お待たせしました。第二話です。
では早速どうぞ。
『私とともに、生徒会で働きなさい!!』
『……は?』
幼馴染である星南の衝撃的な発言を受けてから二日が経ち、俺は再び初星学園に足を運んでいた。学園の関係者から呼び出しがあったからというのが大きな理由だが、その前にまずは再度生徒会室に顔を出さなければならない。それも、例の発言について生徒会のメンバーを交えて説明するとのことで、俺もその場に居て欲しいとのことだ……まあ、俺としては昨日の時点で先に説明して欲しかったところではあるが、あいつのことだし、何か意図があるんだろう。
しかし改めて学園の中を歩いているのだが、前回訪れた時が休日だったのに対して今日が平日だからなのか、春休み中でありながらも学園内のグラウンドや校舎内にちらほら生徒らしき姿を見かけた。少し予想はしていたが、生徒を見かける度に怪奇な目線を向けられた。おそらくこの学園のほとんどが女子生徒であり、男がいるのは珍しいからではないかと推測している。芸能界で一世を風靡した俺としては、好奇な目線には慣れているものの、こういう目線を向けられるのはとても新鮮な感覚だった。
まあそりゃあ、今の俺は芸能人の
まあ、いずれ生徒のみんなに挨拶する場も設けられるだろうし、そこでみんなに知ってもらうしかないな。今が耐え時。
そんなこんなで前日に引き続き、生徒会室の前へと到達した。あの発言について、さっさとその意図をハッキリさせたい。
生徒会室のドアをノックしようとすると、明らかな違和感を覚えた。それは、生徒会室の中から星南のオーラを感じなかったからだ。前日生徒会室に入ろうとした時には確実に星南のオーラを感じたのだが……もしや留守か? でもずっと外で待つのも周りから怪しまれるし、一旦ノックしてみよう。
「どうぞ!」
すると返事は返ってきたが、星南とはまた違う可愛らしい女性の声だった。誰かはいるようだが、間違いなく俺が会ったことのない人だろう。
「……失礼します」
少し躊躇しながらも、俺はドアノブに手を掛け、手前に引いた。
するとその先に居たのは、星南よりほんの少し低い背丈をしていて、長い栗色の髪を後ろに結んだ、少し大人びた感じの女の子だった。制服もブレザーの色が星南の白色とは異なり、学生服でよくある紺色のものだった。
「えっと……どちらさまでしょうか?」
その子は俺を見た瞬間、きょとんとした表情で俺にそう問いかけてきた。
恐らくこの子は星南と共に生徒会で活動している仲間の一人なんだろうが、もしそうだとしてこの反応なら……あいつ、仲間に俺が来ることを伝え忘れたな? だとしたらちょっと分が悪いんだが……
「えー……会長さんから何も聞いていない?」
「はい、何も……もしかして、会長のお知り合いで?」
「あー、知り合いではあるんだが……」
嫌な予感は見事に的中した。マズい、早めに弁明しないとまた怪しい目で見られかねないのだが、どう説明したら良いのか全く思いつかねぇ……! 星南との関係? 幼馴染か? いやそれだと尚更怪しまれるし、特別講師とか言われても意味わかんねぇだろうし……あぁもう、何故呼び寄せた本人が居ねぇんだよ!!
そう心の中で頭を抱えていると……
「もしかして、怪しい方じゃありませんよね……?」
こう悪い予感が連続して当たることがあるだろうか? その子は目を細めて怪訝な表情で俺をまじまじと見つめはじめた。
「いや待て、決して怪しい者ではないからな!?」
「ホントですか?」
「本当!!」
「じーっ……」
必死な弁明をするが、彼女の疑いはますます深まるばかりのようだ。『じーっ』って声に出して言ってるところは、思わず少しほっこりしたが……
「やっぱり怪しい……プロデューサー科の人でもなさそうだし、そういうことだよね……?」
彼女の呟きを聞き、危機感を覚えたのは勿論だが、同時にふと思い出したことがあった。それは、この学園にはアイドルをプロデュース科があったということだ。確か俺の高校時代の後輩でそのプロデューサー科志望って言ってた奴が居たし、つまりプロデューサー科なら男が居てもおかしくないということなのか。あいつもちゃんとプロデューサー科に受かったのかなぁ……超がつくほど優等生だったし、いつかこの地でまた再会するかもな。
……って、そんなことを考えてる場合じゃねぇんだよ!!
「……そのプロデューサー科っていう所の者ではないが、俺は断じて怪しい者では───」
「只今戻ったわ」
俺が再度弁明しようとしたところ、部屋のドアが開き、例の人物が帰ってきた。
「あっ、会長! お疲れ様です。あの、先程から会長に用があるという者がいるのですが……」
俺を怪しむ栗色の髪の子は、困った様子で生徒会長である星南にそう伝えた。
「あら唯仁、もう来ていたのね? ごめんなさい、先の用事が長引いて遅れてしまったわ」
「あーそのことの謝罪は良いから……早くこの子の誤解を解いてくれ。俺のことを不審者だと思っているらしい」
「えっ? ……あぁ、ごめんなさい。
「そ、そうだったんですか!?」
ほら、やっぱり伝えて忘れてたんじゃねぇか……まあでも、どうやら俺への疑いは解けたらしく、その莉波という子は俺に向かって頭を勢いよく下げてきた。
「変に疑ってしまって、申し訳ありませんでした!!」
「あー、顔を上げてくれ。お前は生徒会を守るための行動をしたまでだ。疑いが晴れたのなら構わないし、本当に悪いのは情報伝達を怠ったこいつだ」
「ちょっと、指を差さないでちょうだい!?」
「はいはい、お前は後でお説教だから覚悟しとけ……ところでリナミさん、だったか? 自己紹介が遅れたが、俺は神山唯仁って者だ」
「あっ、はい!
俺が説教をすると言ったことに対して、莉波さんもとい姫崎は星南を擁護するようにそう進言してきた。まさかそう申し立ててくるとは……この子、物腰柔らかそうなのに加えて芯もありそうだな。
俺自身も最近の星南がどれだけの仕事をこなしているのかを把握していないこともあり、一方的に彼女を叱るのは流石に気が進まなかった。
「あー、それもそうか……分かった、今回は姫崎に免じてお咎めなしにしよう」
「ありがとうございます!」
俺がそう伝えると、姫崎は明るい表情で一礼して感謝の意を示した。それを聞いていた星南も、ほっと胸を撫で下ろしていた。
しかし、星南も良い仲間を持ったな。せっかくだし、色々話を聞いてみることにするか。
「ところで気になったのだが、姫崎は星南と同じく高校三年生で、生徒会に所属している感じか?」
「はい、生徒会で書記を務めていて、今年度から三年生です。三年生ってよく分かりましたね?」
「いや、なんだかとても大人びてるし、そうかなって」
「あはは、よく言われます……」
ん? 今一瞬姫崎の影が見えた気がしたが、大人びているという感想はあまり良くなかったか……?
「ふふっ、莉波はとても大人びてて、頼りになるのよ?」
すると、星南が誇らしげな様子で話に割って入ってきた。生徒会長も頼りにする有能な書記さんか……
「ほーん……ちょっと後で姫崎に普段の星南について聞いちゃおうかな」
「えぇ、いくらでも聞いてちょうだい! きっと悪いことは出てこないはずよ!」
「あははは……」
おいおい、そんな自信満々で強気な発言するから姫崎が引いてしまったじゃないか……それにその様子、何か心当たりがありそうな気もするし、もしかしたら姫崎が知っている星南のポンコツエピソードがあるかもしれない。本当に今度聞いてみちゃおうかな? 大変興味がある。
そんなんで話題が一区切りしたところで、俺はここにきた本来の目的を思い出し、話を切り出した。
「そういや、この間の発言について訊いてなかったな。あれはどういうことだ、星南?」
「それについては、もう少し待ってちょうだい。うちの副会長も来てから話しましょう」
「まだ全員揃ってなかったか……じゃあ、その人を待つか」
「ふふっ、貴方も知っている人よ?」
「俺が……? もしかして───」
俺の思い当たる人物について話そうとした瞬間、生徒会室のドアが開かれた。
「遅くなった」
「待っていたわ、
その人物は、俺が小さい頃から知っている者だった。
「只今戻りました、会長。それと……久しぶりだな、唯仁」
「あぁ、本当に久しぶりだな……燕も初星学園だったんだな」
名は
「ふん、貴様こそこの学園で再び会うとは思ってもいなかったぞ……息災だったか?」
「あぁ、なんとかな……お前のその感じ、昔と変わってないな」
「それは貴様もじゃないか? 人を平気で弄ぼうとするところとかな」
「おいおい、人聞きの悪いことを言うなよ。確かにあの時はまだガキだったが、今は流石にないぞ」
「ふん、どうだかな」
口ではなかなか棘があるような言い草だが、表情は穏やかで、久々の再会を喜んでいるようだった。
「あの……会長と副会長は、神山先生と幼馴染なんですか?」
すると、横から姫崎が俺達の関係性について尋ねてきた。
「えぇ、そうよ。私達は小さい頃から仲が良いわ」
「まあな。ちなみに俺と燕は星南と共通の幼馴染で、俺が小学生の頃に知り合ったって感じだな」
「ああ。あの星南が親しい友人を紹介するというから、どんな輩かと思ってやってきたのが唯仁だったな」
「なるほど……」
俺達がそう説明すると、姫崎は納得した様子だった。確か俺が小学校高学年の時に知り合ったから、星南と燕は小学校中学年とかそれくらいだろうか。というか燕、そんなことを思っていたのか……初耳だぞ。
……しかし、姫崎に『神山先生』と呼ばれて気づいたが、俺はこれから星南と燕に色々と教える立ち位置になるんだよな。先生が生徒のことを名前で呼び捨てするのは……マズいな、変に関係性を誤解されかねない。姫崎に関しては苗字で呼んでいくことに決めたから、二人に関しても、公の場では苗字呼びにしておいたほうが良いな。
そう考えをまとめたところで、俺はまた本題へ戻そうと話を切り出した。
「そういや全員揃ったぞ、星南」
「えぇ。なら、貴方がここで私達と活動を共にする訳を説明するわ」
星南が冷静な口調で語り始め、ようやくこの前の発言の真意を知ることができる、と思いきや……
「ゆ、唯仁を生徒会に、だと!?」
「ど、どういうことですか!?」
燕と姫崎は初耳のようで、目を大きく見開いて驚愕していた。
「おい、このことも二人には言ってなかったのか?」
「えぇ、貴方が今日ここに来てから話そうと思っていたもの」
なるほど……まあ一理あるが、これは一波乱あるか?
「説明を求める! 学園の先生である唯仁を、生徒会に引き入れる道理は一体何だ!?」
やっぱり燕は突っかかってくるよな。星南が奇想天外な発言をする時はいつもお前が最初にツッコミの先陣を切っていて、そこに俺も加わる感じだった。
それ対して、星南は予想以上に冷静な様子で燕を諌め、話を続けた。
「落ち着いてちょうだい、燕。彼をずっと生徒会に居させる訳ではないわ」
「短期間ってことですか……?」
「その通りよ。唯仁は、この学園のことを全く知らないでしょう?」
「あぁ、殆どと言って良いほど存じ上げないな」
残念ながら、初星学園については星南や十王の爺さんから存在を知らされていたくらいで、中身についての知識は雀の涙くらいしかない。姫崎が呟いていたプロデューサー科というのも、高校時代の後輩から話を聞いていたぐらいで、他にどんな科があるかも分からない。それくらいの知識量だ。
「そうよね。だから、このまま何のサポートもなく講師として生徒に指導するとなった時、色々と不便が生じると思うのよ」
「なるほど……それで私達生徒会が先生をサポートするということですか?」
「えぇ、そうよ。それに、私達もアイドルの仕事で忙しいじゃない? 彼が居てくれたら、よりアイドルの仕事に集中できると思うのよ」
「ふん、私は唯仁が居ようがそこまで変わらないと思うが、悪くない提案だ」
「確かに、会長や副会長が忙しい時に先生が手伝ってくれるのは、とても助かりますね」
なるほど、俺が生徒会の仕事を手伝うのと引き換えに、生徒会のメンバーからサポートを受けられるというものか。これは両者にとってもWin-Winな内容ではあるな。
ただ、俺がどれだけ生徒会の仕事を手伝えるかが俺としては懸念点だな。生徒会の仕事といったら事務作業をしているイメージなのだが、そういう仕事なのか、それとも力仕事もあるのか……いや、どちらにしても面倒臭そうなんだが。
まあ、やってみたら意外と面白いのかもしれない。実際ここはアイドル養成校なんだし、アイドルの何かに関する作業に携われるかもしれないと考えると、悪くないな。
「燕と姫崎が良いと言うなら俺も構わないかな。実際のところ、学園について色々と教えてくれるとありがたいし、生徒会の仕事も力の限り手伝うよ」
「異論はないわね? なら、決まりよ!」
こうして、俺は度々生徒会に訪れることになった。まあ、いつまでかは分からないが、俺が初星学園で馴染めるまでサポートを受けられたら良いな。
よし、そうなったら何か手伝えるか訊いてみるか。
「じゃあ早速、俺は何をしたら良い?」
「そうね……生徒会の仕事の前に、まずは学園の中を回って欲しいわね。その後に、学園の先生方にも挨拶をすると良いんじゃないかしら?」
「そういや、トレーナーさんとの顔合わせをする連絡が来てたな……」
あぁ……確かに、この学園の全体像は早急に把握しておかないといけないかもな。そして、ここに来る前に学園の関係者の方から、これから同じ職場で共に働くであろう方々の顔合わせをするという連絡が来ていたのを思い出した。連絡が来たメールの名前を見た時は思わずびっくりしたもんだ。何せ、アイドル時代にお世話になった人だったからな。
そうなったら、さっさと学園内を回りたいところだが、流石に誰かが一緒に来ないと確実に迷うな……
「本当は私が案内してあげたいところなのだけれど、生憎仕事があって手が回らないのよね……燕、貴女はどう?」
「残念ながら、私もやるべきタスクが残っている。唯仁と久々に色々語りたいところではあるが……」
俺が想像していた以上に生徒会長と副会長の仕事はハードなようだ。まあ、アイドル業を本業としながらだと尚更か……二人の仕事が終わるのを待つ時間は残されていないし、仕方ない。一人で学園内を見て回るか……
そう考えていると、思わぬ申し入れがあった。
「それなら、私で良ければ案内役を務めますよ?」
なんと、姫崎が案内役に名乗り出たのだ。
「あー、俺としてはむしろありがたいのだが……じゃあ、お願いできるか?」
「はい! 会長、行ってきてもよろしいでしょうか?」
「莉波なら安心ね。唯仁、莉波に手を出さないで頂戴ね?」
「いや誰が手を出すかよ」
星南のよく分からん揶揄いをいなしながらも、俺と姫崎の二人で学園内を回ることが決定した。彼女ならしっかり案内をしてくれそうだし、頼りになりそうだ。
「じゃあ、ご案内しますね」
「おう、よろしく頼むぞ。姫崎」
こうして、俺と姫崎による初星学園周回ツアーが始まったのであった。
今回はここまで。
幼馴染の幼馴染っていう関係性も良いですよね
あと、既に16名の方々がお気に入り登録して下さっています。本当にありがとうございます。これからの物語の展開にご期待ください。
(追記: この話が投稿された時は18名に増えていました! 重ねて感謝致します)
それではまた次回!
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