聖龍伝説 現政奉還記 破滅の章   作:セイントドラゴン・レジェンド

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※このシリーズは架空戦記の物語であり、実在の人物とは関係ないフィクションであります。

※多くの方々からのコメントや意見を取り入れて、今後はもっと自分らしくながらも誰もが読みやすい作品に仕上げていきたいと志します。今後とも精進していきますので、何卒よろしくお願いします。

※キャラへの勉強が足りない点も多く見られますが、何卒よろしくお願いします。




現政奉還記 破滅の章2 欠けた心を持つ武将達

[到着した武将]

 

 前回、遂に開戦してしまった二次元人と三次元人を巻き込んだ第三次二次元・三次元戦争。

 その戦場に、帝である足正義輝と共に姿を現した黒武士の手引きによって招かれてしまった新世代型二次元人たち。

 しかし、そんな新世代型達を黒武士は自らの能力で作り出した黒い鉄格子で囲われた檻の中に閉じ込めて、強制的に戦況を観戦させる。

 そんな新世代型達を救出する為に、混戦長引く戦場の脇を通って帝の許にやって来たジェイク・ミューラー。

 しかし帝から、ジェイクもまた小田原修司の遺伝子をモデルにされている事実を明かされて一瞬困惑するジェイクだが、以前に共闘した女性から言われた台詞を思い返して差ほど戸惑う様子を見せなかった。

 だが、そんなジェイクも文武両道の帝の前には歯が立たず、最後には黒武士に檻の中に押し込められて他の新世代型同様に閉じ込められてしまう。

 続いて報酬に目が眩んだ千両道化のバギーが、自身の能力で檻の中に侵入して錠前を破ろうとするも、その錠前は真っ赤な偽物だった。

 一人、檻から出ようとするバギーだったが、檻の中では特殊能力が封じられているのかバラバラになれずに脱出する事ができなくなっていた。

 ジェイク、バギーと新たに檻の中に収容した黒武士は、絶えず戦場を駆け抜けて並居る猛者達と激しい戦闘を繰り広げる。

 

 戦火が激しくなっていく戦場では、並居る猛者達に混じってウェルズなどの非能力者である聖龍隊士も活躍していた。

 人混みと舞い上がる砂煙の中で、ウェルズは小銃を連射し、更には常備している日本刀で黒武士が生み出した影人間を次々に斬り捨てて倒していく。

 そんなウェルズ同様に、斬り倒した影人間に刀を突き刺してトドメを刺して倒していく浜崎雅弘に、影人間の首を斬り付けて倒す白井渚。

 混然とする戦場の真っ只中で、次々に影人間を倒していくウェルズら一般隊士達。そんな中、ウェルズが砂煙舞い上がる戦場の中央で立ち止まり、周りを見渡す。

「……ふぅ、もう影人間はいないかな?」

 黒武士が生み出した敵方である影人間が戦場に蔓延っている現状から、次第にその数が少なくなってきている状況に変化しているのをウェルズは見逃さなかった。

「ウェルズさん!」

「おお、桃矢か! お前さん達もまだまだ健在だな」

 言葉を投げ掛ける木之元桃矢たち月野進悟や森谷賞の三人組が駆け付けるのを見て、ウェルズは三人が未だ戦闘続行できる状態だと太鼓判を押す。

 すると其処に、同じく影人間達を殲滅していた白井渚と浜崎雅弘の二人も合流した。

「ウェルズさん!」「此方の影人間の殲滅、完了しました」

「よし、ご苦労! 残る相手は……」

 二人の報告を聞き入れたウェルズは、最後に残った敵の存在を直視。そう、あの黒武士であった。

 ウェルズは合流した二人も合わせて、五人の隊士達に黒武士への接近及び直接攻撃を指示した。

 ウェルズも含めて六人は、最早最新鋭の武器では却って効力が無いと判断した上で、それぞれが常備している日本刀に手を掛けて黒武士へと直行する。

 一方で黒武士は、周辺の猛者達を斬り捨てて悠々と戦場を歩いていた。

「黒武士!」

 睨みを利かせた怒号を吐きながら、ウェルズたち六人は黒武士に急接近。黒武士の方も急接近してくる六人の存在に気付いて顔を向けた。

 黒武士が気付いたと同時に、ウェルズ達は駆け込んでは抜刀して黒武士に一斉に斬りかかって行った。

 しかし黒武士は、そんな六人の剣戟を横へ素早く回避すると同時に、六人に向かって必殺技を放った。

「地走り」

 黒武士は呟くと同時に地面に突き刺した長刀を前に押し出す形で押し込むと、刃から凄まじい斬撃が放たれて、それが地を滑る様に加速して来たのだ。

「よ、避けろッ!」

 ウェルズは咄嗟の判断で叫び、彼を含む六名は地面を転がる勢いで黒武士の地走りを回避した。

 

「な、なんだ!? あの斬撃は……?」

 その黒武士が放った斬撃、地走りを目撃して激しく動揺する星原ヒカルたち新世代型二次元人。

 すると、そんな新世代型達を横目に、同じ檻の中に閉じ込められているバギーが解説し始めた。

「地走り、文字通り地を走る斬撃……あの小田原修司が得意としていた対地用の技だ。刀を地面に突き刺したまま押し出す事で、小田原修司の強力も相まって強力な斬撃へと変化して放たれる技……まあ、あの黒武士はあくまで小田原修司のクローンなのか、使っている刀が長刀だからなのか、不完全な地走りになっちまってるが」

「えっ? それって一体、どういう事なんです?」

 バギーの説明に疑問を持ったプロト世代のチョコが質問すると、バギーは更に詳しく解説した。

「あの刀、普通の日本刀よりも遥かに長い長刀だ。その為、身長が低いから刀を地面に突き刺していると、つっかえちまうから斬撃が少し斜めになって不安定だ。本来の地走りの斬撃は地面に対して直角でなけりゃいけないってのに、あの黒武士の地走りは長刀と低い身長がミスマッチして完全な地走りになってねェ。それに地面に斜めに刀が刺さっているから、押し出す際の力が完全に発揮できてないから威力も本物より遥かに低いと見えた……」

「あ、あんた……やけに詳しいじゃないか」

 新世代型の真鍋義久が問い詰めると、バギーはやや捨て気味で暴言を吐いた。

「う、ウッセェ! おれたち悪党はいつも小田原修司に怯えて生活してんだ! そんな修司の能力や技なんか、あっと言う間に伝わって有名になっちまっているのが常識だろがッ! お前らの始祖なんだから、少しは小田原修司の事を知っとけっての!!」

「だから……小田原修司のクローンとか、始祖とか、そんなの俺たちには関係ねえんだよ」

 バギーの暴言にジェイクが苛立ちながら答える。

 

 バギーの説明どおり、不完全とはいえ強力な斬撃である地走りを連続で放って周囲の敵を近付けさせない様にする黒武士。

 やや斜めの地走りは少しばかり追尾すると斬撃がふら付いて追尾の最中に倒れて止まり、消滅してしまう。

「ホッ、本物の修司には劣るな。いや、その長刀が身長に合ってないから地走りも不完全だな」

 本物の修司が放つ地走りよりも、刀と身長が合わない故に不完全だと指摘するウェルズに、黒武士は言い返す事も無く躊躇う様子も無く地走りを放ち続けた。

 かつての小田原修司よりも劣っているとはいえ、強力な斬撃である地走りを連続で放つ黒武士の猛攻に戦場の猛者達は苦戦させられる。

 すると其処に、遠路遥々駆けつけて来たあの一派が仲間である陣営を引き連れて到着した。

「遅れて済まねえ!」「大将! やっと来たか」

 戦争突入前に集結していた連合軍の指揮官の中では、最も遅れて戦場に駈け付けてきた大将こと赤塚大作率いる赤塚組の到着に、戦場で更なる戦力の到着を待ち望んでいた味方は活気付いた。

 ウェルズ達の出迎えも後々にしながら、大将は自身の得物である破槍を振り翳すとそれを黒武士に向けて言い放つ。

「やいやい黒武士! 此処に来る間に聞いているぞ……テメェが新世代型二次元人共をかどわかした上に、無理やりその黒い檻に閉じ込めて戦況を観戦させている不届き者って事はな! この赤塚組頭領、赤塚大作様が来たからにはお前の好きにはさせねぇ……」

 と、大将が熱弁を振るっている最中、そんな彼に黒武士が地走りを放って攻撃してきたのだ。

「うわッ!」

 地走りの凄まじい斬撃に大将は危うく直撃しそうになるが、運よく寸前の所を斬撃が通ったので直撃だけは免れた。

 黒武士の地走りに吹き飛ばされて目を回す大将と赤塚組幹部衆たち。

「て、テメェ……おれっちが話している最中に攻撃するとは、豪い度胸だな……」

 と、攻撃を放った黒武士に大将が説教しようとすると、黒武士はまたしても地走りを発射した。

「どっっしぇぇい!!」

 またしても直撃は免れたものの、凄まじい土煙と共に舞い上げられた大将はその憤りを黒武士にぶつけた。

「おいッッッ! いい加減にしなとタダじゃ済まないぞ、コラ!!」

 しかし、そんな怒りに身を任せる大将を間近で見て、聖龍隊の新人達は呆れ果てる。

「敵を相手に熱弁振るう暇と言うか、それ以前に意味ってあるんですか?」

「いい標的……いいえ、囮には最適かもしれないけど」

「言っちゃぁ、何ですけど……マヌケっぽい」

「ウルセェぞ、そこの新人共! 漢が熱く語っちゃ悪いのか!!」

 キリトや暁美ほむら、そしてアスナに指摘されて大将は怒鳴り散らす。

 しかし大将はスグに気分を切り替えて、破槍を担ぐと戦場で黒武士と戦っていた味方達に告げた。

「野郎共! 俺たち赤塚組がやって来たからには、それこそ大船に乗った気で戦え! 聖龍隊には程遠いかもしれねえが、俺たち赤塚組も戦闘のプロ! 戦場に残っている敵は最早、あの黒武士だけだ! 全員で一気に畳み掛けるぞ!!」

『おおっ!!』

 大将の宣言で、戦場の皆々の士気も一気に高まった。

 そんな士気が高まる戦場を見ても尚、黒武士は鼻で溜息を衝くと即座に行動に移った。

「動き出したか……海野! 例のからくりを起動させろ!」

「了解! 大将!」

 大将に言われて海野ぐりおが無線で待機させている仲間達に通達した。

 すると大将の背後の大地から、巨大な木製の騎馬が出現し、左右の脇腹に仕込んだ大砲を黒武士目掛けて撃ち込んだ。

 巨大な火柱と共に、黒武士は大砲の砲撃に直撃した。

「やったぜ!」『おおおッ!』

 自慢のからくり兵器で黒武士に大打撃を与えられたと踏んだ大将の意気込みに、赤塚組の子分達も喜々とする。

 しかし燃え盛る火柱の中から、黒武士は無傷で出てきては、のそりのそりと大将たちの方へと歩み寄ってきた。

「チッ、俺らのからくり兵器でも歯が立たねえか……それなら!」

 大将は破槍の先を黒武士に向けると、戦場に溢れる仲間達に言い放った。

「野郎共! 相手は一人、一気に畳み掛けるぞ! 俺に続けッ!」

『おおおおおッ!』

 大将の号令と共に、戦場の猛者達は一斉に黒武士に向かっていった。

 それを真正面から目視した黒武士は、長刀を抜刀すると自分に向かってくる猛者達の軍勢にたった独りで応戦する。

 

 一方、黒武士に軍勢を進軍させた大将たち幹部衆は、現場に残らせている村田順一に問い掛けていた。

「おいジュン。バーンズ達は、今どうしてる?」

「総長達は今……緊急病棟の病室で寝てるか、回復していれば此方に向かっている頃だと思います」

「そうか……それじゃ、さっきから姿が見えないカァチェン、それにイン軍に鹿之助の坊主が指揮している中東の部隊は?」

「カァチェンさんは……今、悩んでいる所なんです。自分の未来を、自分だけの力で決める為に……!」

「自分だけの力で? それはどういう事だ!?」

 順一の返答に大将が問い返していると、黒武士に向かっていった味方陣営から悲鳴が聞こえてきた。

「うわあっ!」

 黒武士の攻撃で地面は抉られ、夥しい量の砂埃が舞い上がる中、多くの味方が傷付いた。

 そして抉られた地面の上に、黒武士が睨みを利かせて長刀を逆手に握っては臨戦態勢に入っていた。

「……! 話は後回しです! 今はとにかく、この戦況を乗り切らない限り、僕たちに勝ち目はありません!」

「そ、それもそうだな! よし、とにかく黒武士を全員で叩きのめして、新世代型を助けるぞ!」

 順一の必死の訴えに、大将も同意しては囚われている新世代型達を救出する為に黒武士へと進撃していった。

 

「おーーーーい、おれ様もいる事忘れんなよーーっ!」

 新世代型達が囚われている檻の中では、バギーが自分の子分たちに呼び掛けていた。

 

 

 

[成長した武将として]

 

 荒野である戦場で、黒武士と未来を賭けた大戦を繰り広げている連合軍が決死の思いで命を燃やしていた頃。

 別所の野道を、軍馬に跨って駆け抜ける若者の姿があった。

 その若者こそ、大戦に参戦していない武将の一人シバ・カァチェンであった。

 カァチェンは未だに迷っていた。今まで、弱輩者の欠かれカァチェンとして蔑ろにされてきた自分に、果たして未来を勝ち取る大戦をやり遂げる実力は備わっているのか。

 そして、自分同様に様々な理由から大戦に参戦していない武将達の存在を知ったカァチェンは、そんな一部の武将にあやかって自身も大戦に参加しない意思を持ち始めてしまってた。

 そんなカァチェンを見かねた聖龍隊は、カァチェンに自由な時を与えて彼に考える猶予を与えた。

 果たして自分は何をすべきか。一部の武将達と同様に大戦に参戦しないで良いのだろうかと。

 

「……御暇を貰ったのは良いが、果たして私は何をするのが正解なのだろうか……」

 野道を悪戯に軍馬で駆けるカァチェンは、馬に跨り手綱を引きながら考え込んでいた。

「……本来の役職である台湾の国将軍として、本国である台湾を防衛するか……否、もう台湾軍の大部分も、国連軍の……連合軍の一部として大戦に参戦している……」

 国将軍として台湾を防衛しようかと考えたカァチェンだが、時既に台湾軍も国連軍に導かれる形で大戦に参戦していた。

「……いや、そもそも……国将軍として自軍からも呆れられていた私が、台湾軍を指揮するのは可笑しな話か……」

 その前にカァチェンは、台湾軍から余りいい眼で見られず、疎外されている故に軍を指揮するのは不可能化と半ば諦めていた。

「ならば……私は何をするのが正解なのでしょうか? 答を導いてくれるであろう聖龍HEADは、黒武士の強襲を受けて未だに床に臥せっておられる現状……私独りで、未来を選択しなければならないのか?」

 聖龍HEADが今なお床に臥せっている現状では、自らの意思で未来を選択しなければならないのかと更に苦悩するカァチェン。そんな彼はふと、不思議な思想に駆られる。

「……不思議だ。今まで私は、如何なる時も未来(さき)を選択する事は……いや、望む事は無かった……」

 今までの自分は、未来を選択する事すなわち望む事を思い描いた事が無かったのを思い出し、不思議な衝動に駆られるカァチェン。

「……だが、今の私は……自ら選択し、どの様な未来が望ましいのか本気で考えている……! これがバーンズの……HEADの言っていた、未来を選ぶ幸せと言うものなのか……!?」

 未来を選べる幸せを、以前に聖龍HEADから伝え聞いていたカァチェンは、いつの間にかそんな意思が自分の中に目覚めていた事を自覚し出す。

「今の私が成すべき事、それは……」

 カァチェンは本気で考えた。今、自分に出来得る最善の行動とは何か。

「……私が成すべき事…………ダメだ、今の私の未完成な心では、まだ未来を選択できる強き意志にまで成長できていない……かつて私と同様に心が未熟だった鬼神の様に、自分の未来すらも決めかねないのか、私は……」

 カァチェンは落胆した。かつて今の自分の様に不完全な心を持っていた鬼神・小田原修司は次第に心を得られた事で自身の未来を選択する事が出来ていたと言うのに、今の自分にはまだ未来を決めれる程の強い心は養われていない事実に。

 

 そんな落胆するカァチェン。だが、そんな彼に思いも寄らない出来事が。

「おい、貴様! こんな所で何をしている!?」「……え……?」

 突然カァチェンに掛けられる声に、カァチェンが乗馬したまま振り向くと、彼の背後には無数の女達が乗馬した騎馬隊が取り囲んでいた。

「お前! 此処がイン・ナオコ様の領地と知っての侵入か!? 無粋な男は早々に立ち去れッ!」

「あ…………」

 カァチェンはいつの間にかイン・ナオコが治める領地へと足を踏み入れてしまってた。

 馬に跨るなでしこ隊に取り囲まれて、非常に困惑してしまうカァチェン。

 すると其処に、なでしこ隊からの報告を受けて駆け付けてきたイン・ナオコが。

「なでしこ隊! 我が領地に踏み入った無粋な男とは?」

「ナオコ様!」

「イン・ナオコ殿……」

 乗馬して現場に駆け付けてきたナオコを見て、なでしこ隊の女達もカァチェンも反応する。

 そして一行は疾風の如く駆ける馬に跨ったまま、話し始めた。

「貴様、確か聖龍隊の所にいたな。台湾将軍の……」

「……はい、台湾が国将軍シバ・カァチェンです……お見知りおきを」

「ふんっ、前と変わらず、陰気臭い奴だなお前」

「………………」

「……それで? なんで貴様が此処にいる? 今ごろ聖龍隊は世界中の戦力と共に連合軍を組んで、黒武士と戦っているんじゃないのか? お前は出ないのか?」

「私は……迷っているのです……」

「迷っているだと?」

「はい……私は、未来(さき)へと進む意思が……いいえ、勇気が無いのです。こんな欠けた心を持って生まれた自分は、果たして戦果を挙げられるのか……それ以前に、多くの猛者達の戦う邪魔にならないのかと。それを見かねた聖龍隊の方々が、こんな私に御暇を与えたのです……」

「なるほどな、要するに……自信が無い故に、戦意も無いから暇と言う名目で追い出されたんだな」

「そ……! そんなにはっきりと言われるんですね……間違ってはいませんが……」

 ナオコにはっきりと指摘されたカァチェンは、激しく動揺しながらも彼女に問うた。

「……そういう貴女は、何ゆえ大戦に参戦しないのですか? 女性とはいえ、巨剣を振り翳す貴女様の豪腕なら大戦でも十分に実力を発揮できると思うのですが……」

「わ、私は……自分の領地に今なお多くの女たちが駆け込み、私に助けを求めている! そんな女達を放っておける訳がないだろ! それに……」

「それに……?」

「それに……私が死んだら、誰がか弱き乙女達を救えるんだ……! この世の嘆く乙女を救済する私の存在が無くなれば、それこそ見も蓋もない」

「それは……要約すると、貴女様も死ぬのが怖いという事で宜しいのですか?」

「! お、お前こそハッキリ言うんだな……確かに、黒武士が怖くないといえばウソになる。だが、私の成すべき事は黒武士と戦う事ではない。混沌とする時代に泣かされる女達を救済するのがイン・ナオコに与えられた使命なのだ!」

「与えられた使命……」

 ナオコが明言する使命について深く考えるカァチェンは、再びナオコに問い掛けた。

「……ですが、黒武士がミラーガールを殺めれば二次元界が消滅する……そうなれば、二次元界と融合している私たちの世界である三次元界も消滅しかねないのでは?」

「そ、それはそうかもしれないが……だが、乙女達を放ってはおけない! それが私の答だ!」

「なるほど……」

 ナオコの答えにカァチェンは思った事を口にした。

「……羨ましいです……」

「?」

「私には、その様に明確に言葉として出せる答が未だに導けません……黒武士と戦う強い意志もありません、未来を選択する決意すら持てない。自分の心と向き合う事ができない……」

「………………」

 意志も、選択する事も、そして何より自分の心と向き合う事すらも出来ないと言ってしまうカァチェンの心境を知って、ナオコの心境に微かな変化が。

 そしてナオコは、カァチェンに言った。

「……やい、シバ・カァチェン!」

「はい……」

「お前、自分では何も決められないと言うのか? それなら……私について来い。我が領地にて、一騎打ちをしてもらうぞ」

「な、何ゆえ……!?」

「お前も、私も……己の未来に対して明確に答を導き出せていないのかもしれない。お互いの未来を見据える為、しばし私と稽古してもらうぞ」

「未来を見据える……? しかし、こんな欠けた心を持つ私と稽古しても、答など得られるのでしょうか……?」

「其処がダメなんだ! 最初から自分を見下しては、自信など得られる筈がないだろうが! いいか? お前の心が欠けているかどうかは分からない、だがお前は今自分の頭と心で苦悩し、葛藤している。心が欠けていては、そんな高等な事はできんだろう」

「………………」

「良いから、一旦私たちの基地に来い! 私自ら、お前の性根を叩き直してやる!」

 イン・ナオコはそのままカァチェンを半ば強引に引き連れて、自分達の基地まで誘導した。

 

 欠けた心を持つシバ・カァチェンと乙女の未来を想うイン・ナオコ。

 二人はどんな未来を導き出すのだろうか。

 

 

 

[武将としての務め]

 

 所は変わり、イン・ナオコの軍勢に引き連れられてシバ・カァチェンら一行は漢族の領地に在るイン軍の基地へと到着した。

 到着して早々、ナオコはカァチェンを半ば強引に闘技場に連れ込んで、自分と一戦しろとカァチェンを睨み付ける。

「さあ! 何処からでも来い!」

 巨剣を振り翳し、戦意を示すナオコに反してカァチェンは戸惑っていた。

「し、しかし……」

 そんな、もじもじと女々しく戸惑いを見せるカァチェンに、ナオコは巨剣を構えて怒りを示した。

「貴様……! この私が直々に稽古してやっているんだぞ……男なら、もっと堂々としてみろッ!」

「そ、そんな事を申されても……」

 ナオコの威圧に押されて、更に怖気づいてしまうカァチェン。

 そんなカァチェンを前にして、ナオコは遂に巨剣を振るった。

「……ああ、もう! じれったい奴だな! お前が来ないというなら、私から行かせてもらうぞ!」

「え、え……?」

 突然、巨大な剣を振り翳して攻めてくるナオコにカァチェンは激しく戸惑うものの仕合が始まってしまった。

 

「さあ、さあ、どうした!? 避けてばかりでは私を倒せないぞ!」

「い、いえ……私には、貴女様を倒す意思は無いのですが……」

 回避してばかりで攻撃してこないカァチェンにナオコは言動で示すが、カァチェンは未だに突然の仕合に戸惑うばかり。

「お前、なんで迷う? 聖龍隊は……HEADはあれほどお前の様な弱輩者に良くしてくれてたじゃないか! その恩を返そうとは思わないのか?」

「いえ……私の心は欠けている、不完全なもの……そんな無骨な自分が聖龍隊に恩を返すなど、それこそ無粋極まりない……」

「お前って奴は……そんな理由で聖龍隊と共に戦うのを躊躇っているのか? それは、自分に対しての言い訳じゃないのか!?」

「……言い訳……」

「そうだ! 自分は未熟だ、自分の心は不完全だなどと抜かしているのは……黒武士に恐れを成し、聖龍隊や世界の猛者達と共に戦うのを避ける為の言い分ではないのか!?」

 巨剣を振り回しながら果敢に攻めてくるナオコの発言に、カァチェンの表情が微かに変わった。

「……それは、貴女自身にも言える事ではないのですか……?」

「な、なに……!」

「……貴女は申された……自分には守るべきか弱き乙女達がいる、その乙女達を守る為にも領地から離れられないのだと……でも、本当は貴女だって怖いのでは? 世界中の名立たる猛者達を足蹴にしてきた黒武士の驚異に、恐れを成しているのではないですか……?」

「………………!」

 カァチェンから胸中に隠していた事実を突きつけられ、ナオコの巨剣の動きが鈍り始める。

「……確かに、戦乙女として名高い聖龍HEADの乙女達ですら意図も簡単に足蹴にした黒武士には私も恐れている……だが! 私の心は貴様と違って、乙女達を守る為に……この世の乙女を救済する為に在る! お前の様に、不完全で曖昧な心ではない!」

 ナオコは巨剣をしっかり握り締めて、思いっきりカァチェンに向けて振り回した。カァチェンはナオコが振り回した巨剣を逆刃薙(さかばなぎ)で受け流して防いだ。

「私の心は、いつだって……いつだって! かつて私を愛してくれた、あの人の為に在った! だが今は、私同様に嘆いている乙女達を救う為に、私の心は健在しているんだ……!」

「ですが……黒武士がミラーガールを……加賀美あつこを殺せば、二次元界と融合したこの三次元界も同時に消滅する……! 貴女が守りたいと願う、多くの乙女達ですら危ういのは変わりないのですよ」

「! わ、解ってる……! だが……だが、それこそこんな愛を失った私が大戦に出ても、戦乙女である聖龍隊の足手まといになるのがオチだ! こんな、愛を失った私なんか……」

 カァチェンに指摘されて、ナオコは愛を失った自分では大戦では周りの足手まといになると思い込んでいる事を告白する。

「……ふっ、所詮は私もお前と同様……心が欠けているのかもしれないな……」

「ナオコ殿……」

 愛を失った自分もまたカァチェンと同じく心が欠けているのではないかと説くナオコの言葉に、カァチェンの心は微かに痛んだ。

 己の苦心を告白しても未だに巨剣を降ろさず、振り翳すナオコの猛威に堪え凌ぐカァチェンは逆刃薙(さかばなぎ)を操りながら思う。

 するとカァチェンは意を決してナオコに問い掛けた。

「……では、貴女も変わりたいというのですか?」

「!? 私が、変わりたい、だと……?」

「そうです……! 愛する人を失った自分の欠けた心を変えたい……ナオコ殿は、そう感じているのでは?」

「………………」

「……私も、自分を変えたい……生まれ付き、人の愛情や優しさを感じられない欠けた心を持って生まれた自分を変えたい。そう切実に今は思ってます……!」

「………………」

「かつての私は……そう、聖龍HEADと出会う前の私は……そんな欠けた心を少しでも補えるとは、変えられるとは夢にも思っていませんでした……ですが、聖龍HEADは知っていたのです。生まれ付き、心を……不完全な心を持って生まれた、かつての少年の事を……」

 カァチェンは、かつての小田原修司の事を述べていた。

「その少年は、二次元人と交流していく内に……己の中の不完全な心を、次第に補える様になり、成長していったと聞き及んでいます……私たちもまた、お互いに心が欠けている者同士……未来を守る為、そして欠けた心を補ってくれる二次元人を手助けする為……今からでも遅くはありません、共に向かいませんか」

 カァチェンに問われて、ナオコも少し昔の事を思い出してた。

 それは聖龍隊と初めて接触した日の事。許婚が逃げ出した切っ掛けを作ったモンゴル軍へ攻めていた時、暴走する彼女を止めたのは他でもない聖龍隊の盲目の剣士、早見青児。彼の気配だけで振るう刀の前に完敗したナオコに、青児はもう少し周りを見渡せる程の力量を備えれば、視野も変わるとナオコに助言していた。

 聖龍隊の古参でもあり盲目の剣士でもある早見青児からの言葉を聞いて以来、ナオコも少しだけ男への見方を変えて接する様になった。

 そんな自分を少しばかりでも変えてくれた聖龍隊の、二次元人の激励を受けて、ナオコは考えを少しばかり改めた。

 愛を失った自分を少しばかり変えてくれた二次元人、そして今その二次元人たちに強大な危機が訪れようとしている。

 自分に変える切っ掛けを与えてくれた二次元人の危機に、ナオコは今自分の成すべき事は何なのか巨剣を振るいながら考える。

 そしてナオコが出した答とは。

「……え、ええい! ……ふっ、それもそうだな。二次元人に借りばかり作っては、それこそ武人の名折れだ。早見青児やミラーガールへの借りを返す為にも、同じ不完全な心を持つ者同士、いっちょやってみるか!」

「……っ!」

 ナオコの衝いた台詞に、カァチェンは心の底から安堵した。

 そして遂に巨剣を降ろしたナオコは溜息を衝くと、唐突に一緒に大戦に向かおうと言い出したカァチェンに呆れながらも彼に言った。

「ふぅ、まさかな……心が欠けているというお前の性根を叩き直そうとした私が、逆に気付かされるとは……変わったな、お前」

 するとカァチェンも武器を下ろして答えた。

「私自身も……変えられたのです。聖龍HEADという、あの鬼神を……そう、心の無い人間に心を与えた二次元人に変わる切っ掛けを与えてもらったのです。かつての鬼神と同じく、心の欠けた私にも手を差し伸べてくれたのです……」

「かつての鬼神と同じ、心が欠けているのか、私たち……何だか複雑だな」

 恐れ多い鬼神と同等の存在だと言われて、複雑な心境を述べるナオコ。

 

「お前の意見はよく解った! しかし、私にはまだ守らねばならない乙女達が大勢いる! 彼女達を放ってはおけない……!」

 大戦に向かう事に同意したナオコ。しかし自分には守らねばならない乙女や男衆達がいるという事で、未だに参戦への決意が揺らいでいた。

 すると、其処に。

「ナオコ様! 安心してください」

「お、お前たち……!」

 今の今までナオコとカァチェンの仕合を周りから観戦していたなでしこ隊や男衆達が、ナオコの前に集まってきた。

「ナオコ様! 私たち、ナオコ様の鍛錬で強くなりました! 貴女様の領地を貴女が不在であろうと護る事もできれば、自分の身を護る事も可能です!」

「ナオコ様、俺たちまだまだ弱い男衆も、なでしこ隊の助けに少しでもなるよう努力するから、ナオコ様はナオコ様で一世一代の大勝負に挑んできてください!」

「お、お前達……!!」

 なでしこ隊や男衆の力強い発言に、ナオコは感銘を受けた。

「ナオコ殿……」

 そんなナオコにカァチェンが声を掛ける。

「……ふ、ふん、仕方がないな! では、一部のなでしこ隊と男衆を残して、領地は彼女たちに護らせよう。その間に私は他のなでしこ隊を引き連れて黒武士との大一番に打って出る! 依存はないな、カァチェン」

「はい、ありがとうございます……ナオコ殿……」

 カァチェンは深く深く、ナオコに頭を下げた。

「べ、別に私は男を許した訳ではない……ただ、黒武士の横暴で更に嘆く乙女が増えないか、それを心配しているだけなんだからな」

 率直に素直な思いを発せられないナオコのたどたどしい言葉に、カァチェンは少しばかり口元を笑ませた。

「ではナオコ殿、私に妙案があります……私独りでは心許ないので、一緒に同行してもらえないでしょうか?」

「お前、次は何を企んでいるんだ? このイン・ナオコを差し置いて……!」

「いえ、ただ……私同様に、過去に挫折を経験して出陣する事もできない、あの武将の許へと馳せ参じようと思った次第です」

「? 誰だ、そいつ?」

 ナオコが首を傾げる中、カァチェンは彼女と共に基地を出て再び道なき道を軍馬で駆け抜けていった。

 

 武将の務めとは、領地の民や自軍の兵を守る事。

 だが、己の中に欠けた思想や野心を手に入れる為にも、武将は励んでいる。

 己の務めを果たしきれてないにしろ、己の中の欠けた心を取り戻すべく、二人の武将は夕焼けへと突っ走っていった。

 そしてカァチェンが会いたがっている、自分と同じく挫折を経験している武将とは。

 

 

 

[怯え切る半人前]

 

 所は変わって、ここは中東のとある石油産出国。

 アラブの富裕層が集まって暮らしている豪華絢爛な高層ビルなどの一帯を警護する守衛部隊の一角。

 その守衛部隊の一部隊と共に富裕層が暮らしている地域を警護している少年は、警備担当の地域の一角である砂漠にポツンと聳えている岩陰を背もたれに星空を眺めていた。

「あ~~あ、遂に始まっているんだろうな。聖龍隊やサイ・チョウセイさんが加わっている連合軍と、あの黒武士との大戦が……」

 少年は星空を眺めながら、今ごろ始まっているであろう黒武士との大戦に想いを馳せていた。

「僕も少なからず、助太刀に行きたい……けど。あの聖龍HEADですら歯が立たなかった黒武士と戦うと思うと、思わず身が縮み上がっちゃうし、何より足手まといになるのがオチだろうなぁ……」

 少年は星空を眺めながら、黒武士との大戦では未熟な自分は却って足手まといになってしまうのではないかと憂鬱していた。

 そんな星空を見上げる少年の近くに、砂場を歩む二頭の馬の足音が接近しては、馬に跨る一人の人物が少年に声を掛ける。

「鹿之助、殿……」

 その弱々しい声質に少年が起き上がり、顔を向けると其処には軍馬に跨るシバ・カァチェンとイン・ナオコの二人の姿が。

「あれ!? た、確か台湾将軍のシバ・カァチェンさんに、中国イン軍の女武将イン・ナオコさん? どうしてお二人が此処に……!?」

 声を掛けられ、二人の方に振り返った少年、山中鹿之助は何ゆえ不釣合いな二人が同伴して今自分の前にいるのか疑問に思った。

「こ、此処はアラブ連邦の領地ですよ? それにお二人とも、連合軍に参入して黒武士と戦いに行ってたのでは……?」

 疑問視する鹿之助の問いに、ナオコとカァチェンは目を合わせた次の瞬間に鹿之助に答えた。

「私は今まで、この世の乙女達を守る為に奮戦していたが……カァチェンから加賀美あつこを護らなければ、所詮はこの世の全ての人命が消滅しかねないと諭されて、今こうして一緒にいる訳だ」

「私は……自分だけでは、到底黒武士と戦う覚悟も、意志も見出せない欠かれた存在……それ故に鹿之助殿、貴殿からも僅かながら勇気を貰いたく、馳せ参じた次第です」

 ナオコとカァチェンの返答を聞いて、鹿之助はハッとした。

「……え? ひょっとして……僕も一緒にミラーガールを護る為にも黒武士との大戦に参加しろって事ですか!?」

「簡単に言えば、その通りです……黒武士の力は未だ未知数、そんな強敵を相手に連合軍が如何に強靭であろうと何が起こるか予測不能……少しでも戦力を足し加えたいのです」

 自分の問い掛けに答えるカァチェンの返答を聞いて、鹿之助は蒼然とした面持ちで明答する。

「む、むむむ、無理ですって! 僕の様な半人前が黒武士との大一番を賭けた大戦に出たって、足手まといになるのがオチですって!」

 鹿之助は半ば混乱しながら、カァチェン達に自分では足手まといになると伝えた。

 そんな困惑する鹿之助の様子を、顔を見合わせて確認したカァチェンとナオコ。

 するとナオコはしゃがみ込んで鹿之助と同じ視線で彼に述べた。

「……鹿之助、私だって本音を言えば、このカァチェンと同じで黒武士と戦うのは怖い。だけど大勢の人々の未来の為に、それこそ無数の猛者達が黒武士と戦おうとしているのに自分だけ戦わずに安全な場所でぬくぬくとしていて良いのか?」

「そ、そりゃ、僕だって実力があれば戦いますよ……だけど、あの鬼神・小田原修司を殺した挙句、聖龍HEADですらも歯が立たなかった黒武士相手に、僕ら普通の人間が太刀打ちできるのか……」

 ナオコの問い掛けに鹿之助は未だ迷いを見せた。

 すると今度はカァチェンが鹿之助に問い掛けた。

「鹿之助殿……貴殿はあの、己の正義と信念を掲げるサイ・チョウセイ殿を深く慕っていると聞いております。そのチョウセイ殿が率いる韓国軍も、連合軍に加盟して黒武士と戦っているのです。無論、怖いのは貴方だけではない、私たちも怖いですし逃げ出したい。だけど、友である二次元人の……特に、黒武士が狙ってる加賀美殿を護る為にも、どうか御同行してもらえませんか。私達だけでは心許ないので……」

「………………」

 カァチェンに戦場に同行してくれないかと嘆願されるも、鹿之助の心中は深く閉ざされたままだった。

 三人が問答を繰り返していると、其処に一頭の鹿が歩み寄ってきた。

「あ……お、おやっさん」

 歩み寄ってきた鹿は、鹿之助のお目付け役の雌鹿である「おやっさん」だった。鹿之助を心配して顔を近付けるおやっさんに、鹿之助は少しばかり心が和んだ。

「……気になってたんだが、なんでお前のお目付け役の雌鹿は、おやっさんって呼ばれてるんだ? そもそも鹿之助、お前は生粋の日本人なのに、なんでアラブに住み着いてるんだ?」

「そ、それは……」

 ナオコに問い詰められ、鹿之助は暗い表情で語り始めた。

「……僕は生まれ付き、動物の声が聞こえるんです。今では超能力の一種で、アニマルコミュニケーション能力と言われているみたいで……それで、物心ついた頃から、周囲だけでなく親までも動物と話せる僕を気味悪がって……正直、あまり良い生活は送れてませんでした。それである日、家を飛び出した先の公園で一人でいる時におやっさんと出会ったんです。おやっさんもその頃、病気で生まれたばかりの小鹿を亡くしたばかりで、似た様な境遇の僕と意気投合したんです……それから、僕たちは港に船舶している船に乗って密航して、アラブへと渡り付いたんです。そこで、今の主君であるハルノフ様とお会いして……ハルノフ様は僕の能力やおやっさんを受け入れてくれて、そこから今に至るまでアラブ十勇士の見習いを勤めている訳です……」

 鹿之助から聞かされた、彼の衝撃の半生を聞いてカァチェンもナオコも愕然とした。

 孤独だった少年と雌鹿が出会い、そこからアラブに渡り付くまで壮絶な人生を歩んできた一人と一頭の話に、二人の武将は衝撃を受けた。

 

「そ、そうだったのか……まさか、よく聞く話ではあるが、動物と話せる能力で周りから疎外されていたとはな」

「………………」

 鹿之助から昔話を聞かされ、よく能力者が何かしらの迫害に遭うと言うナオコに反して、衝撃のあまり黙り込んでしまうカァチェン。

「だ、だが……お前の主君であるハルノフって男も、帝が始めた現政奉還以来ずっと行方知れずだろ? 帝の側近である黒武士が絡んでいると思わないのか?」

「そ、そこまで僕もバカじゃないですよ! だけど……だからって、それを確かめる為に黒武士の許に調査しに行くのも怖いですし……」

「それじゃお前は、ずっと半人前のままだぞ!」

 気弱に成る鹿之助にナオコが永遠に半人前だと言い寄ると、鹿之助は小さく呟いた。

「どうせ僕は半人前ですよ……おやっさんの力がないと、ろくに戦うこともできない半人前……そんな半端者の未熟者が大戦に出たって邪魔なだけですし……」

 遂には一人でいじけてしまう鹿之助を前にしたナオコは、カァチェンと囁き合った。

「どうするんだカァチェン! 鹿之助は完全に戦意というものが無い! こんな奴を黒武士討伐の戦力に加えても、役には立ちそうにないぞ……!」

「は、はぁ……」

 ナオコに耳打ちされて、カァチェンも鹿之助に何と言えばいいのか迷ってしまう。

 すると二人が耳打ちしている間に、ますます気落ちして塞ぎ込んでしまう鹿之助におやっさんが歩み寄っては、落ち込む鹿之助の顔に口を近付けた。

「おやっさん……」

 落ち込む鹿之助を励ますように、彼の傍へと歩み寄る雌鹿のおやっさんはそっと鹿之助の顔を舐めた。

 おやっさんの微かな励ましに、僅かながらに目に光が戻ってきた鹿之助を見て、カァチェンが言った。

「鹿之助殿……なにも貴方だけが半人前と言う訳ではありません。私も、そしてナオコ殿だってまだまだ半人前なのですよ……」

「な、なんだって!? 私も半人前だと?」

 突然のカァチェンの発言に、ナオコは驚愕するもののカァチェンは鹿之助に話し続けた。

「私は未だに、前台湾将軍であるモウ・チェイファン様の力量には及ばない弱輩者……ナオコ殿は、今でも男女の関係に頭を悩ませている苦悩者。私たちは色んな意味で、まだまだ半人前の武将なのです。そう、貴方と同じく……」

「………………」「………………」

 カァチェンの説明を聞いて、ナオコは不機嫌そうな面構えになり、鹿之助は唖然とカァチェンの目線を見上げた。

「この世の誰もが、貴方や私たち同様に半人前なのです。でも、だからといって其処で歩みを止めては成長する事など出来やしないのです……一人前に成長するには、考え、悩み、そして多くを吸収しながら、大勢の人の協力を得ながら前進する事が必要なのです。貴方が成長する為に、誰かの力が必要と言うのならば、この私たちが協力します」

「………………」

 カァチェンの説明を聞いて、黙然とする鹿之助にカァチェンは押しの一言を掛けた。

「私では……不足でしょうか?」

 自分では力不足なのかと問い掛けるカァチェンの言葉に、鹿之助は顔を上げてカァチェンの顔を見詰めた。

 カァチェンの顔には以前には見られなかったが、いつの間にか自然と力が漲った様な雰囲気が感じられた。

 そしてカァチェンの説得を聞いた鹿之助は、カァチェンに問い返した。

「……僕でも、お役に立つんでしょうか?」

「できると思います……今は行方知れずの主君の為、そして大戦で死に物狂いで戦っている人々の為に、その力を存分に発揮できれば必ず功績に繋がる事でしょう」

 鹿之助の問いに、カァチェンはしっかりとした目付きで答えた。

 そして岩陰に座り込む鹿之助に、カァチェンは手を差し伸べて拍手を求める。

 これに鹿之助は、自分の力が必要とされているのだと認識して、カァチェンの手を掴んだ。

 そしてカァチェンに手を引っ張られ、立ち上がった鹿之助はおやっさんを傍に歩ませると二人に言った。

「わっかりました! この山中鹿之助、及ばずながらお二人のお力添えにならせてもらいまっす!」

「おおっ! 遂に決心が固まったな、鹿之助!」

「はい!」

 遂に決心を固めた鹿之助にナオコが笑みを向けると、鹿之助は自信満々に返事した。

 すると鹿之助は二人を背に走り出した。

「そ、それじゃ僕は警備隊の隊長に、二人からお声が掛けられたと報告してきます! 一緒に黒武士を退治しちゃいましょう!」

「ははっ、さっきまでの陰気な子供は何処に行ったんだか……まったく厳禁な奴だな」

 笑顔で走り出す鹿之助を見て、ナオコも思わず笑顔になる。

 

 そして鹿之助が走り去った直後、ナオコはカァチェンに話し掛けた。

「それにしてもお前、ホントに以前とは比べ物にならないほど良く話せる様になったじゃないか。陰気なシバ・カァチェンは何処に行ったのやら……」

 するとカァチェンもナオコに話し返した。

「私も……気付かない内に変われてたのでしょうか……己が成りたいものに、変わりたい自分に変われてたのでしょうか……」

 カァチェンは今までの自分から少しずつ未来への自分へと変われているのか、その実感がまだ湧かなかった。

 

 

 

[挙動不審の凶刃]

 

 山中鹿之助を新たに加え、シバ・カァチェンとイン・ナオコは早速、連合軍と黒武士が戦っている戦場へと向かった。

「いやぁ、参戦するとは意気込んだけど……正直まだ怖いっす。謎に満ちた黒武士といざ戦うと思うと……」

 これから黒武士との戦いに挑もうとする山中鹿之助は、未だに数多くの謎を秘めている黒武士との大戦に恐怖を感じ取っていた。

「まあ、私だって怖いのが本音だ。でも、その恐怖を乗り越えてこそ、一人前の武将と言われるんだぞ」

「は、はい!」

 イン・ナオコから言われて、鹿之助は姿勢をピンと真っ直ぐにして返事した。

 すると此処でナオコが鹿之助に問い掛けてきた。

「そういえば鹿之助。お前、アラブの警備隊に私たちと共に黒武士討伐へ出撃すると伝言したみたいだが、許されたのか?」

「は、はい! 警備隊の隊長も、他の警備員の方々も僕やおやっさんを快く送り出してくれました! 「お前達がいなくても、アラブの主要都市は俺らがきっちり護ってやる」って」

 これを聞いたナオコは、真顔で鹿之助に告げてしまう。

「それって……単に護衛に就かなくてもいい戦力として見られたから、黒武士との戦地に向かって良いと通告されたのかもしれないぞ」

「が、ガァ~~ン……そ、そうなのかな? 僕って、そこまで弱く見られてたって事?」

「ナオコ殿、少しはお言葉を控えないと鹿之助殿が可愛そうですよ……」

 ナオコの発言に落ち込む鹿之助を見かねて、同行するシバ・カァチェンが言う。

 

 しかし三人が黒武士との大戦に向かっていた、その道中にある狂気と遭遇してしまう。

「キ…………キキキキッ、俺様のぉ……マータン様の獲物は何処だぁ……!」

「ん! あいつは、確か帝への進軍の際に乱入してきた……!」

「ひ、ひえっ……! あの禍々しい雰囲気は、間違いありません……!」

「元黒劉席軍所属の……流浪人、ゴ・マータン……!」

 己の獲物を探し求める歪んだ瞳をしている流浪人ゴ・マータンを道中に目撃して、ナオコも鹿之助もカァチェンも一驚する。

「ん? 誰だぁ? 俺様の行く手を阻む木偶は何処の誰だぁ?」

「い、いけない……! このままだと、マータン殿は私たちを敵視して嬲り殺す気です」

「ええぇ!? い、嫌ですよ! 黒武士と戦う前に死んじゃうなんて、僕嫌です!」

「戸惑うな鹿之助! アイツが我々を敵視してしまった以上、戦いは避けられない……!」

 自分の行く手を阻む敵だと錯乱しているマータンを見て、カァチェンがその禍々しい殺気を感じ取る一方、戸惑う鹿之助にナオコは臨戦態勢に入りながら説得する。

 そしてカァチェン達と狂気に染まった武人ゴ・マータンとの戦闘が始まってしまった。

「ケケ、ケケケ……俺様の獲物、ここにいたのか……!」

 以前に聖龍隊に幾度と無く返り討ちにあったマータンは完全に正気を失った状態でカァチェン達と衝突した。

「くそっ、黒武士との大一番に乗り出そうって時に……こんな気が狂った輩と遭遇してしまうとは!」

「はわわ……完全にこの人、可笑しくなっちゃってますよ……」

「………………」

 マータンが投げ飛ばす奇刃を巨剣で弾き返しながら応戦するナオコに反して未だに恐怖で上手く戦えない鹿之助達と違い、カァチェンはマータンを複雑そうな面持ちで捉えていた。

「ケケケケッ、オマエラ……みんな、み~~んな揃って、バラバラに殺しちゃうんだからネ!」

 完全に正気を失っているマータンの奇刃を右へ左へとかわしながら、反撃に転じようとするカァチェン達。

 すると此処で、先ほどからマータンの奇行を己の眼で捉えていたカァチェンが思い切って問い掛けてみた。

「ゴ・マータン殿……!」

「ん? なんだお前? 俺様に……マータン様にバラバラにされたいのかな? キキッ」

 カァチェンからの問い掛けにも不敵な笑みで返すマータン。しかしそんな彼に臆する事無くカァチェンは話しかけて行く。

「マータン殿……貴殿の事は、聖龍HEADの方々から聞いております……」

「あァん? この俺様の何を聞いているって?」

「貴殿が、過去(かつて)あの鬼神・小田原修司が先導する聖龍HEADに打ち負かされ、それが切っ掛けとなり現実(いま)に絶望し……現実(いま)を彷徨っているのだと……バーンズ達から伝え聞いています」

「あ、ああん!? 何を訳の分からない事を言ってるんだァ、オマエ? いい加減な事を抜かしてると、全身バラバラに切り刻んで嬲り殺しちゃいますよ?」

「貴殿が……その様に悪態や狂気に染まった感情を表に出すのも、全ては根底にある本心の裏返し……そう、かつての私同様に……誰かに認めてもらいたい、その一心から貴方の心情は狂気に染め上がってしまってる……」

 カァチェンから予想もしていなかった真意を衝かれ、マータンは激しく動揺しつつも心を曝け出す事はなかった。

「な…………なァにを抜かしちゃっているんですか、キミ? このマータン様を狂った輩と一緒にするなんて、どーーも命が惜しくないようだなァ……!」

「ああ……! やはり、狂気に染め上がってしまった貴方を深淵から救い上げる事は不可能なのか……!」

 未だに情状不安定で己の裏面を明らかにしないマータンを前に、カァチェンはかつての自分と同じく「誰かに認めてもらいたい」「孤独な自分」であるマータンを救えないのかと嘆くと、そんなカァチェンに共闘しているナオコが言った。

「カァチェン、最早無駄だ! こいつに何を言っても無駄なんだ!」

「果たして……本当に無駄なのでしょうか……?」

 ナオコの言い分にカァチェンは自問自答を繰り返す。

 

 元からプライドが高く、自分の誇りを傷付けた者には強い恨みを持ち、マータン閻魔帳にその相手の名前を記して執念深く付け狙い、討ち果たしに近い処刑を続けているゴ・マータン。

 今から2年前、聖龍隊による亜細亜大戦の戦火を震災地の日本に及ばないようにする為、亜細亜を進軍していた聖龍隊に挑むも大敗してしまったマータンは、その頃から情状不安定になってしまう。

 突然イラつき出したり、嫌っている相手と対峙すると狂気と殺意をむき出しにもしてしまう。

 しかし彼の本性は、時おり正気と狂気の間を行ったり来たりしている。

 マータンの行動力の原動力は『人々に認められたい』という思いの裏返しなのだ。

 本来も几帳面で繊細かつ構われたがりな人物ゆえに、孤独を最も怖れている。

 そんなゴ・マータンをカァチェンは聖龍HEADと出会う前の自分と重ね合わせ、どうにかマータンを深淵から救い上げたいと懇願していた。

 

「……ゴ・マータン……過去(かつて)の私と同じく、周りから認可されたく……そして、孤独に怯える者……さて、どうすればよいのか……」

 カァチェンは狂気染みたマータンを正気に戻せる術を、手探りしていた。

 そしてカァチェンは思い切ってマータンに打ち明けた。

「……マータン殿……」

「ケケッ、死ね死ね死ねッ!」

 カァチェンの呼び掛けにも応じずに殺伐とした様子で奇刃を操り三人を殺傷しようとしてくるマータン、そんな彼にカァチェンは諦めず話しかける。

「マータン殿……実は、私たちは今あの黒武士との大戦に……帝が仕掛けた大一番に打って出ようとしているのです」

「!?」「か、カァチェン!?」「カァチェンさん!? なにを突然……!」

 突然のカァチェンの告白に、一瞬ながらも動揺するマータンに反して、告白を打ち明けたカァチェンに衝撃を受けるナオコと鹿之助は激しく戸惑った。

 そんな最中、カァチェンはマータンに語り続ける。

「貴方の力量は確かなものだ……確かに、過去(かつて)あの聖龍隊や多くの武将達に自らの誇りを傷付けられたにせよ……貴方には、私にはない実力が眠っている……! マータン殿、どうか貴方の秘めたる力量を御貸し願いないでしょうか……!」

 カァチェンからの切実な嘆願に対しても、マータンは今まで周囲から狂人扱いされてきた経験からスグにはカァチェンを信用できず。

「……ケ、ケケケ! そう言って俺様の処刑を先延ばしにするんですね? お見通しですよ! バ~~カ」

 こんな人間不信にまでも陥っているマータンを前にして、ナオコと鹿之助もカァチェンに諦めるよう言う。

「カァチェン! もうコイツに何を言っても通じない……! 倒すしかないんだ!」

「も、もう関わるのも嫌ですよ! こんな殺気だった人とは……」

「関わるのも嫌……」

 しかし鹿之助が発した言葉に、カァチェンは思い起こされた。

 かつての自分が周囲から見下され、関わるのも拒まれた辛い過去を。

 カァチェンは再度マータンに訴え掛ける。

「本当は貴方も……もう一度、栄光を掴みたいと……周囲から認められたいと願望を抱いている筈……! 私たちの為とは言いません……ですが、その実力を自分の為に……未来(さき)を掴む為にお使いください」

「ケケッ、頭の悪い木偶だなァ……その実力を発揮する為に、俺様は処刑を続けているんですよォ」

「貴方様が言う、処刑も……過去の失敗を取り返す為の無我夢中な行動……! マータン殿、人は過去にどれだけの失態を犯しても、その失態を抹消する事はできないのです……! 大事なのは……その失態を未来(さき)へと進む為にどの様に活用するか、なのです」

「「「!!」」」

 カァチェンの力説に、他の三人は一驚してしまう。

「僭越ながら、私もそれを学ばせてもらいました……心優しき、聖龍隊の隊士の方々に……マータン殿、今からでも遅くありません。貴方の力量と実力で、黒武士を打倒し……多くに認めてもらえる武将へと変貌してみませんか」

「…………!」

 力説を述べるカァチェンに、マータンは絶句してしまう。

 

 そして数時間と長きに渡る格闘の末、カァチェン達もマータンも息が上がるほど疲労が見えてきた頃。

「はぁ、はぁ……」「ぜぇ、ぜぇ……」

 互いに息を切らしながら向かい合うカァチェンとマータン。

 すると最初に息を整えたカァチェンが歩み寄り、疲労困憊しているマータンに手を差し伸べた。

「!?」

 突然手を差し伸べてきたカァチェンに戸惑うマータンに、カァチェンは言った。

「共に参りましょう……己が目には見えない未来(さき)へと歩む為に……」

 イン・ナオコも山中鹿之助も、そしてゴ・マータン自身も驚く中、カァチェンは今まで狂気と復讐心だけで突き進んできたマータンに手を差し伸べる。

 手を差し伸べられたマータンは、カァチェンの手をしばし直視するとスグに顔を背けて差し伸べられた手を取らずに言い返してきた。

「へ、ヘッ。このマータン様の実力を見抜くとは……オマエ、タダの木偶じゃねえな。まあ、面白そうだから手ェぐらい貸してやりますよ。やりゃあ良いんでしょ、黒武士をバラバラに処刑すれば良いんですよね!?」

「! あ、ありがとうございます……マータン殿」

 遂にマータンはカァチェンの説得に押し負けて、黒武士打倒に加勢すると断言してくれた。これにはカァチェンは心から喜んだ。

 一方で、カァチェンの説得がまさかマータンに通じるとは夢にも思ってなかったナオコと鹿之助は唖然としていた。

「……ま、まさか……あのマータンを説得してしまうとは……」

「信じられない……あのコミュ障で有名だったカァチェンさんが、他人を説得できるなんて……」

 俄かには信じられない二人の許に、カァチェンがマータンと共に歩み寄っては声を掛ける。

「お二方、急ぎましょう……多少、今の戦闘で疲労が蓄積されてしまいましたが、軍馬で駆け抜けている間に体力は回復するでしょう」

「「は、はいっ!」」

 突如発揮されてくるカァチェンの指揮能力に、ナオコも鹿之助も思わず背筋を伸ばした。

「ケケケ、お前ら、俺様の邪魔だけはすんじゃねえぞ。そん時は黒武士共々バラしてやっからな……!」

「ふんっ、これから一緒に共闘してやるんだ……だが、此方こそ宜しくな」

「は、はわわ……その奇刃、どうにか僕らに当たらない様にしてくださいね……」

 未だに狂気染みた性分を表すマータンに対して、一応は宜しくと言うナオコに反して未だに怖がる鹿之助だった。

 

 そしてカァチェンは、三人よりも先に軍馬に乗馬すると手綱を引いて出発の鳴き声を鳴らした。

「さあ、皆さん。今ごろも連合軍の皆様方が奮戦している頃……急いで加勢に向かいましょう」

 このカァチェンの一声で、三人は急いで出発の準備をするとカァチェン共々、黒武士との戦場に出走した。

 その道中の事。

「な、なあ……あのカァチェンって奴の口車に乗せられて、お前らも黒武士退治に向かう事になったの?」

「ま、まあ……そういう感じ、かな?」

「何だか、今までのカァチェンさんとは一皮も二皮も剥けたみたいに……すっかり変わっちゃいましたね」

 マータン/ナオコ/鹿之助の三名は、カァチェンの変貌振りにすっかり驚かされてしまってた。

 

 

 

[不屈の双刀]

 

 新たにゴ・マータンを説得して引き入れたシバ・カァチェン一行。

 イン・ナオコや山中鹿之助と総勢4人の面子は、軍馬を走らせ、黒武士との激戦が始まっている戦場へと急ぎ向かった。

「あ、あの……間に合うんでしょうか? もしかしたら黒武士は今ごろ連合軍を全滅させて、戦いは大敗してしまってるんじゃ……」

「こら、鹿之助! そんな事、思っても言うもんじゃないぞ! 聖龍隊は……連合軍はまだ戦っている。そう信じるんだ」

 時既に、黒武士が連合軍を全滅させていると言い出す鹿之助にナオコが叱り付ける。

 そんな二人の会話を横目に、カァチェンは脇目も振らずにただ前を直視して手綱を引く。

 

 するとその時。突然夜風の中を駆け抜ける軍馬に乗って走るカァチェン達の前に、一人の青年が飛び出して走行を妨害してきた。

「わっ……!」

 突然の走行妨害に驚き、慌てふためくカァチェン達は手綱を引いて動揺する馬を宥める。

 そしてカァチェン達の進行を邪魔した青年は、両手に双刀を握り締めて4人の前に歩み出る。

「こんな夜更けに何処に行くんだい? 皆様方……」

「あ、貴方は…………サコン……!?」

 カァチェン達の進行を邪魔して制止したのは北の国の残党兵であるマン・サコンだった。

 サコンは四人の前に立ちはだかると、小刀を差し向けて問い掛ける。

「何処に行くんだい、あんたら……まさかとは思うけど、バケモノ風情の二次元人共に加勢しに行こうって腹じゃねェよな?」

「加勢しに行くと……そう答えたら、貴方はどうするお積りですか……?」

 カァチェンがサコンの問いに険しい面持ちで答えると、サコンは血相を変えて言い放った。

「前にも言った筈だよな……二次元人共に肩入れする連中は、容赦なくブッ殺すって……!」

 次の瞬間、サコンは両手の双刀と蹴りの攻撃で四人に襲い掛かってきた。

「う、うわっ!」

 強烈なサコンの蹴りを間一髪でかわす鹿之助を切っ掛けに、ナオコが巨剣を振るってサコンと対峙する。

「お前! まだ二次元人への恨みを消せてない訳か? 言っちゃあ何だが、北朝鮮の悪評なら中国人である私の耳にも入るほど、評判は悪かったんだぞ!」

「う、煩い! 仲間を……ミィチェン様を死に追いやった聖龍隊を、二次元人を俺は許さねえ……! そんな二次元人共に肩入れする輩も同罪だ!」

 サコンはナオコが振るう巨剣を軽い足取りで難なくかわしては、その脚力から繰り出される強烈な蹴りから発生する旋風でナオコと距離を置きながら反撃する。

「ケケケッ、誰かと思えば……今や世界でも忘れかけられている北朝鮮の残党か。もう北朝鮮なんて昔の話なんだよ! 滅んだ国の事をいつまでのネチネチネチネチ引きずって、恥ずかしくないんですかァ?」

「黙って聞いてりゃ……! 二次元人に滅ぼされた国の奴等の心境を知らずに、よくも言いたい事言いやがって……!!」

 サコンはマータンが投げ付けてきた奇刃を何とか二対の刀で弾き返すと、速攻でマータンに急接近して彼に強烈な上段回し蹴りを炸裂させる。

「き、北朝鮮はチョウセイさんからも聞いています! 多くの民だけでなく拉致してきた人々までも苦しめてきた、存在そのものが悪だという悪しき独裁国家! 滅んでくれて、どれだけの人が喜んだ事か」

「おい、クソガキ。テメェもあの鬼神の義弟に降った南朝鮮人の戯言を聞き入れているんだな……ガキだから生かそうと思ってたけどヤメタ。……殺す!」

 動揺しながらもおやっさんと共に戦う鹿之助の発言に、サコンは生かす積もりであった鹿之助を殺める決意をしてしまう。

 本来4対1という有利な数だと言うのに、サコンは修羅場を潜り抜けてきた経験が豊富なのか容易く攻撃を回避しては速攻で反撃に転じていく。

「凄い……貴方とは何度も戦ってきましたが、改めて拝見致しますとその実力がすば抜けて高いのが見張ります」

「へへへ、俺の斬りと蹴りの二刀流は簡単には止められねえぜ!」

 以前にもサコンと闘った事のあるカァチェンは改めて彼の実力を認める一方で、サコンは調子付いて攻撃の手を緩めなかった。

 カァチェンは必死にサコンが繰り出す斬撃を逆刃薙(さかばなぎ)で防ぎ切り、どうにか接戦を食い止めていた。

「へへっ、まだまだ……!」

 すると此処でサコンが一旦距離を置いて、カァチェンに向かって攻める様に駆け出した。

「ッ……!」

 カァチェンもサコンの疾走に応じようと、同じく駆け出す。

 と、駆け出した二人が向き合った瞬間、以前の様にまたしても二人の意識に辛かった自分自身の過去が映し出された。

「ッ、また!」「!」

 サコンとカァチェンは不思議な感覚に襲われ、お互いに自分の過去が脳裏に浮かんだ瞬間に刃と刃を違えて硬直してしまう。

 

 お互いに再び自分の過去を思い知らされたカァチェンとサコンは、そのまま激しい攻防へと突入した。

「俺は……俺は! 二次元人共に希望と言う希望を全部、奪われたんだ! 北朝鮮の仲間も、そして……ミィチェン様も……!」

 歯を食い縛りながら己の苦渋を語るサコンに、カァチェンは

「それは過去(かつて)の私も同じです……! かつての私の主君モウ・チェイファン様は戦闘の最中、死に至り……残された私は周りから軽視されたまま国将軍へと推し進められ……」

「まだ祖国が残っているだけでもマシじゃねえか! 俺にはもう……未来(さき)を生き抜く希望すら残されちゃいねぇ……!」

 次第に怒りに燃える瞳から涙を滲ませるサコンの激情に、カァチェンも苦悶の表情を浮かべる。

 自分よりも遥かに腕も実力もあるマン・サコンにカァチェンはどうにか生きる希望を見出して欲しかった。

 そんなカァチェンがサコンに対して取った言動とは。

「……サコン」

「あぁん!?」

「サコン……お前が聖龍隊を、二次元人を赦せないのなら、それはそれで良い。だが、現実(いま)を蔑ろにし、未来(さき)へと進む事だけは捨てないでくれ」

「アンタ……俺に同情してんのか。だったら、いらねぇお節介だ! 俺は俺だけでも、二次元人共に一矢報いる!!」

「同情……? いいえ、差して言うのであれば……同調、私と貴方の波長が合っただけの事」

「………………」

「サコン、今でも北の国を思う貴方が死に急ぐのを……亡きヤン・ミィチェンがお喜びになるでしょうか?」

「! そ、それは……!」

「貴方が成すべき事、それは死に急ぐ事ではなく生き抜く事……今ではすっかり少なくなってしまった北の国の過去を……ヤン・ミィチェンの素顔を後世に伝える事ではないでしょうか? 北の国には、ヤン・ミィチェンの様な忠義に厚い武人がいたという誇りを……!」

「………………」

 カァチェンに説き伏せられ、サコンは沈黙してしまう。

「凶王と呼ばれ、恐れられたヤン・ミィチェンの事実を後世に遺さなければ……ミィチェン殿はただの世界に仇名した反逆者としか歴史に残りません! そんな歴史を防ぐ為にも、彼を知る貴方は生き延びねばならなのでは!?」

「………………」

 忠義に厚かった亡き主君ヤン・ミィチェンが世界に仇名した反逆者としか伝えられるのを阻止する為に、生き抜かねばならないと説かれてサコンは返す言葉が見付からなかったが。

「……へ、へっ! もう、どうでも良いんだよ! 何もかも。どうせ黒武士が世界を滅ぼして、歴史も何も残らないそんな世界になっちまうだろうしよ!」

「だったら……私たちの明日を……未来(さき)を守ればいい事……!」

「守るだぁ? どうやって守るってんだよ!」

「それは…………貴方も私たちと同様、黒武士を討ち果たしに行けばよいのです」

「なッ……!」

 カァチェンの意外な提案に、サコンは絶句してしまう。

「じょ……冗談じゃねえぞ! ソレって何かい? 要するに村田順一率いるスター・コマンドーに……二次元人共に加勢してやるって事じゃねえか! やなこった」

「順一殿を……二次元人たちを許せないのは百も承知……ですが、黒武士と戦わなければ未来が訪れないのもまた事実……!」

 黒武士との共闘を誘われながらも拒絶するサコンに、カァチェンは戦わなければ全ての人々に未来が来ない事実を指摘する。

 そんなカァチェンの提案を拒否するサコンに、カァチェンは更に問うた。

「貴方は、確か賭け事がご趣味の筈……!」

「………………」

「ならばお解りの筈……黒武士との戦いは、全ては帝が仕掛けた大博打……! その賭け事に打ち勝たなければ、この世の全ての人に未来は訪れないのです……!」

 黒武士との大戦は、全て帝である足正義輝が仕掛けた大勝負にして大博打。それに勝たなければ、今生の人々に未来が訪れないのだと説くカァチェン。

 

 そんなカァチェンの説得を聞いて、サコンは刃を振るうのを一旦やめて立ち止まる。

「……そ、そうだけどよ……でも、ミィチェン様のいない現実(いま)を生きる意味って……俺にあるのかよ」

「ありますとも……こんな欠けた心を持つ、私ですらも現実(いま)になってようやくその意味が見えかけているのです……サコン、貴方にもその生きる意味が見付かる筈です」

 主君亡き今、自分の生きる意味があるのかと疑問視するサコンにカァチェンは優しく言葉を掛ける。

 そしてカァチェンは手をサコンに差し伸べて、サコンに話した。

「さあ、どうぞ。私にも見付けられた生きる意味、そして得られた現実(いま)……私たちは全員、過去(かつて)挫折や苦心を味わった欠かれた者。されど、未来(さき)を掴む為、現実(いま)を懸命に生き抜き……そして未来(さき)を勝ち取る為にも黒武士に対抗する戦力なのです」

「………………」

「共に参りましょう、サコン……共に黒武士を倒し、私たちが生きれる明日を勝ち取りましょう……!」

 手を差し伸べながら朗らかに説くカァチェンの言葉に、かつての主君ヤン・ミィチェンとの思い出の数々を思い出したサコンはその表情に力を込めてカァチェンの手を掴んだ。

「よっしゃ、分かった! ……一緒に黒武士をぶっ潰してやろうぜ」

 こうしてカァチェンは新たにマン・サコンも仲間に引き入れ、彼の生きる道を見出させた。

 

 自分に誇りが持てず、周囲から見下されたまま形だけの地位に押し込められたシバ・カァチェン。

 己の不甲斐なさで大切な許婚である男と死別してしまった花嫁イン・ナオコ。

 望まぬ能力ゆえに、失ってしまった絆と得られた絆を経験した山中鹿之助。

 過去の失態から挫折し、一度は狂気に陥ってしまった孤独の武将ゴ・マータン。

 そして祖国を、そしてその祖国に厚い忠誠心を誓った主君を亡くして狂犬の様に生き延びていたマン・サコン。

 

 彼ら五人の黒武士に対する戦いは、今こうして始まろうとしていたのであった。

 

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