元星は初星でどう生きるのか   作:Ym.S

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 どうも、第三話です。
 では早速どうぞ。


第三話 元星、初星を巡る

 

 

「では、行きましょうか」

 

 生徒会室を後にし、校舎の廊下を共に並んで歩く姫崎がそう問いかけてきた。これから俺は、この姫崎による案内で初星学園の中を散策し、いざここで講師として働いた時に迷わないように覚えようというところだ。

 

 しかし実際のところ、歩き回るくらいなら我が身一人だけでも可能ではあったんだよな。そんな中で、まだ知り合ったばかりの姫崎が案内役に名乗り出てくれたおかげで、とても安心感を持って散策できるものだ。

 

「おう、まずはどこを回るんだ?」

「そうですね……まずは、私達がレッスンで使用しているレッスン室を紹介したいと思います」

「おー、そこはとても気になるから是非見たいところだな」

「ですよね! じゃあ、そっちから行きましょう」

 

 レッスン室は俺の職場になるであろう場所だし、将来有望なアイドル達が研鑽を重ねている場所でもあるから、個人的にもどんな場所なのかは確かめておきたかった。素晴らしい提案をしてくれた姫崎には大喝采を送りたいものだ。

 

 そんな風に心の中で少しワクワクしながらも、二人で目的地に歩いている最中、彼女から一つ訊かれたことがあった。

 

「あの、ずっと気になっていたんですが……神山先生って、前に何かアイドルに関わる何かだったりしたんですか?」

「あー……そういえばあの面子で俺の経緯を知らないの姫崎だけだもんな」

 

 星南と燕は俺の正体を知っているし、姫崎にだけ教えないのも酷な話だ。本来なら知り合ったばかりの学園の生徒に正体を明かすことにかなり躊躇するのだが、彼女に対しては迷いがなかった。

 

「姫崎は、滝河(たきがわ)匡斗(まさと)を知ってるか?」

「あっ、はい! テレビで見ない日はないくらい有名な方でしたよね! 歌もダンスも上手くて凄いなぁって思って見てました……えっと、それがどうかしたんですか?」

「……実は、俺がそれなのさ」

「えぇ!?」

 

 すると、姫崎は驚きのあまり目を大きく見開き、その場で立ち止まった。口元を手で隠す仕草を見せてから、小さな声で確認してきた。

 

「ほ、本当ですか?」

「あぁ、髪が違うから分かりにくいと思うけど……ほら、このセリフで分かるかな? ───『僕、異端児なので』」

「……!」

 

 俺がアイドル時代に出演したドラマの名シーンの台詞を演じてみせると、彼女は急に慌ただしくなり、頭を下げてきた。

 

「あ、あの! サイン頂けないでしょうか!?」

「えっ!? いや、色紙があるなら構わんが、流石に今は持ってないだろ?」

「そうだった!? あー、えーっとじゃあ……!」

 

 俺の指摘に、姫崎は制服のポケットに手を突っ込んで探るような素振りを見せる。何かサインを書き残せるような紙を探しているんだろうが、そこまでして俺のサインを欲しがってくれてると思うと、こっちもその望みに応えたくなるものだ。

 

「あー無理しないで良いぞ……後で何かに書くから、取り敢えず案内頼む」

「あっ、そうですよね……! すみません、動揺してしまって……」

「大丈夫、こういうのは慣れてるから」

「流石ですね……」

 

 まあ、これでも元アイドルだからな。サインの要求に対応することに慣れなければ碌にアイドルなんてやってられない。こういうファンサは基本中の基本だ。しかし、辞めてしばらく経っててもこうやって覚えててくれてるのは、素直に嬉しいね。

 

 慌てる彼女を落ち着かせ、そこから俺達はレッスン室を始めとして様々な場所を巡った。

 

 そして途中で辿り着いたのは────

 

 

「ここが、試験や大会、入学式や卒業式でも使用される講堂です!」

「おぉ……これはなかなかなサイズの箱だな」

 

 そう、俺の目の前に大きく聳え立つ円形でドームのようにも見えるこの構造物が、アイドルには欠かせないライブを行う講堂だという。入学式にも使われるということは、おそらく来週くらいから四月に入るし、今年の新入生もここから学園生活が始まるんだろうな。

 

「先生でも、そう思いますか?」

 

「いや、学校の中にあるライブ会場が普通のライブ会場と同等の大きさなのはなかなかだと思うな……」

 

 正直この規模だと最早プロのアイドルがライブ会場で使用しててもおかしくないくらいのレベルに思える。むしろ、講堂という呼び方に最早違和感を覚えるくらいだ。

 

「流石初星学園ですよね。H.I.Fで沢山のお客さんが来るのも頷けます」

「エイチアイエフ? 何かの大会か?」

 

 姫崎が発した用語が気になり、どういうものかを聞いてみた。

 

「はい! Hatsuboshi(初星) Idol(アイドル) Festival(フェスティバル)、略してH.I.Fです。夏と冬の二度行われる学内行事で、学内で一番のアイドルとユニットを決める大会なんですよ」

「ほう……もしかして、プリマステラというのはその称号か?」

 

 先日生徒会室で星南と話した時の記憶を思い出し、学園で一番のアイドルがそのプリマステラなのではないかという俺の予想が正しいかを確認した。

 

「あっ、ご存知でしたか。昨年度は夏季と冬季共に会長が一番星(プリマステラ)に輝きました! それで会長は、学内の生徒から慕われる存在になったんですよ!」

 

 どうやら俺の仮説は正しかったようだ。しかしあいつ、学園内で二連覇してたんだな……姫崎が誇りげに語るその様から、星南がこの学園でどれだけ凄いアイドルで、慕われる存在なのかが分かる。

 

「そうか、あいつがなぁ……」

 

 俺としては、あいつががむしゃらにレッスンに励んでいた時とか、下積みしていたイメージが強かったから、俺がアイドルとして忙しくしている間にそこまで成長していたんだと考えると、その姿を目にできなかった惜しさはありながらも、やっぱり感慨深いものがあるな。

 

 そんなことを考えていると、俺より一歩先でその講堂を見つめていた姫崎の後ろ姿は、どこか寂しげだった。

 

「ホント、私も憧れちゃいますよ……」

 

 やはり、こういう場所に来ると何か思うところがあるのだろう。姫崎にも、一番星になりたいという願望があるんだろうな。

 

「……姫崎もこれからだろうがよ」

「あはは、そうですかね……私、もう三年生でまだまだですし、本当にアイドルとして成長できるんでしょうか……」

 

 今まで色々なアイドルを見てきたが、今の彼女は何かに迷っているように見えた。いや、彼女に迷いのオーラが()()()。あと、若干の焦りのオーラがあるようにも視える。何に迷っているのかを知る術はないが、彼女が三年生であることから、この学園にあと一年しか居られないと思って焦っているのだろう。一年は長いようで短い……それは、年上の俺が酷く痛感していることだ。

 

 でも、だからこそ──────

 

「……姫崎」

「は、はい……!」

 

 俺は彼女の名前を呼び、正面に向き合ってから真剣な眼差しで語りかけた。

 

「いいか、お前がどんな問題を抱えているかは分からない。だが、お前自身が何かで迷っているのなら、それはファンにも伝わってしまう」

 

「……! でも、どうしたら良いのか分からなくて……」

 

 姫崎がハッとした表情を浮かべると、今にも泣きそうな表情でそう言った。今まで自分で抱えていた問題を解消できないでいたのだろうと俺は感じた。

 

 こうなったならば、俺が彼女を放っておくなんてする訳がなかった。

 

「だから、それをこれから探していくのさ。そのために、俺みたいなやつがいる」

「先生……」

「あまり悲観するな。お前には、アイドルとして十分な素質があるように見える。今は、それがまだ十分に発揮できていないだけだ。だから焦らず、これから俺と一緒に頑張っていこう。な?」 

 

 俺がそう言って手を差し伸べると、姫崎の表情は穏やかになり、微笑みを浮かべていた。

 

「ありがとうございます。私、頑張ります……!」

 

 俺としては、少しでも前を向いて頑張る力になってたら嬉しいものだ。

 

 

 それから講堂を後にし、ランニングで使用しているグラウンドや食堂、野外ステージなどを回った。食堂のメニューも少し覗いてみたが、流石アイドル養成校なだけあって栄養バランスがしっかり整った献立になっていたように思える。まあただ、個人的には少し栄養が偏ってないかというメニューもあったが……今度カロリー計算をしてみるか。

 

 そんなこんなで色々回りながら、姫崎との会話も弾み、話題は俺が小さい頃の話になった。

 

「先生って、小さい時からアイドルが好きだったんですか?」

「あぁ、そうだな。子役の仕事をしながら、アイドルになるために歌やダンスの練習をしてたね」

「えっ、子役だったんですか!?」

 

 さりげなく子役だったことを明かすと、また姫崎は手で口を押さえて驚いた。

 

「あぁ、小学生の時までやってた。それまでは本名で活動していたが、アイドルになってから芸名に変えたって訳だ」

「なるほど……」

 

 すると、今度は妙に考え込む仕草を見せる姫崎。

 

「どうした、何か気になることでも?」

「あっ、いえ! 私の友人にも子役をやってた子がいるので、もしかしたら会ってたりしてないかなぁって思って」

「んー、どうだろうな。会ってる可能性はあるとは思うが……」

 

 その友人が姫崎と同い年くらいだと仮定して子役時代に仕事で会った同業の仲間を思い出してみるが……いや、そもそも当時年齢とか一切気にしなかったせいで全く候補を絞れないな。

 

 そんなことを考えていた矢先────

 

 

「……あっ、そう言ってたら丁度!」

「ん?」

 

 姫崎の声に反応し彼女の視線の先を見ると、遠くから一人の生徒らしき子が向かい側から歩いてくるのが見えた。

 

「麻央〜!」

「おや、莉波じゃないか。どうしたの? こんなところで……」

「あぁ、それはね! この人の案内を────」

「「……!?」」

 

 俺はそいつが目の前に来た瞬間、驚きのあまりその場で固まってしまった。それは相手も同じのようで、俺と目が合った途端に驚愕して手に持っていた飲み物を落としてしまった。

 

「もしかして、有村……?」

 

「神山、君……?」

 

 俺のことをくん付けで呼ぶそいつは、子役時代に一度だけ劇で共演したことのある子役の同業仲間だった。名は有村(ありむら)麻央(まお)。肩に少し届くくらいのピンク色のウルフカットで、前髪の右側を上げて左目が前髪で隠れているのが特徴のクールで中性的な雰囲気の子だ。

 

 まさか、彼女とここで再会するとはな……というか、ここ数日で俺は何人と久々の再会を果たした? 星南に燕に有村……三人? 流石に短期間で多すぎだろ……

 

「先生、もしかして……?」

「その『もしかして』だ。まさかお前だったか、久しぶりだな!」

「……」

 

 全く予期せぬ久々の再会で、興奮のあまり陽気に声を掛けたが、その有村からの返答は無く、彼女の表情には憂いを帯びていた。

 

「……有村?」

「麻央?」

 

 一応聞こえていなかったかもしれないことを考え、もう一度声を掛けた。姫崎も彼女の様子の異変を気にかけたのか、心配そうに名を呼びかけている。

 

「……! す、すまない。久しぶりだね、神山君」

「あ、あぁ……そうだな」

 

 すると、俺達の視線に気づいたのか咄嗟に一礼し、取り繕ったかのような笑顔を見せた。

 

 有村と最後に会ってからもう五年以上は経っているが、その間に何かがあったのではないかと思い、それとなく彼女に話題を振ろうとしたその瞬間……

 

「ごめん、ボク行かなきゃ。莉波もじゃあね!」

「えっ? あ、麻央!?」

 

 まるで俺達から逃げるようにして、その場から走り去ってしまった。

 

「……麻央と何かあったんですか?」

「いや、特に何もなかったんだが……」

 

 別にあいつと喧嘩別れをした訳でもないし、特に俺を嫌っているようには思えなかった。ただ、気になる点はいくつかある。あいつがここにいる理由……そして、あいつの夢はどうなったのか。

 

「悪い、こんなことになってしまって……これ、あいつに届けてくれないか?」

 

 そう言って、俺は有村が落としていったブラックコーヒーの缶を拾い、姫崎に渡した。まだ買ったばかりなのか、蓋はまだ閉じていた。

 

「いえいえ、お気になさらないでください! それと、これはしっかり麻央に渡してきますね」

「頼む」

 

 こうして、姫崎は俺を職員室前まで案内をしてくれた後、その場を後にしたのだった。

 





 今回はここまで!

 唯仁と麻央は同業仲間だった訳ですが、一体何故このような再会になってしまったのか? 気になりますね。
 それと、これで一応三年生組が全員登場した訳ですが、今後まだ出てきていないキャラも随時登場してきますのでお楽しみに!

 ではまた次回!
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