婚約破棄された悪役令嬢を拾って人生勝ち組になろうとしたら、ドS過ぎて逆に飼われてる   作:こういうのがお好き?

27 / 40
第27話 これより“高貴なる教育”を施します

 

「……それなら、わたくしが担当いたします」

 

ルイーゼのその一言に、俺とリゼの時が止まった。

 

「な、何を担当するって?」

 

おそるおそる尋ねると、彼女は紅茶を一口啜ってから、優雅に微笑んだ。

 

「ミレーヌ嬢が授業を行い、子どもたちが楽しそうにしていた。そして、フィオナまでもが授業をした、と」

 

ミレーヌはともかく、フィオナのあれは授業になってたのか……?

 

「――でしたら、わたくしにも可能ですわね」

「え、ちょっと待て、それは違……」

「明日、教壇に立ちますわ」

 

リゼと俺、声が重なった。

 

「「は?」」

 

*

 

そして、翌日。

 

教室は妙な緊張感に包まれていた。いや、正直に言うと、恐怖だ。

 

ルイーゼは薄桃色のドレスに、銀の指導鞭を携えて教壇に立っていた。

 

「皆さん、静粛に」

 

たった一言で、子どもたちの背筋がピンと伸びる。俺もびくついた。

 

「これより“高貴なる教育”を施します。姿勢、礼儀、発声、全てを整えなければ、学びは身につきませんわ」

 

俺の隣で、リゼが冷静に呟いた。

 

「始まりましたね。地獄が」

「……もう始まってるの?」

 

「まずは発声練習です。“おはようございます”を、貴族らしく言ってみなさい」

「お、おはようございま――」

「滑舌が甘いですわ!」

「えっ!?」

「腹式呼吸がなってません。やり直し!」

「おはようご――」

「口角が下がってます。やり直し!」

 

ひとり、またひとりと撃沈していく。

見てるだけのこっちも精神的にやられる。

 

「次。“あいうえお”を気品ある五十音で十回ずつ復唱なさい」

「……あ、あ……」

「もっと背筋を伸ばして! “あ”に愛を、“い”に意志を込めなさい!」

「“い”ってなに……?」

 

俺はこっそり机に頭を伏せた。

 

リゼは平然とメモを取りながら呟く。

 

「子どもたちの表情硬直率、昨日比220%。笑顔はゼロです」

「やばすぎる……」

「“笑顔は甘え”と、お嬢様はおっしゃっていました」

「うちの領地、明日には絶滅してそうなんだけど……」

 

昼休み。

ようやく一息――つけるはずがなかった。

 

「では、今日の内容をもとに、短く“自分の考え”を三十字以内でまとめなさい。文法も整えて」

「え、文字数制限あんの!?」

「言葉とは、限られた枠の中でどれだけ美しく伝えるかですわ。日記ではありませんのよ」

「“あいうえお”しかやってないのに……」と呟いた子の声を聞き逃さず、

「“あいうえお”が使えるなら、語れるはずですわ。足りないのは思考と覚悟です」

「怖っ!!」

 

放課後。

 

俺は机に突っ伏した。

 

「……大混乱だったな」

「記録としては、最大級の災害ですね」と、リゼ。

「でも、なんか……」

「美しかった、とでも?」

「いや、怖かったって言いたかった」

「ならば、正気です。めずらしいですね」

 

めずらしい……? 俺に対して言ってる?

 

問題の張本人が戻ってくる。

 

「子どもたち、想像以上に根性が足りませんでしたわ。明日はもっと内容を絞って、一音一意で参りましょう」

「……まだやるのかよ!!」

「お嬢様、僭越ながら申し上げますと、今後の“教育方針”について、改めて整理した方がよろしいかと」

「“ミレーヌ嬢の方法が支持された”というのが本当なら、あれほど甘い指導がまかり通る現状こそ、異常ですわ」

「いやでも、子どもたちは実際、前向きになってたっていうか……」

「甘えですわ」

「教育とは尊厳の学問ですわ。自らを律し、統治する心を育む。それが無ければ、読み書きができてもただの庶民」

「……俺、庶民代表みたいになってない?」

 

ルイーゼは胸を張る。何で誇らしげなんだよ。

 

「ちなみに今日最後に出された“短文表現”の課題、あれの意図は?」

「感性の鍛錬ですわ。“あいうえお”すら運べない者に語らせれば、己の足りなさに気づけますもの」

「なるほど……(なるのか?)」

 

「なあリゼ、ほんとに明日もやるの?」

「止めなければ、永遠に続くでしょうね」

「止めてくれよお前が!」

「それができると思われるほど、わたくし、強く見えます?」

「強かには見えるよ!」 

 

ルイーゼはにこりと微笑む。

 

「心配には及びませんわ。明日は“音読の間合い”について指導を組み立てております」

「間合いって……武道かよ」 

 

それでも、ふと見せた表情はどこか満足そうで――

 

「子どもたち、最後に“また来てくれるの?”と尋ねてきましたの」

「……あれだけ泣いてたのに?」

「泣きながらも、“もっとちゃんとやりたい”って顔でしたわ」

「……マジかよ。調教完了してるじゃん」

 

ルイーゼがふっと目を伏せる。

 

「わたくし……教えることなど初めてでしたけれど、意外と悪くありませんでしたわ」

「お嬢様……」

 

リゼが珍しく柔らかな声を出しかけた、その瞬間――

 

「ですから明日は、もっと厳しく参りますわ」

「うん、やっぱ一番やばいわこの人」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。