婚約破棄された悪役令嬢を拾って人生勝ち組になろうとしたら、ドS過ぎて逆に飼われてる   作:こういうのがお好き?

11 / 40
第11話 幼馴染って、そういう関係だったのね

 

「ねぇ、ルイーゼ……。あの、さ」

 

夕暮れ時の執務室。

俺は書類の山に囲まれながら、何度も言いかけて、やっぱり言えなかった。

 

彼女は、向かいのソファで紅茶を啜っている。

美しい。完璧。高貴。

……なのに、なぜだ。

俺の視線は、彼女の指先にある乗馬鞭にしかいかない。

 

その一撃を――俺は、ご褒美だと思ってる。

 

「なにかしら? さっきから、妙にそわそわしているようだけれど」

「え、いや、別に……」

「はぁ。貞操帯の締め付けで脳がやられてるのかしら。それとも……今日も“ご褒美”が欲しいのかしら?」

 

ぶひっ……あぶない。

喉奥まできた。

でも、こらえた。人としての尊厳が、ギリギリ止めた。

 

ルイーゼはひとつ小さくため息をついて、手にしていたカップを、そっとテーブルに置いた。

 

「ご褒美を与えるには、少々準備が要りますわね」

ルイーゼが立ち上がり、ゆるりと声をかける。

「リゼ。お願いできるかしら?」

 

呼ばれた名前に、静かな足音が応じる。

執務室の扉が開き、濃紺の髪のメイド――リゼが入ってきた。

 

彼女は何も言わずに、扉を静かに閉め、カチャリと鍵をかけた。

そしてその場でくるりと向き直り、無言のまま扉の前に立ち尽くす。

 

見張り役の完成。

誰にも見られず、誰にも逃がさない。

羞恥と快感の密室構築が、今、完了した。

 

ルイーゼは小さく笑った。

 

「防音は万全ですわ。――続けましょう?」

 

俺は震えた。

体じゃない、精神が。

 

「……欲しいのなら、その口で願いなさい」

 

空気が凍る。

 

「……っ、いや、でも、そんな……」

「なにかしら? “お願いします、鞭で叩いてください、ルイーゼ様”って、言えませんの?」

「い、いや、それはちょっと……」

「言えないなら、あげませんわ。言葉にしない願いなど、民草の陳情にも劣りますもの」

 

民草扱いされた。

ていうか、陳情って。

 

「……し、したいです、ご褒美……」

「聞こえませんわ。もっと、はっきりと」

「……ご褒美が、欲しいです。鞭で、叩いてほしい……です……」

「誰に?」

「ルイーゼに……っ、じゃなくて……ルイーゼ“様”に……お願い、します」

 

沈黙。

そして――微笑み。

 

「ふふ……よく言えましたわね」

 

彼女は、わずかに顔を傾けて――静かに言った。

 

「でも、ひとつだけ勘違いしないでくださいまし。

これは“ご褒美”ではありませんの。わたくしにとっては、あくまで“罰”。

それを勝手に悦んで、“ご褒美”と思い込むのは、飼い犬の勝手な自己解釈ですわ」

 

ぞくりとした。

言葉そのものが、既に鞭だった。

 

「では――罰を差し上げます」

 

バシィン!!

床が跳ねる音が響いた。

 

「――事業拡大の気鋭の経営者のくせに、その本性がこれとは。民草に申し訳ないと思わないの?」

「うぐっ……っ!」

 

快感が背筋を走る。恥と悦びが混ざり合い、内臓が震えた。

 

「なにが“注目の若き事業家”ですの。貞操帯の鍵を他人に預けて悦ぶような変態豚が、国の未来ですって? 冗談もほどほどにしなさいな」

 

バシィン!

 

扉の前で沈黙していたリゼが、淡々と声を落とす。

 

「……本気で国の未来を案じるなら、まずはその下半身を国庫に納めてください」

 

「うっ……! ぐ、胃が……胃が悦んでる……!」

 

「ていうか、鍵を渡すって、経営者として意思決定を丸投げしてるってことですよ?

 それ、もう実質“飼育型フランチャイズ”です」

 

「くっ……例えが的確すぎて……悦びの震えが止まらない……!」

 

快感と羞恥が、論理の装いをまとって押し寄せる。

脳が追いつかない。でも、心は大満足だった。

 

「あなたは誰に飼われているのか、ちゃんと自覚しなさい。“ご主人様”の許可なく悦ぶことなど、許しませんわよ?」

「は、はい……っ、ルイーゼ様……!」

 

「では、今日も躾けて差し上げましょう。“豚”が豚らしく振る舞えるように、ね」

 

「ぶ、ぶひぃっ……!」

 

「もう鳴いてますの? わたくし、まだ本気を出していませんのに」

 

ルイーゼが、足を組み直し、俺の顎を軽く持ち上げる。

 

「その目。期待に潤んでいますわ。ああ、哀れなこと。豚のくせに、そんな目をして」

 

バシィン!!

鞭が、さらに深く――俺の羞恥心を打ち抜いた。

 

「今夜はこのまま、“懇願の練習”をしましょうか。あなたの本性が、民草すべてに知れ渡るその日まで――わたくしが、ちゃんと調教して差し上げますわ」

 

その横で、リゼがぼそりと漏らす。

 

「……では、私は“民草代表”として静観しておきます。無理やり見せられる側の人権もありますから」

 

俺は、鞭に打たれながら、喜びに震えていた。

 

そして、思った。

 

――ご褒美って、尊い。

 

 

★★★★★

 

 

 

それは、夕方の屋敷だった。

リゼが手早く執務報告を終えたあと、扉がノックされる。

 

「ごきげんよう。お邪魔してもいいかしら?」

 

その声を聞いた瞬間、俺の背筋に走るものがあった。

そして扉が開いた――

 

ミレーヌがいた。

 

清楚なドレスに、柔らかな栗色の髪。

笑顔は穏やか。でも……その瞳は、やけに据わっていた。

 

「久しぶり、エリオット。最近“しつけ”が順調そうね?」

「み、ミレーヌ……! いや、それは……っ」

「ええ、聞いたわ。新規事業、大成功。でも、それ以上に――あなたが“いい子”になったって話の方が、興味あるわね」

「いや、ちょっと待っ――」

 

ブンッ!

 

俺の言葉を遮るように、ルイーゼの乗馬鞭が空気を裂く。

 

「ごきげんよう、ミレーヌ様。この子は“いい子”ではなく、“躾け甲斐のある豚”ですわ。お間違えなく」

「ふふ……ルイーゼ様、相変わらずですわね。でも、あなたもよく躾けたわ。まるで、別人みたい」

 

俺は逃げ道を探そうとしたが、無駄だった。

両脇をドS×2の令嬢に挟まれた逃亡者に、未来などない。

 

その展開に、本能が震え始めていた。

 

「ねぇ、エリオット」

 

ミレーヌが俺の耳元に、ふわりと囁く。

 

「今日、私に……優しくされたい?」

「な、なに言って……っ!」

「ふふ、顔が真っ赤よ。そんなに嬉しいの? 怖いの? ねぇ、頭を撫でられるだけじゃ足りない? じゃあ……今度こそ、どこを撫でてほしいのか、ちゃんと言って? 前回聞こえなかったから」

 

あ、ダメだこれ。

声に出そうだった。ぶひっが。

 

……だがそのとき――空気が変わった。

 

「……あなた、興奮してるの?」

 

ルイーゼの声が低く響いた。

俺に向けてかと思ったが、違う。

彼女の視線は、はっきりと――ミレーヌを捉えていた。

 

「その顔。紅潮してますわよ。声のトーンも上がってるし……目が潤んでる。ふぅん……“見せつける趣味”でも、おありで?」

 

ミレーヌが硬直する。

 

「ち、違います! わたくしはただ……!」

「“ただ”の幼馴染が、そんな顔で躾けるものかしら。幼馴染って、そういう関係だったのね……この国の未来は暗いわ」

「ち、違っ――」

 

ミレーヌが、言葉を詰まらせる。

否定の声は、途中で消え、沈黙が落ちた。

 

顔が、耳まで真っ赤だった。

そして……ルイーゼは確信したように微笑む。

 

「――バレましたわね」

「そんな、私は……!」

「ミレーヌ様。わたくしに対抗して“躾け”に来たつもりかしら? ええ、構いませんわ。あなたの“やり方”とやら、見せていただきましょう」

 

ルイーゼが一歩引き、手を広げる。

 

「どうぞ。この豚に、あなたの“愛の罵倒”とやらを……もしあなたにそんなものがあるのなら、ですが」

「…………」

 

ミレーヌは静かに歩み寄り、俺の前に立った。

そして、笑顔で言った。

 

「エリオット。あなた、今日もよく頑張ったわね」

「えっ……?」

「でも、ちょっと調子に乗ってた。よく分かるの。ほら、その目。“褒めてほしい”って目してる」

「ち、ちが……!」

「じゃあ、こう言ってごらんなさい。“もっと、言葉で叱ってください”って」

「そ、それは……!」

「ふふ……いい子ね。言えるまで、待っててさしあげますわ。あなたが“ちゃんとした豚”になれるまで、ずっと」

 

ぶ、ぶひぃぃ――!!

 

寸前。寸止め。ギリギリ。

 

ルイーゼの鞭が、スパンと鳴った。

 

「ふぅん。案外やるじゃないですか、ミレーヌ様。まるで、母豚が甘やかすような調教でしたわ。でも、少しは感心しましたわ。あなたの中にも、“女王の素質”があるのね。それとも……わたくしとこの豚を“奪い合いたい”のかしら?」

 

ミレーヌは、何も言わなかった。

けれど――その沈黙が、何より雄弁だった。

 

俺は両脇を挟まれたまま、頭を抱える。

 

ぶひ……出る前に、逃げなきゃ。

 

でも、足が動かない。

だって……この地獄、心地よすぎるんだ。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。