元星は初星でどう生きるのか   作:Ym.S

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 第一話です。
 それでは早速どうぞ。


第一話 元星と一番星の再会

 

 

「お主、初星学園のトレーナーになってはくれぬか?」

 

「……えっ?」

 

 

 学園長室の執務席に堂々と座る十王の爺さんから告げられた言葉は、俺の予想を遥かに上回ることだった。

 

 ……は? 俺がトレーナーに? 確かトレーナーって、ちゃんと資格を取らないとなれないものじゃないと認識しているが、そんなの俺は持ってないぞ……!? アイドル一筋だった俺にはそんな資格を取る暇もなかったからな……どうする、断らざるを得ないか? 

 

「お? まさかそこまで驚くとは思わんかったが……ハハッ、面白いものが見れたな!」

「……で、まずは訳を説明してくれます?」

 

 俺が隙を見せたのを良いことに弄ってきた爺さんをシカトして、とりあえず詳しく話すよう求めた。

 

「全く、可愛げないのう……まあ良かろう、順を追って話すとしよう」

 

 不満な様子だったが、観念したのか、改めて俺に向き直り、説明をし始めた。

 

「まず大前提じゃが、お主は子役として芸能界にデビューし、絶大な人気を誇ってからアイドルとして成り上がり、アイドル界の中でも五本指に入るくらい有力なアイドルになった。それで間違いないな?」

「まあ、そうでしたね」

 

 まずは、俺の実績についての話か。アイドル時代の俺を知らない人からすれば、今の話を聞いても信じられないと思うかもしれないが、爺さんが話を盛っている訳でもなく、全て本当のことだ。実際全盛期には、今勢いのあるアイドルトップ5にランクインしたこともある。しかし、なんだかこうやって自分の経歴を淡々と述べられると不思議な気分になるな……

 

「そうじゃろ? じゃから、今までアイドルとして積んできた経験とノウハウを、学園の生徒達に教えてやってほしいのじゃ」

「はぁ……それって、俺以外にも人がいるんじゃないですか?」

 

 俺以上に経験や実績を持っているアイドルは多くはないが、いないなんてことはない。それに、この学園の卒業生ならトレーナーとして採用するのは頷けるが、十王家との繋がりだけで、この学園とは全く縁もゆかりもない俺を選ぶのは謎だ。

 

「いや、お主しかおらん! お主が子役時代から歌やダンス、表現力に長けておったことをわしはよく覚えておる。今となってはアイドルとしての経験も豊富じゃ! それに……お主には、わしらと似たようなアイドルの才能を見抜く力があるじゃろう?」

「……まあ、そちらとは少し理屈が違いますけど」

 

 アイドルを見抜く能力───それは、十王家の血筋の人が持っている能力で、アイドルの能力が数値化して見えるらしい。それに似た能力を、俺も持っているということだ。まあ、もちろん俺にはアイドルの能力が数値化して見える訳がなく、また別の形でアイドルのポテンシャルを推し量るのだが。

 

「それが一番の理由じゃ! お主の目利きを使って、初星学園に眠る才能を育てて導いてほしい! それに、お主のアイドルに対する熱意と、アイドルに対して教える能力が優れておるのも噂で聞いておる! どうじゃ? 引き受けてはくれぬか?」

 

 ……どうやら、思っていた以上に本気で俺をトレーナーとして迎え入れようとしているようだ。

 

 俺のことをとても良く評価しているのは、正直言って嬉しいことだ。ただ、俺には最初からずっと引っかかっていたことがある。

 

「まあ、俺が適材適所だってことは分かりました。ただトレーナーとはいっても、俺にはトレーナーの資格がありませんが?」

「あぁ、そのことについて心配は及ばん。トレーナーとは言ったものの、より正確に言えば特別講師みたいなものじゃ。学園で勤めておる正真正銘のトレーナーとはまた違う扱いになるから、安心せい」

「な、なるほど……」

 

 なら特別講師って言ってくれよ……トレーナーと特別講師じゃ全く訳が違うから変な心配をしてしまったじゃないか。でも、意外と仕事内容はトレーナーと似てたりするから、トレーナーと言い換えたのだろうか? もしそうならば、そういう仕事ってことか。

 

 まあ、思っていた以上に割りの良い話だとは認識を改めたが……今の俺が、あの時のような熱意でアイドルの卵に対して向き合っていけるのか……? 

 

 俺が返事を躊躇していると、今まで意気揚々と語っていた爺さんの声色が変わった。

 

「───それに、お主がアイドルを辞めてからずっと気掛かりだったのじゃ。辞めた理由も理由じゃからな」

「爺さん……心配かけてすまん」

 

 爺さんの言葉は、自分の本当の親のように優しく、暖かかった。俺は、そんな優しく接してくれる人に、アイドルを辞めた後すぐにちゃんと報告に出向かなかったことを後悔した。

 

「謝らんでいい、わしとお主の(よしみ)じゃ。それに、その誠意は星南(せな)にも伝えるが良い。心配しておったからの」

「それはもちろん……!」

 

 この場で度々名前が上がっている星南にも、後でちゃんと会いに行かないとな……

 

「うむ……じゃからお主のためにも、この仕事は受けるが良いと思うぞ。今一度訊くが、どうじゃ?」

 

 まるで心配を掛けた罰で特別講師の仕事を受けろと言わんばかりに話を繋げてきたように感じたのは気のせいだろうか……いや、如何なる理由があろうとも、今の俺にはその仕事を断る道理がなかった。

 

「……よろしくお願いします」

 

 

 ────────────────────

 

 

 学園長室を後にし、俺は爺さんから生徒会室へ行くように促されたため、そこへ向かっている。どうやら、学園の生徒会長が俺のことを待っていて、色々と説明してくれるらしい。

 

 しかし、最初に学園長と面会をして、その次に会うのが生徒会長というのは、実際そういうものなのか? なんか妙な意図があって仕向けられているような気がしなくもないが……

 

 まあそんなことはどうでも良い。生徒会長は生徒の中でも代表する存在であり、そんな人にこの学園について色々教えてもらえるのならこちらもありがたいもんだ。この後は生徒会長と会ったら、星南と会って……帰るって流れかな。

 

 そう考えていると、生徒会室と書かれたドアの前にたどり着いた。

 

 ドアをノックしようと思った瞬間、()()()()()()()()()()()()

 

 

 これは……どうやら、ここを訪れたら今日はもう用無しになるかもな。

 

 そんな確信めいたことを考え、俺はドアを3回叩いた。

 

「入りなさい」

「失礼します」

 

 ドアの奥からは聞いたことのある、芯が強い凛とした女性の声が返ってきた。

 

 部屋に入り、ドアを閉めて声の主と目を合わせた。

 

()()()()お前だったんだな。星南(せな)

「ええ、そうよ。待ってたわ、唯仁(ゆいと)

 

 生徒会室の執務席に座っていたのは、俺が幼い頃からよく知っている幼馴染の十王(じゅうおう)星南(せな)だった。

 

「そうか……お前、ここの生徒会長になれたんだな」

「随分驚いているようだけれど、お爺様から何も聞いていないの?」

「お前については度々話に出たが、お前が生徒会長だってことは一切触れてなかった」

「そうなのね……もうお爺様ったら、サプライズが好きなんだから」

 

 どうやら、星南は既に俺がここに来ることを知っていたらしい。恐らく爺さんから事前に聞いていたのだろう。その一方で、直前まで彼女と生徒会室で会うと思っていなかった俺は、少し動揺していた。その姿が不思議だったのか、星南が爺さんについて訊いてきたので正直に話すと、苦笑いをして呆れているようだった。

 

 やっぱり、生徒会長について名前を明かさなかった理由はそれだったか……全く、先に予告ぐらいしとけよ。

 

「でも、()()()()ってことは、また例の能力かしら?」

「あぁ、意識しなくともこの部屋からお前の()()()が感じられたからな。とても懐かしさを感じた」

「そう……相変わらず、唯仁のそういうところは怖いわ」

「いやそれはお前も似たようなものだろ」

「私の能力は普通よ?」

「全っ然普通じゃないから」

 

 先程言いそびれたが、俺の能力は()()()()()()()()が見えるというものだ。具体的にはその対象人物の周りに纏っているオーラという色がついた(もや)みたいなものが目で見て分かる、といったところか。星南の『能力が数値化して見える』のとはまた理屈が違うとはいえ、どちらも一般人にはない異常な能力だ。

 

「まあいいわ。それより……ちょっと、こっちに来なさい」

「ん? ……ああ、分かった」

 

 すると、星南が生徒会室の執務席から立ち上がり、彼女の元は来るように言われた。俺は考える間もなく彼女の目の前まで来て向き合った。

 

 そして、その場で彼女に抱き寄せられた。

 

「ホントに……心配したわ」

「……すまん、星南。すぐに顔出せなくて」

 

 星南の声色は少し震えており、それだけ俺がアイドルを辞めた理由を聞いてから不安で仕方なかったことが伺えた。波打つように腰まで伸びた薄い金色の髪で、毛先でピンクに色掛かっているのは、前に会った時と変わっていなかった。でも彼女な姿を正面で見た時、前髪をセンターで分けていて、今の星南がアイドルとして大きく成長したことを物語っているように感じた。

 

「いいえ、貴方は悪くないわ。お爺様から聞いたのだけれど……辛かったのよね」

「辛いだなんて、そんなことは……」

「もう、そこで変に強がらないで頂戴。でも、思ってた以上に大丈夫そうで安心したわ……」

「……俺も、星南が元気そうで良かったよ」

 

 それに、俺のことをこんなに心配してくれていることを知れて良かった……でも、もうこれ以上心配は掛けられないな。

 

 俺は彼女頭を撫でながら、彼女が満足するまでその状態を続けた。

 

 

 暫くして星南が俺を放し、彼女の顔を見ると、悪戯げな表情を浮かべていた。

 

「いつもみたいに逃げないのね?」

「そりゃあ……凄い心配掛けただろうし、仕方なくな」

「ふふっ、久々に子供の頃を思い出せて嬉しかったわ」

 

 星南の声色はいつもの調子に戻っており、満足感に満ちた嬉しそうな表情を浮かべていた。

 

 彼女が言う『逃げていた』というのは、今まで俺と会う時はいつも出会い頭にハグという名の突進をかましてきていたものだから、俺はいつも華麗な回避を決めていたということだ。本人はハグという行為に対してあまり躊躇がないようだが……というか、あれはハグじゃなくて突進だろ、と毎回ツッコんでいた。はぁ……思い出しただけでも疲れる。

 

「そうかい……でも大丈夫なのか? 自分が受けておいて何だが、お前はもう有力なアイドルなんだろ?」

 

 彼女の希望に従ったとはいえ、もし仮に今の様子を目撃されれば、ただでは済まない。

 

「それなら問題ないわ。ここ生徒会室は学園の中で聖域とされてる場所。今は二人きりだし、誰にも見られることはないわ」

「ふーん、聖域ねぇ……でも聖域とはいえ、流石に防犯カメラとかは設置されてるんじゃないか? 悪用されることはないだろうが、誰かが俺達の様子を見ているかもな」

「……!」

 

 俺が現実的な指摘をすると、星南ははっとした様子で顔を紅潮させた。俺はしたり顔で彼女に追い討ちを掛けた。

 

「やっぱり、今も昔もポンコツなところは健在か。そういう一面が世に流れ出ないか心配だなぁ?」

「なっ……! だ、誰がポンコツなのよ!? それに、今は一番星(プリマステラ)として完璧な私と認知されているわ!」

 

 プリマステラ……何かの称号だろうか? もし学園一のアイドルとしての称号的なやつだとしたら、とても凄いな。

 

「おぉ、ちゃんと表ではちゃんと取り繕えてるんだな。でもまさか、アドリブがある生放送とかを避けてるからじゃないよな?」

「そ……そんなことはないわ! 雑談は一旦終わりにして、今後の話をしましょう!!」

「はいはい」

 

 無理やり話を切り替えた星南は、とても焦った表情だった。もしや本当に……? 

 

 まあでも、彼女が生徒会室を聖域というように、生徒会が学園内で深く慕われている存在なのは恐らく事実なのだろう。それに、星南の抱擁を受ける前にしっかり窓の外に怪しいものがないか確認しているからな。流石にそうじゃなければ俺も穏やかで居られない。

 

「もう、人が心配してあげているのに、唯仁は……!」

「あーすまんすまん、本当に悪かったって……今度、久しぶりにアイドル談義しような?」

「本当!? 待ってるわ!」

 

 怒り気味の星南に俺が詫びにそれを持ち掛けると、彼女はパァっと目を輝かせ、嬉しそうにそう返した。アイドル談義というのは、お互いアイドルについて熱く語り合う会のことなのだが……今度は久々に十王邸にお邪魔させていただくのもアリだな。

 

 

 そんなことを考えながらも、俺は本題の特別講師について説明を受けることにした。

 

「……で、爺さんからここの特別講師的なのになるという話になっているんだが、そこは把握してるんだよな?」

「ええ、勿論よ。貴方にはこの初星学園のスペシャルアドバイザーとして、学園の生徒達に指導したり、相談に乗ってほしいの。細かい内容はこの資料を見て頂戴」

 

 そう言って彼女が出してきたのは、そのスペシャルアドバイザーとしての業務内容についてや、給料について載っている紙だった。

 

「スペシャルアドバイザーって……また仰々(ぎょうぎょう)しい肩書きだな」

 

 いや、正しくはスペシャルアドバイザーかよ……トレーナーかと思ったら特別講師で、本当は特別講師というのも厳密には違ったってことなんだよな。まあでも、いきなりスペシャルアドバイザーと言われてもいまいちピンと来なかったし、特別講師って言い換えが分かりやすいな。今後はその呼び方を使っていくとするか。

 

「良いんじゃない? アイドル・滝河(たきがわ)匡斗(まさと)らしくてピッタリだと思うのだけれど」

「おいそりゃどう言う意味だよ……ていうか、俺はそっちの正体は明かさないつもりだからな」

 

 滝河匡斗というのは、俺がアイドルとして活動していた時に付けていた芸名だ。そして、俺はこの学園でその正体は明かさないつもりだと学園長の爺さんにも伝えている。滝河匡斗の容姿は神山唯仁の容姿と大きく異なるため、よっぽどのことがない限りバレないだろう。

 

「確かに、()()辞めておいた方が良いと思うわ」

「お前もそう思うか……って、()()ってことはいずれ明かせってことか?」

「いいえ、そこは貴方が決めることよ」

 

 なるほど、そこは俺の裁量で決めていいってことか。少なくとも、今アイドルとしての俺を明かせば、間違いなく学園中が騒ぎになる。それぐらいの影響力があったことも自負している。そして、スペシャルアドバイザーとしての指導にも支障をきたすだろう。俺はそれを望んでいない。

 

 これまでの話で、俺がどのように立ち回れば良いのかがだんだん分かってきた。

 

「なんとなくやることは分かった。話はそれぐらいか?」

「いいえ、もう一つ伝えることがあるわ」

 

 そうやって理解してきて安心した矢先に、彼女は更なる謎を差し出してきたのだった。

 

 

「唯仁……私とともに、生徒会で働きなさい!!」

 

「……は?」

 

 

 ……はぁ、一体どうなることやら。

 

 





 生徒会で働くことを命じられた主人公・唯仁
 果たしてこれからどうなっていくのか!?

 そして、唯仁の過去やアイドルを引退した訳など謎が多いですが、いずれ明かすつもりです!

 次回をお楽しみに!

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