少しずつ原作からズレていきます。
「───ふんふん、なるほど。隕石の主成分は鉄だから……」
「リディーは勉強熱心だねぇ。あたし、5分以上本を読んでると頭が痛くなるからなぁ」
「スーちゃんは幾らなんでも勉強嫌いすぎだよ! 本を読むのも色んなことを知れて楽しいよ?」
「無理無理。あたしリディーみたいに賢くないし。だから知識はリディーにお任せするのでーす」
某日、双子のアトリエ。
お化けの行き交う絵の世界なる現実離れした冒険も過日の出来事となりて、何ということはない日常を過ごす二人の姿がそこにあった。
「むー……。お姉ちゃんとしてもっと叱るべきなのかも。でもでも、嫌いなものを無理にやらせるのも良くないし……」
「そうそう、適材適所ってやつなのだよー。……ん、そろそろいいかな? リディー、そこにある材料、釜の中に放り投げちゃって」
「あ、はーい。よいしょっと……これが済んだら次は私の番だったよね」
「うん。あたしの分はこれでおしまい。後の依頼はお任せしまーす」
尤も、その『日常』は、ほんのひと月ほど前のそれとは大きく異なっている。
国の制定したランク制度へ無事に加入し、人気店と呼べる程ではないにせよ、名の知れた店へと生まれ変わった二人のアトリエは、自ずと舞い込む依頼の数もかつてとは比べ物にならず。
「それじゃ、はい。イル師匠からの宿題レシピ。依頼品を作り終わったら調合に取り掛かるから、スーちゃんも読んでおいてね」
「うへぇ、そうだそれがあったんだった……。はいはい、読むよ読みますよー……」
加えて、その手にある錬金術の技術をより高める為の努力。
それが
「ふふ……お客さんも増えてきたし、納品した道具の評判も良くなってきてるし……そろそろまたランクアップ試験を受けられるかな? そしたら、また助成金がいっぱい……えへへ……」
「……そこは、また『国一番のアトリエ』に近付く、でしょ。どんどん即物的になってくんだからリディーったらもう……」
天高く、掲げた目標へと今日も今日とて日進月歩。
つい先日までの停滞が嘘のような躍進を進みつつ、双子は今日も調合に勤しむのであった。
「───おーっほっほっほ! 二人とも、わたしが遊びに来ましたよ!」
「あ、ルーちゃん。いらっしゃい」
「あ、ルーシャだ。……この大雨の中を相変わらず元気なことで」
そんなアトリエの門戸を元気良く叩き、雨降る街から現れるは赤毛のツインテール。
真っ赤な傘を片手に高笑いを決めこむルーシャに、リディーは微笑み、スールは胡乱な眼差しでそれを迎え入れた。
「……というか最近、三日に一度は遊びに来てない? 実は暇だったりする?」
「誰が暇人ですか! わたしがわざわざ来てあげたというのに! ほら、お客様ですよ、お客様! お茶なり、お菓子なり……とにかくもてなしてください!」
「あーはいはい。今忙しいのー。そこらに置いてある物でもつまんでてー」
「扱いが雑すぎますっ! ……まあ、今日はただ遊びに来たというわけでもないんですよ」
「あれ、そうなの?」
いつものじゃれ合いを適度に切り上げたルーシャが、はたと真面目な顔を浮かべてそう告げる。
小首を傾げた双子に頷いた彼女が取り出したのは、立派な装丁に包まれた二通の手紙。
「こちらに来る前にお城に寄ったところ、丁度ミレイユさんがわたしと二人のアトリエ宛にこれを届ける予定だったというので、ついでに貰ってきたんですよ」
「え。いいのかな、それって……」
「ミレイユさんも手間が省けると言ってましたし、良いんでしょう。はい、こちら二人の分です。多分、内容は同じだと思いますけどね」
「お、ありがと、ルーシャ。えぇっと、なになに───」
"『国からの調査依頼』"
"雨を測定する装置の作成と設置"
"雨量を測定する装置を作成、指定した場所に設置すること"
"必要なレシピは配布する"
"※装置の品質を評価対象とする"
"最近、異常に雨が多く各所に被害が出ています"
"雨量を測定する装置を作成し、それを設置してくることを依頼とします"
Mireille Ferrier Adalet
「…………雨、かぁ。確かに、ここんとこよく降るなあって思ってたけど……」
「必要なレシピは配布する……あ、本当だ。レシピがついてる」
封を開いた手紙を広げ、頭を寄せ合い唸る双子。
片や手紙に同封されていたレシピを、此方雨降りしきる窓の外を、それぞれ何気なく見遣った。
数ヶ月前から頻繁に空を覆っていた、季節外れの大雨模様。
一般市民には「面倒だ」の一言で済む事象でも、国や各所からすれば後々まで尾を引く一大事。
その辺りを言語化はしないまでもぼんやり理解した二人が、意気を新たに頷き合って。
「雨の調査……? はて、こんなのありましたっけ……?」
「……どったの、ルーシャ?」
「ああ、いえ。ふむ……街周辺各地に作った装置を設置する必要があるようですね。特に競う内容でもないですし、必要な数だけ手分けしてさっさと作ってしまおうかと思うのですが」
「あー……そうだね。レシピ見た感じ、地味に面倒くさそうだし。その方がいっか」
「うん、私も賛成ー。数を揃えたら一緒に設置しに行こうね」
問われて一瞬、口籠ったルーシャが首を振りつつ、請われた依頼の分業を提案する。
諸々の内容から膨大とは言わないまでも、数日掛かりにはなるだろう仕事量を把握しつつあった双子もまた、渡りに船とばかりに快く承諾を示した。
「ええ、構いませんよ。……それにしても、これを両方のアトリエに送ろうとしていたとなると、ミレイユさんの中でわたし達は1セットの扱いなんですかねぇ」
「あ、言われてみれば。むぅ、ルーシャと一緒くたかぁ……なんだかなあ」
「そこで嫌そうな顔をされるのは心外ですよ!? というか、それはわたしの台詞です!」
「あはは……。それじゃあ、私達が作る分は───」
軽口を言い合いながら、それぞれの担当分について三人は細部を詰めていく。
やがて話が作成後に移ったところで、ルーシャはふと思い立ったように
「───では設置の際はマティアスさんも呼びましょうか。どうせ暇してるでしょうし」
「あー、マティアスかぁ。……呼ぶ必要ある?」
「あれでも何かの役には立つでしょう。たぶん」
「二人ともマティアスさんの扱いがヒドい……まぁ、しょうがないよね。マティアスさんだし」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…………なんだろうな。なんか知らないとこで散々なこと言われてた気がするんだが」
「何言ってんの、マティアス? ほら、変なこと言ってないでさっさと先進んでよね」
「そうですよ。今はわたし達の護衛なんですから、キリキリ働いてくださーい?」
三人が国からの依頼を受け取ってから数週間。
錬金術士の少女達(+α)は、街近辺の山岳地帯『ブライズヴェスト』へと足を運んでいた。
そこは指定された周辺地域の中でも、とりわけ急激に雨量が増加したとされている場所。
その評価を裏付けるように降りしきる雨の中、マティアスは背中から聴こえる少女達の声に天を仰……ぐと顔に雨粒がかかってツラいので、足元の水溜まりへと視線を落とす。
「……ところでルーシャ? もしかしてこの傘、どっかのたっかいブランド品だったりする?」
「おや良い所に目を付けましたね、スー。何を隠そう、これはわたしがわたしの為に作り上げた、錬金術で強化した傘なのです! その名も『超絶最強ルシャブレラ』!!」
「お、おー? なんか凄そう……でも何でまた傘なんて強化したの? 丁度役に立ってるけどさ」
「……あぁ、オレも雨宿りしたいぜ……。いや、護衛が護衛対象と一緒に傘ん中入ってるわけにはいかねぇんだけどさ……」
「あはは……元気出してください、マティアスさん。真面目に頑張ってれば、その内ちゃんとした仕事が見つかりますから、ねっ」
「……だから違うってぇ!? どうしても無職疑惑は解消できねぇんだな、ちくしょう……」
新たに錬金術製と判明した真っ赤な傘に身を寄せ合い、姦しく騒ぐスールにルーシャ。
同じく傘の中から、妹や幼馴染に比べれば優しいように見えて、実は一番鋭く突き落としてくるリディーに項垂れるマティアス。
街から距離もあり、周囲には魔物の姿もある、それなりな危険地帯ではあるのだがそれはそれ。
先だっての『調査』にて互いの力量を把握したこともあり、緊張感薄く四人のやり取りは続く。
「勿論、ただ雨を凌ぐだけの傘ではありません。叩けば魔物に絶大な衝撃を与え、開けばあらゆる攻撃を受け止める……! 通常の傘とは比べものにならない錬金傘! ……の試作品っ!」
「試作品ってところで、信用がた落ちなんだけど……」
「……ええ、まぁ。現状だと、叩けば魔物にそこはかとない衝撃を与え、開けばうっすらと攻撃を受け止めるくらいですかね」
「た、頼りない! あまりにも頼りない!」
「う、うるさいです! そこはわたし自身も頑張ればいいだけの話。……それに、試作品とはいえ現時点でも『雷』への対策だけは完璧なのですよ?」
「『雷』対策? へぇ、具体的には?」
「ふふん、よく聞いてくれました。頭上からの落雷は当然、たとえ前方から高出力の雷を発射してくるような魔物と対峙することがあっても受け止めきれるよう、電気の通り道を───」
「はぁ……ま、雨はスゲーけど『雷』が降ってないだけマシか。長い剣を使ってると落雷にも気を付けなきゃいけなくなるし…………あれ? そういえば『雷』は、まだ───」
「…………
「……ん? リディー、何か言った?」
「───」
「…………リディー? ねえ、リディーってば!?」
「───ふぇ? あ、あれ……スーちゃん?」
「どうしたの? 急にぼんやりして……というか何か言いかけてなかった?」
「え? うーん……あれ?」
「
※原作既プレイの方へ
ルーシャとマティアスは当然ながら、リディーとスーも『誰かさん』の試験課題のせいで成長を促されたこともあり、原作同時期より二回りは高いレベルになっているイメージです。
今話冒頭は原作第4話開始時の会話から。
この作品を書くためにテキストを読み返していて初めて原作第10話の伏線になっていたことに気付いた作者なのです。
また手紙の文体は原作ミレイユさんのフリップ芸(?)から少しずつ改変。
唐突に飛ばす親父ギャグ(?)といい、要所要所でセンスが古いんですよね、ミレイユさん。
※原作未プレイの方へ
『超絶最強ルシャブレラ』
何とも大層な名前ですが、ゲーム原作におけるルーシャの初期武器です。分類は傘。
自分の名前を入れた自作の武器(傘)に『超絶最強』とか付けちゃうセンスよ。
勿論、数値上の性能は他キャラの初期武器と大差ないです。つくづく面白れー子なのよな。