幸せな絵画の王国   作:非単一三角形

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 作中時系列順に製作されていたなら、何かしら言及はあったと思うのです。



第25話 奇跡の終わり

 

 

「───レンプライアの、核?」

「うん。……都に来てくれた公認錬金術士の人に言われたの。錬金術で作られた絵の中の世界って本当に大丈夫なのかって……それで『不思議な絵』について改めて集めた情報の中にあったんだ」

 

 

「核を倒せば、その絵の世界におけるレンプライアの増殖は止まる」

 

「その圧倒的な強さは問題ながら、不思議な絵を後世に残すには核の駆除が何より必要───」

 

「そこで、()()()()()()()()()()()()()を見つけて調査に来たんだけど……まさかスーちゃん達の世界に繋がってたなんて……間に合って本当に良かったよ」

 

 

 『黒』の地平を臨む、『黒』の空の下。

 互いに想像もしない不意の再会を経たリディーとスール。

 

 傷付いた身体を癒す傍ら、妹の問い掛けに返ったのは『黒の絵の具』の知られざる有り方。

 開祖すらも知らない───彼女の時代には判明していなかったのだろう『生態』を聞きながら、語りながら、二人が視線の先に見据えるのは、それだけの『間隙』を作り出す轟音の主達。

 

 

 

『うおオおおおオオおおオッ!!』

 

『キュオオオオオオオオオ……ン』

 

 

 

「描いた絵を実体化する道具で、あいつ(ファルギオル)を…………絵、上手くなったんだね、リディー」

「…………言いたいことは分かるけど! 言いたいことは分かるけど!! そうじゃなかったら、あの世界だって描けなかったでしょ!? スーちゃんったら、もー!」

 

 かつて姉が上機嫌で描いていた、()()()()()()()、はたまた見ようによっては()()()()()()()、そんな絵の数々を脳裏に浮かべて眼差し優しく。

 他方、自身の腕前如何を自覚はしていたリディーから、妹の言い様に抗議の声が飛ばされる。

 

 かつての王国を偲び描かれた、写し絵の如き栄華の『王国』。

 今この場のやり取りすらも、その『産物』と知りながら、どこか時間を惜しむように他愛のない言葉を交わし、笑い合って。

 

 

「……この絵、アトリエの地下室にあったんだ。お父さんの画廊に……『不思議な絵』になってるなんて思ってなかったらしいんだけどね」

「ああ、やっぱり? ……そこにお母さんが居たってことは……なんていうか、親子だねぇ」

 

「っ、……お母さん、が? 親子って…………!」

 

 妹の言葉に驚き、一瞬遅れて意図を察したリディーが喉を詰まらせるように息を呑んだ。

 そんな姉の様子を横目にスールは、ただ淡々と、伝えるべき()()を口にする。

 

 

「うん。多分、あたしと同じ残留思念、だったんだと思う。……レンプライアにやられちゃって、ぐちゃぐちゃだったけど」

「……っ」

 

「こっちの世界の『リディー』も巻き込まれちゃったみたいでさ。あたしは、たまたま別の場所に居たから、()()ならなかった」

「……スー、ちゃ」

 

 

 

「ねぇ、リディー?」

 

 

 

 静かに、瞳に光を宿して。

 

 スールは、告げる。

 

 

 

「奇跡は起きないから奇跡、なんてよく言われるけど……あたしは、もう一個あると思う」

「……もう一個?」

 

 

「奇跡は……たった一度。ほんのちょびっとの間だから、奇跡って言うんだよ」

「……!」

 

 

「何度も、ずっと、奇跡に遭えてたら、奇跡じゃなくなっちゃう。……そうでしょ、リディー?」

「…………スーちゃん」

 

 

 

 

「……おんなじこと、言うんだね」

 

「リディー?」

 

 

「ううん。……うん、分かったよ、スーちゃん。それじゃ───()()、しよっか!」

「へっ? ……競争?」

 

 小さく、小さく、何かを呟き頷いたリディーから、跳ねるような声の宣言が上げられた。

 突然の、場違いとも思える単語に目を瞬かせるスールに、ふわりと笑った彼女は言葉を続ける。

 

「どっちが先に、あのレンプライアの核を倒せるか……どっちの方が凄い錬金術士になれたのか。最後の競争だよ。スーちゃん」

「……むむっ、成程ねぇ。そういうことなら負けないよ、リディー!」

 

 

 

『うオ オおお おオオオ っ!!』

 

『キ()オオオオオ(ディ)オオオオ(スー)……ン』

 

 

 先に使われた道具の限界か、暴威を轟雷にて押し留めつつも、崩れ消えていく雷神の写し絵。

 錬金術士の走狗と化した彼の者の背へと、迷いを消した双子は意気軒昂に向き直って。

 

 

「わたしの本気の世界(絵画)を見せてあげる。泣いても知らないよ、スーちゃん?」

「へへーんだ。リディーこそ、吹っ飛ばされたって知らないからね?」

 

 

 かつては重ね、その雷を虚無に還した掌に握るのは、それぞれの錬金術が辿り着いた集大成。

 無数に束ねた絵世界の欠片(アルケウス・アニマ)と共に、同時に奏でるは空前絶後の即興錬金。

 

 

 巨大に膨らんだ禍々しいキャンパスが。

 

 業炎を噴き上げるカラフルな大蹴球が。

 

 掲げられた二つの手から、弾けるような輝きを湛え、解き放たれる。

 

 

 

「エクストラミックス! 【ネメシスキャンパス】!!」

 

「エクストラミックス! 【超絶必殺メテオボール】!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                キュ(さよ) ()……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───『黒』の空が、()()()

 

 

 

「っ、何?」

「世界が、揺れてる? これは……」

 

 音も無く揺らぎ、崩れ始める『黒』の地平。

 見開いた片目に声無く呻く世界を映したリディーが、戸惑うスールを余所に小さく頷く。

 

 

「……核を倒せばレンプライアの増殖は止まる。でも『黒く』なった絵が元に戻るわけじゃない。多分もう、あの核が居ないと保てないくらいに、この絵の世界はボロボロだったんだね」

「リディー? それって……」

 

「うん。想定は、してたんだよ。……でも、スーちゃんたちの世界に繋がってるとなると、崩壊に巻き込まれて、そっちに影響が出ないとも限らないのかな」

「えぇっ!? なにそれ、まずくない?」

 

「そうだね。だから…………仕方ないよね」

 

 挙げられた懸念に慄くスールへと再び静かな頷きを返して。

 一度瞑目したリディーは、決意を込めた声音で呟き、徐に背後へと振り返った。

 

 

 

「お聞きの通りです。後はお願いしますね───()()()()()()

 

「ええ、任せてください。女王様」

 

 

 

 

 

「…………え、誰っ!?」

 

 姉につられて振り返り、佇んでいた見知らぬ女性の姿に仰天するスール。

 そんな妹の様子にぱちくりと目を瞬き、微妙に呆れの滲んだ顔で小首を傾げるリディー。

 

 

「……もしかしてとは思ってたけど、スーちゃん本当に気付いてなかったんだね……最初から私の後ろについててくれてたよ?」

「嘘ぉ!? ……いや、それはともかく、誰なの?」

 

「さっき言った公認錬金術士さんだよ。都の復興にも力を貸して貰ってて……と、そんなことより早くここから離れなきゃ。ほら、行くよ、スーちゃん」

「え、あ、待って! 待ってってば、リディー!」

 

 

「…………というか女王様って何!? どういうこと!?」

「あれ、言ってなかったっけ?」

 

 

「聞いてないよ!? その王冠とかもだけど向こうで何があったの!!?」

「あはは……私にも分かんない。なんでこうなったのかなぁ……」

 

 

 

 

「……ふふっ」

 

 遠ざかる双子の姦しいやり取りを背中に、ソフィーの口は小さな微笑みを作る。

 そうして今一度、崩れゆく『黒』の世界を仰いだ彼女は、どこか懐かしむように目を細めた。

 

 

「この世界も、誰かが『夢』見た願い……幸せになりたいって、ただそれだけだった筈なのにね」

 

 

 歪み、壊れた、『奇跡』の末路。

 望まれ、叶った、『夢』の行く末。

 神ならぬ人が創り出した、幻想の絵世界が迎えようとする最期の光景に。

 

 

「大事なものを守るには、こうするしかない……エルヴィーラも、こんな気持ちだったのかな」

 

 

 歴史からも、現実からも繋がらない何処かに、確かに存在した女神の世界を重ねて。

 今となっては知る者も数える程だろう、その苦悩へと想いを馳せながら。

 

 

「……終わらせるよ。世界(あなた)が、これ以上だれかを傷付けなくて済むように」

 

 

 取り出す道具に宿るのは、この世の理から外れた一筋の炎を宿す小さな檻。

 開祖が辿り着いた世界創造の対極、『終わり』を齎す錬金術もう一つの極致。

 

 

 

「【終末の───】」

 

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

『『『ギギュギギャピイィ……ッ!!!』』』

 

「う、うおおおっ!? なんだ!? ルーシャ、お前か!?」

「いえ、違います。……相手がレンプライアということで、すっかり頭から抜けてましたねぇ」

 

 夜闇降りつつあったメルヴェイユの都、『黒』渦巻くリュンヌ通りを染め上げた()()()()

 突如として眼前の魔物を焼き払ったそれに悲鳴を上げたマティアスを尻目に、ほんのりと自嘲を呟いたルーシャは、隠さぬ敬意を込めて近付く足音の先を仰ぎ見る。

 

 

 

「まったく。都の中で何の騒ぎかと思って来てみれば───」

 

 

 

 如何なる術理に依るものか、人や家屋には熱一つ与えぬ繊細華美なる炎の主。

 王国が礼を以て迎え入れた、国民誰もが認める国一番の錬金術士。

 

 

「───アタシの可愛い弟子達は無事なんでしょうねぇ?」

 

 

「い……イルメリア嬢! 来てくれたのか!!」

「居ますよね、メルヴェイユなんですから。……もっと早く助っ人に呼んでいれば───ん?」

 

 望外の戦力到着に沸き立つマティアス、および周囲の騎士達。

 愛用の杖をくるりと回し、戦域となった通りを見渡すイルメリアに目を向けていたルーシャは、ふと()()()()()()を視界に見つけて、首を傾げた。

 

「ん? どうかしたか、ルーシャ?」

「いえ……イルメリアさんの()()()()はご存じですか? わたしには見覚えが───」

 

 

 

「……これなら丁度良さそうね。ここは久しぶりに、アタシ達の絆を見せるとしましょうか───

 

 

 

 ───()()()()!」

 

 

 

 

 

 

「………………うん。そうだね、イルちゃん……っ!」

 

 

 力強く、頷いた彼女に応じるように、イルメリアが杖を突き立てる。

 それぞれの掌を掲げ、重ねるその先は、追い立てられるが如く無数に湧き出でる『黒』の群れ。

 

 

「わたしの力と───」

「アタシの力は───」

 

 

 広げられた二つの掌、集まる光は白と紅。

 繊細ながら大胆に、指向性を与えられた魔力が、夜の帳を紅に染める。

 

 

「合わせれば、絶対……っ!」

「ええ。無敵で───最強よ!」

 

 

 鏡合わせの如く、かざした手を振り被り。

 繋げられたひと時の『奇跡』が生み出すは、凝縮された魔力の大爆炎。

 

 

 

「「【紅蓮の至宝石】!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───会って早々ドタバタしちゃったわね。元気だった? フィリス」

「…………うん」

 

「にしても、あなたもこの国に来てたとはねぇ。ソフィーさん達も一緒なのかしら?」

「……うん」

 

「……どうしたの? なんか、知り合ったばかりの頃のあなたを思い出すんだけど……」

「…………」

 

 

 

「…………会えて、良かったよ。イルちゃん……っ」

 





 次回、最終話(予定)。


※原作既プレイの方へ

 権能が不向きだったとはいえ神が作った世界に不具合が発生していた様を知っている以上、
 錬金術士とはいえ人間が作った世界にソフィーが抱くのは期待より先に懸念ではと思うのです。


・『終末の───』

 アルト&アンフェル大瀑布不在の理由、かもしれない。


※原作未プレイの方へ

・『紅蓮の至宝石』

 フィリス×イルメリアの元DLCコンビネーションアーツ。いわゆる超必。石破ラブラブ天〇拳。
 イルメリアの『次元爆弾』から始まる一連のコンボはフィリス側のスキルも相俟って間違いなくゲーム中最高火力。特化すれば最高難易度裏ボス達の体力が6~8割消し飛ぶ。バ火力 of バ火力。

 フィリ×イルはむてきでさいきょー!

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