婚約破棄された悪役令嬢を拾って人生勝ち組になろうとしたら、ドS過ぎて逆に飼われてる 作:こういうのがお好き?
目を開けると、俺は――玉座の前で四つん這いになっていた。
真紅の絨毯、荘厳な大広間、天井には王冠のようなシャンデリア。
その奥。
高く高く設けられた玉座に、ルイーゼ・ロザリンド嬢が、座していた。
「……わたくしの夢に、足音を立てて入ってくるとは。犬にしては、礼儀がなっておりませんわね」
その声が聞こえた瞬間、俺の本能がひれ伏した。
「ル、ルイーゼ……ここは……?」
「わたくしの精神の領域。夢の中でも、わたくしは“あなたのご主人様”ですわ」
ぞくっと背筋が粟立つ。
俺は夢の中でも、ルイーゼの“犬”なんだ。
それが嬉しくて、床に鼻先を擦りつけたくなった。
「顔を上げなさい。犬にも視界は必要でしょう?」
「ワンっ! ありがとうございます!!(※目線許可)」
恐る恐る顔を上げる。
視界に飛び込んできたのは――女王然とした美貌。
ルイーゼは、現実よりもさらに冷たく、そして現実と同じくらい美しかった。
「……ふぅん。ちゃんと目が合いましたわね。進歩しましたこと。犬にしては、よくできましたわ」
その一言で、俺の脳がバグった。
うれしい。今、俺、生きててよかった。
「……まさか、褒められて喜んでるのかしら?」
「ワンっ! はい!!」
「救いようがありませんわね……それでも、可愛いところがあるから困りますわ」
うおおおおお、今の“可愛い”って、褒めてたよな!?
夢でも全力で惚れさせにきてる!!!!!
「では、お手を」
「はいッ!!」
「おかわり」
「ワンッ!!」
「――よろしい、喜びを表現することを許しますわ」
「ワン!!!」
……俺は今、最高に幸せだ。
「ところで、あなた」
ルイーゼが少しだけ、足を組み替える。
その足元に、俺は跪いていた。
「現実でもわたくしの“鍵”を預けられているのに、夢の中でまで自由な欲望を持つ気ではありませんわよね?」
「い、いえっ……決してッ!!」
「それが不愉快ですのよ」
ルイーゼが立ち上がる。
その影が、俺を完全に包み込む。
「欲望のすべては、わたくしが掌握している。夢の中でさえ、あなたが許されるのは――わたくしを想って震えることだけですわ」
「く〜ん!!(※震えてます)」
「……ほんとうに、忠犬という言葉がよく似合いますわ。もしもこの夢が永遠に続いたら、あなたはずっと――わたくしの足元で、尻尾を振っていなさい。現実より、よほど幸せでしょう?」
「はいッ!! 夢の中に住みますッ!!」
「ふふ……ええ。あなたの魂も、わたくしの犬小屋に入れて差し上げますわ」
――目も、言葉も、欲望も。
全部ルイーゼのものになってるって実感できた、至福の夢だった。
★★★★★
朝。俺は珍しく、夢の余韻で目が覚めた。
ルイーゼ様の玉座。命令。犬扱い。
足元に這いつくばり、鞭ではなく視線だけで打たれ、最後にはこう言われた。
「……夢の中でも、わたくしを見てなさい。現実より幸せでしょう?」
……最高だった。
俺は布団の中で小さく呻いた。
あんな夢なら何度でも見たい。むしろ住みたい。引っ越したい。
「……その顔、まさか夢の続きを反芻してるのかしら?」
「ぶっ……!」
いつの間にか立っていた。
ベッド脇に、ルイーゼ。
ドレスの襟を整えながら、俺をじっと見下ろしていた。
「……あら。図星、ですのね」
「い、いえっ!? ちがっ、ただの睡眠学習というか、その……!」
「ふぅん。ではお聞きしますわ、犬。昨夜の夢で、わたくしに何をさせたのかしら?」
「っ……!」
言えない。言えるわけがない。
玉座に座ってたとか、お手させられたとか、魂まで繋がれたとか。
「……まさか、わたくしを跪かせたりしたのではありませんでしょうね?」
「し、してないっ!! ……たぶん!!(※ギリギリセーフ)」
「“たぶん”?」
ぴしっ。
鞭の音。
空気が裂ける。
快感が走る。
「っワンっ……!!」
「あなたという犬は、夢の中でまでわたくしを弄ぶとは……最低ですわ。でも――それをわたくしが看破できてしまうあたり、やはり“ご主人様”ですわね?」
ルイーゼの瞳が、わずかに細められる。
「そんなにわたくしに命令されたいの? 夢の中だけでなく、現実でももっと躾けられたいの?」
「はい……!! もっと! どうか、現実でもっ!!(※お願いです)」
「下品ですわね。でも、そうやって鳴く姿がいちばん愛らしいのだから困りますわ」
ぴしっ! ぴしっ!
鞭が肩、背中、足元を正確に刻む。
「夢の中の罪は、現実で贖っていただきます。その代償としては軽すぎますけれど、今日一日は罵倒強化日といたしますわ」
「ありがとうございますううう!!(※ご褒美きたああああ!!)」
「ついでに、夢の続きが見られるように、今夜は“犬小屋での就寝”を命じますわ。
冷たい床で、主のぬくもりを夢想なさい。雑種にふさわしい眠り方ですわね?」
「ンンンンンンワン!!!(※床はベッド)」
*
夜。
俺は本当に、ルイーゼが用意した“毛布一枚の犬小屋”に入れられた。
天井は低く、壁は冷たく、
だけど、ほんのり香るルイーゼの気配だけが――俺を満たす。
「この床が、今夜のベッドですわよ。気が済むまで、反省なさい」
「ぶひぃ……ありがとうございますぅ……(※一生ここにいたい)」
夢にルイーゼを無断で出演させた罪。
ああ、なんて幸せな――
罪と罰のラブストーリー。