幸せな絵画の王国   作:非単一三角形

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 原作初プレイ中の作者は、なんだか展開にご都合主義感が強いというか、リディスーの為にあるような世界だなあ、という感想をちょっとだけ抱いていたりしたのです。



第18話 想い描かれた世界で

 

 

「───それで、戻ってきたわけですか。いやはや何とも……よく話してくれましたね、スー」

「……ん」

 

「しかし、わたし達が『残留思念』なるものだったとは……いえ、何故こんな記憶があったのか、という疑問を解消できたことを喜ぶべきですね」

 

 

 アトリエ・ヴォルテール。

 ()()()()()()へと逃げるように戻ってきたスールを、その場所の主は唯穏やかに迎え入れた。

 

 傍目にも思い詰めた様子で、この『絵世界』の真実をぽつぽつと語った彼女に、聞き手に徹したルーシャが返したのは、ただただ穏やかな感謝の言葉。

 その影響もあってか、幾らか頬に血色を戻したスールは、しかし俯いたままに想いを綴った。

 

「……ルーシャが時々、先回りしてるみたいに色々知ってたの、そういうことだったんだね」

「……ええ。何らかの要因で過去に戻ってきたのだと、長らく考えていたのです。秘密にしていてすみませんでしたね、スー」

 

「…………ううん。そんなの言われても、わけわかんなかっただろうし……」

 

 稚き開祖(ネージュ)から与えられた真実は、双方にとって自己認識を破壊しかねない劇薬の如く。

 それでも気丈な振る舞いのまま謝罪を口にするルーシャに、スールはゆるゆると首を振った。

 

 

「それに、こっちこそ……ごめん、ルーシャ」

「……何を謝るのです、スー。いえ、その気持ちが全く分からないとは言いませんが、少なくともあなたが重荷に感じるべきことではないでしょうに」

 

「だって、その……あたし達、は……」

「……『私は誰?』というやつですか? ならば、わたしの回答を聞かせてあげましょう」

 

 スールがその身に突き付けられ、今もまた都全ての住民に当てはまる残酷な問い掛け。

 それを齎してしまった事実に心を沈める彼女へと、ルーシャは常の如くに揚々と笑って。

 

 

 

「───わたしはわたし。ルーシャ・ヴォルテールです! 現実? 絵世界? 知りませんねぇ! 何であろうと、わたしという存在を何ら損なう由にはなり得ませんよ! おーっほっほっほ!!」

 

 

 

「…………」

「おーっほっほっほ! ……何です? ぷにが豆鉄砲くらったような顔をして?」

 

「えっと…………強いんだね、ルーシャは」

「……ふむ」

 

 多分に呆れを含んだ、しかし確かに笑み崩れた顔で、スールはそれだけを口にする。

 その儚い微笑みに何を思ったか、やや考え込むように虚空を眺めたルーシャは、やがて悪戯でも思いついたかのように口角を上げた。

 

 

「……そうですね。今だから言ってしまいますが、わたしはちょおっとばかし前からなんとなーく実は『そう』なのかも、とは思っていたのですよー」

 

「…………はぁっ!?」

 

 果たして沈痛な空気を吹き飛ばす為にと放たれたそれは、前提を引っ繰り返す爆弾発言。

 間延びした声音の告白に素っ頓狂な声を上げるスールへと、そうでなくては、とばかりに頷いたルーシャは、続けてその胸の内に収めていた持論を告げていく。

 

 

「さまざま違和感を抱く機会はありましてね。まぁ、『作者』の正体は本気で予想外でしたが……あなた達二人がこの世界の中心になっている、というのをじわじわ感じてはいたんです」

「……世界の、中心? 違和感って……?」

 

「ええ。例えば……二人は最近【ドナーストーン】を作った事がありますか?」

「どなー……?」

 

「ああ、たしかスーは『ビリっとボム』とか呼んでましたっけ? 雷の初級爆弾ですよ」

「それなら……あれ? 調合のレシピ…………あれ??」

 

 名前を上げられた道具を思い出そうとしたスールが、しかし一拍の沈黙を経て首を傾げた。

 その戸惑う様に再度、抱いた確信を顔に滲ませたルーシャは、更なる『本題』へと話を進める。

 

 

「……やはりスーもでしたか。わたしも、その存在は覚えているのに調()()()()()()んです。しかも同系統の……()()()()()()()は全て同じ有様でして」

「っ、雷……!」

 

「本格的に確認を始めたのはつい最近なんですが、どうやらこの世界には『()()()()らしく……わたし達を除けば誰も、その単語を()()()()()()ことも判明しているんです」

「認、識……? な、なんでそんな……!?」

 

「さぁ? それこそ『リディー』に聞いてみるしかないでしょうね。彼女のことです。何かしらの理由はあるのでしょう」

「…………」

 

 

 おそらくは、敢えて。

 口に出された作者(リディー)の名に、その意図を感じたスールが、揺れの鎮まった目を合わせた。

 

 あの絵へと入ることが───()()()()()()()ことが出来たのは、()()()()()()()()()()

 既にルーシャからそれを知らされていた彼女は、言外に望まれている役目を理解し、頷いて。

 

 

 

「───オレや姉貴すらルーシャに言われて調べるまで全く気付いてなかったってのがなあ。絵が届いた日付とか、ちょっと調べりゃおかしいことは山程あったってのに……不思議なもんだぜ」

 

 

「…………あ、居たんだ、マティアス」

「……居たよ? 最初っから居たよ?? つーかそもそもオレ達が相談してたとこに後からお前が来たんだからな???」

 

 彼なりに空気を呼んだのかどうなのか。

 少女達のやり取りを、これまで無言で見守っていたマティアスの満を持したとばかりの発言に、スールからすっとぼけたような突っ込み(弄り)が突き刺さる。

 

「くふふ……でも安心しちゃったかも。これでマティアスにまで実は知ってた、なんて言われたらどうしようかと思ったからさあ」

「……嫌な安心の仕方しやがって、このやろー」

「ふふっ……相変わらずで、何よりですよ」

 

 調子を取り戻したスールの軽口に、こちらもまた半笑いで普段通りの悪態を返すマティアス。

 思わず、という調子で吹き出したルーシャは、顔を逸らしてこっそりと目尻を拭った。

 

 

「……ところで、絵が届いた日付って、どういうこと?」

「ん、ああ……元々オレ達は、ファルギオルが目覚めるまでの間に可能な限り不思議な絵の調査を進めておこうって考えてたんだ。理由は……分かるよな?」

 

「……『凍てし時の宮殿』、だっけ。それじゃ、二人の記憶だと……」

「ああ。……『前』は間に合わなかったんだ。だから今度こそ調査が出来るようにって色々と……これでも結構頑張ってたんだぜ?」

 

「そうだったんだ……でも、ファルギオルの襲来の方が先になっちゃったんだよね?」

「…………あの絵は、な。問題だったのは他の絵さ」

 

 消えた未来、だと思っていた『記憶』を参考に、主に都に絵が届くまでの交渉時間短縮を狙った努力があったことをマティアスは語る。

 対雷神を見据えた一縷の望み。届かなかった過去を覆そうとしていたのだと添えて。

 

「この前、改めて記録を調べ直したらよ。『ざわめきの森』も『氷晶の輝窟』も、実際にオレ達が調査に入った日の数日前に王城に届いた、ってことになってたんだ」

「……それって何かおかしいの?」

 

 されど振るわぬ結果に終わったことを悔いているわけではない様子に、スールは目を瞬かせた。

 そんな彼女へと、マティアスは自身を含む王族姉弟を戦慄させた『真実』を口にする。

 

 

「……おかしいんだよ。記録が事実なら、オレやルーシャは()()()()()調()()()()()()筈なんだ」

「え……?」

 

 

「けど実際にはお前ら双子がランク制度への加入や昇格を果たしたその日に、()()()()届いた絵の調査を始めたことになってる。まるで、それが切っ掛けで()()()()()()()()()()みたいにな」

「……っ!?」

 

 告げられた言葉に、呼吸を忘れたように呆然と口を動かすスール。

 そんな彼女に小さく呼び掛け、その手を取ったルーシャが落ち着かせるように言葉を繋いだ。

 

 

「絵の世界とは作者が()()()()と願った世界。『リディー』が想い描いた()()が、かつての日々の再現だったとするなら、わたし達が先に調査に入れなかった理由も分からなくはないんですよ」

「元から()()()()()()()()()()()()()、ってことなんだよな。リディーもまたなんでそんな絵を、とも思うんだが……」

 

「絵を描いた場所が『凍てし時の宮殿』、描かせたのが『ネージュ・シャントルイユ』であるならそれも話が変わってきます」

「幾ら何でも『ネージュ』その人が居たってのは予想外過ぎるけどな。ファルギオルを倒すための手掛かりを求めてたのは確かだし、そこんとこ言えばこれ以上ない人材だけどよ」

 

「……そこでなんですが、改めて聞かせてください、スー」

 

 

 

「その二人は……『作者(リディー)』と『開祖(ネージュ)』は、雷神について何と言っていました?」

 

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

『───その状態で聞こえてるかどうかは分からないけど、一応言っておくわね』

 

 

『その絵の世界……あなたが今日まで過ごしていた世界の【色のかけら】を探しなさい』

 

『それは不思議な絵の世界に生まれる、作者の想いが結晶化したもの。その性質上、作者の想いが最も強く込められた場所に、それはある筈よ』

 

『それこそがアイツを……破壊した王城に今も居座ってる()()()雷神ファルギオルを滅ぼすための切り札になるの』

 

 

『その世界の、最も想い入れの強いモノ。きっとあなたになら、分かるわよね?』

 

 

 

 

 

 

「…………ただいま」

 

 都を縦断する二本の大通り、海岸を背にする東側『リュンヌ通り』に構えた小さなアトリエ。

 晴々とした青空の下、微かな軋み音を立てて開いた扉を、少女はゆっくりと通り抜ける。

 

 幾度となく、当たり前に目にしてきた景色を視界に収めて、もう一歩。

 その家の奥、声に振り返ったもう一人の少女は、見開かれた瞳で「あ……」と頬を緩めた。

 

 

 

「おかえり、スーちゃん」

 

「っ……ただいま、リディー」

 

 

 

 ごくありふれた、当たり前のやり取り。

 慣れ親しんだ、当たり前の日常。

 

 何の不思議もない筈のその光景に、スールの足は、止まった。

 

 

「……スーちゃん?」

「…………ん」

 

 その様子に首を傾げるリディーに、声を返せないままスールの視線は床へと落ちる。

 帰路に就く間に思い決めていた筈の言葉は、何一つ像を作らずに喉元を滑った。

 

 『リディー』から知らされた真実。その際に抱いてしまった疑問。

 決して自己を見失わないルーシャの言葉で、漸く直視する勇気を抱けた自問の答えが、其処に。

 

 

 果たして自分は、『自分』にとっての双子の姉(リディー)とは、()()()を指すのか───?

 

 

 

「……スーちゃん、どこかに行くの?」

「! リディー……?」

 

 

 スールが明確な答えを出すよりも早く。

 胸元で手を握ったリディーが、どこか寂し気に響く声で、そう呟いた。

 

「なんでかな……今日のスーちゃん、急に()()()()()()()()()ような気がする」

「…………」

 

「私達、双子なのに……。生まれたときからずっと、一緒に居た筈なのに……おかしい、なあ」

「……おかしく、ないよ。双子だからって、いっつもおんなじ気持ちになるわけじゃないってば」

 

 リディーの言葉に首を振り、微かに口角を緩めたスールが、そう答える。

 妹の返答に一度目を閉じた彼女は、囁くように「そっか……」と口にした後で、顔を上げた。

 

 

「ふふっ……不思議だなあ。こんなときなのに、小っちゃい頃のスーちゃんを思い出しちゃった。後ろから『おねえちゃん待ってー』ってついてくるスーちゃん、ほんっとうに可愛いかったなぁ」

「なっ!? ……い、いきなり何の話してんのさ!」

 

「だって心配なんだもん。大きくなった今でもスーちゃんはお勉強嫌いだし、ごはんの好き嫌いは多いし、長い話は落ち着いて聞いてられないし……未だに夜におトイレに起きるたびに、怖いから一緒に来て―、って起こされる身にもなってよね」

「ぐはぁっ!? そ、その節は大変ご迷惑を……じゃなくて!!」

 

「お料理もできないわけじゃないけど、お片付けが苦手だから何か作ると台所はぐっちゃぐちゃになるし……あとは、虫さんが出ると必ず、早く追い払ってー、って泣きながら私に縋りついて……あれ? ねぇ、本当に大丈夫? だんだん本気で心配になってきた……」

 

 

「う、うぅー……! そ、そういうリディーこそ! 一日3回の腕立てで鍛えたつもりになってるもやしっ子のくせに、力仕事で泣くことになっても知らないんだからなー!」

「むむっ、最近は結構筋肉ついてきてるもん! 私はスーちゃんと違って、ひとりでもぜーんぜん大丈夫だよーだ!」

 

「ぐぬぬ……。そ、それにリディーは……絵がへたっぴで! 恋愛系の物語に変にのめり込んで! 人が良いから怪しい商売にすぐ騙されそうになって……! それから、それから……!!」

「……スーちゃん。ちょっと手ー出して?」

 

「え、何? …………えっ」

 

 悔しげに唸り声を上げながら、反撃の内容が浮かばずに閉口するスールへと、リディーは不意に一言呼び掛けた。

 請われるままに出した彼女の手に乗せられたのは、()()()()()に輝く一握り程の小石の束。

 

 ───【色のかけら】。

 

 誰に言われるでもなく()()理解できた自分自身に。

 何を言うまでもなく()()を取り出した『姉』に、スールは何度目かになる放心を味わって。

 

 

 

「…………お母さんとの約束その1! 『やる前から無理って諦めない!』」

 

「っ!? ……!!」

 

 

 突如。唐突。

 脈絡もなく掲げられた標語に息を呑んだスールは、しかし一瞬の空白を経て瞳に光を取り戻す。

 

 

 

「っ、お母さんとの約束その2! 『約束は絶対に守ることぉ!』」

 

「……ふふっ」

 

 

 姉より先に、とばかりに声を上げた妹に、リディーの頬が吹き出さんばかりの笑みを作る。

 それからもう一度、互いの目を合わせた双子は示し合わせたように息を吸い込んだ。

 

 

「「お母さんとの約束その3! 『本は大事に扱うべし!』」」

 

「「お母さんとの約束その4! 『怪しい人には近づかない!』」」

 

「「お母さんとの約束その5! 『悩むよりも前に行動すべし!』」」

 

「「お母さんとの約束───!」」

 

 

 母親から言い聞かされて育ち、二人の根幹を成す幾つもの約束。

 声を揃え、息を合わせて宣言していくそれは、双子の間だけに意味のあるひと時。

 

 

 言葉は要らない。……言葉には、しない。

 合わせた瞳に宿るのは、ただそれだけの意思。

 

 

 

「……それじゃ、行ってくるね」

 

「うん。いってらっしゃい」

 

 

 

 くるりと玄関扉に振り返ったスールに、リディーもまた頷きと共に見送りの言葉を口にする。

 どこに、とも言わなかった妹を、その遠ざかる背中を、まっすぐに見つめ続けて。

 

 

 

 『幸せな王国』の、『素敵な錬金術士』は。

 

 小さなアトリエに、ひとり。

 

 

 

「頑張ってね…………『スーちゃん』」

 





※原作既プレイの方へ

 ゲームのストーリーからリディスーの為にあるようなご都合主義を感じる。

 ならば "リディスーの為に『描かれた』世界" をコンセプトに一作書いてみようか。

 ……そんな思いつきから本作は生まれたのです。
 エスロジ以前のアトリエならば時限で色々進むところを、リディス―≒プレイヤーが進めるまで何日何ヶ月経とうが停止した世界。視点を変えれば実に恐ろしすなのですよ。


 また逆行(もどき)の対象としてルーシャを選んだ最大の理由が今話の会話。
 原作からして鋼の自己肯定心を持ち合わせている彼女ならば、こんな設定の世界でもこう言ってくれるという判断からです。どんな状況だろうと自己を貫いて生きていけるタイプの娘ですよね。


 おまけ:この世界には『雷』が無い云々 > 第1話 リディーの台詞にご注目。
 その他にもちょくちょく仕込んでおりました。お暇があれば探してみて頂ければ。


※原作未プレイの方へ

・お母さんとの約束その〇〇

 原作リディスーが事あるごとに口にする標語。その幾つまで存在するのかは不明。
 作中で登場した最も数の大きいものは、その27『遊びたいときは思いっきり遊ぶ!』なのだが直後リディーから「そんなのあったっけ?」と突っ込まれ、スールの捏造であることが判明する。
 次点が、その17『たまには見て見ぬふりもしろ』なので、最低17個はある模様。多いなあ。
 

 原作でも故人の残留思念という存在(前話の開祖とは別人)は物語後半に深く関わってきます。
 勿論、拙作のように自己認識の崩壊(アイデンティティクライシス)やら沼男問題(スワンプマン)を取り扱ったりはしません。やさしいせかい。

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