婚約破棄された悪役令嬢を拾って人生勝ち組になろうとしたら、ドS過ぎて逆に飼われてる   作:こういうのがお好き?

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第27話 これより“高貴なる教育”を施します

 

「……それなら、わたくしが担当いたします」

 

ルイーゼのその一言に、俺とリゼの時が止まった。

 

「な、何を担当するって?」

 

おそるおそる尋ねると、彼女は紅茶を一口啜ってから、優雅に微笑んだ。

 

「ミレーヌ嬢が授業を行い、子どもたちが楽しそうにしていた。そして、フィオナまでもが授業をした、と」

 

ミレーヌはともかく、フィオナのあれは授業になってたのか……?

 

「――でしたら、わたくしにも可能ですわね」

「え、ちょっと待て、それは違……」

「明日、教壇に立ちますわ」

 

リゼと俺、声が重なった。

 

「「は?」」

 

 

そして、翌日。

 

教室は妙な緊張感に包まれていた。いや、正直に言うと、恐怖だ。

 

ルイーゼは薄桃色のドレスに、銀の指導鞭を携えて教壇に立っていた。

 

「皆さん、静粛に」

 

たった一言で、子どもたちの背筋がピンと伸びる。俺もびくついた。

 

「これより“高貴なる教育”を施します。姿勢、礼儀、発声、全てを整えなければ、学びは身につきませんわ」

 

俺の隣で、リゼが冷静に呟いた。

 

「始まりましたね。地獄が」

「……もう始まってるの?」

 

「まずは発声練習です。“おはようございます”を、貴族らしく言ってみなさい」

「お、おはようございま――」

「滑舌が甘いですわ!」

「えっ!?」

「腹式呼吸がなってません。やり直し!」

「おはようご――」

「口角が下がってます。やり直し!」

 

ひとり、またひとりと撃沈していく。

見てるだけのこっちも精神的にやられる。

 

「次。“あいうえお”を気品ある五十音で十回ずつ復唱なさい」

「……あ、あ……」

「もっと背筋を伸ばして! “あ”に愛を、“い”に意志を込めなさい!」

「“い”ってなに……?」

 

俺はこっそり机に頭を伏せた。

 

リゼは平然とメモを取りながら呟く。

 

「子どもたちの表情硬直率、昨日比220%。笑顔はゼロです」

「やばすぎる……」

「“笑顔は甘え”と、お嬢様はおっしゃっていました」

「うちの領地、明日には絶滅してそうなんだけど……」

 

昼休み。

ようやく一息――つけるはずがなかった。

 

「では、今日の内容をもとに、短く“自分の考え”を三十字以内でまとめなさい。文法も整えて」

「え、文字数制限あんの!?」

「言葉とは、限られた枠の中でどれだけ美しく伝えるかですわ。日記ではありませんのよ」

「“あいうえお”しかやってないのに……」と呟いた子の声を聞き逃さず、

「“あいうえお”が使えるなら、語れるはずですわ。足りないのは思考と覚悟です」

「怖っ!!」

 

放課後。

 

俺は机に突っ伏した。

 

「……大混乱だったな」

「記録としては、最大級の災害ですね」と、リゼ。

「でも、なんか……」

「美しかった、とでも?」

「いや、怖かったって言いたかった」

「ならば、正気です。めずらしいですね」

 

めずらしい……? 俺に対して言ってる?

 

問題の張本人が戻ってくる。

 

「子どもたち、想像以上に根性が足りませんでしたわ。明日はもっと内容を絞って、一音一意で参りましょう」

「……まだやるのかよ!!」

「お嬢様、僭越ながら申し上げますと、今後の“教育方針”について、改めて整理した方がよろしいかと」

「“ミレーヌ嬢の方法が支持された”というのが本当なら、あれほど甘い指導がまかり通る現状こそ、異常ですわ」

「いやでも、子どもたちは実際、前向きになってたっていうか……」

「甘えですわ」

「教育とは尊厳の学問ですわ。自らを律し、統治する心を育む。それが無ければ、読み書きができてもただの庶民」

「……俺、庶民代表みたいになってない?」

 

ルイーゼは胸を張る。何で誇らしげなんだよ。

 

「ちなみに今日最後に出された“短文表現”の課題、あれの意図は?」

「感性の鍛錬ですわ。“あいうえお”すら運べない者に語らせれば、己の足りなさに気づけますもの」

「なるほど……(なるのか?)」

 

「なあリゼ、ほんとに明日もやるの?」

「止めなければ、永遠に続くでしょうね」

「止めてくれよお前が!」

「それができると思われるほど、わたくし、強く見えます?」

「強かには見えるよ!」 

 

ルイーゼはにこりと微笑む。

 

「心配には及びませんわ。明日は“音読の間合い”について指導を組み立てております」

「間合いって……武道かよ」 

 

それでも、ふと見せた表情はどこか満足そうで――

 

「子どもたち、最後に“また来てくれるの?”と尋ねてきましたの」

「……あれだけ泣いてたのに?」

「泣きながらも、“もっとちゃんとやりたい”って顔でしたわ」

「……マジかよ。調教完了してるじゃん」

 

ルイーゼがふっと目を伏せる。

 

「わたくし……教えることなど初めてでしたけれど、意外と悪くありませんでしたわ」

「お嬢様……」

 

リゼが珍しく柔らかな声を出しかけた、その瞬間――

 

「ですから明日は、もっと厳しく参りますわ」

「うん、やっぱ一番やばいわこの人」

 

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