幸せな絵画の王国   作:非単一三角形

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 そろそろ皆さんお察しのアレ。
 改変要素が大きく動き始めます。

※なんか投稿時間の設定間違えてました……まあいいか。



第8話 不思議な不思議な絵の世界

 

 

「───変ですね」

 

 絵画を照らす薄明り。ぽつりと溢された呟き。

 美術品の保管を目的にした静謐な空気の中、そこに佇む人影は二つ。

 

 そこはアダレット王城、地下画廊。

 成人男性が手を広げて余るほどの長辺を持つ一枚の風景画を前に、少女の声は物憂げに響いて。

 

 

 

「『()』と比べて、随分と時間が掛かった気がするんですが?」

 

「いや、オレに言われても困るぜ。この絵の交渉にはそんなに関わってなかったし……」

 

 

 

 腕を組み問いかけるルーシャ。頬を掻き答えるマティアス。

 一問一答の形式はあれど、その声音に宿る感情は同じ色で。

 

「ついでに聞きますが、()()()に関しては?」

「ああ……あれは『前』もオレの担当だったからな。多少は早く良い返事を貰えたんだが……」

 

「……何か問題でも?」

「問題っつーか……輸送の途上で色々あったとかで、結局届くのはもう少し先になりそうらしい。それがなけりゃ、この絵より先に着いててもおかしくなかったんだけどな……」

 

「それはまた……尽く()()()()()()()ねぇ」

 

 

 聞く者が聞けば、あまりの不自然さに目を剥くだろう異様なやり取り。

 さながら()()()()()()()()()()()()()を俎上に乗せて語っているような二人には、しかし戯れや冗談を口にしている素振りなど含むことはなく。

 

「そういうルーシャこそ、ちっとも錬金術士が集まらないーって姉貴がぼやいてたぜ? 『前』と課題の難易度変えすぎなんじゃねぇの?」

「いいんですよ。どうせ()()()が来たときには我先にと逃げ出す連中しかいなかったんですから。集めるだけ時間のムダというものです」

 

「そりゃまあ……そうだったんだよなぁ」

 

 苦言もどこ吹く風と、開き直った様子で嘯くルーシャに、マティアスが苦く同意する。

 その後も何事か言いかけ、結局口を閉じてしまった彼を横目に見遣りながら、すまし顔の彼女は一本の絵筆を手に取って。

 

「何にせよ、過ぎてしまったことは仕方がありません。ミレイユさんにも頼まれていることですし今は目の前にある『調査』を進めてしまいましょう。さて、まずは『修復』から───」

 

 

 

「あれ、ルーちゃん?」

「あ、ルーシャ。……と、マティアスだっけ? なんでここに?」

 

 

「───これは、奇遇、で済ませて良いんでしょうかね……」

 

 

 握った手を豪奢な絵画に掲げようとしていたルーシャの手が、はたと止まる。

 振り返る視界に入った双子達に目を細めた彼女は、潜めた呟きと共に小さく首を振った。

 

「ん? なんか言った? ルーシャ」

「いえ、なんでもありません。……それより二人をここに連れて来たということは、()()()()()()なのですね、ミレイユさん」

「ええ、その通りよ。……こほん!」

 

 ルーシャの視線が双子から、二人を画廊に連れてきたミレイユへと移っていく。

 幾つもの注目を集めて咳払い一つ、ちらと流し目を送った彼女に応じる形で、ルーシャは絵画の正面という立ち位置を譲るのだった。

 

 

「さぁさぁ、この絵をとくとご覧じろーっ!」

 

 

 

 

 

「題名は『ざわめきの森』って言うんだけど……。これは『不思議な絵』と呼ばれるものなの」 「『不思議な絵』……? ぱっと見、普通の絵と変わらないような……」

 

「ふふ、これは錬金術の力を使って描かれた絵で、何と……中には別の世界が広がってるのよ!」「別の世界が広がってる……!」

 

「ええ。そこには珍しい材料があるみたい。今は国策として、不思議な絵を集めてる最中なの」

 

 

 ───『不思議な絵』。

 森の中を描いた風景画と思しき巨大な絵を背に、ミレイユが双子にその概要を語る。

 

 夢物語としか思えない内容に一度は訝しみ、けれど溢れる未知に目を輝かせて。

 語った彼女の期待通りだろう反応を示すリディーの傍ら、スールは思い煩うように目を伏せた。

 

「別の世界……それじゃ地下室のあの絵は……でも……」

「……スーちゃん? どうかしたの?」

 

「う、ううん。なんでもない……う、うわー! 絵の中の世界なんて信じられなーい! あたし、行ってみたくなっちゃったなー! あはははは!」

 

 

「? ……話を続けてもいいかしら?」

「はいっ! すみません! お願いしまーす!」

 

 伏せられた顔を覗き込む姉に、首を横に振った後で何やらわざとらしく驚いて見せる妹。

 そんな奇妙なやり取りにミレイユは小首を傾げ、しかし気を取り直すように頷いた。

 

「ただ、不思議な絵にはまだわからないことも多くってね。そのうち優秀な錬金術士に先行調査を頼む予定だったのだけど、その調査を二人にもやってもらおうと思ったの」

「優秀な錬金術士……」

「……おやぁ? 人の顔を見て何か言いたいことでも?」

 

「ぐぬぅ……くやしいけど事実だからなんとも言えない……」

「あはは……。それは願ってもないことですけど……。どうして私たちに?」

 

「それは……」

「それは?」

 

 (スール)幼馴染(ルーシャ)のじゃれ合いを尻目に、リディーが口にしたのは当然の疑問。

 先の言葉に紛れた『国策』という大仰な単語から考えても、ついさっき試験に受かったばかりの『ランクなし』錬金術士が参加していい案件なのか、という問いに、返ってきたのは乾いた笑顔。

 

 

「人手の問題ね!」

「……人手の問題、ですか」

 

「ええ。……ルーシャちゃんひとりで調査っていうのも大変そうだし、仲の良い友達と一緒の方がやりやすそうかなと思って───」

 

 

「おーっほっほっほ! わたしの足を引っ張らないよう、せいぜい頑張ってくださいねー」

「む……ふん! 調査なんてあたし達だけで十分って教えてやるんだから! ねっ、リディー!」

 

 

「仲の良い友達……」

「……悪くはない、のよね?」

 

「まぁ、それは、はい」

 

 飛び交う高笑いと啖呵(いつもの)に苦笑するリディー。若干不安になったらしく目が泳ぐミレイユ。

 それでも再び「こほんっ」と咳払いを一つ。イイ顔で胸を張るルーシャへと目配せが送られた。

 

「それで、なんだけどルーシャちゃん。この絵の『修復』はもう済んじゃったかしら?」

「いえ、丁度これからというところですよ」

 

「修復?」

「ええ。この絵もそうなのだけど『不思議な絵』って大半がとても古い物みたいでね。長い年月でその力を失っちゃってるみたいなの」

 

「力を失ってる……? それで絵の中に入れないなら、調査をするなんて不可能じゃないですか」

「いえ、方法があるの。力を失った絵に、再び力を与える術───それが、『修復』よっ!」

 

 

「……もったいぶったわりには、結構そのまんまの名前なんですね」

「……こほん。その『修復』に使うのが、課題として作ってもらった絵筆と絵の具というわけよ」

「あぁ、それで……」

 

 多くの回り道を巡りながらも帰ってきた話に、リディーが手の中の道具へと視線を向ける。

 

 苦労の末に作り上げた『夢の絵筆』に『不思議な絵の具』、別名『ネージュの絵の具』。

 不思議な絵画そのものを描く際にも使われるこれらを使い、ある種の経年劣化により失われた『不思議』の『修復』。ひいてはそれが可能な人材確保こそ今回発布された制度の目的の一つ。

 

 そのように考えれば、唐突とも思えた国家の方針転換にも意図が見えてくるというもの。

 頭の中に拙いながらも国の思惑というものを思い描いた彼女は、今一度深く頷いた。

 

 

「……ふむ。では修復も二人がやってみませんか? 丁度その為の道具も手元にあるのですし」

「えっ。……いいの、ルーちゃん?」

 

「いいのですよ。別に誰が修復したとして何が変わるわけでもないでしょうし。それに、こういうところでがっつかないのも富める者の余裕というものですから。おーっほっほっほ!」

 

「むぅ……いちいち一言多いんだっての……」

「あはは……ミレイユさん、修復のやり方とかってあるんですか?」

「ええ。じゃあ、やり方を説明するわね。まずは───」

 

 

 

「……何かあったのか?」

「いえ、何となく……なんですがね」

 

 ミレイユから説明を受ける二人を横目に、声を潜めるルーシャとマティアス。

 やや不自然に役目を双子へと移した彼女は、問われた言葉に首を振りつつも口元に手を当てて。

 

 

「そうした方がいい……違いますね。()()()()()()という気分が()()()()()()()んですよ」

 

 

「…………おい、なんだよそりゃ」

「さあ、なんなんでしょうねぇ、これは……」

 

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「───わぁ……! 掲げただけで、絵筆が勝手に……!」

「ふふっ、簡単でしょ? これで絵の修復は終わり。中の世界に入れるようになったはずよ」

 

「……ちなみに、出入りするにはどうしたらいいんですか?」

「ああ、絵の中に入るには、『この絵の世界に行ってみたい』って念じればいいらしいわ。 逆に絵の外に出るためには『元の世界に帰りたい』って、強く思えばいいそうよ」

 

「へえ、結構簡単で……スーちゃん?」

「…………あ、うん。なんでもない。それじゃあ、リディー。……行ってみようか」

 

 

「───おっと、終わってたか。それじゃオレ達も行ってくるぜ、姉貴」

「ええ。この子達をしっかり守るのよ、マティアス」

 

 

「…………あ、居たんだ、マティアス」

「居たよ!? ずっと居たよ!? てか話の始めからルーシャの隣に居たの気付いてたよな!?」

 

「ふふ……っ。変わりませんねぇ、この二人は……」

「ルーちゃん?」

 

「いえ。……それじゃ行きましょうか、リディー」

「うん。いざ、不思議な絵の世界へ……!」

 

 

 

 

 

 

 木々の合間から聞こえるのは、

 噂話をする誰かの声

 

 

 ほの暗い闇の中から感じるのは、

 こちらを見つめる誰かの視線

 

 

 辺りを見回してみても、見つけられるのは木ばかり。

 この地を訪れた者はみな、不可視の恐◆におののきます

 

 

 それも◆◆はず

 この森は、生きた自◆と幽◆たちの社◆場

 

 

 ◆邪◆な◆◆◆◆には、ご注◆を───

 

 

 

                あ そ ぼ

 

 

 

 『ざわめきの森』

 





※原作既プレイの方へ

 原作の『ざわめきの森』に修復が必要だったのかは不明です。

 修復について説明されるのが二つ目の不思議な絵『氷晶の輝窟』から。
 この絵の存在で初めて必要になったなら、最初の課題で絵筆を作らせた理由がなくなりますし、多分必要だったんじゃないかなあと。
 また物語的に『絵の具』の存在も重要だが絵の具作り→絵世界突入の流れを最初から適用するとテンポが悪いと判断されたのかな? などと作者は勝手に解釈しております。

 なお逆に作中で修復不要な状態だったと明言されているのは『海底宝物庫』のみ。
 こちらは単にエアドロップ関連と被って絵に入るまでが冗長になるからだと思いますけども。


※原作未プレイの方へ

 安心してください。

 ゲーム原作に、こんなホラー演出はありません☆ミ

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