最高のM.A.V. 俺とパイロット 作:脳を焼かれた00ユニット
またガンダムじゃない話を書いてしまった。
向こうは火曜日に出すから、飛ばしても問題ない
こう、あまり期待を煽るやり方はしたくないんだけどね
炎上商法みたいで。
一応それでも見てくれる人に言うなら。
M.A.V.が音ならLuvも音だよね
ついき:誤字報告ありがとう。うれしうれし
紛らわしい言葉だけど
強迫:行動を要求する(+相手の意思決定に介入する)(民法用語)
脅迫:行動を要求する+相手への侵害意思有(刑法用語)
だと扱ってるよ
「なるほどねぇ、モビルスーツ、地球連邦、ミノフスキー粒子。知識に相違なしだわ。
私ならどうしようかしら。地球でD+He3反応は難しいだろうけれど、現物があればなんとかなりそうなのよね。ただ反応炉以上のエネルギーかは……要比較、と」
片手で顎をさすりながら、夕呼は頷く。
ことの経緯を聞いたわけである。
「それで。なぜ、私を?」
未だ拘束されている状況。
無理な姿勢ではないのと、椅子の上であるからそこまで窮屈でもない。
服装はどうにかしてほしい。
言葉を信じるなら相手はこの地で一番立場が高く、護衛の気配もないと来た。
そういったわけであるから、拷問でもなく単純な尋問であるらしいと分かる。
目の前の女性が専門家だった場合を除くが。
ならばシイコとてただ話をする努力は惜しまない。
会話のイニシアティブは相手にあるのだ。
それに交流と嘯くなら、対価もあるはず。
だが、続く言葉には閉口せざるを得なかった。
「なぜ、って。簡単よ。ここで話をしないとあなたは死んじゃうんだもの」
日常の話題のように、夕呼は言った。
「……は?」
シイコは怪訝な表情を隠さない。
(死ぬ? 夢の住人が何を)
「夢の住人が何を、って思っているわよね」
「……! あなた」
サイコメトリーでもしているのだろうか。
そのしぐさに違和感を覚える。
表情に険しさを増したシイコと微笑みを返す夕呼。
ふふふのふ、なんて言いそうな。
「理屈は案外、単純よ。もちろんあなたがわかりやすいのもあるけれどね」
別に、わかりやすいつもりはないのだが。
そんな抗議は受け流される。
「こういった方法になっているのは少しばかり申し訳なさがあるけれど。
この会話だって初めてじゃないのよ。つまり、受け答えをカンニングしているワケね」
「私は、あなたと話すのは始めてだけど?」
「ええ、
「……つまり、何を意味するの?」
頭が痛い。未だ意識が明瞭ではないのかと自分を疑いたくなる。
残念ながら、自覚する範囲では正常だ。
睨むように見つめても夕呼は平然としていた。むしろにやけている。
「168回、あなたは死んでいるという意味よ」
「余計に意味がわからなくなったわ」
確かに、バケモノと戦って死ぬほどの苦痛を受けてはいたが。
自分で死亡数のカウントなんてしていない。夢の中なら真実かも。
あの場でまた力尽きたら同じようなことが始まりそうと言えば、否定できず。
しかし、それでも理解するのは難しい。
「でしょうね。ただこの聞き方をしないと興味を失うのよ、あなた。
事実、今は聞く気になってきたわけでしょ?」
「まぁ、そうね。少しくらいは」
それはそれとして、意味深に微笑まれているだけというのも釈然としないわけである。
好奇心はなんとやら。
「
「どうだか、実は趣味だったりするんじゃない?」
「ご想像にお任せするわ」
さてと。夕呼はそう言った。
「話を最初に戻しましょう。あなたをなぜ助けたのか? 理由はふたつあるわ」
人差し指と中指を立てる。
「まず人道的な理由として、作戦中に偶然友軍反応をキャッチしたから。
もちろん、作戦内容については伏せさせてもらうけど」
「友軍? 私が?」
話の腰を折るのも悪いが、指摘せずにはいられなかった。
「そう、あなたの着ていた服からね」
「服?」
指摘されれば、確かに謎の多い服である。
だが、今の発言は少しおかしいようにも思えた。
「2つ目の理由にも関係するけれど、私たちは生存競争の真っただ中なのよ。
相手は人の話を聞かない上に物量で攻めてくるろくでなしエイリアン。
Beings of the Extra Terrestrial origin which is Adversary of human――通称BETAとね」
「それが、あのバケモノの名前?」
夕呼の視線が鋭くなる。
「そういうこと。そしてあなたを助けたのが
あなたが着ていたのはその戦術機の搭乗者、衛士の物だったわけね」
「助けてくれたことについては感謝しているわ」
また聞き覚えのある言葉だ。
しかし謎は減るばかりか増えている。
シイコは理解を示しつつ、困惑も深まった。
「そうして頂戴。あとで案内するからあなたを助けた子たちにも言ってあげて」
「そのくらいはする。それで2つ目の理由は?」
「せっかちさんなのね、いいけれど。……2つ目は私たちの事情よ。
まさに貴女を探していたから。やっと見つけられて安心してるくらい」
演技派女優でもなければ、その表情は真なるものに見える。
一方、それを聞いたシイコは手を動かそうとして、カチリと鎖の音が鳴るのみ。
「じゃあ、何?
私が着ていた服は偶然あなた達が使っているものと同じで
私が戦っていたバケモノは偶然あなた達が戦っている敵と同じで
さらにあなたは私がここに来るのを待っていたと。
普通に、これを明晰夢と呼んだ方が信ぴょう性はあるんじゃない?」
もとから少し変な明晰夢ではあるけれど。
「そう言われるのがわかっていたから、あんな前振りをしたのよ」
「ああ……。確かに、私のことがわかっているみたいね」
話術めいたものを使う人らしい。
シイコはカンニング以前に、結構利口な人だという感想を抱いた。
人物評価はその辺にして、本題に入る。
「で、私が死ぬっていうのは口から出まかせだったわけ?」
「いいえ、それは紛れもない事実よ」
「……168回とか。私が
無論、好きで死んでいるわけでもない。結果的に死んだというのみ。
(それ以前に夢での死は死に含めるものなの?)
思考に傾いたシイコの意識を夕呼の声が引き戻す。
「残念ながら現実での話ね~。世の中には34回死んだ人もいるらしいわよ?*1
ああ、貴女の自覚がどうかは知らないけれど、BETA相手に生身で勝つならそれくらい死ぬのもあり得る話よ。ほんとよく生きていたわね。やっぱりもう少し調べてもいいかしら?」
「そう聞かれて許可するわけないでしょ」
やっぱりってなんだ、不穏過ぎる。気を失っている間に何をしたんだ。
いやまて。夢の中で気を失うのはそもそもおかしな話ではないか?
許可に意味はなくとも言わずにはいられない。
なんとなく、相手の言いたいことが理解できてしまうのも嫌なものである。
いや、むしろ自分の夢であればあり得る話なのだろうか。
でなければ、このフレンドリーさに辻褄が合わないように思える。
(ああ、また……これは期待? やめて欲しいわね……)
あら残念、なんて言いつつそんな表情には見えない夕呼は続ける。
「168回になるかは貴女次第。このままだと現実で貴女が死ぬのは確かよ、シイコさん」
「まさかとは思うけど、寿命なんて古典的な理由じゃないわよね」
その指摘に夕呼はくすりと笑った。
「その材料で貴女を騙せたら、私はここにいないわけだけどね。残念ながら寿命以外よ」
シイコはため息を堪える。
「じゃあ、夢のお告げをくれるあなたは何が理由だって言うの?」
その言葉を待っていたと言わんばかり。
「ほかでもない貴女が自らに死を与えるわ」
「……? そんなつもりはないのだけど」
夕呼はシイコの様子に、はっとする態度を示した。
「……ああ、回りくどい言い方になってしまったわね。
確かな言い方をすれば、貴女は肉体を捨てるという意味よ」
一方のシイコは困惑が増えるばかりだ。
「それもわからないのだけど……どういった経緯になれば私が肉体を捨てると?
そもそも、肉体を捨てるなんてできないでしょう」
「もっともな指摘ね。結論としては、出来るのよ。いえ、この場合は出来てしまう、ね。
質問に質問で返すけれど、貴女は
「……そうね」
シラヌイは戦術機らしいが、それを答えようとした途端、嫌な予感がした。
もともと、軽キャノン乗りなのだから嘘でもない。
「なら、一瞬の判断が命運を分けるときにわざわざ思考を手に伝えて操縦しなければならないものと、考えただけで動く*2ものがあったら、あなたはどちらを選ぶかしら?」
「…………」
シイコは後者を選んでいる事実がある。
「より自由な方を選ぶのは仕方のないことよ。
でも、行くところまで行ってしまえば、それは肉体すら枷に思えてしまう。
当然よね、
ま、その対価が強固な電子的防御と世界を操る演算能力なら、見返りは十分かもね?」
シイコはその言葉に常識からも、感情からも素直に納得を返せない。
「だとしてもそれは肉体を捨てる理由であって、手段なんて」
「いいえ、貴女はその手段を持っている」
言い訳めいたものに、夕呼は言葉を被せた。
ひらめき。
そういった存在にひとつ、心当たりもある。
「まさか、ギンが私を……?」
(初めからそのつもりで……?)
そんなことは欠片も感じ取れなかったが、それも織り込み済みなら大した役者だ。
そもそも、OSを騙る疑似人格の本心などわかるはずもない。
いや、あれは考えているようで結構行き当たりばったりに思える。
シイコの内に懐疑が生まれると。
「ギン? ああ、
安心なさい、アレにそういった意図はないわ。もっとも、この説明をするのもアレの仕事なんだけど……お気に入りを見つけてハイになってるわけよ。たとえ説明をしたところで、貴女が理解しきれるかと言えば難しい面もあったにせよね」
世話が焼けるわね、なんて夕呼は言う。
また疑問が増えた。なぜ知っているのだ、とか。
そう思えば先を読んだように言う。
「孫のようなものよ。娘も焼かれちゃってるのね、随分」
「結婚しているの?」
指輪は見当たらないが。
「独身よ。研究職にそんな暇あると思う? そういうものだという認識よ」
「……なら、なおのことわからないのだけど」
「まぁ、それは置いておきましょう」
なんだか釈然としないものの、シイコは続きを聞く。
「話を戻せばアレにその意思がないだけで、やれるわ。
貴女がそうしたいと言えばアレは叶えてしまう、そういうものよ」
「…………」
なんだそれは。クーリングオフも出来ないのか。
積極的に手放そうとは思わない時点で、なにかよくないことが起きていると?
「貴女が今も肉体を維持しているのは、肉体で操作する経験が体にあるから。
完全にそれらを
「…………」
確かに、空を自由に飛びたいという気持ちは以前からあった。
人を捨てればそれが叶うとなれば、揺らがないと言えば嘘になる。
鳥になりたいな、とは誰の言葉か。
「少なくとも貴女はアレの影響を受けている。肉体を超えた意思において。
相手の考えが読めたりすること、あるんじゃない?」
「……ッ」
図星。
息を止めたシイコを見て、夕呼は得意になった。
シイコは話の根本を見つめる。
「……だとしても、あなたがそれを止める理由はなに?
瞬間。
まさか、という思いがシイコの心を満たした。
「そういうところよ。話が早くて嬉しいけれどね」
夕呼はほぼ癖らしい、にやけた笑いを見せる。
それが思考も理論も数段飛んで、結論に至ったことを証明した。
「補足してあげるとすれば、この状態は確かに夢のようなものだったわ。
けれど貴女は観測してしまった。そうなれば気づかずにはいられない。
もはや夢というべき情報は残っていない。この世界は歴史から再構成されたのよ」
「つまり、BETAとやらと戦う世界にいきなり、私は連れてこられたと?」
あまりに荒唐無稽過ぎる話にシイコの唇は震えた。
「そこが難しいところなのよ」
そういって夕呼は手鏡を見せてくる。
シイコが覗き込めば、確かにシイコの姿は映る。映るが。
「
人体の輪郭が捉えきれない。*3
さもテクスチャが重なりあっているような。
「そう。多重座標屈折現象――なんて言っても分かり辛いだろうから、端的に言えば。
貴女は
荒唐無稽な話に思えるが。
数秒思案して、シイコは口を開いた。
「……香月さん、でいいのよね。あなたはなぜそんなことがわかるの?
私についてといい、夢
「……気にするところ、そこなの? 案外大物なのかしら」
慌てたところで何も起きないのは知っているので。
夕呼は解答を示す。
「結論を言えば、私は別の
私の
そういった誰かの記憶があるから、私はその答えを知っているわけ。つまらない話ね」
「それは……」
シイコは言葉に詰まった。
ひょっとしなくても、とんでもない事なのではないか?
良いことも、悪いことも。
「ああ、考えていることはわかるわ。確かになんでも知っているように思えるわよね」
「でも、ちょっと違う。あくまで私は私が知りえることしか知らないの」
「この状態――おそらく因果律量子論の応用で同一存在の座標認識を限りなく不安定にして時間論的に異性体と誤認させた――を作った進歩的な私を便宜上『
「…………」
副音声のように流れ込む情報量。
複雑な、シイコの理解を超えた話だ。
ただのパイロットには難しいが、少しは理解できる気がする。
つまり、困っていると。部外者に饒舌になるほどには。
「それは滅びた世界の情報だってこと。あるいは『始まり』から与えられる情報ね。
そう、この話も初めてじゃないわ」
「ああ…………」
つまり、そういうことらしい。
シイコの中で嫌な予感のハードルが壊れる音がした。
ジオンだけでも手一杯なのに。
「必然的に、滅びたくない私は滅びた私とは違う行動をしなければならないってワケ」
「さらに面倒な話だけど、私は正真正銘、
「しかも質の悪いことに、楔の貴女が
「……それが、私に肉体を捨てさせないこと?」
思った以上に規模が大きい。人が背負うものではないだろう、それは。
「大前提ってところよ。それ以上がなければ、状況は進歩しない。
悲しいことに、貴女と無関係で滅んだ世界も結構あるのよ? 人間って愚かよねー」
そう話す夕呼の目は微塵も笑っていない。
「この世界だって、ギリギリなのよ。たとえ私が何でも識っていたとしても、実証までは仮説にすぎない。私だって
「ないでしょうね」
図らずもシイコ自身がそう思っていたのが証左だろう。
頷き、笑顔というテクスチャを夕呼は表情に張り付けた。
「その結果、こうなったわ」
研究室にしては巨大すぎるスクリーンに表示された、2色に分けられる世界地図。
それはシイコの想像以上。もちろん、悪い意味で。
ジオンもびっくりな勢力圏が表示されていた。
(ああ、コロニー落としが連発したような事態というわけね……)
つまり、現状は。
「これ、かなり詰みじゃないの? あと一手がないだけの」
連邦だってジャブローは取られなかったというのに。
「ふふふ、そうならないようお互いにやることをやるのよ。手を貸してくださる?」
それは強迫に近いのでは?
私のお願いなんてめったにないのよ、なんて言葉を聞きつつ、シイコは考える。
この世界――と呼ぶべきか――での死はどう現実に作用するのか。
「それを知る私はいないわ。観測しようがないんだもの」
「まぁ……そうよね」
覚えている範囲なら現実で死にはしなかったはず。
そもそも死んだ場合を考えるのがおかしいというもの。
あれから何かがズレた気がする。
今は軍人として、出来ることをする他にない。
「じゃあ」
手を差し出した夕呼は何かに気づいた。
「あら、いけない。これはもう必要ないわね」
手錠を外される。
久しいような、両手の自由。
手錠が付いていた手首を撫でる。
「これからよろしく」
「こちらこそ」
改めて、握手を交わした。
「そう、言葉遣いは直した方がいいかしら? 司令官さん」
「変にかしこまらなくてもいいわ。距離を感じて嫌だもの」
公の場――があるかはわからないが、別にして。
「そういうことなら。それで、どうするの?」
シイコが指針を尋ねれば。
「貴女には思考補助なしでも、同等程度に戦術機を動かせるようになって貰うわ」
「……ずいぶんな注文ね。やらないと始まらないのはわかるけど、それだけ?」
基本的な座学の知識を叩きこまれているとはいえ、腕が2本で足りるのだろうか。
それに状況を鑑みれば悠長にも思える。
とはいえ、特殊なことは出来ないのだから地力を上げるしかない。それも急いで。
「今は、だけどね。いずれ嫌でも実戦に出てもらうわ。
当然貴女が死ねば終わりだから、BETAについても勉強すること。
安心して頂戴、貴女にとって時間は有り余るものよ」
「嫌な予感がするのだけど、一応聞くわ。どういうこと?」
もの言いたげな目をしたシイコに、夕呼は笑顔で答える。
「私が知る限り、貴女の
しかも睡眠の必要性もないと来ているの。最高効率を永遠に続けられるはずよ」
「……それじゃあ、何。
「そういうことになるわね」
「連邦軍に戻れない?」
「間違ってないわ」
「もう宇宙も見られないと?」
「それは今後次第ね。地上のBETAを掃除出来れば、次は宇宙だもの」
シイコは天井を仰ぎ見た。
白一色が心に平穏を与えてくれる。
「……泣けてくる」
自覚する意識的にはジオンに復讐も出来ないというわけで。
ただ、思ったよりその事実にたじろいでいないのは、不思議なことであった。
「知識はともかく技術面の相互
あちらはあちらの貴女に任せればいいの。何とかなるわよ、きっと」
「傷心だってわかるならもう少し言い方があるでしょう?」
「あら、女々しいだけではこの世界を生きていけないわよ?」
ぐぬぬ、とシイコは表情を歪めた。
変わらず夕呼は笑っている。
「それと、私が貴女に合わせて英語を話しているけれど、日本語も覚えることね。
基地内に欧米人もいないわけじゃないけど、日常会話は日本語が多いから」
人生は勉強の連続だとは言うが、急に増えすぎであった。
ひとつに専念することを状況が許さない以上、新しい人間関係を思えばなおさら。
「……どうせこの話は私以外にしてないんでしょう? 道連れがひとり増えたのはさぞ楽しいでしょうね」
「ふふふ、よくわかってるじゃない。今なら何でも出来そうな気がしているわ」
「変わり身が早すぎる。さっきまでのしおらしい態度は一体……」
「さてね。ひとまずは私の管轄の国連軍扱いとするわ。まぁ
階級も中尉相当にするから。
ああこれ、認識章だから忘れずに。これなしだと外から帰る時門番に止められるわ」
外に出れるか知らないけれど、なんて恐ろしい言葉を添えてきた。
期待が重い。連邦軍でも見ず知らずの人間にこんなことはしないだろう。
夕呼の思わぬ権限の高さに驚きや言葉に恐怖を感じつつ。
有無を言わさずに手渡されたバッジを握りしめ、懸念していたことをシイコは問う。
「……受領しました。ねぇ、もしかしてなんだけど私、
夕呼はいたずら心に満ちた表情で答えた。
「当然よ。ちょうどいいし私のメイドってことにするから。
「嘘でしょ…………」
今まで意識の外に置いていたが、直視せざるを得ない。
あまりに散らかった部屋がシイコに牙を剥こうとしていた。
あるいは猫。あるいは門。あるいは月。
脳は猫派。動物禁止だけど。
おしえて!夕呼先生!
「多次元解釈*1って、あるじゃない?」
「あるいは多世界解釈とか、コペンハーゲン解釈もあるわね。まぁ、つまり量子力学を元にした波動の実在性における観測問題よ」
「別の私に言わせてみれば二重スリット実験を扱うべきなのだけど」
「前提として多世界解釈について話すわね。これはシュレディンガーの猫を例えに出すと分かりやすいと思うのだけど、あれって観測者がいて初めて猫の状態が確定するでしょう?」
「つまり事象の存在強度には干渉性があるってことなんだけど*2」
「多世界解釈のもとではこの猫を観測する「誰か」は宇宙であり、宇宙でないのよ」
「量子的多重人格者ってワケね」
「もっといえば、すべては重なり合っている」
「けれどそんな滅茶苦茶な観測をするとどうなるかといえば、干渉性を失うわけで」
「干渉している「誰か」の主体がないんだから、干渉しようがないのよ」
「その干渉性がなくなる結果として猫の状態は常に『あり得る』ものになり、『あり得る』結果を観測したものはその『あり得る』世界を見続けることになる」
「ゆえに、観測者が観測した数だけ重なり合った世界から枝分かれしていく」
「つまり猫が生きているAと死んでいるBにわかれる。そのうえで、両者は同時に存在するし、両者は自身の観測した結果のみを知る」
「なんて、話なんだけど」
「この話には有名な弱点があってね」
「つまり、今自分が死んだとしても別主体の自分が多世界で生きているのだから、それは死ではないのでは? なので死んでも大丈夫だろう、なんていう指摘があるわ」
「もちろん、死んでしまったら自分を維持し観測する「自分」がいないのだから、ただしんだという結果にしかならないし、死んだ事実も観測できないのよ」
「結局、認識において「自分」という枷からは逃れられない、ということね」
「じゃあ、観測が完全な第三者から起きたらどうなるの?」
「というのが多次元解釈ってワケ」
「高次元存在の実在性、といった方がわかりやすいかしら?」
「結論を言ってしまえば多次元解釈においてはどれも「私」だし、その観測元も「私」。私が私を観測しているのだから私の実在性はそのままに干渉性を持つというわけ」
「ねこはいます。と、ねこはいません。を観測するのだからねこはいないしいるのよ」
「この干渉性の強度こそが存在強度によるんだけど、つまり認識の上で存在強度が強い世界の話が優先される傾向にあるの」
「ま、これも仮説なんだけどね」
感想のGood機能はあり派?なし派?
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アリ派
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ナシ派
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トゲアリトゲナシトゲトゲ(生存確認)