幸せな絵画の王国   作:非単一三角形

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 答え合わせ、開始。

※前々話後書きにて宣言した通りの展開が含まれます。
 地雷臭漂うタグ群を不穏に感じた方は、今すぐブラウザバックを激しく推奨いたします。



第17話 灼

 

 

「───スーちゃん……どこ……?」

 

 雷雨轟く曇天の下に、囁くような少女の声が、遠く、小さく、零れ落ちた。

 

 

 そこは街近辺の山岳地帯『ブライズヴェスト』。

 永き封印から解き放たれ、轟雷を纏いて都へと侵攻していた雷神ファルギオルとの決戦場。

 

 

「ルーちゃん……マティアスさん……イル、ししょ……ごほっ! け、ほ……っ!」

 

 足取り拙く、杖で地を突き、崩れ落ちんばかりに。

 咳き込むその身から雨水混じりに滴り滲むは、鮮やかに朱き命の源泉。

 

 

 

「スーちゃんの……()()()、どこ……っ?」

 

 

 

 焼け焦げた手首の先、()()()()()()()()()()を抱きながら。

 残された右手に握った師の杖を頼りに、少女は荒野を彷徨うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「───先に行ったはずの第一班の騎士達はどこだ? イルメリア嬢の姿も見えねぇし……」

「……合流地点、本当に此処なんですよね?」

 

 数分、あるいは数十秒前。同地点。

 三人の錬金術士の少女達を擁する一団は、確かにその地に足を踏み入れていた。

 

 ───第一王女ミレイユが急場において立案した対雷神迎撃作戦。

 それは、錬金術士と騎士団からそれぞれ選出した戦力を二つの班に分け、先に接敵する第一班が足止めと雷神の消耗を、その間に討伐の手配を整えた第二班が弱った相手にとどめを担当する……という、一種の波状攻撃を目的とした代物であった。

 

 現在のアダレットが有する最高の錬金術士たるイルメリアが精鋭の騎士を率いて()()の役目を。

 その弟子を含む三人の錬金術士、及び彼女達との連携に一日の長を持つマティアス率いる部隊が()()の役目を担うべく出撃───というところまではミレイユの描いた通りだったのだが。

 

 

「……こんなときに道を間違えたとか冗談にもなんないよ?」

「馬鹿言え!? 幾らオレだってそこまでやらかすかよ! ……けど、どうなってんだ?」

「師匠達どころか、それらしい魔物の姿だってどこにも───あれ?」

 

 人影一つ無い荒野に一同が首を傾げる中、辺りを見渡したリディーが何かに気付き、歩き出す。

 果たして彼女が向かった先で見つけたのは、岩場に突き立てられた一本の杖だった。

 

 

「何か見つけたの、リディー?」

「うん……ねぇ、スーちゃん。これ、イル師匠の持ってた杖じゃない?」

 

「え……あ、本当だ。たしかに出発前にこんな杖持ってたよね。……なんでこんなとこに?」

 

 未だ影さえ踏めぬ師の卓越した錬金術の粋が込められた、華美ながら強力な魔力を纏う杖。

 土埃でやや煤けて見えるそれを、()()で握った彼女は、妹と共に再度疑問に首を捻って。

 

 

「……ん? 持ち手の所に何か、くっついて……」

 

 国から招致された身ゆえの、古きよき錬金術士スタイルの顕現にして広告塔。

 遠い目でそんな説明をしていた師を瞼に浮かべつつ、肝心の持ち主の姿が見当たらないそれを、握った手に小さな違和感を覚えたリディーが、改めて目を向けたとき。

 

 

「何、これ…………()───?」

 

 

 

 

 

『裁きを』

 

 

 

 

 

 白雷。

 

 轟音。

 

 一瞬の空白を経て身を炙った、灼けつく電熱。

 

 

「え……?」

 

 

 遅れに遅れた認識の下、漸く振り返ったそこに在ったのは、人間大の黒焦げた塊。

 吹き付ける風雨に()()()()()()()()()()に微かに混じった、見覚えのある()()()は───?

 

 

『脆弱な人間どもよ』

 

 

 大気を震わせ、総身を殴りつけるような声に彼女は顔を上げ、()()を見た。

 

 輓馬の半身を思わせる四足の下半身に繋がった、甲冑に身を固めた騎士のような上半身。

 形状だけは蜥蜴のようで、丸太程に太く長い尾に、背には不釣り合いに小さな翼状の突起。

 手首があるべき場所から刀身のように鋭く伸びた、稲光を纏った左腕が振り上げられる様を。

 

 

『我を侮ったこと……後悔するがいい』

 

 

「あ…………?」

 

「何……してんだよ、お前ぇっ!!?」

「だめっ!? リディーーー!!」

 

 

 眼前の、()()に。

 足の動かなかった彼女は辛うじて、師の杖を手にしたままだった右腕をかざして。

 

 

 

 

『【魔神大雷火】』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───そのまま都に向かったファルギオルは、メルヴェイユの街に雷の雨を降らせたみたい」

 

「だけどね。雷に打たれた人はそんなに居なかったんだと思う。……あんまり痕跡は無かったし」

 

「多分、私達が()()()()と分かった時点で、ミレイユさんが皆を避難させたんじゃないかな」

 

 

「……私? 私は……そのずっと後に、王城に戻ってきたの。ほら、()()()()()だったから……」

 

 

 あるべき()を失くして、ひらとはためく左袖。

 笑みを作ろうとして失敗したかのように引きつる、火傷に閉じられた片瞼。

 杖無しでは立ち上がるのも難しいのだろう、焦げ跡残る左脚を簡素な椅子から垂らして。

 

 

「……落雷で壊されたお城を見て、だけど地下の画廊は無事なんじゃないかって思ったの」

 

「決戦の前にミレイユさんから、()()()の事は聞いてたから……もしかしたら、って」

 

「まぁ、ここに来てからも色々あったんだけど……結果として私は、()()()を描いたんだ」

 

 

 

 記憶にあるよりほんの僅か、()()()()()ように見えるリディーの姿に。

 

 

 

「…………それじゃ、あたし、今まで……」

 

 呆然と、唯々呆然と、語られる真実を耳に流していたスールは。

 

 

「うん。……私が描いた不思議な絵───『幸せな絵画の王国』の中に、居たんだよ」

 

 背中に控えるキャンバスに描きこまれた、見紛うことなど有り得ない見慣れた王城の遠影を。

 

 

 

「おかえり、スーちゃん」

 

 

 

 今の今まで()()()()()()()()を、光の消えた瞳で振り仰いだ。

 

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

樹氷に抱かれた白の森。

この森にそびえるのは、すべてが凍り付いた巨大な宮殿

 

 

床も、壁も、時さえも。

あらゆる物は薄氷に包まれ、ただそこにあるだけ

 

 

この宮殿には、一人の少女が暮らしています。

ですが、少女の心もまた氷に閉ざされているのでした

 

 

それもそのはず。すべてを凍てつかせたのは

他でもない、少女自身の願いなのですから───

 

 

『凍てし時の宮殿』

 

 

 

 

 

 

「…………説明は済んだ?」

「あ、うん、一応……でも呑み込むには、きっと時間が掛かると思うから……」

 

「呑み込むも呑み込まないも無いでしょ。妹さんがどう思おうが現実は変わらないんだから」

 

 

 壁も、床も、青白く染まった荘厳な一室に、冷え切った少女の声が響いた。

 

 紺色の短髪に空色の瞳。稚い見た目とは裏腹な、枯れ木のように老成した眼差し。

 突き放すような言葉と共に腕を組み、その顔に浮かぶは厭世滲む辟易の表情。

 

「……わたしにとっては外の世界なんてどうでもいいのに、あなたがそんな身体でどうしてもって言うから場所と画材と絵の具まで貸したのよ。さっさとやるべき事をやって帰って欲しいわ」

「あはは……うん、ありがとう。すごく感謝してるよ、()()()()()()()

 

「……ネー、ジュ?」

 

 刺々しい台詞にも柔らかな微笑みを返すリディー。ぷいと顔を逸らすネージュと呼ばれた少女。

 未だ頭を白霧に包まれたが如き状態にあったスールは、覚えのあった単語を機械的に口にした。

 

 

「この『凍てし時の宮殿』の作者、ネージュ・シャントルイユさん……の残留思念、なんだって。現実のネージュさんが300年前に死んだときからずっと、ここで暮らしてるみたい」

「残留、思念……? 死んでから、ずっと……?」

「…………はぁ」

 

 妹の深い困惑を察してか、下がった眉をそのままに頷いたリディーが疑問に答える。

 されど、ただ漫然と耳にした音を繰り返すだけのスールに溜息を吐いた当事者(ネージュ)は、如何にも面倒という様子を隠さずに言葉を引き継いだ。

 

 

「……不思議な絵と一度でも関わると、何というか……魂の枷が外れるのよ」

 

「絵の世界に入ったことがある人間は、死後に魂が絵の中に残ることがある」

 

「それが残留思念。死んだときの記憶も持っている……いわば、幽霊みたいなものかしらね」

 

 

「……だけど、わたしも驚かされたわ。まさか死んだ後に描かれた絵の中に、その人の残留思念が発生することがあるなんてね」

「え……」

 

「しかも初めから『他の絵と繋がっている絵』として描いたとはいえ、残留思念が別の絵の世界に入れるだなんて……正直、何を無茶な事をと思ってたわ」

「ふふ……。無茶な事なんかじゃなかった。そうでしょ?」

 

「ええ、降参よ。わたしが言うのもなんだけど、本当に底が知れないものね。不思議な絵って」

 

 

 

「待って! …………ねぇ、待ってよ。リディー……?」

 

 

 

「…………どうしたの、スーちゃん?」

 

 寒々しく凍てついた空間で、それでも長い時を共に過ごしたのだろう二人のやり取りを、どこか悲痛な響きを宿した声が遮る。

 そんな妹へ穏やかに、しかし隠しきれない緊張を宿した声でリディーはゆっくりと問い返した。

 

 

「あたし……そんなの、()()()()()、よ……?」

 

「……え」

「あら?」

 

 震える声で告げたスール。息を呑み、残された片目を見開くリディー。

 すぐさま姉の視線を受けた開祖(ネージュ)が思案顔を作る中、譫言のような妹の呟きは続く。

 

「……普通の残留思念なら死んだ瞬間までの記憶が……衝撃による混乱? それとも───」

 

「不思議な絵も……ファルギオルも……ねぇ、リディー……リディー?」

「す、スーちゃん?」

 

 

 

 

()()()()()()()()()()?」

 

 

 

 

「っ!? ……それ、って───あぅ!?」

「あるいは魂の繋がりが───って、ちょっとリディー、大丈夫!?」

 

 焦点の合わないスールの瞳に、リディーが椅子を蹴倒す勢いで腰を上げる。

 しかし心のままの動きに雷の傷跡深い脚はついてこれず、その身体は手に握っていた杖が石床を叩く乾いた音と共に、冷たい床へと頽れた。

 

 

「全部……あれが全部、絵の世界……? じゃあ、今日まで一緒に居たリディーは……?」

 

「…………そっか。そこに『私』も、()()()()

 

 

 手から離れて転がっていくイルメリアの杖───絶死の雷を防ぎ、弟子に希望を繋いだのだろうそれを目で追い、リディーは空いた片腕で身体を起こす。

 そうして、罅割れた器から溢れていくような妹の言葉を耳に収め、小さく首を振った。

 

 この絵の世界に足を踏み入れたその時から、妹の頭をもたげていたのだろう最大の疑問がやっと分かったと、酷く苦い納得を喉奥で味わいながら。

 

 

「ファルギオルのせいで無くなっちゃう前の……『幸せな』メルヴェイユを想いながら描いてた、から……それでスーちゃんの隣に、『私』も……そっかぁ……」

「……『残留思念』の妹に、『絵の世界の住人』の姉……ってこと? それはまた……」

 

 納得して、理解して、そしてリディーは想像する。

 

 自分が描いた絵の中に生まれた『自分』は、妹が違和感を覚えない程には()()なのだろう、と。

 自分が描いた絵の世界───『生み出したかった世界』を、妹は精一杯に駆けてきたのだ、と。

 

 

 その全てが()()()()()()()()()()()、という事実は、どれほどの絶望なのだろうか、と。

 

 

「…………スーちゃん、落ち着いて。私は───」

 

 肘から先が無くなった左腕で上体を支え、リディーは残る右腕を精一杯に伸ばした。

 

 その瞳に宿るのは紛れもない、漸く会えた妹を慈しむ心。

 数刻前までの『世界』を信じられなくなったのだろう妹への、無償の愛情で。

 

 

 そんな姉───()()()()()の姿を、瞳に映したスールは。

 

 

 

 

 

「あたしは…………()?」

 





※原作既プレイの方へ

 荒ぶる雷神ファルギオル:Lv200 @ VERYHARD(イメージ)

 そりゃ初見(&フィリスもソフィーも不在)で挑んだらそうなるよねって。



 死後に描かれた絵の中に生まれた残留思念。
 生前に入ったことのある絵の世界になら移動可能。

 ……はい。原作の『あの人』と凡そ同じ状態だったというわけですね。




 一方、原作ではツン期LvMAXからスタートするネージュちゃんですが……まあ、流石にね?

 また本編中では非常にヘタクs……実に個性的な画力を披露してくれるリディーちゃんですが、分岐EDの中に画家√がある辺り、真面目に絵の描き方を勉強すればイケる才能の持ち主であるのは確実です。本作の流れなら習得意欲も十分でしょう。
 あとは教材さえあれば……そこに300年モノの伝説的画家がおるじゃろ? そういうことだ。


※原作未プレイの方へ

 残留思念周りの設定は九割がた原作通り。
 絵の中で300年の孤独を暮らす少女(開祖の少女期思念)も設定そのままの原作キャラです。
 元の彼女が人嫌いを拗らせて孤独死したのも(ry たまにこういうことするんよ、ガ〇トさん。


 アトリエシリーズの裏ボス(おまけボス)@最高難易度は往々にしてレベル上限+最上級装備を揃えてなお、何度も挑みながらメタ対策を固めていかないと一蹴される強さになっています。
 そしてリディー&スールにおける裏ボス枠の一体が、ストーリー上で戦った雷神ファルギオルの真の力解放バージョン。すなわち拙作は初めからその状態だったらIFでもあるのです。

 「究極の雷耐性」の上から耐性低下+雷属性攻撃コンボで殴り倒してくる雷神マジ雷神。
 まあ、リディスーは割と簡単に「ずっとオレのターン」できちゃったりするので、勝つだけなら至極簡単なんですが。

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