前作でもそうでしたが、調合過程の描写等々は大体カットの予定です。
原作でもそれっぽい単語は幾らか出てきますが、釜を掻き混ぜる以上の描写はありませんし。
「「───で、できたー……っ!」」
小さなアトリエに重なり響き渡った、双子の歓声。
その声音に、振り上げた諸手に、滲んでいたのは深い疲労と、それらを塗り潰す達成感。
それぞれの手には、まさしくたった今、調合に成功した『絵筆』と『絵の具』。
長い長い試行錯誤の果てに、遂に形となったそれらを眺めて、二人は大きく頷いた。
「これが『夢の絵筆』に『不思議な絵の具』……うんうん、ちゃんと夢にあふれてそうだね!」
「うん! これならアトリエランク制度の参加試験にも合格できるはず!」
双子の幼馴染、ルーシャが制定を担ったという、国の優遇を受けられるか否かの足切り試験。
その試験課題として指定されていた道具こそ、双子が作り上げた二つの画材であった。
見た目には至極普通の絵筆に見える、しかし錬金術特有の不可思議な雰囲気漂う『夢の絵筆』。
同じく少々変わった色合いを除けば、一般的な絵の具とも見紛う『不思議な絵の具』
後者は『ネージュの絵の具』なる通称が存在するとも記述があったが、その呼称が果たして何に由来するものなのか、双子の持つ知識に該当するものは無く。
とはいえ錬金術で作られる道具は得てしてそういうものだと、二人は特に気にすることもなく、これまで培われた技術と閃きを結実させるに至ったのだった。
「ふふ、これなら師匠も褒めてくれるかな。スーちゃん、師匠に見せに行ってみよう!」
「そうだね、リディー! くふふ……ストレートに褒めてくれるときの師匠、ちょっと照れがあるみたいでかわいいんだよねー」
「っ、ふふ……もう。そんなこと言ったら、またイル師匠に怒られるよ、スーちゃん」
何やら悪い含み笑いを漏らすスールを窘めつつも、自身の緩む口元を押さえるリディー。
双子が揃って脳裏に思い浮かべるのは、どうやら基本的に『褒めて伸ばす』方針にあるらしい、厳しくも優しい、そして非常に
双子が都で出会った、自称『超一流の大天才錬金術士』イルメリア・フォン・ラインウェバーに師事する身となって早数週間。
その尊大にも思える口上が虚栄の対極にあることを強く実感する日々の傍ら、その為人を徐々に理解していった二人は尊敬の念を高めつつも、すっかり親しみを抱いて接するようになっていた。
一見、仔を突き落とす獅子のようでいて、課題に躓けば駆けつけてくれる手厚い指導。
かつての己と同じ苦労はさせぬとばかりに、苦い経験を基に作られたお手製の参考書。
傍目にも分かるほどに繁忙極まる身でありながら、足繁く双子のアトリエを訪れては、何かしら疑問点はないかと都度々々尋ねてくれる、いっそ甲斐甲斐しさすら感じるほどの面倒見の良さ。
加えて「あなたたちならきっとできる」と心強く───いじらしい赤面を添えて───励ましてくれるのだから、たとえ弟子になったのが自分達でなくともその魅力に撃ち抜かれたに違いない。
そんな馬鹿らしさ漂う結論が双子の偽らざる本音でもあった。師匠かわいい。きゅーん。
「───うん。文句の付け所がないわ。やるじゃない、二人とも!」
「本当ですか!? えへへ、頑張った甲斐がありました!」
「くふふ、もっと褒めちゃってもいいんですよー?」
「こら、あんまり調子に乗らないの。……まったく」
そんなかわいい師匠のアトリエを訪れた双子を迎えたのは、まさに期待通りの賞賛と労いの声。
満面の笑みで喜ぶ二人を言葉では軽く窘めつつ、イルメリアもまた喜色を隠さず微笑んだ。
「これならたぶん、試験にも合格できるでしょ。どう? 今から王城に届けに行ってみたら?」
「あ、そうですね……でも、国の試験だと思うとやっぱりちょっぴり不安だなぁ……」
「なによ、大丈夫だって言ってるのに」
片や軽挙軒昂、片や質実謙虚。
足して二で割れば程良くなりそうな双子に、少しおどけて口を尖らせてみせるイルメリア。
彼女にとって初めて取ったかわいい弟子、リディーとスール。
我が事ながら存外に甘やかしている自覚もあったがそれ以上に、その伸び盛りでは済まない才に少なからず驚愕を抱いているのが実情でもあった。
軽い指導の後で課題を出したのは自分とはいえ、それまで調合はおろか錬金釜の爆発などという失敗を幾度も重ねていたらしい二人が、ものの数日で十を数える
自分が指導する以上は『停滞』させるつもりなどなかったが、それにしたって『跳躍』するにも限度があるだろうと頭を抱えたのは彼女の記憶に新しい。
今は遠く離れた『親友』といい、己が幼少より重ねた十余年の努力を何だと思っているのだ。
……そんな気持ちが露ほども浮かばなかったと言えば、それは真っ赤な嘘になる。
「……じゃあ、アタシがついて行ってあげようじゃない。何か文句を言われたらアタシが助ける。それでいいでしょ?」
「わぁ……! 師匠がいてくれたら百人力です! ぜひお願いします!」
───天才は、いる。
高らかに大天才を自称する彼女こそが、それを誰より深く知っている。
それを呑みこんだ上で、だからどうしたと、立ち上がってきた自負がイルメリアにはあった。
そもそも古来より弟子とは師を越えていくもの。
むしろ他ならぬ自分の弟子なのだから、そうでなくては困ってしまう。
それが遅いか早いか……早いなら早いだけ本懐、本望。冥利に尽きるというものではないか。
無邪気に華やかな声を上げる双子が、そんな師の心中を知るのはいつの日か。
ようやっと三流錬金術士の枠を脱そうとしている二人に、笑みの裏で次は何を教えるべきか等と考えながら、彼女は来るべき『その日』へと溢れんばかりの期待を寄せて。
「…………ま、そう簡単に抜かされるアタシじゃないけどね」
「? 何か言いました?」
「なんでもないわ。ほら、出かけるとしましょ」
「───ええ。これなら二人とも、合格よ! アトリエランク制度への参加を認めましょう!」
「いえーい! やったね、リディー!」
「うん! ぶいだよ、ぶいっ!! これも全部、師匠のおかげです!」
「ううん、これはあなたたちが頑張った成果よ。遠慮しないで胸を張りなさい」
王城、エントランス。
遡ること数週間、受け取った課題に消沈したその場所、その相手から送られた惜しみない賛辞に双子から揃いの歓声が上がった。
「おめでとう、双子ちゃん……本当に、おめでとう。やっと試験の合格者が出たわ……」
「……もしかしてこの二人が最初の? それはまた……」
「そうなのよ……。ねえ、イルメリアさん、この課題って本当に適正なのかしら……?」
「……特権を与えるならこれぐらいでも、とは思いましたけど……うーん……」
一方、今日も受付嬢を務めていたミレイユに遠い目で問い掛けられ、言葉後を濁すイルメリア。
「求めていたのは質? 量?」「……両方」「それなら仕方ないのでは?」───そんな応酬が目線で交わされ、やがてミレイユの口からは抑え損ねた深い溜息が漏らされるのだった。
「……師匠? ミレイユさんと何の話してるんですか?」
「あぁ、ちょっとね。……そのうち、ちゃんと腕の立つ錬金術士も来ると思いますよ。多分……」
「ミレイユさん! これで優遇措置、受けられるんですよね! 助成金とか出るんですよね!」
「ええ。たっぷりと出るわよ、リディーちゃん。……確保しといた予算も余ってるし」
「やったー! これで今月は生活費に困らない! ……そうだ、この機にあの焦げたフライパンを買い換えよう。あとは、どうしても困って質に入れちゃった釣り竿を買い戻せば、今日からご飯のおかずを一品増やせるようになる! えっと、それからそれから───」
「……目はキラキラしてるのに、お金の使い道が凄く地に足ついてるわね」
「相変わらずリディーはその辺、夢が無いというか……いや、助かるんだけどさ」
「ま、まぁ、その辺りの詳しい説明もしちゃいましょうか。まずアトリエランクについてだけど、初めは一番下の『ランクなし』からのスタートになってね───」
うきうきと、頭の中で算盤を弾き始めたらしいリディーに少々気圧された様子のミレイユから、国が公布した制度の具体的な内容が語られていく。
一定の条件と実績を重ねれば徐々に上がっていく、9段階のランク付け。
それに応じて金額が増していく、国からの期待を形にした助成金。
これに付随して───というわけでもないができれば受けて欲しい、今後出されるかもしれない国からの依頼の存在等々。
「あー……もしかして、イル師匠がいつも忙しそうに調合してるのって……」
「まぁね。アタシのアトリエは特例として始めからCランクの扱いになってるし、色々とそういう依頼も貰ってるわ。……他に担える錬金術士も当分はいなさそうだし……」
「Cランクって……上から4番目!? ランク制度って、この間始まったばっかりなのに!?」
「ええ。イルメリアさんはそれにふさわしい実力者。いいお師匠様を見つけたわね、二人とも」
「ふふん、アタシがすごいのは当然ですけど……。この二人も、なかなかの逸材だと思いますよ」
幾度か目にしていた師の忙しさの背景を知り、驚きに顔を見合わせる双子達。
そんな様子を一頻り微笑ましく眺めた後で、ミレイユは同じく弟子達に誇らしげな眼差しを送るイルメリアへと、どこか気の引けた様子で問い掛けた。
「それで、その……イルメリアさん? 今度はこんな要望が来ているのだけど、これって錬金術で解決可能なのかしら……?」
「これは……はい、不可能ではないですね。流石に少し時間を頂きたいですが……それにしても、本当に次々と色々な要望が出てきますね……」
「…………まぁ、今は錬金術で実現できるのが
「ミレイユさん?」
「いえ、なんでもありません。今後ともよろしくお願いしますね、イルメリアさん」
少々後ろめたい内情は喉奥に留め、ミレイユは楚々とした受付嬢の笑顔を被り直す。
対するイルメリアは微かに小首を傾げ、しかしそれ以上の追及はすることなく頷きを返した。
「ええ、勿論です。……というわけだから、アタシは先にアトリエに戻るわ。あんた達も、試験に合格できたからって、それをゴールと思わずしっかり励むようにね。バイバイ」
「えっ、あ、はい! 頑張ります! ありがとうございました、師匠!」
「イル師匠もお元気で! ……忙しくてもちゃんと寝てくださいねー!」
言うが早いか切れ良く踵を返し、後ろ手を振りつつ王城を後にするイルメリア。
恐らく既に頭には次に手掛ける調合の事があるのだろう師匠の背中へと、精一杯の感謝と慰労を送る双子達であった。
「……そういえば、ミレイユさん? 課題で作ったこの絵筆と絵の具、何に使うんですか?」
「え? ああ、それね。…………そうねぇ」
「……あれ、なんか聞いちゃいけない感じですか?」
「んっ、ふふ、そういうわけじゃなくってね。……双子ちゃん達って、ルーシャちゃんととっても仲が良いんですってね?」
「え? えぇ、まあ……」
「うーん……。仲が良いっていうか、幼馴染みっていうか、腐れ縁っていうか……」
「羨ましい限りだわ。私には歳の近い幼馴染みっていないから……さて、本題に戻りましょうか」
「……ねぇ、双子ちゃんたち。面白い場所、行ってみたくない?」
「面白い場所……?」
「はい、それはぜひ……!」
「それならよかった。じゃあ二人とも、私について来て」
「───不思議なセカイを、あなたたちに見せてあげる」
※原作既プレイの方へ
マティアスの紹介が既に終わっているので色々とカット。
ぶっちゃけ都のタマゴブームとかどうでもい(ry
作中の錬金術、とりわけ
というわけで、この時期のイルちゃんは主に王国上層部が錬金術を理解するための『お試し』に付き合っていた、という解釈をぶち立てておきました。
……はい。この後の『調査』に参加させない理由作りです。じゃないと初めから師匠同伴に(ry
※原作未プレイの方へ
ゲーム原作で初期に提示される目的は、アトリエランクの上昇になります。
指定された道具を作る、特定のモンスターを倒すといった条件をクリアし、ランク上昇のための試験を受ける、というのがゲーム進行の主な流れになっています。
なお拙作においては大体バッサリとカットしていく予定です。仕方ないね。