婚約破棄された悪役令嬢を拾って人生勝ち組になろうとしたら、ドS過ぎて逆に飼われてる 作:こういうのがお好き?
俺は、その日も何も考えずに風呂場の扉を開けた。
そして――
すべてを、見た。
「ふぅ……やっぱり、この温度、落ち着きますわね
「お嬢様、肩まで浸かってください。湯冷めします」
聞こえてきた声は、信じられないことに、二重奏だった。湯気の向こう、湯船に沈んでいたのはルイーゼ一人じゃない。もう一人、無表情で髪を結い上げた裸のリゼが、湯の中で膝を抱えていた。
二人の裸体が、神々しく湯に浮かんでいた。
「……犬?」
湯気の奥から、ルイーゼの涼やかな声。
湯に濡れた金髪が肩から胸元にかかり、豊かな双丘が湯面の揺らぎに合わせて優雅に波打っている。一方、リゼは髪をまとめて白い肌をさらしながら、静かにこちらを見つめていた。
「まさか、あなた――このタイミングで、風呂に?」
「ち、ちがう! ちがうちがうちがうんだ、偶然! 入ってるなんて知らなかった!」
「それにしては、見つめる時間がずいぶん長いようですが?」
ルイーゼの目が細くなり、口元に冷笑が浮かぶ。
「犬のくせに、湯の中の雌を見て興奮するとは。浅ましすぎて笑えますわ……いや、むしろ笑ってあげましょうか? “よくもまあ、そこまで品性を落とせましたわね”って」
「ぐぅ……!」
すると、横にいたリゼが、湯船の中でゆっくりと立ち上がる。
「覗き魔の定義に、新たなカテゴリが追加されますね。“家の主と侍女の入浴中に堂々と扉を開ける変態”」
「言い方がひどい!!」
「事実の描写です。もし弁明が必要であれば、後ほど法廷を用意します。死刑判決が確定したあとで」
ルイーゼがふっと笑い、濡れた指でリゼの頬を軽くつつく。
「まったく、あなたって本当に冷たいのね」
「お嬢様が温かすぎるのです……胸も、心も」
「ええ、そうですわね。わたくし、胸が広いんですもの」
二人が笑い合う姿を見ながら、俺はなぜか胸が締めつけられる思いがした。
身分の違いも、生い立ちも越えて並び立つ彼女たち。俺なんかより、ずっと真っ直ぐに通じ合っていて――
「……ああもう、変な意味で興奮してる自分が最悪だ!!!」
桶が飛んできた。
「そうやって、自分で勝手に燃え上がって自爆するの、哀れを通り越して滑稽ですわね。まさに……犬芸」
*
数時間後。
俺の部屋のドアを開けると、そこにはさっきの入浴天使――もとい、処刑執行人コンビが並んでいた。
「先ほどの件について、“公平性”という観点から処理しますわ」
「……!?」
ルイーゼは腕を組み、威厳たっぷりに俺を見下ろす。
「あなたが、わたくしとリゼの裸体を“偶然”見た件。その罪を問わない代わりに、当然ですが――あなたも見せなさい」
「はあああ!?」
背後からリゼがそっと囁く。
「公平性の確保。家の規律維持。羞恥による矯正。どれも必要な処置です。拒否は死刑」
「お前の辞書には“猶予”とか“温情”とかないのか!?」
「ありません。“羞恥”なら項目がありますが、読み方は“しつけ”です」
逃げ場はなかった。
俺は、恐る恐る、シャツに手をかけた。
まず、上半身。脱ぐたびにルイーゼの視線が鋭くなる。
「ふぅん。筋肉、あるようで、ないようで。中途半端ですわね……見せるなら、せめて見せられる身体にしなさいな」
「この身は毎朝薪割りで鍛えてるんだよ! 素人目にはわかりづらい努力なんだよ!!」
次に、ズボンへ。
ズルッと下ろし、ついに全裸――
「……殿方の、その、初めて見ました。案外、小さいのですね――」
ぴくっ
「……動いた!? えっ、なに!? 今、動きました!? 何を想像したの!? あたくし!? リゼ!? 何!? どれ!?」
「いやこれはその、風! 冷え! 本能反射で!」
リゼが低い声で宣言する。
「反応時間、約1.4秒。極めて迅速。分類:条件反射型忠犬。トリガー:罵倒。備考:非常に教育しがいがある変態」
「やめて! 分析やめてぇ!!」
ルイーゼが額に手を当て、天を仰ぐ。
「……終わってますわね」
「はぁ……まさか、ここまでとは思いませんでした。感動的なまでの一貫性」
「褒めてる!? どっち!? 罵って!? どうせなら徹底的に罵って!!」
「命乞いの声が、犬の鳴き声に聞こえてきましたわ。あなた、もう人間のステージにはいませんのね」
床に膝をつく俺。
羞恥で顔は真っ赤、身体は真っ裸。
ルイーゼがぽつりと呟いた。
「……まあ、でも。こういう生き物が一匹くらいいても、屋敷の格が落ちるわけでもありませんし」
リゼが小さく微笑む。
「お嬢様は、胸だけでなく、心も広い……いえ、どちらかというと、胸のほうが際立ってますが」
「ふふ……ありがとう。わたくし、誇りに思いますわ」
「主の器の広さ(物理)ですね」
「やかましい!!」
こうして俺の尊厳はまたひとつ脱げ落ち、羞恥の炎は勢いを増して燃え上がるのだった――
――飼われてるんじゃない。これはもう、完全に調教されてる。