蛮族が逆転した貞操と文明差でぶん殴られる話   作:とらとら

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牛だって貞操逆転する世界です。

 

「WOOOOOOOOON!!!!」

 

 月の出る真夜中、オオカミの遠吠えのような声が響き渡る。その雄たけびを皮切りに、人を覆えるほど伸びた草原が、ガサガサと気味悪く動き始めた。

 

 動き始めたその影が近づいていくのは、集団で身を寄せ合い眠りと見張りを行っている肉の塊()だ。

 

 角の生えた四足歩行の猛牛に対して、隠れた男達は弓を引き、ある者は斧を携える。

 

 見張りの獣も、ガサガサと分かりやすい音を立てられればさすがに気がつく。猛牛は、一声大きく鳴いて、群の仲間に危険を知らせる。

 

 その声を聞けば、寝ていたはずの群の猛牛達がドミノ式に起き上がり、その強靭な脚で大地を蹴り上げて、逃げるように駆け抜けていく。

 

 それが始まると草葉の陰に隠れた者達は一斉にその姿を見せて、雄叫びを上げる。

 

「WOOOOOOON!!」

「WOOOOOON!!」

「AOOOOON!!」

 

 もはやオオカミの雄叫びと聞き分けられないようなその猛りはもはや、どちらが獣か分かったものではない。彼らは武器を手にして、只管に逃げる猛牛を追いかける。

 

 だが、流石に陸地で駆け抜けて逃げる事に関しては人間が猛牛に勝てる道理は無い。だが、人間には畜生の獣には持ち得ない『知恵』がある。

 

 人間の武器はソレだ。武器を作り、連携を取り、作戦を立て………()()()()

 

 駆け抜ける猛牛達……次の瞬間、一頭の猛牛が何故か掘られ、何故か隠されていた穴にその身体を落とし込んでしまう。

 

 それを皮切りに、複数の猛牛が地面に掘られた穴に落ちて行く。

 

 抜け出そうにも、穴の中に張り巡らされた棘の着いた茨が猛牛の身体に食い込み、脚に巻き付いてくるので力も入らない始末だ。

 

 そうなれば、もはや猛牛に逃げる術は無い。草陰から遂に身体を出した人間達……鉄と骨で作られた鎧や武具を纏った者達。それが、文明らしい文明を持たぬ()()てある事は火を見るよりも明らかだった。

 

 その蛮族達の手によって、穴に落ちた多くの牛は捕らえられてしまう。豊作だ……だが、次に彼らが取った行動は、実に奇妙な行動だ。

 

 彼らは、取った牛の下半身を確認し……それが雄かどうか見分ける。ついでに、体格の差から子供も見分けて行く。

 

 そうすれば、蛮族達はその雌と子供の猛牛の脚に絡んだ茨を取り除き、あろうことか薬草から村で作った薬を傷口に塗って縛ってやるような優しさにもならない丁寧さを見せた。

 

「ほら、行け。」

 

 そう言って、蛮族達は雄牛を担いで自らの村に戻っていった。

 

 猛牛らからすればたまったものではない、いきなり襲われいや意欲割れるかと思えば女子供だけ助けて()()()()()()()()雄牛を連れて帰ってしまうのだから。

 

 だが、それは思考の差異だ。

 

 この世界では、女が男と子供を守る。兵に駆り出されるのも女だ。

 

 男は、そんな女に全力で奉仕するのが役目……身も心も財産も全て捧げる、それが役目。

 

 文明や技術が進んだ世界からみれば、なんと野蛮な事か。だが、それがこの世界のに根付いたルールなのだからしょうがない。野生動物にすら根付いたルールだ。

 

 だが、あらゆる物事には必ず例外がある物だ。例外がない事柄は例外が見つかっていないだけ……それだけ、この世に絶対はない。

 

 それを表すのが、この世界の辺境に住まう『蛮族』だ。彼等は自らの部族の名を『アトス族』としている……彼等最大の特徴は、世の中と全く逆の文明感にある。

 

 『男が女を守り、女は男に奉仕する。』

 それが、その蛮族の中のルールだった。

 

 女子供は次の時代を作るから大事にすべし……先ほどの女子供の猛牛を逃がしたのも、その考え方から来るものだ。まぁ、自己完結の優しさなのだが。

 

 そして、排他的な彼等はそれ以外の貞操観念を知らない。彼等にとって、男は守る者。女は奉仕する者。それが全てだ。

 

「よし!牛は詰めたな?出発するぞ!」

「まて、一人……いや、二人足りんぞ。」

「あの青二才共だろ?ほっといても追いついてくる!さっさと行くぞ!」

 

 狩りを終えた男達は村へと絞めた雄牛を担ぎ馬車に入れて帰る。だが、さっさと先を進む蛮族の群から外れた場所に、一人かがむ男がいた。

 

 骨や毛皮で出来た兜と防寒具を着込む赤目の男。彼はアトス族の若人……名を『フレス』と言う。アトス族の古い言葉で『鉄槌を降ろす』と言う意味がある。

 

 その名の通り、フレスが屈みながら傍らに持つのは、鉄塊と言うには少し整えられ……ハンマーと呼ぶにはあまりに粗悪すぎる……正に最も原始的な巨大な『棍棒』と呼ばれる武器であった。

 

「……これは……」

 

 そんなフレスが見るのは、地面に着けられた足跡。獣ではなく、形状と足跡の深さからそれが人間のものであるのは容易に想像がつく。だが、フレスにはまだ気になる点があった。

 

「おい、フレス。何やってんだ。」

「!!」

 

 後ろから声をかけられ、身体を跳ねさせながら後ろを振り向くフレス。そこにいるのは、同じ様に巨大な棍棒を担いだ育ての兄の姿だった。

 

 名は『ログラム』部族の言葉では『とても重い』を意味したりする。幼い頃両親を失ったフレスの親代わりだ。

 

「……兄貴。」

「他の奴らはもう行っちまったぜ?何してやがる、こんな所で。」

「……これを見ろ。」

「あん?」

 

 フレスに催促され、ログラムはフレスが見ていた足跡を見る。一目見れば、ログラムもその足跡の違和感に気がついた。

 

「こいつぁ、始めてみる跡だな。」

「重い足跡が続いてる、俺達の村では作らない鉄の甲冑だ。それも隊列を成している。」

「……外来人って事か?」

「恐らくは戦士の。」

 

 最近、この辺りのアトス族の縄張りに外からの人間が入り込むようになった。いや……厳密には、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 少なくとも、それを外部とつながりのないアトスの人間が知ることはない。そして、その事を分かっているのは部族の人間の中ではアトスとログラムだけだ。他の蛮族は、その意味すら分かっていない。

 

「どうする?他の奴等に伝えるか?」

「そんな事をしても奴等は戦の準備をするだけだ。それで勝てる見込みがあるなら俺だって喜んでやるが、今のアトスじゃ外の技術や文明には敵わない。」

 

 今のアトスには鉄を鎧に出来るほど高度な技術はない。せいぜい骨と同じ様に研いで武器にするのが精一杯だ。

 

 ログラムは言う。

 

「んじゃあ、このままほかの部族と同じ様に潰されるのを黙ってみてるのか?」

 

 この辺り一帯の部族は、アトス族を除いてすでに外の……文明と技術の発達した国に取り込まれている。

 

 それが幸せなのか不幸なのかはフレスにもログラムにも分からないし、知る由もないが……

 

 少なくとも、フレスはそんな訳のわからない奴等に首輪をつけられるのはごめんだった。たとえそれが幸福であったとしても、だ。

 

「……分からない。だけど、何とかするしか無い。」

「……まぁ、そうなんだがよ。」

 

 フレスの先の見えない言葉に、ログラムは溜息をついて同意するしか無かった。二人は立ち上がり、足跡を脚で泥を掛けて塗りつぶすと、棍棒を持って振り返る。

 

 すると、突然仲間の雄叫びが聞こえた。

 

「WOOOOOOOON!!」

 

 これは、アトス族で仲間を集め列を組ませるための雄叫び。同時に、何があったのか知らせる声が響いた。

 

「変わり種だ!変わり種がでたぞ!」

「女が追われてる!ここで見捨てたら漢の名が泣くぞ!」

 

 変わり種……それは、夜にだけ現れる一般の動物と明らかに違う化け物を指す。それは、国や王都等情報が通う場なら『魔物』として恐れられている存在だ。

 

 しかし、アトス族の様な無知な蛮族に取っては……『変わり種』の名の通り、獣よりも危険で肉も食えない、武具の素材でしか無い。たったそれだけしか変わらない相手だ。

 

 オマケに、一匹につき一人分しか作れないような加工の難しい素材。それが目的な気狂いならともかく、獲物を狩った帰りにぶつかる相手ではない。

 

 だが、女が追われているとあらば話は別だ。女は守る者。それがアトス族の常識。彼等蛮族の常識。下心もあるにはあるが、それ以上に女を助けねばという使命感も強い。

 

 フレスとログラムは少し離れた場で考える。ログラムは、フレスに聞いた。

 

「フレス、どうする?」

「……最近、棍棒が欠けた。」

「なら、変わり種の骨で直さねぇとな。」

 

 ログラムは棍棒を肩に担ぎ、フレスは棍棒を地面に引きずりながら歩き出す。

 

 彼等に取っては、変わり種は狩るに値する相手な様だ。

 

 

 

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