幸せな絵画の王国   作:非単一三角形

10 / 26

 ざわめきの森(ホラー度増量仕立て)後編。といっても今話はホラー要素控えめ。
 作者の趣味に走ってると言われれば否定する口は持ちませぬ。創作なんて趣味出してなんぼよ。



第10話 滲む残滓

 

   ■        ■

          呪いを解◆きたければ、

 ■        ■       ◆

          墓に ひとつひと つ、■

       ◆                ◆

          井戸で汲◆る聖 水をふりかけ ろ   ■  ◆

             ◆          ■     ◆  ◆    ■

 

 

「───だってさ。まぁ、やれと言われてることは分かったな」

 

「井戸の聖水を墓にふりかける……」

「確かに井戸も墓もあるのは見えてますけどねえ」

「うん。何をやらなきゃいけないかは分かったんだけど……」

 

 

 (うつつ)の世にはあり得ない夜空の下、薄く霧の漂う森の奥地にて、再び見つかった看板一つ。

 読むだけで呪われた(?)前例を盾に、読み上げる役を押し付けたマティアスへと頷きを返した少女達は、遠目に見える墓場へと視線を戻して。

 

 

 

『『『キュピィィィ!!』』』

『『『けけケケけ……ッ』』』

 

『『『キュアァァァ!!』』』

『『『のの 呪われれレレ…… つつつ連れてカエッ かええぇぇええ!!』』』

 

『『『キュオォォォ!!』』』

『『『ああ あ  あ そ ぼ  』』』

 

 

 

「…………先に言っとくが、あそこに突っ込めって言われても無理だからな?」

 

「言わないよ」

「言わないですよ」

「言いませんよ。……しかし、どうしたものですかね」

 

 お化けの魔物と黒の魔物。墓場でドッキリ大運動会。

 ───端的に表すならそんな表現になるだろう光景に、一行の足は止まっていた。

 

 

 奇怪な鳴き声を上げて襲い掛かる黒の魔物の大群に、墓場を背に不気味な言葉を繰り返しながら応戦する大量の───まだらに黒く染まった体色が見える───お化けの魔物。

 

 ……見聞きする者に与える恐怖という点では五十歩百歩な両軍の激突ぶりに、戸惑いを隠せない四人は今一度顔を見合わせて。

 

 

「……どっちかに肩入れしなきゃならないとしたら、やっぱお化け側か?」

「この絵本来の住人はどちらと考えるとそうなりますかね。こうして見ていても、あの黒い魔物にじわじわと浸食? されているようにも見えますし……」

「……そうだね。上手く言えないけど……あの黒い魔物、ちょっとイヤな感じがするもん」

「うん、あたしも……お化けは嫌だけど、あれはそういうのとは違う気がする」

 

 

『キュオ、オオォォォ!!』

ののケケ あ……』

 

 話し合う四人の目の先で、今も『黒』に塗れながら戦うお化け達。

 まるで撥ねる飛沫に『汚され』ていくような様を前に、彼らの心の内は遠からず固まっていく。

 

 

「……問題は、だからと言って実際にどうするかですけどねぇ。リディー、スー、爆弾の手持ちはあとどのくらいあります? ちなみにわたしはだいぶ心許なくなってます」

「う……言われてみたら残り少ないかも。そもそもそんなに沢山は持ってきてなかったし……」

「遠出するつもりだったならともかく、話の流れでそのまま……だったもんね」

 

「あー……」

 

 やや眉を下げたルーシャに問われ、各々の懐を漁った双子が異口同音に同意を返した。

 三人とも元々は別件で王城を訪れ、とりわけ危険があるとも思わずに足を踏み入れた絵画の中。護身用以上の戦いの準備などしていたはずもない。

 

 ……実のところ双子とルーシャでは手持ちの爆弾が少なかった理由に大きく違いがあるのだが。

 その差異に一人気付いていたマティアスは、しかし浮かんだ答えを喉下へと抑え込んだ。

 

「? マティアス、どうかした?」

「いや、なんでもねえ。……というか、もし爆弾があったとしても周りの墓を壊しちまいそうだし結局使えなかったんじゃないか?」

 

「「「あっ」」」

 

 その代わりにと、彼が苦笑混じりに出した意見に硬直する錬金術士達。

 

 

「……なんつーか、意外と錬金術士(おまえら)って力押しが基本なとこあるよな? とりあえず吹き飛ばせばなんとかなるみたいに考えてるとことかあったりしねえ?」

「し、失礼ですねぇ!? わたしはいつだって、鮮やかでスマートな解決法を考えていますとも! この二人とは違って! この二人とは違って!!」

 

「えー。ルーちゃんこそ、あの魔物達が居なかったら『お墓にひとつずつ聖水をかけていくなんて大変ですし、墓場全体に届くように振りまいてしまえばいいんです!』とか言いそうだけどなぁ」

「あー、言うね。絶対言う。ごり押しで横着してイタイ目見てるとこ、ありありと想像できるよ」

 

 

「…………とか言ってるが?」

「がっ、ぐぅ……!? ……あ、あなたたち、実は記憶があるんじゃ……うおっほん!」

 

「ん? ルーシャ、なんか言った?」

「いいえっ! なんでもありませんよ!」

「くくっ……! 良い幼馴染だぜ、本当に」

 

 いやに()()()()()()、あるいは()()()()()()()()を視てきたかのように語る二人に、ルーシャの喉から絞められたような()()()()が漏らされる。

 堪らず、といった調子で忍び笑いを溢したマティアスを一度赤い頬で睨み、彼女は羞恥と自棄(ヤケ)が入り混じった表情で気炎を上げた。

 

「……そこまで言うぐらいなら、二人はさぞスマートな解決策を思いついているんでしょうねぇ!是非とも聞かせて貰おうじゃありませんか! さぁ、さぁ、さぁ!!」

 

「うん」

 

「いやぁ、それはまだちょっと───えっ」

「「えっ?」」

 

 

「えっ……と、スーちゃん?」

「うん。だから思いついてるよ。解決策」

 

「「「えっ」」……マジかよ」

 

 八つ当たりじみた吶喊にあっさり肯定を返されたルーシャが、苦笑で流そうとしたリディーが、平然とするスールから飛び出た思わぬ一言にポカンと口を開ける。

 二人の反応に一度満足気に頷いた彼女は、荷物から()()()()を取り出し、にやりと笑った。

 

 

「ふっふーん! どうにかしようと考えてて、ついさっきピーンと思い付いちゃったんだよねぇ。スーちゃん特製の画期的アイデアを!」

「それは……『アルケウス・アニマ』? …………まさか……っ!?」

 

「あ、そんな名前なの? まぁ、いいや。リディー、ちょっと耳貸してー」

「う、うん。なになに……」

 

 スールが取り出したのは、白に近い透き通った光を放つ拳大の結晶───不思議な絵の中でのみ採取され、また全ての絵世界に共通して確認される謎の素材───『アルケウス・アニマ』。

 一説には物体として確定される前の存在、等と評されるそれを得意気に示した彼女は、内緒話とばかりに手招きしたリディーに耳打ちを始める。

 

 

「……なぁ、あれって……」

「えぇ……ですが、だとすれば()()()()()。やはり二人にも、どこかで……」

 

 

「───な、なるほど……。確かに画期的かもしれない……」

「でしょでしょー? ビバ、現地調達でサバイバルっ!」

 

「あはは……。サバイバルになっちゃうのは、ちょっとイヤかなぁ……」

 

 ルーシャとマティアスの間で目配せが交わされる中、こそこそ話を終えた双子が頷き合う。

 そうして、絵の世界では無限に拾える結晶を片手に、聖水を湛えた井戸へと駆け寄ったスールは今一度、不敵な笑みを浮かべて言い放った。

 

 

「さぁ、始めるよ───お手軽便利な錬金術!」

 

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 ───水滴状の身体を、節くれ立つ鎌状の腕部を、丸太程の腕を振るい猛進する黒の魔物。

 視覚聴覚に訴える恐怖はあれ、どこか大衆的(コミカル)な造形を『汚され』つつ対峙していたお化け達。

 

 数に押され、暴に押され、徐々に『黒』へと染められて。

 近く趨勢は一方に傾く───筈だった森の戦地に。

 

 

「即席だけど効果は抜群! バトルミックス、『ヒエヒエバッシャン』!!」

 

『『『ギュアァァァ!?』』』

 

 遠く、掛け声と共に投げ込まれたのは凍り付く冷気を纏った()()()()

 過たず絡めとられた黒の軍勢が水飛沫を散らして起き上がるも、その歩みには見る影もなく。

 

 

「うーん、名前を付けるなら……ちょっとクモの巣っぽいし【ブリザードウェブ】、かな!」

 

『『『ギュピィィィ!?』』』

『『『け? けけけケケーッ!!』』』

 

 氷網に込められた力は鈍足化(スロウ付与)脆弱化(防御低下)

 二投、三投されるそれらが拮抗していた戦線に与える影響は言うまでもなく。

 

「普通に調合するより効果は落ちちゃってるけど……その分お墓を傷付けずに済むし、むしろ今の状況にはぴったりかも」

「だね! ……ところで『ヒエヒエ「【ブリザードウェブ】、でいいよね?」……はぁい」

 

 

「ふう、まったく……二人だけに良い恰好はさせませんよ。わたしにだって出来るんです!」

 

『『『ギュオォォォ!?』』』

 

 井戸より湧き出す聖水を存在未定の結晶(アルケウス・アニマ)と混ぜ合わせ、錬金釜内部の調合空間を疑似再現。

 そうして常識外れの短時間調合にて生み出されるは、世に前例のない即席錬金道具の雨霰。

 

「……嘘ぉ!? なんでルーシャも出来てるの!?」

「わぁ、ルーちゃん、すごーい!!」

「おーっほっほっほ! あなた達に出来る程度の事が、このわたしに出来ないとでも!?」

 

 

「…………ルーシャの奴、よく言うぜ。っと」

『ギュピ、ィィ……』

 

 盛り上がる錬金少女達を尻目に、疎らに集まる黒の魔物達へとマティアスは地道に剣を振るう。

 同種間の意思疎通は鈍くもないのか彼女らを脅威と認識するには至るも、背を向ければお化けに追撃される状況で動ける個体は多くないらしく、散発的なそれは彼一人で対応に事足りていた。

 

 

「……あ、ちょっとこっちにも来てるね。よーし! 次は一発おっきいのかましてやる!」

「えっ。大丈夫、スーちゃん? 後ろのお化けさん達やお墓まで壊しちゃダメだよ?」

 

「大丈夫大丈夫! ちょっとぐらいはみ出ても後で融かせばいいんだし!」

「うーん、大丈夫かなぁ……?」

 

 

「……何を、するんですか?」

「へっへーん! こっちはルーシャにだってそう簡単には真似できないよ! きっと!」

 

 先より輪をかけて得意げに、結晶と共にスールが取り出したのは、氷の基本爆弾【レヘルン】。

 ()()()()()()ルーシャに、悩みながらも頷いたリディーに頷き返し、彼女は大きく振りかぶる。

 

 

「行っくよー! ()()()()()()()()()! 『超☆ヒエヒエ「【クリスタルレヘルン】!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      聖水をかけてくれてありがとう

  ◆   あなたたちの呪いはこれで解けました

 

      私たちと一緒に遊んでくれたこと、 ■

      とても感謝しています

                                       ■

              ───ざわめきの森に暮らすもの一同より

 

 ■

      追伸

      今回は許しますが、墓場を氷漬けにするのはこれっきりでお願いします

 

 

 

「……だそうだぞ、スー」

「……てへっ?」

「てへっ、じゃありませんよ。まったく……」

「あはは……」

 

「ま、いいか。呪いも解けたって書いてあるし、そろそろ帰るとしようぜ」

「……ですね。絵の調査としても十分でしょうし」

「そっか……えへへ、大変だったけど楽しかったね、スーちゃん♪」

「うん、リディー! ……呪われたり怖かったりで、すっごく疲れもしたけどね」

 

 

「…………」

「……どうした、ルーシャ? 二人が行っちまうぞ?」

 

 

 

「エクストラミックス。……あんなもの、『()()()()()……」

 





※原作既プレイの方へ

 アルケウス・アニマ×2 + 聖水(水) = ブリザードウェブ

 原作ではリディス―が閃き、DLC枠のイルメリア・ルーシャも使用可能なバトルミックス。
 双子の師匠であるイルちゃんはともかく、ルーシャは果たしてどうやって習得したのだろうか。

 二人に渋々教わって? それとも二人が使ってる様子を見て意地と根性で自力習得?
 後者の方が面白そうとは思いますが、前者でも美味しく頂けそうだなとも思う作者なのです。


 バトルミックスやエクストラミックスが今までに無かった技術となると、それで使える道具名は二人が名付けたということになるでしょう。
 しかしスールのネーミングセンスはご存じ母親譲りのアレなので、必然的に名付けはリディーが行ったんだろうな、という解釈が今話中の描写の基になっております。


※原作未プレイの方へ

 予め作っておいた道具で戦う、という従来シリーズの基本システムに対し、現地で拾った素材を戦闘中に調合する、という要素を加えた『リディー&スール』固有(今のところ)の新システムが今話で描写したバトルミックスになります。

 作中では前作主人公や前々作主人公にも真似できない、歴史に残る新技術という評価だったり。
 でもスーちゃんの思いつきで生まれちゃうのも原作通りなのです。なんだこの天才。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。