ご存じの方はお久しぶりです。
初めましての方は初めまして。
アトリエ二次第二弾は通し番号でA19(19作目)『リディー&スールのアトリエ』になります。
今回もまた原作とは何処かが違った二次世界をお楽しみいただければ幸いです。
なお第一弾はA16(16作目)『シャリーのアトリエ』の二次作品であり、今作との関連性は全くございませんので、初めましての方はご安心くださいませ。
もっともっとアトリエ二次増えれぇ。
「───ねぇ、リディー。そっちは何か見つかった?」
「ううん。スーちゃんは?」
「ぜーんぜん。はぁ、困ったなぁ。なんとかしなくっちゃ……」
───ここはアダレット王国の首都メルヴェイユ。
民と共に長い歴史を歩む、国一番の華やかな都。
「そうだね……。頑張って探さないと、明日のご飯が食べられなくなっちゃう」
「うー……。もう渋うにスープだけの生活には戻りたくないよー……」
「あはは、私も……」
広大なマール海に面し、潮の香りに包まれるこの都に、
双子の錬金術士が暮らしていました。
「『近くの魔物退治』……は難しいよね。『ペットのプニ探し』……は、報酬が少ないなぁ……」
「むぅ、いまいち……。錬金術の依頼は、ほとんどヴォルテールに行っちゃうもんねぇ……」
「うん。さすがは『国一番のアトリエ』だよね。私たちのアトリエとは大違い……」
姉のリディー・マーレン。
身体を動かすのは苦手なものの、賢く優しい女の子。
「……はぁ、掲示板から探すのはもう諦めよっか。この前みたいに飛び込みの依頼でもいいから、困ってる人がいないか都中をまわって探してみようよ」
「お、さっすがお姉ちゃん! じゃ、お任せしまーす!」
「ええっ!? ……もー! スーちゃんも一緒に行くの! ほーらー!」
「あはは、冗談冗談……さぁ、出てこい! なるべくお金持ちの困った人っ!」
「言い方。相変わらずスーちゃんは現金なんだから、もー……」
そして妹のスール・マーレン。
いたずら盛りでいつも明るい、とても元気な女の子。
「───あれ、雨? もう、最近多いよねぇ……」
「ん、確かに? そういう季節ってわけでもないのにね」
「そうだね……。本格的に降ってくる前にアトリエに戻ろうか」
いつも二人一緒の『リディーとスー』。
彼女たちはこの都で、錬金術士の父親と一緒に小さなアトリエを営んでいます。
「だね。雷が落ちてくる前に……それじゃ、アトリエまで競争スタートっ!」
「……へ? 今なんて───ちょ、ちょっと!? 待ってよ、スーちゃーん!」
ですが、その生活は順風満帆とはいかないようで───
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ただいまぁ……。はぁ……やっと着いた……。もうダメ……肺が痛い……」
「ただいまー。そしてお疲れ様、リディー」
都を縦断する二本の大通り、海岸を背にする東側『リュンヌ通り』に構えた小さなアトリエ。
俄かに降り始めた雨に、追い立てられるようにして飛び込んできた二人。
ぜぇぜぇと肩で息をする姉、リディーの背を労わるようにさする妹、スール。
ふと気付いたように振り返った彼女は、窓越しに見えた空模様に「うへっ」と頬を歪めた。
「うわぁ、見てよリディー。ちょっと遅れてたら今頃ずぶ濡れだったよ」
「はぁはぁ……え? うわ本当だ、ひどい雨。ぎりぎりセーフだったんだね……」
「でしょー? すぐさま全力で走らせたスーちゃん大正解!」
「うーん、結果的にその通りだったから何とも言えない」
同じ距離を疾走したにも関わらず、実に溌剌元気な妹を未だ息切れを訴える身体で見上げ。
気を取り直すように小さく息を吐いたリディーは、辛くも豪雨より守った紙束を取り出した。
「……でもどうしよう。これじゃ当分お外には出られないよね。お金になりそうな依頼、まだ全然取れてないのに……」
「まぁ、それは仕方ないじゃん。今ある分でなんとかして───あれ?」
都の広場に設けられた掲示板から剥がした依頼書───薬の納品等、掌中の技術にて対応可能と判断したそれらを改めて見遣り、その報酬額を懐事情と擦り合わせたリディーが顔を曇らせる。
一方、そんな姉に普段通り楽天的な軽口を返そうとしたスールは、その途中で小首を傾げた。
「……? どうしたの、スーちゃん」
「リディー……今日の調合は、お父さんがやるって約束だったよね」
「え、うん。そうだね、お父さんの当番で……あれ?」
「だよね。じゃあ、なんで───あの、
一家の住宅として特別広くはない居住空間。その大部分を占有する『錬金釜』と調合器具。
殆ど来客の機会もなく、それでも此処が『アトリエ』を冠する所以となる『錬金術士』の居城。
一家の飯の種であり、重要な収入源であり……即ち仕事を取りに出た娘達の帰宅を、火を入れて待ち構えていなければならなかっただろう、
代わりに、とでも言うのか、冷えた釜の側面には如何にも走り書きといった風情の貼り紙一つ。
……どちらともなく。
顔を見合わせ、釜へと近づいた双子は、そこから剥がしたソレに顔を寄せ合って。
"───突然だが絵の構想が浮かんだ。この創作欲を直ちにキャンパスにぶつける必要がある"
"そんなわけで俺は地下室にこもる! 調合はお前達でやっておいてくれ!"
"追伸:地下室には入るんじゃないぞ。言うこと聞かないと雷神様におへそを取られるからな" "偉大なるお父様より"
「…………」
「…………」
「……あんの、バカ親父ーっ! 仕事押し付けんなー!!」
「はぁ……もう、お父さんは約束破ってばっかし……」
地下に存在する画家としての『アトリエ』に向け、慣れきってしまった怨嗟を叫ぶスール。
もう疲れた、とばかりに肩を落として項垂れるリディー。
幼い自分達に錬金術を教えた師であり、母親から寝物語にその活劇を聞かされた日々も今は昔。
どうにもいい加減な言動、無責任な振る舞いで日に日に最低値を更新し続ける『バカ親父』。
それが画家にして錬金術士にして、二人の頭痛の種でもある父親、ロジェ・マーレンであった。
「……最後には絶対約束を守ってくれる人だからって、お母さんいつも言ってたのになぁ」
「それ、あたしも覚えてるけどさぁ……ホントにそう思う?」
「ううん、思わない」
「でしょー?」
今でも錬金術士としての突然の思いつきや、画家として描いた絵にはお世辞なく感心させられる機会もあるにはあるが、それはそれ。
とうに擦り減り切った父親への敬意の残滓を投げ捨て、双子は深く深い溜息を吐く。
「……はぁ、愚痴っても仕方ないか。あたしたちだけでなんとかするしかないよね」
「うん……。もう今月の食費、残ってないし。二人で手分けすれば大丈夫だよ! ……たぶん」
のろのろと、すっかり削がれた気勢をひきずり、双子は動き出す。
釜に火を入れ、身長ほどのかき混ぜ棒を握り。
コンテナに収められた材料を取り出し、色とりどりのフラスコを握って。
「……ごくり。いい? リディー。今回は中和剤の種類、間違えちゃダメだからね?」
「……ス、スーちゃんこそ。かき混ぜ棒でフラスコ、割らないでね?」
……どこか悲壮さの漂う決意を、その身に宿しながら。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……さて、と。材料は私がいれるから、スーちゃんは火力を強くしてくれる?」
「よしきた! えーと、細かい調整は面倒だから……最大火力でっ!」
「ん……なんか焦げ臭……あああっ!? お洋服に火がついた! 消して、消してぇっ!!」
「お、落ち着いて、今消すから……うわっ! なんかこぼした……臭っ!? 何これっ!?」
「ふぅ、やっと消え……釜から煙出てるぅ!? スーちゃぁん!!」
「もー、臭いが取れない……! ……わっ、なんか釜がボコボコいってる! これは……!」
「「ば、爆発するー!!?」」
「───何をやってるんですか、あなた達はっ!!?」
酸鼻、惨憺、阿鼻叫喚。
あれよあれよと引き起こされた修羅場に震える双子達へと、轟いたのは雲を切るような一喝。
「へ……?」
「あれ、何で……?」
「話は後です! こういうときは───」
開け放たれた扉を背に、双子のアトリエへと足を踏み入れるは赤毛の少女。
手に握っていた薬瓶の栓を開け、今にも爆裂せんとする大釜の中へとひと垂らし。
ひときわ膨らんだ泡が、ぷくりと弾けて、一拍。
そのまま勝手知ったる手付きによる火の調整が終われば、平静を取り戻した釜がそこにあった。
「……ふぅ。まったく……釜を爆発させそうになるだなんて、何年錬金術をやっているんですか。修行が足りませんよ、二人とも」
「う……ありがたいけど一言多いよ、ルーシャ……」
「ルーちゃん、ありがとう……! でも、どうしてここに?」
「たまたま、です。丁度近くを歩いていたところ、騒ぎが聞こえてきましたもので、仕方なく」
謝辞の言葉をさらりと受け止め、振り返った少女が楚々としつつも得意げに胸を張る。
その自信満面の微笑みと共に、艶を湛えた紅色のツインテールが誇るように揺らされた。
───双子の幼馴染にして二歳年上の錬金術士、ルーシャ・ヴォルテール。
若くして都最大手の錬金術士のアトリエ、『アトリエ・ヴォルテール』の主を務める才女。
つい今しがたも、その才を如何なく揮って見せた彼女に、リディーが両の手を握って惜しみない感謝を示し───スールはこめかみに指を当て、はて、と頭を傾ける。
「……たまたま近くを? ついさっき降り始めたこの大雨の中で?」
「うっ」
「しっかり傘持ってるし、一回家に帰ってるじゃん。そんでわざわざうちの前に来てるんじゃん」
「ううっ」
「釜に注いだ薬だって入って来たときには手に持ってたし。確実にタイミング伺ってたでしょ?」
「…………」
「お……おーっほっほっほ! た・ま・た・ま、わたしが来ていて良かったですね、二人とも!」
「あ、ごり押した」
「スーちゃん、たまたまってことにしといてあげようよ。……いつものことだし」
すっかり堂に入った高笑いで沈黙を破るルーシャに、こそこそと頷き合う二人。
昔から割と気付けばアトリエを訪ねてきている幼馴染。その扱いは実に慣れたものである。
……なお、極めて多忙な筈の最大手アトリエの主がどうやって訪問の時間を捻出しているのか。
そちらについては双子にとっても未だに大いなる謎であった。
「……それにしても。未だにこんな調子では本当に先が思いやられますよ? もっと日々の勉強や研鑽を怠らないことですね。……特にスー!」
「ぐっ。まぁ、それはそうなんだけどさ……。でも、勉強かぁ……」
誤魔化しの高笑いから一転、真面目な顔と声による指摘に、スールが呻きを伴い目を反らす。
そんな彼女の様子に、ルーシャの口からは浅くない溜息が漏らされた。
スール・マーレン、14歳。嫌いな言葉は『努力』・『勉強』・『読書』───。
そんな
「…………はぁ。『ライバル』がこんな調子では、わたしも張り合いがなくて困りますね」
「……ライバル?」
「おや? あなた達の夢は『国一番のアトリエ』になることでしょう? ならば現在の『国一番』であるわたしは最大のライバルになるではありませんか」
「あ……」
自負に挑発、隠す気のない希望を込めて。
断言された言葉に、スールがやや呆然とした様子で顔を上げる。
「……まぁ? この様子では差があり過ぎて、ライバルどころか踏み台にすらなってくれそうにもありませんね。いやぁ、残念残念……」
「むっ……言ってろー! ルーシャなんかあっという間に追い越して、ヴォルテールをガラガラの開店休業に追い込んでやるんだからなー!」
「おーほっほっほ!! 威勢の良いこと。ぜひともそうやって、ライバルであるわたしをがっかりさせないで欲しいものですね。……それでは」
噛みつかんばかりの勢いを見せた彼女に、再びの高笑いを一つ。
悠然とアトリエを去っていったルーシャの背を、スールは閉められた扉越しに暫し睨んで。
「……リディー! 残りの調合、早くやろう!! どっちがどっちの踏み台になるか、ルーシャに思い知らせてやるんだから!!」
「あはは、そうだね。…………ありがとね、ルーちゃん」
肩を怒らせ、再度の調合の準備に勤しむ、筋金入りの『勉強嫌い』な妹、スール。
姉、リディーはその燻ぶる心に薪をくべた『お姉さん』へと、こっそり感謝を贈るのであった。
「…………ちょっとカッコつけすぎじゃないか?」
「う……い、いいじゃありませんか!? 折角なんですから少しくらい……!!」
※原作既プレイの方へ
ここハーメルン様にて「リディー&スールのアトリエ」で検索した場合のヒット数は僅か6件。
というわけで今作も、この形式でやっていきます予定の後書きなのです。
なお、ヴォルテールが『国一番のアトリエ』だとする描写は、原作の調合チュートリアル直後のイベントにおけるリディーの台詞準拠。
少なくともゲーム最序盤、錬金術士がメルヴェイユに集まってくる以前はこの認識のようで。
※原作未プレイの方へ
この先しばらく大筋は原作通り。しかしちょこちょこ改変が入っていきます。
元の展開が知りたい方はゲーム原作の方を(ry