幸せな絵画の王国   作:非単一三角形

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 前回のあらすじ:マティアス、フライングエントリー(笑)

 それにしてもホイホイ出歩いていい立場なんですかね、彼。
 某アールズみたいなド田舎国(ゲーム開始時点)じゃあるまいし。


※前作に続き、ちょっぴりク〇なモブが出ますが、こちらは原作にも登場している悪人です。
 従ってク〇度も原作準拠のマイルドなやつです。ご安心ください。



第6話 求められた基準

 

 

「誰この人? ルーシャの彼氏?」

「違います」

 

「……ほんの一瞬くらい回答に迷って欲しかったと思うのは贅沢なんだろうか……」

 

 

「彼は騎士団の……騎士、志望のような感じの……傭兵? みたいな何かですかね」

「「えっ」」

 

「……おおぃ!! 何でオレの説明、そんなあやふやなの!?」

 

 

 通りで顔を合わせたルーシャの紹介で双子の前に現れた男、マティアス。

 幼馴染の知り合いらしい彼───おまけに初対面だというのに妙に馴れ馴れしい───に対し、当然として為人を尋ねた二人だったが、その回答に抗議の声を上げたのは紹介された当人で。

 

 

「それって無職ってことじゃ……あ、もしかしてルーシャが働き口を用意してあげたとか?」

「なるほど。優しいんだね、ルーちゃん」

「…………そうですねぇ、これも富める者の義務というものですよ。おーっほっほっほ!」

 

「いや違うから!? 無職じゃねぇって!! というか、ルーシャ嬢も悪乗りすんなよ!?」

 

 

「えー、だって騎士と言ってしまって良いんですか? 騎士団の見回りに参加することもなく、今ここに居る事の説明が面倒になりそうですけど」

「良いんだよ! 騎士団の遊撃部隊だから非番が多いの! わかって!!」

 

「……ルーシャってば大丈夫? 人手が足りないにしても、もうちょっとちゃんとした人を探して雇った方が良いんじゃない?」

「そうだよ、ルーちゃん。こんなチャラチャラしてる男の人をわざわざ雇わなくても……」

 

 

「……あれー? なんか想像してた以上に辛辣……オレ、ちょっと涙出てきちゃったぞー……?」

「ふふっ。まぁ、この辺にしておきましょうか。えぇっと、彼はですね───」

 

 しょんもりと目頭を押さえる彼を尻目に、ひと通り双子と姦しいやり取りを終えたルーシャが、笑いを堪えるようにしつつも真面目と分かる調子で説明を始める。

 曰く、彼とは()()()()()()()から知り合い、手の回らない諸事に助力を頼む間柄である、と。

 

 二人も知っての通り、錬金術の腕前はともかく荒事にはとことん向いていない嫋やかなわたしに代わり、種々の力仕事を担ってくれる腕として。

 また、この都随一の錬金術士として、他事に割ける余暇も無い程に多忙を極めるわたしが調合に耽る内に時流に置き去りされぬよう、ちょっとした調べものを行ってくれる耳目として。

 

 一応は騎士を名乗りつつも、見掛けた女性に手当たり次第に声を掛けている暇はあるらしい彼により有意義な時間の用途を与えているのです。……先日、彼の身内からも内々に頼まれましたし。

 

 

「───とまあ、そんな感じです。あ、たまーに都の外を出歩く際に護衛を頼んだりもしますね。こう見えても彼、そこそこに腕は立ちますので。こう見えても」

 

「ああ、うん……ありがとう、ルーシャ嬢。……なんか一言も二言も多かった気がするけど」

「あー、それで色々と顎で使ってるわけだ。……なんか余計な自分語りが多かった気がするけど」

「……男の人ってどうしてこう、ナンパな人ばっかりなんだろ。はぁ……」

 

「いや、確かにナンパはよくしてたけど…………うぐっ! その目はやめてくれ……!」

 

 

 落としたいのか上げたいのか判然としない説明───特に素行の面について───を聞かされ、眇めた目でこめかみに指を当てるスールと、どこか冷たい眼差しを向けるリディー。

 双子の、とりわけ後者の生理的嫌悪感を乗せた視線が堪えたのか、槍にでも刺されたように胸を押さえて顔を逸らすマティアス。

 

「……やべぇ。このままじゃ、オレの印象が……ここは少しでも男らしいとこ見せねえと……!」

 

 口中でそんな呟きを漏らしつつ、意を決した彼は自分なりの『決め顔』で再び振り返る。

 悪意ある標榜……とは言えない事実の陳列(ナンパ師歴)で傷付いた己の名誉を、僅かにでも挽回せんとして。

 

 

「……よし! ここで会ったのも何かの縁だ。お近づきの印に、今から四人で美味しいケーキでも食べに行かない? もちろん金はオレが出すよ、どうかな?」

 

 

「そういうところですよ」

「そういうところだよ」

「そういうところですねぇ」

 

 

「あれぇ!? だからナンパのつもりじゃないってぇ!?」

 

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「───というわけで、超一流錬金術士のイル師匠に弟子入りさせてもらったんだよ」

「くふふ……これでルーシャなんか、あっという間に追い越しちゃうんだからね!」

「……なるほど。昨日の今日で二人が自信満々になっていたのはそういうことでしたか」

 

 

「…………結局お茶するんじゃん。しかもオレのおごりで……なんか釈然としねぇ……」

 

 美味しいケーキとお茶をお供に、おしゃべりの花を咲かすは乙女の聖域。

 二人掛けのテーブル席を二つ、その片方から一席椅子を寄せて作られた三人席を囲む少女達を、残された席から眺めるマティアスは疎外感たっぷりにそうぼやいた。

 

 リュンヌ通りに店舗を構える、都の住民御用達のオープンカフェ。

 物言いたげな視線なぞ目に入らぬとばかりに、甘味に緩んだ頬で微笑み合う双子とルーシャ。

 

「あれ? その様子だとルーちゃん、イル師匠のこと知ってるの?」

「ええ、まぁ……その腕前を一方的に聞き及んでいるという程度ですよ。……今のところは」

 

「そうそう、師匠は凄いんだよ。説明もすっごいわかりやすいし……課題はちょっと厳しいけど」

「いきなり新しいレシピを作れって言われてもねぇ……ね、ルーちゃんならどうする?」

「ふむ、新たなレシピ作りですか……そうですね、わたしの場合は───」

 

 

 

「いやー、実に運がいい! ()()()で作ったこの薬なら、関節痛もたちどころに治りますよ!」

 

 

 

「……ん?」

「え?」

「おや……」

 

 歓談の最中、通りの向こうから響いた客引き染みた声に、三者三様に目を向ける少女達。

 それだけならばどこにでもあるだろうそれが殊更に彼女達の気を引いた所以。それは偏に宣伝のついでとばかりに紛れ込まされた『錬金術』の一単語。

 

 

「おお、本当かの……! それなら、ぜひ分けて欲しいんじゃが……」

「ええ、もちろんです! 今なら特別価格! なんと5000コールぽっきりで……!」

 

 

「むっ。あのお薬、5000コールもしないよね。錬金術の初歩中の初歩だし……」

 

 振り向いた先にあったのは、腰の曲がった老人を相手に得意気に薬を売り込む商人風の男。

 その中でもとりわけ男の手に握られた薬瓶を注視し、いち早く事態の構図に気付いたリディーが不機嫌そうに眉をひそめた。

 

 多少なり知見のある者が見れば立ち所に露見するだろう、絵に描いたような『ぼったくり』。

 その知識を持たないだろう老人を狙った、露店とすら言えない道端で行われている悪質行為。

 

 厄介なのは、男は薬の効能と相場に見合わない価格を提示しているだけであり、購入を強制する様子はないというところだった。

 あれでは騎士を呼んでも取り締まるのは難しいか───そう考えた彼女は再び背後を仰ぎ見て。

 

 

「うん……。よし。ここはあたしがとっちめて……!」

「えっ。ま、待って、スーちゃん……! ほ、ほら、ここはマティアスさんに……!」

 

 程なくして姉と同様の結論に至り、しかして何故か即座に腕を鳴らして立ち上がったスールを、リディーが慌てて引き留める。

 以心伝心、明らかに『速やかな実力行使(肉体言語)』に及ぼうとしている妹へと、嘘か真か騎士団の人間(マティアス)の眼前で流石に()()は不味いと目に含めて。

 

「え、あ、オレ……? あ、うん、そうだな、オレの出番だな!」

「……もう! マティアスさん、本当に騎士なんですか? やっぱり実は無職なんじゃ……」

 

「だぁっ! ちょ、ちょっと気が抜けてただけだって! 見てろよ、今行ってくるから……!」

 

 

 

 

「───ごめんあそばせー?」

 

 

 

「え」「お」「へっ?」

 

 

「……あぁん? 何だ、このガキ?」

「お、おお……ルーシャちゃん……?」

 

 惑う双子とマティアスを余所に、いつの間にやら男と老人の元へと足を進めていたルーシャ。

 前者は見知らぬ少女に胡乱な目を、後者は評判の才女の登場に白黒させた目をそれぞれ向ける。

 

 

「いえ、ちょっとこの辺りで……粗悪な薬を高額で売りつける()()()()()()()がうろついていると小耳に挟んだものですから、後学のためにと見物に来てみたのですよー」

「…………は?」

 

 

 二者の反応をどこ吹く風と、わざとらしく小首を傾げた彼女は微かに棘を感じさせる声音と共に薬瓶を握る男へと流し目を送った。

 ぶつけられた言葉(敵意)への理解が遅れたか、立ったまま硬直するその姿に再びの溜息が漏らされる。

 

 

「大方、アトリエランク制度の噂を聞いて都を訪れたものの、制度加入認定試験を越える実力すらなかったエセ錬金術士だろうと思っていたのですが……いやはやまさか、実力不足どころか杜撰な詐欺師が本業だったとは。そんな方に錬金術という言葉を使わないでもらいたいですねぇ」

 

「なっ……が……! だ、誰がエセ錬金術士だ! 何も知らねぇガキが───」

 

 

「そこの御爺さま? 関節痛の薬ならこちらがお勧めです。流石にタダでとはいきませんが、我がアトリエ・ヴォルテールなら、あちらの()()()の十分の一以下の額でお買い求めいただけますよ」

 

 

「───えらそ、う……に……?」

 

 年若い少女からの暴言に気炎を上げかけた男が、途中で耳に入った単語(アトリエ・ヴォルテール)に気勢を失っていく。

 冷えていく頭で周囲を見回せば、視界に入るのは訳知り顔の───乱入者(ルーシャ)について盛んに囁きを交わす野次馬達。

 

 

 

「おい見たか! あのじいさん、ルーシャちゃんから薬もらってたぞ!」

 

「ヴォルテールの薬なら間違いないわね……この都一番の錬金術士だもの」

 

「くー、羨ましい……ッ!! オレも手渡されたいっ!!」

 

「いやいや、お前じゃ無理だって。何てったって、ルーシャさんは高嶺の花だしな」

 

「ルーちゃんが……高嶺の花!?」

 

「……ぶわっはっはっは! 高嶺の花どころか、どこにでも咲くタンポポだっての!」

 

「まぁ、ルーちゃんって美人さんだし……。よく知らない人からはそう見えるのかな?」

 

「……本人が聞いてないと思って、ひどいこと言ってんな、こいつら……」

 

 

 

「うぎぎ……。お、覚えてろよー!」

 

 苦く顔を歪めながらも、男は足早にその場から駆け出していく。

 元々、僅かにでも錬金術に通ずる人間に居合わせられれば分が悪いと、誰より理解していたのは当人だったのだろう。逃げ出す脚には表情に宿った怒りほどの未練は残っていなかった。

 

 昼日中の大通りで、都の有名人を相手に()()()()を演じた彼に、ここでの居場所は無いだろう。

 雑踏に消えた背中に、小さく、誰にも聴こえないような声で、ルーシャは呟いた。

 

 

 

「…………さっさと出て行ってください。あなた達みたいな錬金術士もどき……いざという時には何の役にも立たないんですから」

 

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「───成程。また仕事の最中にナンパに精を出して、女の子達に体よくあしらわれたわけね?」

 

「……いや違うだろ!? そこが主題じゃなかったよな、今の話!!」

 

 

 唇に指を当て、鷹揚に頷く金髪の女性に、心外とばかりに食い下がる男の声が響く。

 尤も、そんな彼が顔に浮かべるのは、言葉の必死さとは裏腹な親しみ含む苦笑い。

 

 

「ちょっと前までナンパばっかしてたのは否定しねぇけど、オレだって最近はだな……!」

「ふふ、冗談よ。……さすがイルメリアさんね。早速後進の指導にあたってるなんて。やっぱり、有力な錬金術士として彼女を招致したのは正解だったみたい」

 

 片や、男としての素直な欲を漏らしつつも、逸れた話題をどうにか戻さんと首を振り。

 此方、懊悩する彼に微笑みつつ、早くも動きを見せた稀代の錬金術士の手腕に思いを馳せる。

 

 騎士団遊撃部隊に籍を置き、また()()()から単独行動を多々遂行する男、マティアス。

 その姉にして国の事務担当、また()()()から統括者に近い席に座る女性、ミレイユ。

 

 

「それで、期待できそうなの? その双子ちゃん達は」

「……ああ。あの二人は伸びるぜ、間違いねぇ。イルメリア嬢の弟子ってのを抜きにしてもな」

 

「そう、それは……マティアスの見立てだと思うと、ちょっぴり不安になるのよねー……」

「おいおいひどいな姉貴!? ……いや、オレも特に人を見る目があるとは思ってねーけどさ」

 

「あらあら、優秀な人材を見抜く目はしっかり磨いて貰わなきゃ困っちゃうわよ、()()()()()?」

「……うるせー」

 

 そこはアダレット王国が王城、日中は役所受付を兼ねるエントランス。

 人気(ひとけ)の無くなった日没のそこで交わされるのは姉弟の漫談、あるいは国家の行く末を慮る談義。

 

 

「……っと、そんなことよりどうなんだ、姉貴。当初の予定は上手くいきそうなのか?」

「え、ああ、それね。そうねぇ……」

 

 追及を躱さんとばかりに話題を変えるマティアスに、それを察しつつも頷いて見せるミレイユ。

 立てた指を口元に当て目を瞑り、わざとらしく「うーん」と唸った後、パッチリと目を開けて。

 

 

「───()()()()()!」

 

「…………えっ」

 

 

 にこやかな笑顔を保ったまま溌剌と放たれた言葉に、マティアスもまた固まった。

 

 

「ランク制度への参加を望む錬金術士は沢山来てるんだけど、肝心の試験を突破してくれる人間がほとんどいないのよねぇ。もしかして試験が難し過ぎるんじゃ、と思ってルーシャちゃんに聞いてみても、『これができない錬金術士なんて居ても居なくても同じです』の一点張りだし……」

 

「……おい、ルーシャ……」

 

 

「本当にそれぐらい簡単な課題なのか、それとも高すぎるハードルなのか、錬金術に触れたことがない私達には分からないし……一応、イルメリアさんにも時間を取って見て貰ったけど、『一国が優遇措置を与える水準としては妥当だと思います』なんて言われちゃって……」

 

「あー……」

 

 

「今まで国が錬金術に目を向けてこなかった弊害ね。私も含め、国の上層にいる人間が誰も基準を判断できないのよ。下手にラインを引き下げて、ルーシャちゃんの言うような質の悪い錬金術士に集られる結果になったらそれはそれで困るし……」

 

「…………あぁ、まぁ、そうだよな……」

 

 実に的確(タイムリー)な日中の出来事を脳裏に浮かべ、苦笑いを浮かべるしかなくなるマティアス。

 張り付けた笑みを少しずつ、姿勢と共に崩していったミレイユもまた、大きく溜息を吐いた。

 

 

「……何もしないで待つよりは、はるかにマシ……とは思うのだけど。進んでいる実感が薄いのも困ったものだわ。時間の余裕だって、そうあるわけじゃないし……はぁ」

 

「………………」

 





※原作既プレイの方へ

 マティアス登場の流れが原作から変化している理由は……ルーシャ共々また追々。
 作中で詳しく開示するのは当分先の予定ですが、前作アトリエ二次と同様に大きな改変要素から波及した小さな変化、というイメージで描いております。

 しかしナンパ師設定はどうなんだ。浮き名を流していい立場なのかと。
 声掛けた美女が超若作りな50代と知っても芋引かなかった辺りは漢だった(?)けども。
 ……というか原作の扱いがゆるゆる過ぎるのですよ。継承権持ち第一王子が一般市民の護衛ってどういうことなの。……見聞を広める? いやいやいや。


※原作未プレイの方へ

 以下、ゲーム原作におけるルーシャ加入イベント(元DLC)より抜粋。


  ルーシャ「それはもちろん、戦うんですよ? …わたしが」
   スール「…ええっ、ルーシャが!? …ルーシャがっ!?」

  ルーシャ「どうして2回言うんですか! 大丈夫ですっ!」

  ルーシャ「確かに運動神経には自信ありませんが、この傘がありますので!」

    (中略)

  ルーシャ「ふふーん、期待していることですね、二人とも!」
  リディー「う、うん…。よろしくね、ルーちゃん…」
   スール「…不安だ。すっごい不安だ」


 というわけで彼女が荒事向きでない、という描写および双子の認識は原作通り。
 ちょっと(?)自己肯定感高過ぎさんな傾向があるのもゲームテキスト準拠なのです。

  ルーシャ「海を見ながらたたずむわたし…。ああ、芸術です…」(※原作台詞)

 ……ほんとおもしれー女してるんだわ、この娘。気になった方は是非とも原作を(ry


※お知らせ

 昨日の夕方に活動報告を上げております。
 今後の執筆活動に関して少々お願いがございますので、詳しくはそちらをご一読くださいませ。

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