かべながら、それをひらひらと掲げる。
それを見たハリーは、静かで凛とした声で言った。
「それをこっちに渡してもらおうか」
「へっ、だったらロングボトムが後で取りに来られるところに置いておいてやるよ。そうだな――木の上なんてどうだい?」
「こっちに渡せって言ってるんだ!」
ハリーの口調が鋭くなった。
そのスリザリン生はニヤリと笑い、箒にまたがると勢いよく空へ舞い上がった。
「取りたきゃ、こっちまで来いよ。ポッター!」
ハリーも箒の柄を強く掴む。
「駄目よ! フーチ先生が言ってたでしょ、勝手に動いちゃいけないって。皆に迷惑がかかるのよ!」
ハーマイオニーが叫ぶ。
「ザクロ! なんとかハリーを止めてちょうだい!」
「えっ、私!?」
私が慌てて声をかけようとしたときには、もう遅かった。
ハリーは地面を蹴り、すさまじい勢いで急上昇していた。見る間に四メートル以上の高さ。
くるりと空中で箒を操り、スリザリン生と向かい合う。
スリザリン生は一瞬、目を見開いた。
「それを渡せ。でないと……箒から突き落としてやる」
「へえ、やれるもんならやってみな!」
彼はせせら笑いながら、忘れ玉を思いきり放り投げた。
「どうしましょう!」
「どうするも何も、もう無理だね」
焦るハーマイオニーに、私は冷静に返した。
けれど――
ハリーはまっすぐに飛び出した。風を切り、地面すれすれの高度で滑り込み――
見事、宙に舞う忘れ玉をキャッチ!
その瞬間、グリフィンドール生から大きな歓声が上がった。
「ハリー・ポッター……!」
マクゴナガル先生が駆け寄ってきた。
ロンやパーバディが必死に弁解するもむなしく、ハリーはどこかへ連れて行かれてしまう。
スリザリン生はニヤニヤと笑っていた。
は組の皆は、心配そうにハリーの背中を見送っている。
「大丈夫でしょうか、ハリー君……」
「乱太郎は優しいね。でも、大丈夫だよ。退学にはならない」
私が乱太郎の頭を撫でながら、言うときり丸は疑問に思ったのか、聞いてきた。
「どうして、そう言いきれるんすか?」
「マクゴナガル先生の目……見た?」
「目?」
「まるで――宝物を見つけたような目だった」
◆♢◆
「柘榴、食満先輩と七松先輩から聞いたよ。ハリーが一年生でシーカーになったって!」
その日、夕食のシェパーズパイを食べていたとき、竹谷が向かいに座り込んで嬉しそうに話しかけてきた。私はというと、とくにリアクションもせず黙々と食べている。まあ、大丈夫だとは思っていたが、まさか一年生でシーカーになるとは、夢にも思わなかった。
興奮冷めやらぬ竹谷は、今度はキドニーパイを皿から取り寄せて食べはじめた。私はふとハリーの方をちらりと見る。彼の周囲には、双子の兄弟の先輩たち――フレッドとジョージ――が話しかけていた。耳を少し強化して聞くと、どうやら二人はクディッチの「ビーター」らしい。
「百年ぶりの一年生シーカーらしいね」
「すごいよな!」
「でもさ、なんで食満先輩と七松先輩が関係あるの?」
「ん? ああ、あの二人、グリフィンドールのクディッチチームなんだよ」
「へえ……意外」
確かに、あの二人がチームに入っているとは驚きだ。でも、必要な体力や気合を考えると、納得ではある。
七松先輩なら「いけいけどんどん!」と叫びながらスニッチを追いかけそうだし、食満先輩は体格がいいので、チェイサー向きかもしれない。
思ったことを口にすると、竹谷が反応した。
「グリフィンドールはそんな強い先輩たちがいるのに、まだ優勝できてないんだよな」
「へえ……意外。どうして?」
「スリザリンには潮江先輩、ハッフルパフには中在家先輩がいるからさ!」
「それは強敵だね……」
潮江先輩がスリザリンに、中在家先輩がハッフルパフに。
確かにどちらも体格や反射神経に優れている。潮江先輩なんて「ギンギン!」って叫びながらクディッチしてそうだ――いや、駄目だ。想像しただけで……腹がよじれる……。
「どうしたんだよ?」
「いや……なんでもない……」
笑いを必死に堪える私を、竹谷は不思議そうに見ていた。
夕食を終えた私は談話室へ戻り、自分のトランクから漫画をどっさり取り出してテーブルへ。
『スラムダンク』『ダイの大冒険』『ドラゴンボール』。どれもまだ読んでいない巻があったので読み始める。
時刻は十時半ごろ。女子寮の階段からハーマイオニーが降りてきて、さも当然のように私の隣に腰を下ろした。思わず、私は固まってしまう。
「ハーマイオニーさん? 寝ないのかい?」
「寝ません。ザクロ、聞いてちょうだい」
「はい」
彼女の話によると、今日の飛行訓練で問題を起こしたスリザリン生と、夜中に決闘をすることになったらしい。それを止めるために、起きていたそうだ。
……なるほど、まるで学級委員長のような真面目さである。
そして、十一時。ハリーとロンが談話室に現れた。
「ハリー、あなたがこんなことをするなんて思わなかったわ」
隣に座るハーマイオニーは、まるで教師のような口調でハリーに言う。
「また君かよ! ベッドに戻れよ!」
ロンは明らかにうんざりしていた。
「本当はパーシーに言おうかと思ったのよ。監督生なんだから、絶対に止めてくれたでしょうね」
「まあ、私は止めないけど」
「ザクロ!」
「いってらっしゃい」
「いってくるよ、ザクロ」
ハリーはにこりと笑い、力強くうなずいた。
「負けるなよ」
「もう! ザクロまで!」
ハーマイオニーは呆れたように私を見つめ、そして彼らを追いかけて慌てて談話室を出ていった。
静かになった談話室。私は再び漫画に集中した。
一時間後に四人は帰ってきた。
「おかえりなさい。……早かったね。どうしたんだい? 息を切らして」
「どうしたもないよ!あんな怪物を学校に閉じ込めておくなんて、教師連中は何を考えているんだろう!」
ロンは叫んでいた。
「怪物? ……って、ネビルも一緒にいるし……?」
私は首をかしげた。怪物って何を見てきたんだ? なぜネビルもいるんだ?
「四人とも、何を見たのさ?」
ハリーが簡単に説明してくれた。
どうやらスリザリン生は約束の時間に現れず、代わりにミセス・ノリスに見つかって、逃げた先が四階の立ち入り禁止の廊下。そこで三つの頭を持つ巨大な犬に遭遇し、命からがら逃げてきたらしい。ちなみにネビルは医務室の帰りに太った婦人がいなくなり、帰れなくなったところをついていったが、巻き込まれたそうだ。
……なるほど、ご愁傷様である。
特にネビル。
そのとき、ハーマイオニーが息を荒くして声を上げた。
「三頭犬の上に……扉があったの!」
――『俺か? 俺は……四階に危険な生き物を飼ってるんじゃないか?』
組み分けの宴のときに竹谷が言っていた言葉が頭をよぎった。
やっぱり……あの時の言葉、当たっていたんだ。
――『何か、守っているんですかね……』
今度は浜くんの言葉が浮かぶ。
立ち入り禁止の四階の廊下、グリンゴッツの強盗事件、ハリーが誕生日にハグリットがグリンゴッツの金庫から取り出した謎の包み、そして扉を守る三頭犬。
……すべてが、つながった気がした。
「あなたたち、さぞかし満足でしょうね。もしかしたら皆、殺されていたのかもしれないのに……お差し支えなければ、休ませていただくわ」
ハーマイオニーが言い放ち、こちらをじっと見る。
「ザクロもよ」
「え、私も?」
「止めてくれると……信じてたのに」
その言葉を残し、ハーマイオニーは女子寮へ戻っていった。
……失望された、かもしれない。うーん、複雑な気分だ。
でも……なんとなくだけど、四階の謎が少しだけ解けた気がした。
あの三頭犬は、あの古びた包みを守っている。きっと、そうだ――そんな予感がした。
◆♢◆
紅茶が入った水筒に、ちょこんと置いてあるひよこ饅頭。
お茶会のセッティングは完璧である。水筒から紙コップに注いだ。
琥珀色の液体が紙コップに注がれる。熱いのを冷まさぬように一口飲む。
芳醇な香りと渋みがあとから追いかけてくる。ひよこ饅頭をしばらく眺めたあとに頭から齧った。餡の控えめな甘さがちょうどいい。
温かい日差しに当てられて、心も穏やかになる。
休日のお茶会はなんていい日かな。もうそろそろ冬になりそうなのか、肌寒く感じる。こうやって色とりどりの紅葉を見れるのもあと少しなのかもしれない。紅茶をもう一口飲み、また、和やかになる。今日は一人でまったりと過ごすそう思っていた。
「あ、柘榴じゃん」
「尾浜と……なんだ、蜂屋か」
「おい」
現れたのは尾浜と蜂屋だった。二人は迷いなくこちらへ歩み寄る。私は黙って、水筒から二人分の紙コップを注ぎ、それぞれにひよこ饅頭を一つずつ手渡す。
尾浜はキョトンとした顔で尋ねた。
「いいのか?」
「いいよ」
「そうか、ありがたく頂くよ」
尾浜は、もぐもぐと素直に饅頭を頬張る。その仕草がどこか懐かしく、見ているだけで和んでしまう。
蜂屋は紅茶を一口啜り、眉をひそめた
「これ、アールグレイか?」
「そうだよ。ベルガモット入り」
「……だから、ちょっと香水っぽいんだな」
「蜂屋は香水が苦手なんだよね」
と、尾浜がさらりと捕捉する。
「そうなんだ。」
なるほど、それは初耳だ。
「変装のときって、香油とかつけたりしないの?」
私が尋ねると、蜂屋は一瞬考えるように視線を落としてから、首を横に振った。
「つけない。必要なときだけだ。香りで身バレするのは、致命的だからな」
「それは……確かに」
「けど、そういう気配りができるってのは、さすが蜂屋って感じだよ」
尾浜が穏やかにそう言うと、蜂屋はむず痒そうに鼻をかいた。
「べつに気配ってわけじゃ……クセみたいなもんだよ」
私は紙コップを手で包みながら、ふわりと湯気の匂いをもう一度楽しんだ。
香水っぽいと言われたアールグレイ。けれどこの香りは、私にとっては心を落ち着かせてくれる特別な一杯だ。
「……ちなみにこの茶葉、イギリスから取り寄せたやつなんだよね」
「は? マジで?」
蜂屋が驚いた顔をした。
「うん。いつもよりちょっと贅沢してみたの。季節の節目だし、なんとなくね」
「贅沢にもほどがあるな。……でも、悪くない。最初は香水っぽく感じたけど、慣れると落ち着く」
「素直に褒めたら?」
「……褒めてるつもりだよ、これでも」
少しだけ照れたような蜂屋の声に、思わず吹き出してしまった。
尾浜も口元を緩めながら、紅茶をそっと口に運ぶ。
「……お茶会って、こんなに落ち着くものなんだな」
「普段バタバタしてるからね。こういう時間、大事だよ」
「わかるよ」
三人の間に、少しだけ静寂が流れる。
でも、それは気まずさではなく、心地よい余白のような時間だった。
風がふわりと吹いて、紅葉が一枚、ひらりと尾浜の肩に落ちた。
「……秋も、もう終わりか」
尾浜が呟く。
「次は冬か。冬のお茶会は……やっぱ、ホットワインとか?」
「君、未成年でしょ」
「そうだった」
笑い声が、紅葉の舞う林の中に広がった。
私は空になった紙コップを置いて、最後にひとつだけ残ったひよこ饅頭を手に取る。
「これ、三等分にする?」
「遠慮するなよ、タチエ。」
尾浜が言い、蜂屋も頷く。
「たまには、自分に甘くしてやれよ」
「……じゃあ、ありがたく」
私はそっとひよこ饅頭をかじる。
甘さが、口いっぱいにふわっと広がった。
そうしてまた、穏やかな午後が、ゆっくりと進んでいくのだった。
◆♢◆
一週間が経った朝。
紅茶を楽しんでいたそのとき、騒がしさが広間を揺らした。
ハリーのいる席にざわめきが起きている。
何事かと思い、魔力で視力を強化して覗き込んだ。
テーブルの上には、箒の形をした包み。
ロンが、それを宝石でも見るかのような目で見つめている。
すぐにわかった。
私も、ロンも。
――あれは間違いない。最新型の箒、ニンバス2000だ。
確か、ダイアゴン横丁の箒専門店のショーケースに飾られていたはず。
すると、その様子を見たスリザリン生がいちゃもんをつけ始めた。
だが、そこへフリットウィック先生が割って入り、スリザリン生たちは悔しげに二人を睨んで去っていく。
ハリーとロンは小さく笑い合いながら大広間を後にした。
そのあとを、ハーマイオニーが足早に追いかける。
――きっと、何か小言でも言うつもりなんだろう。
なぜか、そんな気がした。
「柘榴、あれって……」
ハリーの様子を見ていた竹谷が、小さくつぶやく。
「間違いないね。箒だよ。しかも、ニンバス2000」
「ニンバス2000!?」
竹谷の顔が驚きに染まり、「おほー」と間の抜けた声が漏れる。
「よくわかったな……あんなに遠いのに」
「視力を強化したからね」
私は目のあたりをトントンと指で叩いてみせる。
竹谷は不思議そうに私を見た。
「どうやってやるんだ?」
「魔力を目に流すんだよ」
その説明を聞いた竹谷は、急にしかめっ面をし始める。
――まさか。やってみようとしてるのか?
「何してんの?」
「いや〜、俺にもできるかなって……」
「難しい?」
「ああ……」竹谷は眉間に皺を寄せた。
「どうやるんだよ? コツとかあるのか?」
「う〜ん……感覚でやってるから、説明は難しいな」
「そうか……」
竹谷はがっくりと肩を落とした。
本気で習得しようとしていたらしい。
正直、身体の強化魔術はマホウトコロに通い始めてから、独学で編み出したものだ。
一朝一夕でできるようなものじゃない。
できたら、それはもう天才の領域だ。
「特訓あるのみだよ」
私は竹谷の肩をポンッと叩いた。
「がんばる」
うん、いいぞ竹谷。その意気だ。
根性だけはある彼のことだ。いつかきっと習得できるはず。
――負けるな、竹谷。
私は内心で応援する。
そのときはまだ知らなかった。
まさか、ハロウィンパーティーの日に“あんなこと”が起きるなんて。
そんなこと露知らず、私はのんきに紅茶を啜っていた――。
◆♢◆
騒動が起きる数時間前のこと――。
その日はフリットウィック先生の授業だった。
羽を浮かせる呪文に、生徒たちは目を輝かせている。私はその様子を微笑ましく見つめていた。
特に嬉しそうなは組の姿に、思わず心が和む。
フリットウィック先生の「ビューン、ヒョイ」という身振りを思い出しながら、私は杖を構え、丁寧に唱えた。
「ウィンガーディアム・レヴィオーサ」
すると、羽はふわりと浮き始め、やがて目線の高さまで上昇した。
それを見た兵太夫が目を丸くする。
「先輩!すごいです!もう使いこなしてるなんて!」
「いや、これはマホウトコロで習っただけだから」
「それでもすごいです!」
兵太夫だけでなく、隣の三治郎も感心したように頷いていた。
そのとき、教室の一角で騒ぎが起きた。
見ると、ハーマイオニーとロンが言い合いをしている。
「そんなによくご存知なら、君がやってみろよ!」
ロンが声を荒げた。
ハーマイオニーは怒りをこらえながら、羽に向かって唱える。
「ウィンガーディアム・レヴィオーサ!」
羽はふわりと宙に浮かび、ぐんぐんと上がっていく。
――二メートルは超えている。
「わあ……」と、周囲がどよめく中、ロンの顔は見るからに不機嫌だった。
授業が終わると、いよいよハロウィン・パーティーの時間だ。
私も楽しみにしていたところだった――そのとき、ドンッと誰かに肩をぶつけられた。
振り向くと、走り去るハーマイオニーの姿。
その顔は涙で濡れていた。
後ろを振り返ってロンを見つけると、私は早足で歩み寄る。
「ロン」
低い声で名を呼ぶと、関係ないハリーまでがビクリと肩をすくめた。
ロンはうろたえながら私を見る。
「な、なんだよ」
「ロン、正直に言いたまえ。ハーマイオニーさんを泣かせたのは君かい?」
「君には関係ないだろ!」
「あるさ。彼女は友達だからね。……きっと、何か傷つけるようなことを言ったんだろ?」
「でも、嘘は言ってない!本当のことなんだ!」
「ロン、世の中にはね、“言っていいこと”と“言っちゃいけないこと”があるんだよ」
「僕は悪くない!」
私はため息をつき、ロンに言い切った。
「とにかく、謝りたまえ。……それだけでいい」
ロンの言いたげな表情を無視して、私は寮に戻り、トランクを抱えてハーマイオニーを探すことにした。
数十分の捜索の末、彼女の居場所を突き止めたのは――
地下の女子トイレ。静かな廊下に、かすかにすすり泣く声が響いている。
「誰?」
「ハーマイオニーさん、私だよ。柘榴だ」
「今はほっといてちょうだい……!」
返ってきたのは涙声。
どうすることもできず、私は個室の前に腰を下ろした。彼女が泣き止むまで、待つと決めた。
十五分ほどが過ぎたころ、ようやく静寂が戻る。
私は声をかけた。
「ハーマイオニーさん、落ち着いた?」
「……ほっといてくれたらいいのに」
「レディが泣いているのを見過ごせるわけないさ」
「……ドア、開けるわよ」
私は立ち上がり、個室から一歩下がる。
やがて扉が開き、そこに現れたハーマイオニーは、瞼を赤く腫らしながら立っていた。
私は笑みを浮かべ、水筒を掲げる。
「一杯、やるかい?」
「……美味しい」
「それは良かった」
紙コップに注いだ紅茶を手に、ハーマイオニーが少しずつ落ち着いていくのが分かる。
私はトランクを開けて、一冊の漫画を取り出した。
「それは?」
「恋愛漫画。読もうよ」
「でも、それ、日本語でしょう? 読めないわ」
「これがあるから大丈夫」
私は、魔法の眼鏡を差し出した。
「眼鏡?」
「そう。かけると自動で翻訳されるんだよ」
恐る恐る眼鏡をかけたハーマイオニーは、漫画のページをめくりながら目を丸くする。
「すごい……英語に翻訳されてる!」
「でしょ?」
「ええ、すごいわ!」
二人で肩を並べて漫画を読み始めた。
気がつけば、三十分が過ぎていた。
ハーマイオニーは夢中になって読み進め、最後のページをめくると、ふぅと息をついて本を閉じた。
「これ、いいわね。続きが気になるわ」
「キュンとくるでしょ?」
「ええ、甘酸っぱい恋。たまにはこういうのも悪くないわ」
「次の夏休みに新刊、買っておくね」
「ほんと? 嬉しい!」
「好きなものは、共有しないとね」
「来年が楽しみになったわ」
自然と笑い合い、懐中時計を見ると、すでにハロウィンパーティーが始まっていた。
そのとき――
「……ぐぅ〜〜」
お腹の音が静かに響く。ハーマイオニーが、恥ずかしそうにうつむいた。
私は聞こえなかったふりをして、トランクに漫画をしまう。
「そろそろ、行こうか。パンプキンパイを逃しちゃうよ」
「ザクロはほんと、甘いものが好きね」
「うん、スイーツは正義だから!」
その言葉に、ハーマイオニーはクスクスと笑った。
二人でトイレを出ようとした――そのときだった。
ズン……ズン……。
まるで巨大な生き物が廊下を歩いているような振動。
私たちは顔を見合わせ、そっとドアを開けた。
そこに立っていたのは、ゆうに四メートルはある――巨人だった。
翻訳眼鏡
かけると相手の言語に合わせて翻訳される眼鏡。
ハーマイオニーがかけた場合、日本語から英語に翻訳される。