婚約破棄された悪役令嬢を拾って人生勝ち組になろうとしたら、ドS過ぎて逆に飼われてる   作:こういうのがお好き?

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第4話 このおもちゃ、渡すつもりなどありませんわ

 

三者面談。

何だろう。空気が重すぎて、息をするのが辛い。

 

「……ルイーゼ様のそばにいると、エリオット、ずいぶん変わって見えます」

 

そう言ったミレーヌの声には、柔らかさと微かな探りが混ざっていた。

 

俺は彼女の隣で苦笑いするしかない。

いや、そりゃ変わるだろ。あんなの毎日喰らってたら。

 

「幼い頃はずっと一緒にいましたけど……あんなに素直だったこと、正直ありませんでした」

 

ミレーヌは紅茶を啜りながら、ちらっと俺を見た。

その視線が少しだけ懐かしそうで、少しだけ、寂しそうで。

 

「さぞ、お世話が大変だったのでしょう」

 

対面に座るルイーゼが、涼しい顔でそう返した。

優雅な手つきでティーカップを持ち上げ、ひと口。

 

俺は、その一瞬だけで背筋がピンと伸びる。

反射で姿勢が正されるの、マジでやばい。

 

「でも……今の彼は、まるで別人のようです。ルイーゼ様が、よほど……」

「ええ。丁寧に、躾けておりますので」

 

この一言。

なぜか俺の心臓が跳ねた。

やばい、こんなんじゃ普通の人間に戻れない。

 

「叱れば動き、命じれば従い、足元に伏せることに悦びすら見出しているようですわ。飼い犬としては、上出来ですわね」

「ちょっとルイーゼ、それ俺のこと――」

「黙りなさい。犬が人間の会話に割り込むものではありませんわ」

「ワン!!!(※快感)」

 

……これでは正真正銘パブロフの"犬"。

俺はもう、ダメかもしれない。

 

「……失礼を承知で申し上げますが、私はエリオットを大切に思っています。だから、諦めるつもりはありません」

 

ミレーヌがまっすぐにルイーゼを見て言った。

まさかミレーヌがそんなセリフを言う日が来るなんて。

 

もともと重たかった空気が凍りついた

だがルイーゼは、微笑みを崩さない。

 

「それは結構なことですわ。ご自身の感情に誠実であられるのは、美徳ですもの」

 

そして、さらに一言。

 

「けれど――飼い犬は、今の飼い主に従うものですわ。どれだけ過去に懐いていたとしても、それが礼儀というものですもの」

「……っ」

 

ミレーヌが何か言いかけたが、口を閉じた。

俺は黙って茶をすする。心の中では全力で土下座してた。

 

 

ミレーヌは、立ち上がって丁寧に礼をした。

 

「……本日は、お時間をいただきありがとうございました。エリオット。あなたのこと……私、諦めないわ。必ず取り返すから」

 

そう言って微笑み、ミレーヌは屋敷をあとにする。

 

静かな足音が遠ざかっていくのを、俺はぼんやりと聞いていた。

 

その隣で、ルイーゼは窓辺に立ち、カーテンの隙間から空を見上げていた。

 

風のように、静かに。

 

「……よかったのか?」

 

思わず口にしてしまった。

 

「何の話です?」

 

振り返ったルイーゼの顔は、いつも通りの涼しげな笑み。

 

「いや、その、ミレーヌ……あいつ、本気みたいだったよ」

「ええ。ですが、本気かどうかは問題ではありませんわ」

 

ルイーゼはすっと腰を下ろし、足を組む。

 

その姿が、どうしようもなく“完成された存在”に見えて――思わず、言葉が飲み込まれそうになる。

 

「わたくしは、勝ちたいのではなく、“持っている”だけですもの」

「……持ってる?」

「ええ。あなたは、わたくしのおもちゃ。わたくしだけのもの。わたくしの声で動き、わたくしの鞭で躾けられ、わたくしの足元で悦びを覚える――下等で愛らしい存在」

「……」

 

否定する気力も、勇気もなかった。

というか、そもそも否定する理由が、見つからない。

 

「誰かが手を伸ばそうとも。このおもちゃを、渡すつもりなどありませんわ」

 

カップを手に取り、微笑むルイーゼ。

その笑みは、完璧な“支配者”のものだった。

 

「……わかってる。俺、もう逃げられない」

「逃げたら――今度は鎖でも巻いて繋いで差し上げますわ。飼い犬らしくね」

「ワン!!!!!(ありがとうございます!!!)」

 

――あれ?

俺……たしかこの人拾ったとき、「この悪役令嬢を更生させて成り上がってやる!」って思ってたよな?

 

なんで今、拾ったはずの相手に飼われて、罵倒されて、鎖で繋がれる寸前なんだろう……?

 

――成り上がる予定だったのに、気づけば“人生ご褒美地獄”に堕ちてました。

 

ありがとう、ルイーゼ様。

このご恩は一生忘れません。

 

 

 

★★★★★

 

 

 

「空気のよい場所で、あなたの根性を鍛え直しますわ」

 

そう言われて連れてこられたのは、郊外にある貴族の山荘――という名の、支配の館だった。

 

朝五時起床。

すぐに外履きの靴を磨き、ルイーゼの湯を沸かし、温度を0.5度単位で調整。

 

「このミルク……ぬるいですわね?」

「すみませんでしたあああッ!!(※生きててごめんなさい)」

 

乗馬鞭がテーブルをピシッと叩く。

その音に反応して、心が跳ねる。

 

朝食のセッティング。

テーブルクロスの折り目、パンの焼き色、ナイフの角度、どれもすべて、ルイーゼの「はい」か「死ね」の判断基準になる。

 

でも――

 

気がつけば俺は、自分でも驚くほどきびきび動いていた。

 

「ルイーゼ様、お出かけ用のお靴、こちらでよろしいでしょうか」

「ええ。ようやく“人間の言葉”を聞けた気がしますわね」

 

それだけで、胸の奥がほわっとあたたかくなる。

なんだこの感情。褒められるために生きてる気がしてきた。

 

午前の訓練が終わると、ルイーゼはテラスの椅子に腰を下ろし、すっと白い手を伸ばして言った。

 

「……膝枕を許可しますわ」

「はいッ!!???」

「五分間。過剰な体温上昇、呼吸の乱れ、鼻血は禁止。必要以上に身をよじった場合は、以降の紅茶は“ぬるま湯”になりますわ」

「ぬるま湯だけはご勘弁を……!!(※でも膝枕はください)」

 

俺は恐る恐る、ルイーゼ様の脚に頭をのせた。

 

冷たいわけじゃない。むしろ、じんわりと温かい。

でも、温もりよりも先に、恐怖と快感が交錯して喉が詰まりそうになる。

 

「……動かないで。まだ、許してませんわよ?」

「すみません、ありがとうございます、生きててすみません……」

「ほんとうに、愛らしい下僕ですわね。いつかその脳みそ、湯煎してやりたくなるくらいに」

「ワンワン!!(※溶けてください)」

 

そうして五分後、俺は頭を起こし、深く礼をして言った。

 

「ありがとうございました。最高でした」

「ふふ……では午後の鍛錬、“全力で罵倒に耐える”を開始しますわ」

「こちらも全力で、お願いしますッ!!」

 

人間とは強い生き物だとつくづく思う。

どんな環境でも身を置けば慣れるし、都だと思えてくる。

……あれ、俺の人生成り上がりプランどこ行った?

 

まあいいか。細かいことは気にしない。

明日も五時起きだ。

 

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