捏造に次ぐ捏造。
この辺りは原作が割と薄味めなのが悩ましいところ。
『ギャオオオオオオオオオオオオオ!!』
光を湛え屹立する氷の花畑に、暴君の咆哮が轟いた。
駆け抜けた白色の息吹が遺すは、息づく命を閉ざした新たな氷塊。
凍てつく暴威を再度揮った彼の者は、しかし此度の氷贄には背を向けず。
物言わぬ氷と化した
───
砕く。
砕く。砕く。砕く。
激情のままに砕き、潰し、
その様にまた『黒』の鱗は剥がれんばかりに逆立ち、斑に染まる竜体が腹立たし気に捩られた。
されど身を留めた時間は僅か。氷窟の主は次なる標的を見定め眦を裂く。
咲き誇る花のように屹立する氷柱の影に、見え隠れする小さな『侵入者』への憤りを咆えた。
美しき氷の園を───
『ギャアアアアア!!』
『『『キュピィィィ!!』』』
不遜に這い回り、世界を汚していく『黒』を、拭い去るために。
「……あいつ、凍らせたもん砕きにくることもあるんだな」
「……ルーちゃんが無事で本当に良かったよ」
「……えぇ、全くです。よく無事で済みましたね、わたし……」
遠くから見届けた暴君の暴れ具合に、揃って遠い目になった一同が白い息を吐く。
氷の世界に断続的に響く咆哮から、慎重に距離を計りつつ進んだ氷柱の影。
幾度となく届いた暴れ音に、彼の竜は何をしているのかと調査に臨んだ彼女達が目にしたのは、自分達と同じように氷花の根本を彷徨く大小の『黒の魔物』を荒々しく追い立てる様であった。
「まさかここでも絵の世界の住人(?)と『黒の魔物』の争いが起きてるとは思いませんでした。案外あの竜もわたし達と同じように、あれを不味い存在だと感じてたりするのでしょうかね」
「あぁ、あのキレ具合見てるとありえそうな気もするな。……さて、どうする? 調査はこの辺にして一旦帰るか? ちなみにオレは帰りてぇ」
「そんな! あれを見て放っていくわけにはいきませんよ! もー、マティアスさんったら、すぐ帰ろうとするんですから……」
先の絵でも目の当たりにした構図に思案顔になるルーシャ、後ろ向きな本音を晒すマティアス、それに対して両手を握り抗議の態勢をとるリディー。
とはいえ普段から消極的な発言の多い彼も今回は相応の考えがあったのか、責めるような響きの声にやや曲げた口で言い返す。
「おいおい、オレだってあれを放置したいわけじゃねぇぜ? けど実際、考え無しに近付いたって一緒くたに凍らされちまう可能性の方が高くねぇ?」
「それは……そうかもですけど」
「あの竜を避けるにしろ倒すにしろ、後で『黒い魔物』までどうにかするなら人手も欲しいしな。そうなると、どうしたって今すぐになんとかできるもんじゃないだろ?」
「……そう、ですね。うーん……」
「……どうかしましたか、スー? 何やらさっきから随分静かなようですが」
「あ、ルーシャ……うん」
目の前の難題に三者三様の思索が引き出される傍らで、スールは唯一人鈍い反応を示していた。
他の三人から半歩、距離をとるかのように控え、押し黙っているその姿。
常の彼女らしさの欠片も無い様に気付いたルーシャから、多分に驚きを含んだ声が掛けられる。
「ん……ちょっと、さ。なんて言ったら良いのかなんだけど……」
「ふむ……?」
果たして、普段ならば煽り合いに発展するだろう問いへの返しは、言葉を探す憂い顔。
迷いを感じ取ったルーシャが急かすことなく続きを待てば、やがてスールは意を決したように、胸の内にあったのだろう
「……最近、
「…………!?」
そう答えながら、スールがちらりと目を向けるのは、未だ絵世界に蔓延る『黒い魔物』についてマティアスと意見を交わしているリディーの姿。
「今までは、軽く言い争いになっても大体お互い考えてる事は一緒だったっていうか……そりゃあ好きなものや嫌いなものもちょっとずつ違うし、おかしなことじゃない、とは思うんだけど……」
姉を映す瞳をどこか不安げに揺らしつつ、胸中を告白したスールの声はどこまでも真剣なもの。
常に一心同体と言っても過言ではないほど『近く』あった半身との、今までに無い意見の相違に戸惑っている様子は明らかで。
「なる、ほど……? それは……」
他方、
───どうしてこんな……何の影響なのですか?
───まさか二人の間に……いえいえ早計に過ぎます。
───これはもっと単純な相談で……でしたら、わたしが答えるべきは……
「…………あなた達も大人になってきた、ということかもしれませんね」
「? ……大人、に?」
「えぇ。……というか、元々あなた達は双子にしても距離が近過ぎるのですよ。いつでもぴったりひっついてなんでもかんでも以心伝心、だなんて流石に珍しい方ですからね?」
「……そうなの?」
「そうですよ。まぁ、だからといって自立を目指せなどと強制する気はありませんが……もやもやするものがあるのなら、一度ちょっぴり距離を置いてみるのも悪いことではないと思いますよ」
「そっか…………うん。ありがと、ルーシャ」
「……何より、あなたにそうもしおらしくされると調子が狂うんですよ! ……まぁ、小さい頃のあなたを思い出して懐かしくなるところがないとも言いませんけど」
「む、昔のことをほじくり出すなぁ! くうっ……。ルーシャのくせにぃっ……!」
「ふふっ。そうですそれそれ。やはりスーはそうでないと───」
『グ……ギィ、ギャアアアアア……ッ!!』
「「「「…………えっ?」」」」
氷晶の彼方より、不定期に届いていた竜の咆哮に、突如。
それまでに比べて異様な響きを宿した
咆え声に混じっていたのは、誰が聞いても明らかな
並居る『黒の魔物』を蹴散らしていた先の姿からは及びもつかないその理由を求め、振り向いた彼女達は再度、思いもしない光景に目を見開くことになる。
「あいつ……
「で、でもでも! さっきまで余裕で飛び回っては凍らせてを繰り返してたはずじゃ……!?」
どのような経緯の末なのか、氷の地面に
硬い鱗に覆われた身体に比べれば格段に脆いだろう翼を、幾つもの個体に圧し掛かられ、悲鳴を上げながらに藻掻く『氷窟の覇者』。
(……いや、違います。……違ったんですよ。余裕なんてなかったんです……!)
直前まで目にしていた光景からすれば有り得べからぬ事態に三人が呆ける中で、ルーシャは一人心中で自答を込めた呟きを落としていた。
(そもそも、万が一を考えて凍らされた時の備えはしていましたが……凍らされない為の備えこそ用意してあったんです。ですが今回は身構えるより先に
それは、
突然の遭遇に戸惑いながらも、抵抗の余地はあった『前』における彼の者の襲来との差異。
もし、あの『黒の魔物』との戦いが、自分達がこの絵を訪れる
たとえ強靭な身体を持つ竜であっても───そう描かれた絵の世界の住人であっても。
それが生物として存在している以上、戦い続ければ疲弊も疲労もするのでは───?
「……あの
「「っ、リディー!?」」
「リディー、あなた何を言って……!」
四人の間に俄かに訪れた沈黙を引き裂いたのは、静かに紡がれたリディーの呟き。
まさかの提案に驚き叫んだ一同に、彼女は芯に想いを秘めた眼差しのまま振り返って。
「あの黒い魔物を倒していた魔物さんが居なくなったら、きっとこの絵の世界はすぐに黒い魔物で溢れて大変なことになる。……そう思わない?」
「……!」
「それは……だけどなあ……」
決意の宿ったリディーの瞳に、自身と似た推論を導き出したと悟ったルーシャが息を呑む。
戸惑い強くもごもごと閉口するマティアスを通り抜け、彼女が目を向けた先は、己が半身。
「───行こう、スーちゃん!」
「…………うん。分かったよ、リディー!」
スールが迷いに動きを止めたのは、数秒。
胸の奥に燻ぶっているのだろう苦味を振り払って頷きを返し───双子は同時に駆け出した。
「……おぉい!? 護衛を置き去りに突っ込んで行くんじゃねぇよ、二人とも!?」
「……まぁ、他に選択肢が無いのも事実ですか。困った妹達ですよ、まったく!!」
『ギャオ……オオオ……オオオオ!!』
「うる……っさいですねぇ! ほら、治療してあげたんですからキリキリ働きなさい!!」
「無茶苦茶言ってんな……。そもそも人の言葉が通じる相手なのか……?」
「【フラム】! 【クラフト】! 【レヘルン】! ……うー、どんどん湧いてくるー!」
「どこにこんなに隠れてたんだか……えいっ! このっ!」
『『『キュピィィィ!!』』』
爆音、銃声、咆哮、氷の破砕音。
地に墜ちた暴君の元へと駆け寄った四人を迎えたのは、暴威を逃れるためだろう隠れた陰から次々と断続的に這いずり現れる『黒の魔物』の群れだった。
中型以上の個体は隠れられなかったらしく、現れるのは簡単に蹴散らせる小型のものばかり。
爆弾で、銃撃で、姿を見せる端から撃破される彼らは、しかし押し寄せる波の如く一行に迫る。
「はぁはぁ……やっぱキリがねぇぞ。こういうときこそ、ドカーンと一発吹っ飛ばしてくれるのが錬金術ってやつじゃねぇのか?」
「そうしたいところですが……あまりに広範囲に散っているようですからね。一挙にどうにかするとしたら、それこそわたし達ごと吹き飛ばすような威力の爆弾が必要になりますよ?」
「ばっ!? やるなよ!? 絶対やるなよ!? フリじゃねぇからな!!」
「やりませんよ……というか、そんな爆弾用意してません。……二人もそうですよね?」
「う、うん……流石にそんなのは持ってきてないよ……えいっ!」
「寒そうってことで
「…………できない、じゃなくて作ってきてないって言うのが怖いんだよ、
『ギャオオオ、オオ……』
どうにも一般とは次元の違うところで頷き合う少女達に、ヤケ気味の叫びをあげるマティアス。
そのやり取りに何かを感じたのか、身を横たえる暴君までもがどこか煤けた咆え声を連ねた。
「……意外と敵意はすぐに消えましたね。案外話が通じてたりします?」
『ガ、アア……』
「お、もう動けそうなのか? じゃあ早いとこ手伝ってもらって……」
『ギャアアアアア!!』
「あれぇ!? なんでぇ!?」
ルーシャの手で治療を施され、剣呑さを和らげていた竜がマティアスの言葉に再び猛り出す。
受けた負傷の影響か、あちこち鱗が剥げた身体を起こした『彼』が目を向けるのは、この氷窟において目が覚めるような『赤色』を持つ目の前の少女。
「……何やら熱い視線を感じるのですが。これはいったい……?」
「もしかして、ルーちゃんの言うことしか聞かないつもり、とかだったり……?」
「えぇ……そんなことあるぅ……?」
「まさかルーシャ嬢を凍らせたのも、気に入った相手を手元に置くためだったとか……」
『ギャオオ!!』
「…………まものもみりょーするルーシャさんのうつくしさすごいですね」
「……やめてください冗談だったんです……全く嬉しくありませんよ……」
「……と、とにかく! この魔物さんが協力してくれるのなら話は変わるよ! あの黒い魔物達が隠れる場所さえなんとかしちゃえばいいんだから……」
まさかの事実に黄昏るルーシャを余所に、ぞろぞろと現れる『黒の魔物』を見据えたリディーが爆弾を投げつけながらも、その理知に富んだ瞳を思考に沈める。
まだまだ大量にある【
「……スーちゃん。これ、どうかな?」
「リディー? ……うん、分かる。…………今度は、分かった」
「スーちゃん?」
「な、なんでもない! よし、行っくぞー!」
「……おい、待て? 何するんだ? なんかだいぶ嫌な予感がするんだが?」
決意を込め、頷き合う双子に何故か背筋が震える思いに駆られたマティアスが声を上げる。
そんな彼にニコリと───揃いの笑顔を見せた二人は、両手一杯に【フラム】を抱えて。
「何って……さっき言ってたでしょ? ドカンと一発、まとめて吹き飛ばすんだよ。……氷をね」
「えっ」
「それが
「はいはい。こっちは任せてください、二人とも」
「えっ、えっ」
頷き合う少女達。光を放ち始める爆弾と結晶。
取り残されるマティアスの困惑ごと吹き飛ばすようにと、
「「エクストラミックス! 連鎖爆発【コスモフラム】!!」」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「───は、はは……戻ってきたぜー、姉貴ー……いやぁ、ひでぇ目にあった……」
「まあまあ。確かに絵の中は
「そうですよ。黒い魔物は全部倒せましたし……また新しく湧いてくるとしても、あの魔物さんが居ればまた暫くは大丈夫でしょうし」
「そうなんだけど、そうじゃねぇっていうか───ありゃ?」
「マティアス? どうかした?」
「いや、姉貴が居ねえ……のはともかく、何か上が騒がしいような……」
「───マティアス!? 戻って来てたのね! 大変よ!!」
「あっ、ミレイユさん」
「姉貴? そんなに慌てて、何があったんだ?」
「『何があったんだ』じゃないわよ。わからない?」
「『
※原作既プレイの方へ
ゲーム原作に比べて大幅に早い双子の仲違いフラグ(?)屹立。
あちらはちょっとしたすれ違いがこじれた形でしたが、拙作では果たして。
また、ざわめきの森に続いて氷晶の輝窟も作者の情念を思いきり捏造。
美しい氷の洞窟に物騒な魔物を住まわせたからには番人(竜)とかそういう方向性かなと。
そして謎のままだった例の竜がルーシャに執着した理由も思い切って捏造。
やっぱりフーコに恋しちゃった火竜的サムシングだったんかなって(絵が違う)。
※原作未プレイの方へ
ゲーム原作にて絵の中の魔物と黒い魔物が争うといった展開はありません。
設定上あってもおかしくはないかなと思った作者の
プレイヤー視点≒システム上は特に違いもないです。種族特効の道具を作る際に気にする程度。
一応、物語上は別物と扱われてはいます。大きく関わってくるのはゲーム後半からですが。