幸せな絵画の王国   作:非単一三角形

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 ゲーム原作において、リディーとスールが不思議な絵の調査に加わらなければならない理由ってかなり希薄なんですよね。特に王国側視点で考えると。
 絵自体が錬金術の産物だから錬金術士に対応してもらわねば、までは分かるんですけども。



第12話 違和感

 

 

「───お疲れ様。これで双子ちゃんはFランクに昇級ね!」

 

「やったー! これでまた一歩前進だね!」

「うん! くふふ……このままあたし達が『国一番のアトリエ』になる日も遠くない……!」

 

 

 アダレット王城エントランスに、少女達の華やかな歓声が響いた。

 

 その手で双子のアトリエランク昇級手続きを進め、微笑ましげに言祝ぎを送ったミレイユ。

 また一つ、掲げた夢に近付くことができたと、快哉を上げたリディーとスール。

 

 都の役所を兼ねた王城受付とて、喜色に染まった乙女達の声は耳に快く届くもの。

 周囲の役人は、順番待ちに並ぶ人々は、皆仔細は知らずも慶事なりやと見守る眼を細めた。

 

 

「さて、ランクが上がった二人にもう一つ朗報よ。実は……新しい不思議な絵が届いたの!」

 

「わぁ、本当ですか!?」

「二つ目の不思議な絵……今度はどんな絵なんだろう……?」

 

「ふふっ……今度の絵も双子ちゃん達に調査をお願いする予定よ。また『修復』が必要になるはずだから、後で画廊に行って確認してきてちょうだい?」

「「はーい!」」

 

 喜び合う双子を暫し堪能していたミレイユから、続けて告げられた報せに目を輝かせる二人。

 揃いの返事で首肯を示した双子は画廊へと足を向け、しかしふと思い立ったように振り返った。

 

「……ところで前から気になってたんですけど、不思議な絵って、どうやって集めてるんですか? そこら辺から拾い集めてきたり?」

「あはは、そんなわけないじゃない。絵の持ち主と交渉をしてるのよ」

 

 小首を傾げて尋ねるスールに朗らかに笑った後で、ミレイユは絵の蒐集の背景を語った。

 

 曰く、不思議な絵はここ数年で急激に知名度を上げ、美術品としての価値も高騰の一途にある。

 その希少性もさることながら、他には無い、と表すにも程がある性質より、国宝に準じる価値を認められた品も少ないとは言えず。

 尤も、蒐集側としてもその価値は大いに認めるところであるので……相応の予算を用立てるべく苦闘する日々である、と個人的な愚痴(?)を混じらせて。

 

 

「こ、国宝クラス……! うう、いくらなのか想像もつかない……」

「うん……。やっぱりそんなのがうちの地下にあるわけ……だよねぇ……

 

「スーちゃん?」

「……ううん。なんでもない。いやー、それにしても凄いんですね、ミレイユさんって! そんなレベルの大金を動かそうとすれば動かせちゃうってことでしょ?」

 

 

「す、すごくなんてないわよー。これでも一応、この国の王女だしー」

「「……はっ?」」

 

 話題を変えるべく適当な調子で水を向けたスールが、リディー共々ピシリと固まった。

 ミレイユの言葉を呆けた頭で咀嚼し、目を瞬かせて、強張ったその口はどうにか開かれる。

 

「ま、またまたー。ミレイユさんったら、冗談きっついなぁ」

「いやいや、冗談なんかじゃないわよ? 私のフルネームは、ミレイユ・フェリエ・アダレット。これでもアダレット王国の第一王女なの。あ、ちなみにマティアスは第一王子ね」

「……えっ。えぇ……!?」

 

 ややおどけて確認を重ねたスールに、実にあっさりと更なる爆弾(情報)を追加するミレイユ。

 そこに二心があったか否か、思わぬ追撃を受けた双子は目を合わせ、瞳を泳がせた。

 

 

 リディーの顔が、彼女の隣で働く受付嬢へと向かった。

 ───同情混じりの微笑みから繰り出されるは、肯定の意を含む頷き。

 

 スールの顔が、背後に並ぶ訳知り顔の男性へと向かった。

 ───グッと握られた拳から高く天へと衝き出されるは、太く節立った親指。

 

 

「ご…………ごめんなさいミレイユさ……ミレイユ様! わ、私達、王女様とは知らず、軽い口の利き方を───」

「ああもう、よしてちょうだい。私、堅苦しいのは嫌いなの」

 

 瞬間、風を切る勢いで下げられた頭に、辟易とばかりにひらひらと振られるミレイユの掌。

 されど当然の恐縮を見せるリディーに悪戯げに笑った彼女は、止めた手から一本、指を立てて。

 

「王女だろうが何だろうがこれまで通り、かわいく陽気なミレイユさんって呼んでちょうだい?」

「そ、それは……」

 

 

「あはは! わかりましたー! かわいく陽気なミレイユさん!」

「スーちゃん!?」

「ふふっ、それでいいわ♪ ほら、次はリディーちゃんね」

 

 他方、そう言われたなら仕方ない、とばかりに全く物怖じしなくなった妹に目を剥くリディー。

 その開けっぴろげな態度に気を良くしたか、ますます悪い笑みを深めたミレイユは未だ戸惑いの中にいる彼女へと笑顔の圧を強めていく。

 

「ほらほら、リディー。王女様のご下命なるぞー? 逆らうと不敬罪で捕まっちゃうかもよー♪」

「捕まえちゃうかもよー♪」

 

「え、あっ、うぅー……」

 

 

 

 

「…………リディーとスーに、ミレイユさん? これは、いったい何の儀式なんです……?」

 

「う、うわーん! 助けて、ルーちゃあぁん!!」

 

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 ───違和感を覚えたのは、いつからだったのでしょう。

 

 

「ねぇねぇ、ルーちゃん。私達、さっきFランクに昇級したところなんだよ」

「むふふー。さてさて、ルーシャさんのアトリエは今どうなってましたかな?」

「……へ? あぁ……Fランクですか。えぇ、頑張りましたねー、二人とも」

 

 

 ()()()()()()()()()()()を目にしたあの日から。

 ……いいえ。そこに記憶との齟齬があると()()()()あの時から、駆け抜けてきたつもりでした。

 

 

「……反応うっすぅ!? あ、あれ、確かヴォルテールってGランクからスタートしたって言ってなかったっけ? もしかして、あれからめっちゃ昇級してたりとか……?」

「それはまぁ、昇級試験を受けるための主な条件がアトリエの評判と実績なんですから。わたしのヴォルテールの場合どちらも申し分ないですし、後は課題をこなせば……ねぇ、ミレイユさん?」

 

 

 わたしの身に何が起きたのか。わたし以外はどうなのか。

 突然の気付きに居ても立ってもいられず駆け出して、けれど容易に口にできるものではなくて。

 

 漸く見つけた『わたし以外』が『彼』だったことに、正直大きなガッカリと……安堵を覚えて。

 

 

「……ミレイユさん。ルーちゃんの今のアトリエランクって……」

「ああ、D()()()()()?」

 

「「えっ」……ミレイユさん、今なんて?」

 

「だから、ルーシャちゃんなら、この前Dランクに昇級したところなんだってば」

「「え……ええぇーーっ!!?」」

 

 

「…………まぁ? わたしの実力を鑑みれば当然の評価ですがね! おーっほっほっほ!」

 

 

 それからは『二人』で可能な限り、『前』より良い未来を目指してきたつもりでした。

 

 早くから国の動きを知って、情報を集めて、『前』よりも足繁く二人の様子を見るようにして。

 ……微かに記憶に残る『あれ』が『そう』だとするなら、なるべく急がなければと思い決めて。

 

 …………ですが、どうやら、()()()ようです。

 

 いえ、わたし達がやってきたこと自体が、何かを間違えていたとは思いませんけれど。

 

 

「そうそう、お二人とも? これから次の絵の『修復』の準備に取りかかる予定なんですよね?」

「へ? まあ、そうだけど、なんで……あ、そういえばさっき画廊の方から出てきた……」

 

「えぇ、一足先に次の絵を目にしてきまして。そこでなんですが、準備ついでに()()()()の用意をお勧めしますよ。前回の森と違って、なかなか冷えそうな景色が見えましたから」

 

 

 思えば、気付ける節はそこかしこにありました。

 むしろ気付いてしまった今となっては()()()()()()()こと自体が、その証拠と言えます。

 

 

「なるほど……ありがとう、ルーちゃん。私達も見に行ってみようか、スーちゃん」

「うん、リディー。さくっと絵の具作って、ささっと『修復』して……その後の調査で格の違いを見せてやる。見てろよ……アトリエランクだけが全てじゃないんだからなー……!」

 

「スーちゃん? なんかもう、言ってることむちゃくちゃだよ……?」

「…………おーっほっほっほ! えぇ、えぇ! 楽しみにさせてもらいますねー!」

 

 

 変わらない二人。変わっていたあの絵。

 

 変えたつもりの未来。降りやまない大雨。

 

 そして何より、画廊で目にしてしまった、あの───

 

 

「……ルーシャちゃん? 双子ちゃんは行っちゃったけど……どうかしたの?」

 

「あぁ、いえ。少しばかり考えごとを。……さて、二人が『修復』用の絵の具を作っている間に、わたしも調査用の道具を揃えて……そうだ、ミレイユさん。一つお尋ねしたいのですが」

「あら、何かしら?」

 

 

 

 

「あの絵が届いたのは、いつですか?」

 

 

 

 

「───つい先日だけど……それがどうかした?」

「…………いえ、何も」

 

 

 

「……あ、一つと言いつつ続けてになってしまうんですが、マティアスさんは今日はどちらに?」

「マティアス? えぇっと今日は……確か外回りに出てたはずね。何か急ぎの用事かしら?」

 

「そういうわけではないんですが……では、そうですね。ひとつ伝言をお願いします」

 

 

 

「『わたし達は戻ってきたわけじゃない』、と」

 





※原作既プレイの方へ

 エクストラミックスを知らず、
 自作の傘に万全な『雷』対策を施し、
 Dランク相当の腕前を持つルーシャ。

 さて。


※原作未プレイの方へ

 君主制王国の第一王女様「堅苦しいのは嫌いなの。これまで通り気さくに接してね♪」

  無理やろ。


 同じく第一王子様「そこの彼女! オレと一緒にお茶しない?」

  お前は何をしとるねん。


 どちらも原作台詞(一部意訳あり)です。嗚呼、やさしいせかい。

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