幸せな絵画の王国   作:非単一三角形

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 諸々の順番を前後させている理由は様々。
 二次創作としての主要な改変要素が明示されるのは暫し先となる予定です。



第2話 おふれと試験と幼馴染と

 

 

 ―――幼馴染かつ同業者(ルーシャ)による発破の効き目は覿面であった。

 

 あわや大惨事になりかけた作業場を再々度整理し。

 火加減や材料の配置等々すり合わせを行い、再度の調合に挑む双子の姿はまさしく意気軒昂。

 

 

「……ごくり。いい? リディー。今度は中和剤の種類、間違えちゃダメだからね?」

「……す、スーちゃんこそ。またかき混ぜ棒でフラスコ、割らないでね?」

 

 

 ……けれども奮起して。気合満タンで。出せる限りの努力を尽くして。

 

 それで直ちに万事が解決するようならば、人の歴史に『苦労』の二文字は刻まれないのだ。

 

 

 

 

 

 

「…………結局、徹夜になりましたな。ちゃんとできたからよかったけど」

「うん。目がしょぼしょぼする……。あとはこれを届けるだけだよね……」

 

 紆余曲折、長い長い奮闘を終えた双子の顔に差し込むは、目にも眩しき朝の日差し。

 その手元に鎮座するは、無事に完成した調合品───錬金術においては()()()()()たる傷薬。

 

 

「「…………『師匠』が欲しい」」

 

 

 示し合わせの拍すら取らず。

 疲労と寝不足と空腹に萎びた二人の口から、揃い溢されたのは切実な願いだった。

 

 

「私たち、やっぱり実力不足だよ……今日までほぼ独学でやってきたけど、限界を感じる……」

「だよねぇ……。あーもう、あのバカ親父がもっとしっかりしてくれてればなぁ」

 

「お父さん、簡単な調合か半分ふざけたような道具しか作れないもんねぇ。……でも、ただでさえメルヴェイユって錬金術士少ないのに、師匠になってくれそうな人なんて……はぁ」

 

 遠い理想、儘ならない現実。

 最も身近にいる錬金術士を思い浮かべた双子が、浅からぬ失望を混ぜ込んで溜息を吐く。

 

 

 双子が生まれ育った王都メルヴェイユにおいて、錬金術、錬金術士への関心は決して高くない。

 これは、アダレットという国がこれまで錬金術に特別な価値を見出してこなかった証左でもあるわけだが、二人にとっての問題はそこに留まらない。

 

 所違えば国家資格に類する肩書も存在する職、錬金術士。

 それ相応の待遇、またそれに応じた恐ろしいまでに狭い門戸を構える試験の存在───いずれも双子を含めたメルヴェイユの───アダレット王国の錬金術士にとっては縁遠いもので。

 

 畢竟、そのような環境下に他者の教導を担える錬金術士が現れる可能性は非常に低い。

 それが縁も所縁もない人間ともなれば、最早俎上に載せるまでもなく。

 

 

「……ねぇ、スーちゃん。私たち、本当に『国一番のアトリエ』になれるのかな」

「……こらこら、弱気になっちゃダメだよ、リディー」

 

 再度、リディーが口から溢した不安に、スールが緩く首を振る。

 部屋の奥、棚上の写真立てに飾られた一枚の写真に視線を送りながら。

 

 

「『家族みんなで、国一番のアトリエになる』───それがお母さんとの約束でしょ?」

「……ごめん、そうだよね。ちょっと弱気になっちゃった。……お母さんとの約束を守る為にも、もっと頑張らないと」

 

 

 ───遡ること三年前、病により他界した双子の母親、オネット・マーレン。

 彼女が愛する家族へと遺した言葉に、写真に残された暖かく朗らかな微笑みに、俯き気味だったリディーが陰気を振り払うように拳を握り直す。

 

 

「……うん。丁度、雨も上がったみたいだし、広場まで完成した道具の納品に行こっか」

「だね。ぱっぱと届けて報酬もらって……その後は惰眠を貪ってやる。覚えてろよバカ親父……」

 

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「───なんか人が多いみたいだね。『おふれ』でも出たのかな?」

「うぇー……。税金が増えるとかだったらやだなぁ……」

 

「それは私も嫌だけど……だからって見ないわけにいかないでしょ。ほら、行くよ?」

 

 依頼品の納品と、あわよくば新たな依頼を探す為にと『王城前広場』へ足を運んだ二人。

 そんな彼女達の目に入ったのは、広場中央の掲示板に群がる、常より増した人集りだった。

 

 国の新たな取り決め、呼び掛けというのは得てして自分たち一般市民には面倒なモノ。

 そんな認識のスールから気怠げな呻きが出るも、もしもそうなら尚更「知りませんでした」では居られないと、双子は徹夜明けの身体を引きずり、人混みの隙間を潜り抜けていく。

 

 

「えーっと、なになに……? 『求む、錬金術士』……?」

 

 

 されどその日の『おふれ』は、そんな予想に反して───どころではなく。

 

 

 

"求む、錬金術士"

 

"アダレット王国は錬金術の有用性を認め、

以後、積極的に錬金術士を招致することに決めた"

 

"そのため、新たに【アトリエランク制度】を創設。

アトリエの実力に応じ、ランクを定めることとする"

 

"各アトリエには、ランクに応じて補助金をはじめ、

さまざまな優遇措置を取る"

 

"なお、ランクは試験により変動するものとする"

 

"制度への参加を希望するアトリエの代表者は、

王城まで受付に来ること"

 

"以上"

 

 

 

「スーちゃん! これ……!」

「うん……! すごいよ、この制度……! だって、ランクを上げていけば……!」

 

 それは、諸国に比べて錬金術士の価値が低かった王国の、青天の霹靂と呼ぶべき方針転換。

 文を追い、口内で読み上げる毎に、輝きを増していく二対の瞳。

 

 互いの脳裏に描かれた絵図を確信し、今一度目を合わせた双子が声を揃え

 

 

「『国一番のアトリエ』に「お金がたくさんもらえる!」なれる! ……ん?」

 

 

 揃わなかった。

 

 

「……へ? 『国一番のアトリエ』……?」

「うん。ほら、あたしたちのアトリエって、お客さんぜんぜん来ないじゃない?」

 

「そうだね。だいたいヴォルテールに取られちゃうし……」

 

 掲示文に含まれた『補助金』をはじめとする『優遇措置』に注目していたのが姉、リディー。

 一方の妹、スールが目を付けたのは、制度に参加するアトリエへの『ランク付け』の一文で。

 

「でしょ? でも、この制度は試験がキモ。完全に実力勝負で、お客さんの数は関係ない」

「そっか。人気じゃ勝てなくても、ランクだったら勝てるかもしれない……!」

 

「そういうことー。……最高のランクに上がれば、文句なしに『国一番のアトリエ』じゃない♪」

 

 それは、遠い遠い夢物語でしかなかった目標への、初めて見えた明確な道筋。

 妹の言葉からそれに思い当たったリディーの瞳に、先とは異なった輝きが宿る。

 

 ……なお、その肝心の実力が足りないのでは? という懸念は双子の頭から消えていた。

 

 

「なるほど、すごい……! スーちゃん! 今すぐ参加しに行こう! ねっ!」

「勿論! 受付は王城だったよね。くふふ……! 待ってろよ、『国一番のアトリエ』ーっ!」

 

 

 

 

 

 

 

「───まさか、制度に参加するのに試験があるとはね……」

「うーん、地味に難しそう……。大丈夫かなぁ……」

 

 

 掲示を目にした勢いのまま意気軒昂に王城へと赴き、受付にて要件を告げた双子。

 果たしてその手に返ったのは、『制度加入認定試験』と銘打たれた一冊の調合手順書(レシピ)であった。

 

 試験課題として受け取ったそれに軽く目を通し、王城を後にしながら不安げに唸る二人。

 その傍らには、実に対照的な様子で胸を張り歩く人影が一つ。

 

 

「───制度に加入した時点で一定の優遇が約束されるのですから、最低限の実力を確認するのは当然じゃないですか。実力のない錬金術士……どころか、ただ受付に来ただけの人間に補助金だけ受け取られるようになってしまったりしたら、それこそ大問題でしょう?」

 

 

「ぐぐ……! なんて正論を……ルーシャのくせに……」

「わたしのくせに、とは何ですか! ……こほん。まぁ、あなた達の実力では制度に参加するのも難しいかもしれませんね。おーっほっほっほ!」

 

 偶然か、はたまた必然か。双子と時を同じくして王城の受付を訪れていたルーシャ。

 よもや同じ目的───制度参加の希望の為かと問いかけた二人に、常の高笑いと共に返ったのは双子にとって衝撃の返答で。

 

 

「……この試験課題、()()()()()()()()()んだよね? ちょっと、ヒントくれたりとか……」

「ダメです。そこは公正を期しませんと」

 

「だよねー。……はぁ」

 

 試験課題の作成者、すなわち運営側の一人。

 以降は彼女および彼女が主を務めるアトリエ・ヴォルテールも制度を享受する一アトリエとなるとは言うものの、彼我の間に広がる()()()格差に双子が再度打ちのめされたのは言うまでもない。

 

 

「…………にしても、お二人とも? それほど自分達の実力に不安があるのでしたら、どなたかに師事を受けようとは考えませんでしたの?」

 

「あー……それは、まぁ」

「ほら、メルヴェイユって錬金術士少ないし……」

 

 不意に真顔を作ったルーシャの実に奇遇(タイムリー)な質問に、目を逸らした双子が歯切れ悪く返答する。

 二人にとっては今朝出したばかりの、それでいてどうにもしようがない現状から出た結論を。

 

 

「……()()()()は?」

「へ?」

 

 

「ロジェおじさまには教わっていませんの? お父様から、あれでも昔は凄腕の錬金術士だったと聞かされているんですが……」

 

 しかし、それを聞いたルーシャの口から出たのは、双子には身近ながら思いも寄らない名前。

 さらに続けて出された情報に、揃って浮かんだ胡乱げな表情が突き合わされた。

 

「……お父さんが? 凄腕錬金術士?」

「……ルーシャのお父さんの勘違いじゃない? それか人違いとか」

「いえ、そんな事は…………ふむ」

 

 結果、『バカ親父』のダメっぷりを骨身に沁みさせた双子から出るのは、()()()()()疑いの眼。

 そんな二人の反応に、ルーシャは一瞬の戸惑いを見せた後、考え込むように口元を手で覆う。

 

 

では、おじさまは……そうなると……

 

 

「……ルーちゃん?」

「いえ、なんでも。…………そうですねぇ、ヒントを出すわけではありませんが……」

 

 塞がれた口の呟きは、双子の耳には入らず。

 そうしてわざとらしく小首を傾げたルーシャは、さも独り言という風情で言葉を続けた。

 

 

「ただレシピ通りの調合をするだけの錬金術士では、国としても優遇する甲斐がないとのことで。試験課題に関しても、ちょっとした工夫を求めるようには頼まれましたねぇ」

「く、工夫? それって……」

 

「おぉっと! こんなところで油を売っている暇はありません。早くアトリエに戻って、山積みの依頼を片付けにかかりませんと。……それでは!」

「あっ、ルーちゃん……! ありがとう、またね!」

 

 実に白々しい口上を残し、足早に立ち去っていくルーシャ。

 遠ざかる背中に掛かったリディーの感謝に、ひらりと振られた片手だけが応えるのだった。

 

 

 

 

 

 

「むー……。工夫って言われて改めて読んだけど……やっぱり何も思い浮かばない……」

「あー……まぁ、取り敢えず帰って一回寝てからにしない? 徹夜明けの頭じゃ、思いつくものも思いつかないよ……」

 

 

「───ねぇ、あなたたち。聞きたいことがあるんだけど」

 

 

「……それもそうだね。はぁ、こんなときに相談できる師匠がいてくれたらなぁ……」

「だねぇ。ルーシャにも言われちゃったし……だけど師匠になってくれそうな腕の良い錬金術士、なんてそうそう見つかるわけ……」

 

 

「───ちょっと、聞きなさいよ! あなたたちよ、あ・な・た・た・ち!」

 

 

「えっ!? あ、ああ、えっと…何かご用ですか?」

「道を聞きたくてね。王城って、こっちで合ってる?」

「ええ、合ってますよ。……王城に観光にでも行くんですか?」

 

「いいえ、王様から呼び出されたのよ。それも、直々にね」

「え……えええええ!? 王様から直々にって! あ、あなたは一体……!?」

 

 

 

「ああ───アタシはイルメリア・フォン・ラインウェバー。ふふん! 今をときめく、超一流の大天才錬金術士よ!!」

 





※原作既プレイの方へ

 イルちゃんと出会う流れの都合の良さよ。
 これぞまさしく、やさしいせかい、ですよね。


 Q. おや、ルーシャの様子が……?
 A. 二次創作ですから。

 Q. まさかミレイユさん不在?
 A. ちょっと話の都合で出番キャンセル。画面に写るのはもうちょっと先の予定なのです。


※原作未プレイの方へ

 どこの悪役令嬢だよ、と問いたくなる笑い方のルーシャさん。原作通りです。念のため

 アトリエシリーズでは定番でもある主人公の幼馴染枠かつお嬢様枠。
 しかし何気にこの二枠を兼任しているキャラは前々々々々々々々作のクーデリア以来だったり。

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