婚約破棄された悪役令嬢を拾って人生勝ち組になろうとしたら、ドS過ぎて逆に飼われてる   作:こういうのがお好き?

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第13話 いい子ですね。首輪を買い直してあげようかしら

 

「……ルイーゼが、実家に!?」

「ええ。本日朝方、急ぎの使者が来て。“今すぐ戻ってくるように”とのことでした」

 

リゼは、いつものように無表情のまま、淡々とティーカップを磨いていた。

 

ここは応接室。ルイーゼの姿がない――というだけで、屋敷全体が広く感じる。

 

「なにか、あったのか?」

「“母親からの呼び出し”だそうです。口調は柔らかく、内容は重く……貴族社会では、よくあることですね」

「……戻って来ないのかな……」

「その可能性も、あります」

「……!」

「そもそも、お嬢様とエリオット様は形式上の婚約関係でしょう?」

 

俺は手にしていたカップを、そっとテーブルに置いた。

 

「そうだけど……やっぱり、ルイーゼって、本当は……」

「お嬢様が第三王子に婚約破棄されたのは、“性格が悪いから”ではありません」

 

リゼが、静かに言葉を挟んだ。

 

「……え?」

「もちろん、“性格が悪い”のは事実です」

「おい」

「ですが――それが原因ではありません」

 

俺は息を呑む。

 

「……じゃあ、なにが原因だったんだ」

「“強すぎた”から、です」

 

リゼは、さらりと、とんでもないことを言った。

 

「第三王子との件は、政略結婚の一環として婚約が整えられましたが――お嬢様の“強気な言動”と“有能さ”に、次第に王子は“怯え”、そして“屈辱”を感じていったそうです」

「……」

「そしてある日、彼女は正式に婚約破棄を告げられました。“夫婦関係を築くには、慎ましさと従順さが足りない”――それが、王家の公式な説明でした」

 

俺の手が、カップの取っ手から滑り落ちた。

 

王子。この国の中枢に立つ者が、彼女の“強さ”を拒んだ。

 

「……それで、勘当されたのか」

「ええ。“王子に牙を剥いた不出来な令嬢”として、実家の名誉を損なったとされ――事実上の追放となりました」

「……理不尽すぎるだろ、それ」

「理不尽なのは、お嬢様も分かっていたと思います」

「じゃあ、なんで……!」

「彼女は、誇り高く在ろうとしたのです」

 

リゼは、拭き終わったティーカップを丁寧に伏せ、言った。

 

「この国の貴族社会では――女性には慎ましさと従順さが求められます。公の場では笑って、控えめに話し、男の意見を否定しない。意志を持たぬ“花”であることが、理想とされるのです」

「……」

「でも、お嬢様は違いました。――“花”であろうとはせず、“炎”として生きようとした。正義感が強く、聡明で、遠慮もなく、そして……傲慢で、有能だった」

 

俺は、返す言葉が見つからなかった。

 

ルイーゼのあの強さ――あれは、偶然の気性なんかじゃない。

あの人は、敢えてあああろうとしたんだ。

 

「……リゼ。それでも、やっぱり……あいつ、帰ってこないかもしれないよな」

「ええ。王宮との関係が修復されれば、家の名誉も回復します。再婚の話もあるでしょう。生活も、立場も、以前より安定するはずです」

「……」

「けれど、わたしは、戻ってくると思いますよ」

「……なんで?」

「理由は簡単です」

 

リゼが初めて、少しだけ口元を緩めた。

 

「“名誉より、豚の方が面白い”と、あの方は思っていらっしゃいますから」

「……っ」

「おめでとうございます、エリオット様。あなたは、“花”では満たされなかった炎女王様の豚。しっかり火を通していただいて、チャーシューとなってくださいませ」

「チャーシューって……」

 

そのとき――玄関の扉が、静かに開いた。

 

俺が振り返るより早く、高貴なヒール音が石畳を刻み、ルイーゼが、何事もなかったかのように立っていた。

 

その口元には、冷たい嘲笑。

 

「――何をしているの? 出迎えもせずに。犬でも、それくらいはできますわよ」

 

突き刺さる一言。思わず、頭を垂れた。

 

「……ああ、あなたはもう犬ですらなかったんでしたわね。豚。わたくし、豚より犬の方が好きなのに」

 

鞭が、彼女の指先でひと回しされる。俺はその場で、声にならない“ぶひ”を噛み殺す。

 

返すべき言葉は――もう決まっていた。

 

「……ワン」

 

ルイーゼは一瞬、目を瞬かせた。

そして、ふっと笑った。

 

「ふふ……いい子ですね。首輪を買い直してあげようかしら」

 

そう言って、彼女は鞄を置き、優雅に踵を返した。

 

そして――振り返ることもなく、こう告げる。

 

「勘違いなさらないで。わたくしが戻ったのは、あなたを躾け切っていないからですわ」

 

そう言って、わずかに頬をそらした。

 

「……それに、あの屋敷、空調が最悪でしたの。わたくし、もう快適な床以外では眠れませんのよ」

 

乗馬鞭を小さく回し、鞄の上に軽く打ちつける。

 

「さ、出張の準備があるのでしょう? わたくしの指示がないと、準備もできないんでしょうから。しっかり、甘えなさいな」

 

俺は全力でぶひを堪えながら、頭を垂れた。

 

ルイーゼは、強く、美しく、そして――この上なく、不器用な人だった。

 

でも俺は、きっと彼女のすべてを、これからもずっと、見ていたいと思った。

 

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