幸せな絵画の王国   作:非単一三角形

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 前回のあらすじ(?):

 ミレイユ「ファルギオルが目覚めたわ! まっすぐ都に向かって来てるのよ!」

 アルト&アンフェル大瀑布「「えっ」」



第15話 雷神の伝承

 

 

「───既にイルメリアさんには迎撃の準備に入ってもらってるんだけど……その前に二人とも、『雷神の伝承』は知ってる?」

 

 降りしきる大雨が窓を叩く音に包まれた王城エントランス。

 地下画廊を引き上げた少女達へのミレイユの言葉は、そんな問い掛けから始まった。

 

 

「『雷神の伝承』……昔、ファルギオルっていう凶暴な神様がいて……ってやつですよね? 時の英雄と一人の錬金術士が協力して、ファルギオルを絵の中に封じ込めたっていう……」

「そうそう、子供を叱るとき『言うこと聞かないと雷神様におへそをとられるぞ~』なんて言って脅かしたりして……でも、あれって単なるおとぎ話なんじゃ?」

 

「……そうね。それが民間に伝わっている言い伝え……だけど、実はれっきとした事実なのよ」

 

 対する双子の返答は、アダレットに住む民なら誰もが知る寓話の一つというもの。

 二人の認識に頷きを返した上で、王女であるミレイユはその言い伝えに秘められた真実を語る。

 

 遥かな昔に確かに存在し、大陸中に被害をもたらした荒神ファルギオル。

 曲がりなりにも神を冠したそれに、約三百年に渡る封印を施した一人の錬金術士。

 当時を生きる人々を救ったその封より力が失われる日が、刻一刻と迫っていたという事実を。

 

「……それじゃあ、この騒ぎは、そのファルギオルが実際に現れたってことですか?」

「その通り。最近雨が多かったのも、きっと目覚めが近付いてたせい。ファルギオルが蘇ることは予想されていたの。……まぁ、ここまで早いとは思ってなかったんだけどね」

 

 

 

「…………早過ぎます、よね?」

「ああ……。どうなってんだ、いったい……」

 

「……ルーシャ? マティアス? 二人ともどうしたの? なんか顔色が……」

「な、なんでもありませんよ!」

「な、なんでもねぇ! ……それで、姉貴。ファルギオルは今どこまで来てるんだ?」

 

 説明を受ける双子の背後で、青褪めた顔を突き合わせていたルーシャとマティアス。

 その様子を振り向いたスールに問われた二人は慌てて首を振り、また気を取り直すようにして、()()()()()()を尋ねた。

 

 

「……国境を越えたという報告が私の手元に届いたのが、ついさっきよ。届くまでの時間も併せて考えると、もう何時間もしないうちに都近郊まで辿り着くことになるわね」

「そんな……どうするんですか? 言い伝えが本当なんだとしたら、この都は……」

 

「ええ、このままじゃね。でもそうならないようにいろいろと手は打ってきた。その最たるものがアトリエランク制度であり、国策として集めていた不思議な絵よ」

「そっか……! 言い伝えだとファルギオルは錬金術士に絵の中に封印されたんだよね……!」

 

「そういうこと。錬金術士のあなた達こそ、きっとファルギオルを倒す切り札になるわ」

 

 常になく険しい声音で伝えられる現状の中、差し込んだ希望にぱっと明るい顔になるスール。

 そんな彼女に、ふっと微笑んだミレイユは肯定の頷きを送り───蟀谷を押さえて遠くを見る。

 

 

「でも今まで錬金術を軽視していたこの国には、錬金術士がほとんどいない。それでランク制度を作って有力な錬金術士を募ってた、んだけど……」

「……ルーシャぁ」

 

「……何ですか? 『有力な』錬金術士の数については、わたしの課題のせいではないでしょう? 第一、その程度の方々が居たところで、雷神襲来の報に怯えて逃げ出していくのがオチでしたよ」

「そんなまるで見てきたみたいに……」

 

 

 

「───な、なぁ、姉貴! 例の絵……『()()()()()()殿()』についてはどうなってる!?」

 

「ぴぃっ!? い、いきなりどうしたんですか、マティアスさん? 例の絵?」

「マティアス……ああ、あの絵ね」

 

 半眼を向けるスールに、やや顔色を悪くしながらも決然と持論を言い切るルーシャ。

 しかしそんなやり取りを食い破るように、マティアスの叫びがエントランスに響いた。

 

 弟の必死の形相にミレイユは一瞬目を見開き、すぐにその理由に思い至ったらしく重く頷く。

 そうなれば置いて行かれた面々が疑問に駆られるは当然。首を傾げた双子が誰何の声を上げた。

 

 

「ミレイユさん、『凍てし時の宮殿』って……?」

「……この世で初めて不思議な絵を描いた画家にして……他でもない、雷神ファルギオルを封じた錬金術士の描いた絵よ。ついでに言うなら、世界で一番最初に作られた不思議な絵でもあるわね」

「うわ、とんでもなくとんでもない絵なんですね……!」

 

 不思議な絵の開祖『ネージュ・シャントルイユ』の手によって描かれた、世界初の不思議な絵。

 高名な錬金術士でもあった彼女の没後約300年。その歴史的価値も含め厳重に保管されてきた一作であるとのこと。

 

 返ってきたそれらの答えに双子は目を剥き、同時にこの場で言及された理由にも思い至る。

 それを視線に込めた二人が仰ぎ見れば、やはりミレイユからは肯定を示す頷きが返されて。

 

「ファルギオルに対抗する手段を探すにあたって一番有力視していた絵だったのは事実よ。だけど何せ貴重な品だから交渉が長引いちゃって……絵よりも雷神の到着の方が先になるでしょうね」

 

「……マジかよ。くそっ……!」

「マティアスさん……」

「…………」

 

 反面、結論としてミレイユの口から出されたのは、声音にも諦観を込めた言葉。

 焦燥感を顕にして悪態を吐くマティアスを、双子は不安げに、そしてルーシャは口を引き結んで見つめていた。

 

 

「……リディーちゃん、スーちゃん、ルーシャちゃん。改めてアダレット王国の王女としてお願いします。どうか、私たちに力を貸していただけないでしょうか?」

 

「……ええ、勿論です。アトリエ・ヴォルテールの力、みせてあげましょう」

「っ、私達もです! 今まで暮らしてきたメルヴェイユがなくなっちゃうなんて、絶対にイヤ!」 「だね! あたし達も精一杯頑張ります! ファルギオルなんてボコボコにしてやりますよ!」

 

 

「みんな、ありがとう……! あなた達の決意に感謝します」

 

 

 居住まいを正し、常の『陽気なお姉さん』の顔を潜めて、ミレイユは錬金術士達(三人の少女)へと向き直る。

 息を呑む双子は、静かに頷いたルーシャは、口々に応を唱えることで、その真摯な瞳に答えた。

 

「じゃあ、私は奥で作戦を練り直してくるわね。……雷神の進行が思ったよりも早いから、対策を立てないと。みんな、悪いんだけどここで待っててくれる? 急いで済ませてくるから!」

 

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「───あの言い伝えだと『雷神様におへそをとられるぞ~』って言われるんだよね……つまりファルギオルって、おへそ好き?」

「……本気じゃないよね、スーちゃん? お洋服破いて、おへそを出そうとか考えてないよね?」

 

「え? そんなにダメかなぁ『おへそでファルギオルを魅了』作戦。単なるおとぎ話じゃないってミレイユさんも言ってたじゃん?」

「うーん、そう言われると突っ込みづらい。おへそかぁ……私のおへそでも効果あるのかな……」

 

 

「ふふ……まったく、流石ですね、スーは。あの雷神を『ボコボコにする』宣言とは」

 

 

「ん? まぁねー。雷神がいくらすごいって言っても、伝承に残ってるくらいだから、おじいさんでしょ? ふふ、あたしたちの若いパワーは、おじいさんなんかに負けたりしないのだっ!」

「えっと、スーちゃん……? おじいさんかどうかはわからないよ……?」

 

「え? じゃあ……おばあさんかも?」

「いや、そうじゃなくって……」

 

 

「ふ、っく、ふふ……!? ああもう、あなた達ときたら……!」

 

 

「む、そんな涙出るまで笑わなくったっていいじゃん。ルーシャってば、もう……」

「いえ……いえ……そうですね! わたし達、若いですもんね! あはっ、あははは……!」

 

「……ルーちゃん?」

「……いつもみたいに、おーっほっほっほ、って笑いなよ。じゃないとなんか、調子狂う……」

 

 

 

「───待たせたわね、みんな! ファルギオル討伐作戦……まとめてきたわよっ!」

 

 

「あ、ミレイユさん! 一体、どんな作戦なんですか?」

「ふふっ、作戦って言っても単純なんだけどね。動ける錬金術士を二班に分けて───」

 

 

 

 

 

「……そろそろ落ち着いたか?」

「ふ、ふふ……! ええ。そちらこそ、逃げる準備は必要ないので?」

 

「ばっかやろー、騎士籍まで持った王子が逃げられるかよ。……やるとしても姉貴の役目さ。後に残すなら、そっちの方が何倍も良いしな」

「ふぅん。そういうものなんですねぇ」

 

「おう。…………なぁ、ルーシャ。『()』、あると思うか?」

「……さぁ? 少なくとも、期待するわけにはいきませんよ」

 

「だよなぁ……。となると、『前』との違いは……」

「有象無象の錬金術士もどきが直前で逃げ出したことによる騎士団の方々の士気低下が無いこと。リディーとスーの腕前が、一段か二段は上達していること。絵の調査は……残念ながら、といったところになりますか」

 

「……開祖の絵の調査ができてれば、何か鍵になるもんが見つかったかもしれねぇのにな……」

「元から確実性はありませんでしたし、言っても仕方のないことです。それに、多分……」

 

「……たぶん、何だよ?」

「…………いえ、やめておきます。今度、時間があればということで」

 

「っ、はは……! そうかよ。なら時間ができるように気張らねぇとな!」

「ええ。……今度こそ、あの雷神を『ボコボコに』してやりましょう。おーっほっほっほ!」

 

 

 

 

 

「───というわけよ。人員が少ないからかなり強引な方法だけど……これが一番確実なはず」

 

「なるほど……分かりました! スーちゃんも良いよね?」

「うん! 要するに、あたし達はいつも通りやれば良いってことだよね?」

 

「そうだけど……もー、本当に聞いてたの? スーちゃんったらいつもそうなんだから……」

「うふふ……そうね。いつもの調査みたいにファルギオルも上手に料理しちゃってちょうだい!」

 

 

「はい、任せといてください! 絶対、ファルギオルを倒してみせますから!」

「うん! ……行こう、スーちゃんっ!!」

 





※原作既プレイの方へ

 次々回、例のタグが仕事します。今の内にご注意を。


※原作未プレイの方へ

 ゲーム原作でも序盤からちょくちょく出てくる雷神の伝承。いわゆる「なまはげ」扱い。
 作中ではここで初めて王国側の事情がある程度明かされる形になります。

 尤も、雷神そのものがどういう存在なのかはあまり言及されることはなかったり。
 すなわち今後出てくるその辺りの描写については大体作者の捏造でございます。ご注意を。

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