どうも。
第九話です。
「───これより、初星学園始業式を始めます」
司会進行役の一声で、講堂内のざわめきが消え、空気が張り詰める。
今日はついに始業式の日……つまり、俺も講師として本格的に活動を始める日だ。この間入学式に居た新入生に在校生を加え、全三学年が一同に集まっている。そのおかげか、入学式の時よりも講堂の席が埋まっているように見えて、それだけ初星学園が大きなアイドル養成校であることを実感させられる。
まあ、入学式に続いて神山唯仁こと俺は、そんな様子を講堂の舞台裏で眺めている訳だ。だが、今回は見てるだけでは済まない。
「
俺に声を掛けてきたのは、生徒会長として壇上でスピーチをして戻ってきた星南だ。こう言う場だから敬語なんだろうが、やっぱり慣れないなぁ……
「ん、ありがとう。
そう言って返すと、星南はちょっとむっとした表情を見せた。おそらく苗字すら呼ばなかったからだろうが……まっ、間違っちゃいないよな?
「続いて、今年度から新たに着任される先生を紹介します」
司会の方の言葉に合わせて、俺は壇上の前に足を踏み出していく。すると、全生徒達が俺に注目する。こういうのは全然慣れてはいるはずなのだが、やはり今まで立場が違うから妙に緊張するな……
でも、これが俺にとってアイドルを支える講師としてリスタートを切る大事な瞬間だ。怯むつもりはない。
事前に渡されていたマイクを片手に、俺は語り始めた。
「今年度から初星学園の講師として着任しました、神山唯仁です。今後レッスンで会う機会があると思うので、この場で多くは語りません。ただ、一つだけ伝えたいことがあります────」
そう述べると、俺は真正面にビシッと指を差し、力強く言葉を続けた。
「全世界で
挨拶を終え一礼すると、生徒達が拍手を返した。少し間があったかもしれないが……まあ気のせいだな。
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「失礼しまーす」
「あら、いらっしゃい。朝はお疲れ様。随分大きく出たわね」
「あぁ、ありがとう。まあ……生徒達に期待を込めて、って感じかな」
始業式を終え、その後のお昼休みに生徒会室に来ていた。朝の始業式で俺がした挨拶について、星南には俺が強気だったように見えたようで、感心したかのような表情を見せた。
「フッ、生徒達も大分驚いているように見えたぞ。きっと貴様の指導を受ければ、自分の何かが変わるのかと期待しているに違いない」
「ははっ、そう思うと責任重大だな。まあでも、あいつらがその気なら応えるつもりかな」
「ほう……随分自信満々なんだな?」
「まあそりゃ……燕の態度の悪さを正せると思うくらいには?」
「いやそれはどのくらいなんだ!? というか、誰の態度が悪いだ!」
妙にプレッシャーを掛けてくる燕に対して仕返しを喰らわせると、燕の強烈なツッコミが返ってくる。いやぁ、久々に燕の代名詞・切れ味の鋭いツッコミを聞けて嬉しいね。
「ちょっと先生、今燕ちゃん集中してるから、あまり気を散らしちゃダメですよ?」
「あっ……すまん燕、以後気をつける」
「気にするな、これくらい
完全に弄るタイミングをミスった俺は姫崎に注意されてしまった。今思えば燕がこちらに視線を向けなかったのも、書類を処理していたからだよな。忙しいところを邪魔してしまって、流石にちょっと反省しなければ……
「ふふっ、でも挨拶の方は聴いていて目を惹かれましたよ! うちのクラスメイトも興味津々でした!」
「そ、そうか……ありがとな」
俺の気が少し沈んだのをカバーするかのように姫崎がそう褒めてくれた。やはり姫崎は機転が効いて優しい奴だな。
「ふふっ、大好評じゃない。私も、唯仁らしい一言で良かったのと思うのだけれど……これじゃ、そのカモフラージュもあまり意味が無いわね」
「あっ、そうだ……式直前に渡してきたこのメガネは何なんだ! どう見ても俺ぐらいの年齢の奴が掛けるものじゃないんだが!?」
そう言って俺が目元から取り外したのが、今朝始業式直前に星南が渡してきた古めかしい丸眼鏡だ。『学園内ではこれからこれを掛けて過ごして頂戴』と一言言われたままで、一応それに従って半日を過ごしてきたが、未だに俺自身は納得していなかった。
「まあ、仕方ないわね。学園長が若い頃に使っていたものらしいから」
「どおりで古臭い訳だ……なんでそれを俺に寄越した?」
「そんなの、貴方のオーラを隠すために決まってるじゃない」
呆れてるかのようにそう言う星南。しかし学園長が若い頃に使ってた眼鏡か……
「いやいや、そうだとしても自分の変装道具使うし、現役時代と容姿は大分違うから要らない気がするが?」
「念には念を重ねるのよ。それに、意外とその眼鏡を掛けた唯仁も似合ってたわよ? 流石唯仁ね」
「そうか? ……まあ、星南がそう言うなら悪くないか」
……なんか言いくるめられたような気がするが、星南からのプレゼントだと思えば悪くはないのかもしれないな。
「……フッ、チョロい奴め」
「おい燕、本当に集中してるのか? 疲れてるだろうし、ちょっとした顔のマッサージでもしてやろうか? ん?」
「ええい勝手にほっぺを抓るなッ! 貴様のそれを邪魔というのだ!!」
「あはは……」
……生徒会室は今日も平和である。
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「それでは、これから初回のボーカルレッスンを始めますね」
昼休みを終え、午後からは本格的に実技レッスンが始まっていく。つまり、俺の仕事はここから始まる。
レッスンが始まる前、ボーカル・中野先生、ダンス・若島先生、ビジュアル・沢城先生の三人に混ざって打ち合わせをした。その時、例の始業式の件について触れられ、『流石に大口叩きすぎじゃないか〜?』といじられたり、『そこまで派手に言うと、大物であることがバレてしまいますよ?』といった意見を貰ったり、『十王さんみたいなノリで、割とウケたんじゃない?』と感想を述べられたりと、色々喰らった感じだ。
そんな感じで、流石にやり過ぎたんじゃないかという感情が出てきたから、この後の挨拶では、もう少し控えめに挨拶しようかと思っている。
「このボーカルレッスンを担当する、ボーカルトレーナーの中野美里です。これからよろしくお願いしますね」
今日はボーカルトレーナーである中野先生に付き添ってレッスンをサポートしていく。そして今回教えるのは、一年二組の生徒達だ。
「それから、今回は皆さんをサポートしてくれる先生を紹介します」
あっという間に俺の自己紹介ターンが回ってきた。俺は前へ一歩踏み出し、生徒達の目の前に立った。見渡すと、一年二組の生徒達の顔がこちらに向いているのが見える。
事前に生徒名簿を見て、一年二組には、俺が知っている人が三人いることを把握している。
一人目は、この間入学式後に遅刻してきた花海佑芽。とてもやる気に満ちていそうな表情だ。
二人目は、ベンチで精神統一をしてた時何故か隣で寝てた秦谷美鈴。サボりそうな奴だと感じていたが、流石に今日は来たか。
そして……
「……!」
俺に純粋な瞳で俺を見つめる者が一人。やはり彼女だったか……
そんな視線を視界に捉え、俺は話し始めた。
「……えー、始業式でも挨拶しましたが、今回皆さんのレッスンをサポートする講師の神山です。ボーカルレッスンだけではなく、他のレッスンでも顔を合わせると思うので、もしレッスン中に困っていたら気軽に声かけてください。よろしくお願いします」
俺が挨拶を終えると、生徒達はすぐに拍手してくれた。なんとか無難にやり切れたようだな。
こうして、初回のボーカルレッスンが始まった。
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「唯仁お兄様!!」
ボーカルレッスンを終え、次のレッスンに向けて移動しようとレッスン室を出たところ、一人の生徒から呼び止められた。
それは、俺が昔からよく知っている人物で、妹のように可愛がっていた子だった。
「よっ、久しぶりだな。
「はい! 私、お兄様にいつかお会いできないかと、ずっと待っておりましたわ!」
そう、この子が一年二組で知っている生徒である、
大財閥『倉本グループ』の令嬢で、十王家が主催するパーティーに参加した時に彼女と出会った。彼女の祖父である倉本の爺さんは、十王の爺さんと仲が良く、よく交流があったというから、そのパーティーに参加していたってことだ。彼女とも、俺が忙しくなって以降会えないでいたため、今日久しぶりに顔を合わせるという訳だ。
「あはは、嬉しそうで何よりだ。ただ、すまん。次のレッスンもあるし、俺も立場があるから……」
「わわっ、ご、ごめんなさいですの……! 私としたことが、つい気持ちが
声を掛けられたと思って振り返ったら、こちらにトテトテと走ってきてハグしてきたんだよな……正直この幸せな時間を続けたいと思ったが、講師という立場がそうはさせなかった。
「大丈夫、そんなに気にするな。また今度ゆっくり話す時間を作ろうな?」
「はい! 楽しみにしておりますわ!」
満面の笑顔で言葉を返してくれる千奈ちゃん。きっと彼女も、例の件で色々と心配を掛けたに違いない。今度ちゃんと倉本邸に行って顔を出さないとな。メイドの
そうやって考えていると……
「あっ、神山せんせー!!」
溌剌にそう声を掛けてきたのは、この間話す機会があった佑芽だった。
「おー、花海と……君は確か……」
「
「あー、そうだったな」
佑芽の隣で淡白にそう受け応えたのは、同じ一年二組の篠澤広だ。ホワイトベージュの肩まで掛かる長髪はカール状に逆立っており、とても白い肌で前髪に付いている大きなヘアピンが特徴的な子だ。見るからに体型が細く、正直アイドルの体型ではない。体力面にも難がありそうで、アイドルは向いてないと言ってもおかしくないのだが……まあ、俺としては本人の意志によるな。
「しかし、二人とも俺に何か用か?」
「あっ、あたしは別に用があった訳じゃないですけど、先生がいたので声を掛けちゃいました!」
「私は佑芽について来た」
佑芽と篠澤は元々友達ということなのだろうか? なら納得がいくが……
早く次のレッスンに行って準備しようと思ったが、折角だし少し話してから行くか。
「なるほどな。ちなみにどうだ、初回のボーカルレッスンは?」
「とっても楽しいです!」
「おー、楽しいか。それは良いことだな」
やっぱりエンジョイ出来るのが良いよな。まあ、この後どんどん厳しくなっていくだろうが、それでもそう思えるか、だな。
「あっ、あとその時に広ちゃんと仲良くなったんです!」
「なんだ、二人ともさっき知り合ったのか?」
「そう。佑芽、凄く声量が大きくて羨ましい。尊敬する、よ」
まさか知り合ってばかりだったとは……佑芽のコミュ力はなかなか凄いな。
「あの……そちらの方とは、お知り合いで?」
すると、後ろから千奈ちゃんがそう声を掛けてきた。
「あぁ、ちょっとした色々あってな」
まだ千奈ちゃんは二人に話しかけるのを躊躇ってるのかな? そうなると、俺が少し手助けして……
「あっ! もしかして同じクラスの子だよね!? 初めまして! あたしは花海佑芽!」
「私は篠澤広。あなたは?」
……するまでもなく、あちらから声を掛けてきた。
「わ、私は倉本千奈ですわ! お二方とも、どうぞよろしくお願いいたしますわ!」
「うん、よろしくね!」
「よろしく、ね」
俺が心配する必要もなく、あっという間に千奈ちゃんは二人の話の中に入っていった。レッスン初日から仲間が出来てよかったな……お兄さんは感激してるよ……
「ところで、千奈ちゃんは神山先生と何か話してたけど、知り合いなの?」
「はい! 唯仁お兄様は、私のお兄様なんですの!」
あっ……
その瞬間、途轍もなく嫌な予感がした。
「えぇぇぇぇ!?!?」
そして、その予感は見事に的中する。
「倉本と神山……苗字が違うのに兄妹……複雑な関係?」
「もしかして……そういうプレイってこと!?」
「いや待て待て、二人とも誤解してるぞ! てか、そういうってどういうのだよ!?」
「プレイ……? な、何のことか全く分かりませんわぁ!!」
「いや千奈ちゃんは分からなくて良い事だから、落ち着いてくれ! あっ、こういうときは倉本って言うべきか!? おいちょっと待ってくれよ……!!」
こんな修羅場があって、結局俺は千奈ちゃんには、誤解を防ぐために違う呼び方をしてもらうようにした。その結果、『お師匠様』となった。まあ、千奈ちゃんが喜んでくれるなら良いか……
今回はここまで!
生徒会の面々に加えて、一年二組の面子との掛け合いがありましたね。ん? 一人足りない? もう一人は……お昼寝に行きましたかね笑 今後また出てきてくれると思います。
また、今回は一年二組でしたが、今後他のクラスの面々も描けたらと思っています!
ではまた次回!
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