幸せな絵画の王国   作:非単一三角形

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 一応、前作シャリー二次のような実質二部構成を予定していたのですが、蛇足になりそうかなと感じております今日この頃。
 設定上、『海底宝物庫』も『エテル=ネピカ』も『星彩平原』も出せそうにないですからねえ。



第19話 雷禍語られぬ絵画

 

 

 ───其れは、人々の畏れと共に在った。

 

 

 遥かな太古の時代より、営みの尽くを焼き払う暴威であり。

 如何なる乞いも、如何なる守りも、敢無く砕き焦がす理不尽であり。

 荒天より稲光と共に降り注ぐ其れは、只人に抗うことなど許されぬ天の怒り。

 

 

『矮小な人間共めが……!』

 

 

 いつしか人々は、畏れと敬意を込めて其れに名を付けた。

 空焦がす災いを、荒ぶる神の癇性を祈りによって鎮め、あえかな慈悲を賜らんと。

 

 

 故に、天災。

 

 故に、荒神。

 

 故に───雷神。

 

 

 

『灰燼に帰してくれる……! 何もかも……!!』

 

 

 

 ───『荒ぶる雷神ファルギオル』。

 

 無数の雷光に蹂躙されたアダレット王城内。

 焼け焦げ雨水降り注ぐ玉座の元に、其れは顕在していた。

 

 栄華の象徴を踏み躙ってなお、黄金に輝く四肢───否、()()に荒々しく迸るは破壊の雷。

 数百年という長きに渡り、矮小な世界に己を封じ込めた『人間』なる種族への赫怒を滾らせて。

 

 

『うおおおおおおおおおおおおおっ!!! 人間どもめぇぇぇぇ!!』

 

 

 狂わんばかりの激情が、怒れる荒神として生まれたが故の怒りなのか、はたまた神たる己が身が人の手に妨げられたことへの憤りなのか。最早其れ自身にも判然とはしないままに。

 癇癪のように踏み鳴らされる四つの脚が、焼け残った絨毯ごと石床を踏み締め、軋ませた。

 

 その怒りに蹂躙された王城から、都から、既に人の気配は消えて久しく。

 それでも尚、鎮まる刻を知らぬ荒神は、やがて灯の消えた営みの跡へと意識を向ける。

 

 幾度も、何度となく、雷を降らせ砕いてきた、人の築く文明の証。

 何度撃ち抜いても収まらないそれへと、今一度その暴威を振るわんと片手を掲げ───

 

 

 

 

「───【虹のパレット】に、【色のかけら】」

 

 

 

 

『……ッ!』

 

 穿たれた壁の彼方、眼下の都跡に向けられていた雷神の意識が、俄かに逸れた。

 豪奢な兜にも見えるねじくれた頭部が、開け放たれ残骸と化した大扉へと向けられる。

 

 彼の者の気を引いたのは、今も降りしきる雨音と轟雷の中を、奇妙な程に凛と響いた呟き声。

 最早扉として用を為さない瓦礫の傍、杖を突き立て佇む一人の少女の姿を、その目が捉えて。

 

 

『貴様は……』

 

「二つを手にして念じれば、()()()()()()()()()()()()()される」

 

 

 雷神は覚えていた。

 己の前に立ちはだかり、散々に蹴散らした有象無象、その内の()()だと。

 

 雷神は嗤った。

 卑小な、脆弱な、吹けば消し飛ぶ羽虫が一つ、性懲りもなく現れたと。

 

 

『……去ね』

 

 

 故に、特に感慨など抱く由もなく。拘泥すべき何かなどあろうはずもなく。

 雷漲る剣腕をゆっくりと振り上げた雷神は、ただ一言の元にそれを振り下ろす。

 

 その瞬間、彼の者の中では『終わったこと』になっていた。

 一振りで消えた存在に、また一振りを与えた。ただそれだけの事であったから。

 

 

 だからこそ、想像もしなかった。

 勘定にも入れなかった。

 

 ()()に己が脅かされる───敵と成り得る可能性を。

 

 

 

()()()()()()()()()。私の、絵画(世界)で……!」

 

 

 

 ()()()になるまで。

 

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「───人々の『雷』への畏れが生んだ、破壊の荒神」

 

「幾千の恐怖から形作られた無限に近い力と、不死身に近い神性……だけどそれらは、人の純粋な想いのかたまりである『不思議な絵』の世界では発揮できない」

 

「ネージュちゃん……ネージュ・シャントルイユさんは、その弱点をついて『不思議な絵』の中にあなたを封じ込めた。……流石に、憶えてるよね」

 

 

『……小賢しい。小賢しいわっ!!』

 

 

 少女が手にしたパレットと、小石程の欠片から眩く放たれた、虹色の光。

 

 渦を巻くように広がった()()が崩れた城内を───世界を包み込むこと一瞬。

 そこには在りし日の謁見の間が、立ち尽くす雷神を中央に、その威風を取り戻し佇んでいた。

 

 

 ───現実(世界)の塗り替え。

 それは不思議な絵の開祖が辿り着いた、世界創生なる()()を扱う錬金術の極致。

 

 破壊された城という現実を、かつての城内という絵画(世界)染め上げる(上書きする)

 まさしく『絵』空事でしかない無理無茶無体を、世界(現実)に押し付けて見せるが錬金術士。

 

 

『今度こそ、消し炭にしてくれるわ! この、人間があ!!』

 

 

「けれど当時のネージュちゃんにとっても、あなたを封じるのが精一杯だった。……だから私は、そこからもう一歩だけ先を目指すことにしたんだ」

 

 再度。鈍く輝く刀身が振り上げられる。

 絶死絶命の刃を眼前に、隻腕隻眼の少女───リディーが浮かべたのは、薄い微笑み。

 

 

「……良い事を教えてあげるね、ファルギオル」

 

 

 つい先程、塗り替わる世界の傍で剣腕が叩きつけられた石床を、視界の端に。

 雷に焼き焦がされるどころか、()()()()()()()それを、しっかりと確認して。

 

 

 

「この世界(絵画)に……『幸せな絵画の王国(私の絵)』に、『(あなた)』は無いの」

 

『…………は?』

 

 

 

 二度。床を叩いた剣先が、乾いた音を立てた。

 

 天地を貫く火の矢。黒雲に轟き猛る白光。

 現実(世界)に人の歴史ある限り、畏れ崇められるモノ───されど今此処は、描き出された幻想の園(絵画の世界)

 

 

私の絵(ここ)では、誰も、あなた()の事なんて()()()()んだから」

 

『貴、様…………貴様ぁぁっ!!?』

 

 

 三度、四度。子供の癇癪が如く振り回される腕に、しかし猛き雷光は宿らず。

 得意気に嘲り告げる矮小な『敵』の姿に、雷神の身は更なる激昂に満たされ、咆え猛る。

 

 されど怒れども、怒れども、一向に(ちから)の入らない己が身。

 憤怒を動揺が凌駕した瞬間、数百年前のそれを遥かに上回る危機感が、雷神の総身を貫いた。

 

 

 ───再び封印の憂き目に遭えと? なんたる屈辱か!

 

 ───否。……封印で、()()のか?

 

 ───これほどに零落した我が身、千々に打ち砕くにさしたる労苦も……!!?

 

 

『……ッ! 【魔神大雷「させないよ」があぁぁッ!!?』

 

 焦りを顕に前脚を踏み込み、刀身を振り被った雷神が、弾かれたように身を仰け反らせる。

 苦痛と共に地を衝く四肢で踏鞴を踏んだ彼の者は、何が起きたと見渡す視界に、()()を見た。

 

 

 跳ねるように宙を舞い、指に引っ掛けクルリと回転する()()()()

 銃口から薄く一筋、立ち上った白煙をふぅと吹き消す呼気に被せて、先の()()()()()()()()()が壁のどこかで甲高い音を立てた。

 

 

「───『雷神討伐の英雄』スーちゃん、華麗に登場!」

 

「ふふ……っ!? うん。やっちゃえ、スーちゃん!」

 

 

『…………ふざ、けっ……ぐおぉっ!?』

 

 二丁拳銃を構えて小粋な姿勢(ポーズ)をとる『二人目』に、雷神が怒りと疑問を抱けたのは一瞬。

 つい先刻、塗り替えられた世界と共に、その住人をも現実(こちら)に顕現させた───などという答えが彼の者に出せる筈も無く。

 

 

「バトルミックス、【ブリザードウェブ】! おーほっほっほ! 無様ですねぇ、雷神さん!」

 

「オレ来る必要あったかなあ、これ……なんてな。オレも忘れんなよ、っと!」

 

 

『ぬ、ぐ……があぁぁぁっ!!』

 

 

「ルーちゃん……マティアスさんも……本当に……っ」

 

 水で編まれた氷の網が雷神の身を捕え、藻掻く六肢を振り抜かれた剣撃が転がし倒す。

 絵画の世界に()()した二人の姿に、目を見開いたリディーの頬を一筋、雫が落ちた。

 

 

「……おーほっほっほ! しかし、ちょっとばかし残念ですねぇ。折角この傘に施した雷対策が、すっかり無駄になってしまいましたよー」

「あぁ……雷の無い世界を描いて現実を塗り潰すってなぁ。目の前で見てもワケ分かんねぇぜ」

 

「それだけではありません。『あっさり討伐された雷神』という要素も含まれているはずですよ、この世界()には。いやはや、リディーもなかなかどうして容赦がありませんね」

「マジか、道理で……もう発想が怖えんだよ、錬金術士(おまえら)……」

 

 

「ふ、ふ……っ、それもネージュちゃんのお蔭だよ。昔の自分が封印までしかできなかったことを気にしてたから……今度こそ、しっかり倒しきらなきゃ」

 

 敢えて視線を逸らし、高笑いと軽口を並べたルーシャに、目を拭って答えるリディー。

 少しばかり素直ではない開祖(ネージュ)から託された想いを胸に、彼女は一歩、傾いだ身体で踏み出して。

 

 

「一発大きいの、いきます。援護をお願いしますね」

「ええ、了解です」

「ああ、任せな」

 

「スーちゃん、準備は良い?」

「……おうよ! とっておきだー!!」

 

 傍らに立つスールに一言、頷き合った双子が杖を突き立て、銃を転がす。

 それぞれ空いた右手を、左手を、かざすその先は、未だ氷網に囚われ呻く雷神。

 

 広げられた二つの掌、集まる光は()()()()()

 束ね重ねて白色に染まる双子の魔力は、さながら発射直前の砲身にして砲弾。

 

 

 錬金術士にとって、魔力の使い道とは即ち『調合』。

 想いを籠め、知識と技術を混ぜ込んで、数多の素材に新たな形を与えるが錬金術。

 

 果たして、その魔力を魔物への攻撃に転用するとするならば?

 常の素材とは異なり、形を変えたがらない『素材』に、過剰な魔力を注げば結果は如何に。

 

 

『や、やめ……! ああぁぁっ!?』

 

「おっと、逃がさねぇぜ?」

「大人しく二人に、『ボコボコに』されてくださーい?」

 

 膨らみゆく光に、向けられた雷神が抱いた『畏れ』こそが、その証左。

 最期の足掻きとばかりに射線を逃れようとした彼の者を、駆けつけた二人の追撃が縫い留める。

 

 

 

「……リディー」

「っ、スーちゃん?」

 

「…………大好きだよ」

「! うん。私も大好きだよ、スーちゃん」

 

 

 重ねた手のひら、真っ白な光に照らされた顔を合わせて。

 最後にもう一度、頷き合った二人が大きく、深く、息を吸い込む。

 

 

「「───【熱血双子】ぉ!」」

 

 

 鏡合わせの如く、かざした手を振り被り、大股で一歩。

 溜めた光を殴りつけるように、揃えた拳は振り下ろされた。

 

 

「「「【全力アタック】!!」」」

 

 

 放たれた白き光の奔流が、瞬く間に雷神の体躯を覆い尽くす。

 抵抗が感じられたのは僅か。見上げんばかりだった黒影は、やがて白光の中に溶けてゆく。

 

 遥かな太古より崇められた『畏れ』の具現。

 破壊の限りを尽くした荒ぶる雷の化身。

 数百年の封を破りて顕現した荒神は。

 

 

『あ……が……っ!?』

 

 

 神への『畏れ』を、その欠片すらも語られぬ夢世界の片隅へと消え去った。

 

 

 永遠に。

 





※原作既プレイの方へ

『幸せな絵画の王国』フィールド効果:雷属性の威力-100%(イメージ)

 あらゆる神魔妖怪にメタを張ってくるが錬金術士。一番怒らせちゃ駄目な人種ですぞなもし。
 なお弱点が無ければ世界規模、あるいは銀河規模の破壊力でゴリ押ししてくる模様。


 虹のパレットの修理については展開の都合で省略。
 リディーが絵を描く傍らで修理しておいた、とでも解釈していただければ。
 ……というかソフィー達待たせてるのに絵の出入り多過ぎですよね、あの辺のイベント。

 そもそも何故ネージュは壊したまま直してなかったのだろうか。必要ないと思ってたから?
 原作でもオネットさんが娘達+夫の指導で錬金術を(釜を爆発させたとはいえ)使えてるので、残留思念だと錬金術使用不可、ということは無い筈なんですが。


※原作未プレイの方へ

 以前にも触れましたが、ファルギオル周りの設定は大体捏造です。
 原作通りなのは、周囲を絵の世界で塗り替えると著しく弱体化する、ぐらいですね。


・不思議な絵の世界で現実塗り替え

 原作通りです。またフレーバーテキスト準拠ではありますが絵世界住人の一時的召喚も同じく。
 ……冷静に考えるとヤバイことやってますが、割といつものアトリエなのです。

 以降、戦闘中に使用することで今まで旅した任意の絵世界に塗り替える道具の作成が解禁され、各世界ごとのフィールド効果(敵味方の区別なく影響を及ぼす環境効果)を駆使した戦略の活用が可能になります。


・『熱血双子全力アタック』

 ゲームにおけるリディー×スールのコンビネーションアーツ。いわゆる超必。双子かめは〇波。
 攻撃の理論は捏造オブ捏造。単に魔力をぶつけてるだけかもしれません。
 本来使用可能になるのはもっと後なんですが……細けぇこたあいいんだよ。

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