婚約破棄された悪役令嬢を拾って人生勝ち組になろうとしたら、ドS過ぎて逆に飼われてる   作:こういうのがお好き?

12 / 40
第12話 外したいなら、外せばいいのですわよ?

 

リゼは、静かに机の引き出しから取り出した。

 

「開発しました。ぶひ対策デバイス、プロトタイプ01号です」

 

俺は目を丸くする。

そこには、シンプルな革製の口枷――まさに、“豚鳴き封じ”の象徴があった。

 

「ちょ、まじで作ったのかよ!? 冗談だと思ってたのに……!」

「“ぶひ”がこぼれすぎたので。屋敷の防音問題も深刻ですから」

 

ルイーゼが、それを受け取りながら、嬉しそうに微笑んだ。

 

「まぁ……この見た目、まるでエリオットのために作られたようなデザインですわね。似合うと思いますわ。次の新製品としていかがかしら?」

「や、やめろって……それはちょっと、な、なんか屈辱的っていうか――」

「では、つけなさい」

「えっ」

「命令です。つけなさい……ほら、手を動かして」

 

俺は、おそるおそる手に取り、躊躇いながら装着する。

革の感触が、肌にぴったりと吸い付いた。

 

カチッと音はしなかった。

そう、これは――鍵付きではない。

 

自由に外せる。構造的には。

 

「……ふふ。気づきましたか?」

 

ルイーゼが近づいて、俺の耳元で囁いた。

 

「外したいなら、外せばいいのですわよ?」

「……っ」

「でも。外せないですわよね?」

 

喉の奥が、かすかに鳴る。

鳴き声ではない。

ただ、羞恥と屈辱と、謎の昂ぶりが入り混じった、呻きだった。

 

「ほら、あなたの手は動く。鍵もない。誰にも縛られていない。それでも、あなたは……自分で自分に“豚の証”をはめ続けているのですわ」

 

ルイーゼは、俺の顎を軽く持ち上げた。

 

「……気に入りましたわ。この仕様。わたくしが命じなくても、勝手に“飼われてくれる”なんて――なんて便利な豚かしら」

「んんーっ!!(うわああああああああ)」

 

喋れない。

そして、外せない。

 

羞恥が頭のてっぺんから足のつま先まで突き抜けた。

 

リゼが腕を組んで、静かに分析する。

 

「心理的服従の可視化に成功した瞬間ですね。鍵のない拘束具ほど、効果的な支配はありません」

「ふふ……まるで、家畜が自ら首輪をつけて喜んでいるみたいですわね。ねえ? エリオット。あなたは、そういう“豚”なのですわ」

「んんんーっ……(ぶひいいいいいいい!!)」

 

こぼれそう。声にならない悲鳴。

でも――脳が、喜んでいた。

 

「せっかくだから、このまま屋敷の外、歩いてみる?」

「~~~~っ!!???」

「だって、外せるのに、外していないのですもの。それって、“わたくしに飼われていることを見せびらかしたい”ってことですわよね?」

 

ルイーゼの鞭が、ポン、と手のひらに乗せられる。

 

「さ、歩きなさい。首を上げて。誇らしげに、自分が“誰のものか”を証明するのですわ」

 

俺は、這いながら玄関へと導かれる。

リゼは無言で、扉の鍵を開ける。

 

ああああ、ちがう、ちがうちがう、これはちがう、でも、ちがうって言えない……ッ!!

 

「ふふ。顔が真っ赤ですわよ? あら、口がきけないから反論もできませんのね。まさに、わたくしの“しつけ”が完了した証拠ですわね」

 

俺は、ぶるぶる震えながら、手で口枷に触れた。

 

ゆるく装着されたその帯は、力を入れれば簡単に外せる。

……でも。

 

(……外せない)

 

身体じゃない。心が、外すことを拒んでいた。

 

だって、もしこれを外してしまったら――

俺は、“自分が誰のものか”すら、分からなくなる気がした。

 

「……ふぅん。じゃあ、こうしましょう」

 

ルイーゼは、口枷の説明書らしき紙を丸めて、

自分のペンダントケースに、くしゃっと突っ込んだ。

 

「鍵がないなら、“意思”で管理すればいいのですわ。つまり、これはもう、わたくしの所有物ですの。あなたごと、ね」

 

リゼが最後にひとこと添えた。

 

「名実ともに、“飼われ豚”の完成ですね……おめでとうございます」

 

俺は、床に這いつくばったまま、

誰にも見られないように、そっと涙をこぼした。

 

ぶひ、なんて言わない。

言わないけど――

 

この世界で一番幸せな、豚でした。

 

 

★★★★★

 

 

 

「じゃ、そろそろ出発だな……」

 

玄関の大鏡の前で、俺はスーツの襟を直しながら独り言をつぶやいた。

 

今日は、新規事業の要である工場の初視察日。

経営者としても、ここからが本当の勝負だ。

 

だけど――

 

「……ルイーゼ、来ないのか?」

 

朝からずっと、自室にこもったままのルイーゼ。

 

昨日のうちに同行を頼んだが、「くだらない」と一蹴されていた。

そして今日になっても、彼女は一向に姿を見せない。

 

すると――

 

「……何をボサッとしているのかしら?」

 

ヒールの音。

振り向くと、ルイーゼが優雅に階段を下りてきた。

 

……いや、優雅なのは見た目だけで、顔は明らかに不機嫌そうだった。

 

「行かないって言ったんじゃ……?」

「行かないとは言いましたわ。ええ、確かに。でも、あなたの“身なり”を見たら、見過ごすわけにはいかなくなりましたの」

「えっ、そんなに変か?」

「変ではありません。ひどいだけですわ」

 

ぴしゃりと一言。

 

ルイーゼはそのまま俺の前に立つと、唇をほんのりとつり上げ、言い放った。

 

「では、十数えると同時に、罵倒して差し上げますわ。その間に、誰に飼われているのか、よく思い出しなさいな」

「なっ……」

 

「いーち」

「その無様な立ち姿、民草が見たら国が滅びますわ」

 

「にー」

「ネクタイの結び目、幼稚園児の方が上手ですわね」

 

「さーん」

「視線が定まらない。まるで、牝犬の足元を見てるみたい」

 

「しー」

「顎、引きなさい。出てますわよ。知性まで逃げてます」

 

「ご、ご――」

「カウントに口を挟まない。黙って罵倒を浴びなさい」

 

「ろーく」

「歩き方がふらついてる……まさか、“装着中”なのかしら?」

「ぶ、ぶひぃ……っ!」

 

「しーち」

「……“ぶひ”は反応ではなく、鳴き声。訓練が必要ですわね」

 

「はーち」

「表情が緩んできましたわね。脳が蒸発してきた証拠ですわ」

 

「きゅー」

「わたくしの“躾け”がなければ、あなたはただの“野良”ですもの」

 

「じゅう」

「つまり、あなたの自主性も尊厳も、ここで終了ですわ」

 

俺は、床に膝をついていた。

 

いつの間にか、自然に、流れるように。

まるで、呼吸と同じレベルで、跪いていた。

 

ルイーゼが、ふう、とひと息吐いた。

 

「まったく……十数えるなんて、朝から骨が折れましたわ」

「す、すみません……」

「罰として、今日一日、わたくしの指示なしに喋らないこと。いいえ、それよりも――」

 

ルイーゼは俺が立ち上がった瞬間に、言葉を重ねた。

 

「立ちなさいとは言ってませんわ」

「……はい。跪きます」

「いいわ。そのままで。目線を下げて、そう……その高さでちょうどいい」

 

彼女は、ほんの少しだけ背伸びをして、俺の胸元に手を伸ばした。

顔が近づくと同時に、細い指先が、ネクタイの結び目をそっと整える。

 

「……ネクタイが、曲がっていますわよ」

 

その声は、罵倒というにはあまりに、優しかった。

 

ネクタイを結び終えたルイーゼは、静かに言う。

 

「……仕方ありませんわね。一緒に行ってあげますわ。わたくしの“豚”を野放しにするわけにはいきませんもの」

 

俺は思った。

 

ギャップ萌え半端ねぇ!!!

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。