婚約破棄された悪役令嬢を拾って人生勝ち組になろうとしたら、ドS過ぎて逆に飼われてる   作:こういうのがお好き?

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第20話 これからわたくしが十数えます

 

日中のフィオナの突然の来訪により、クラリモンド領の屋敷には妙な空気が漂っていた。

 

ルイーゼの様子が変わったのは、それからすぐだった。

 

「リゼ、今日の夕食後、執務室にエリオットを連れてきて」

 

その一言で、全てが察せられた……今夜、久々の“本気の調教”がある。

 

 

俺は執務室の扉を開けた瞬間、反射的に背筋を伸ばした。

 

「遅かったですわね、雑種」

 

部屋の奥に佇むルイーゼの声音は、久々に芯が通っていた。

頬杖をついたまま、優雅に脚を組み、俺を見下ろす目には――かつての“毒”が戻っていた。

 

「最近、罵倒のキレが鈍っていたとでも思いました?」

「えっ……いや、あの、その……」

「図星ですのね。けれど、今日からは違いますわ」

 

ぱしん、と乗馬鞭が机を叩く音が響いた。

 

「再調教を始めます。あなたのような半端な犬には、強めの指導が必要ですもの」

 

……あれ? なんか嬉しい。

 

俺の内心が混乱していくなか、ルイーゼがふと立ち上がる。

 

「立ちなさい、エリオット。今日は――褒め言葉の訓練をしましょう」

「……褒め、言葉?」

「ええ。これからわたくしが十数えます。その間に、あなたがわたくしをどれだけ褒められるか。挑戦してみなさい」

「え、ちょっとまって、いきなり!?」

 

「いーち」

「えっ!? ええと! そのドレス、すごく似合ってます!! 威厳があって、高貴で!!」

 

「にーい」

「発言に迷いがなくて、自信に満ちてて! 気品が桁違いです!」

 

「さーん」

「あと、知性もすごくて! 戦略眼もあって! 俺が敵なら即降伏します!」

 

「よーん」

「髪も綺麗で、香りも上品で! 同じ空気吸ってるの申し訳ないくらいで!」

 

「ごーお」

「言葉遣いも完璧で、身のこなしも貴族そのものだし……!」

 

「ろーく」

「そして、そんなあなたに支配されるのが、俺にとっては至上の――」

「ストーップ!」

 

ルイーゼの声が突如、裏返った。

真っ赤になった顔を片手で隠しながら、彼女はぎこちなく視線を逸らす。

 

「……何を得意げに叫んでいますの、変態」

「いや、だってルイーゼが数えろって……」

「こんな辱めを受けるとは……っ。フィオナにまで笑われたらどうするおつもりですの……」

「え、あれ? ルイーゼ、もしかして照れて――」

「言ったら、殺しますわよ?」

 

その殺気に俺は直立不動で口を閉じた。

だが、ルイーゼの手が小さく震えていたのを――俺は見逃さなかった。

 

乗馬鞭を振り上げたものの、その一撃は空を切る。

 

「あれ……ルイーゼ……?」

「ち、違いますわ! これは……っ、その……滑っただけですわ!」

 

真っ赤になった顔を逸らすルイーゼ。

その姿は、まるで何かを必死に誤魔化す少女のようで――俺は、思わず目を奪われてしまった。

 

「べ、別に、嬉しくなど……あるわけないでしょう!? 犬に褒められても、何の価値もありませんもの!!」

 

 

「でも……あれって、少し照れてたよな、絶対」

 

俺はぼそっと呟く。すると、隣を歩くリゼが無表情で応じた。

 

「“絶対”の使用には慎重さが必要です。特に、あなたのような観察力では」

「お、おう……」

「それに、あれを恋と錯覚するあたり、あなたの知能は本格的に危険です」

「うっ……」

「だとしても、感情が通じたと喜ぶ犬の顔は、なかなか見ものでした」

「おまえほんと容赦ねぇな……」

「ですが……今日のあなた、少しだけ“人間”に戻って見えました」

 

その言葉に、俺は思わず振り向く。

が、リゼの表情は変わらない。

 

「錯覚だとわかっていても、少し惜しく感じたのは、こちらも毒されてきた証拠でしょうか」

 

静かに毒を吐くその姿に、俺は思わず苦笑する。

 

「では、今度は――」

「ん?」

「わたくしを褒めてください。十、数えます」

「ちょ、えっ!? 待って準備が!」

 

「いーち」

「リ、リゼは冷静で頼りになって……! 毒舌も鋭くて! あと、顔も綺麗で!」

 

「にーい」

「無表情なのに情があるっていうか、ツンじゃなくてドク! ドクが効いてて最高で!」

 

「さーん」

 

そのときだった。空気を裂く風切り音――!

 

ルイーゼの乗馬鞭が、俺とリゼの間を一直線にすり抜け、壁に突き刺さった。

 

「わお」

 

珍しくリゼが声を漏らす。

 

「お嬢様、焼き餅は品位を損ねますよ」

 

背後に視線を向けると、そこでは、ルイーゼの口元がぴくぴくと引き攣っている。

 

これは相当お怒りの模様。

 

対するリゼは、鞭の刺さった壁を見つめながら、暢気にもぼそりと呟いた。

 

「……まあ。褒められるのも、悪くないですね」

 

その声音は、わずかに柔らかかった。

 

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