元星は初星でどう生きるのか   作:Ym.S

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 どうも、第四話です。
 ではどうぞ。


第四話 元星と初星の教師達

 

 

 姫崎と別れた後、俺は教員室の前にある廊下で一人壁に寄りかかっていた。とある初星学園の関係者と待ち合わせをしているからだ。

 

 俺が特別講師として生徒の前で立派に教鞭(きょうべん)()れるよう指導してくれる方々と顔合わせをするという話で、おそらく一般的な学校でいう教育実習的な名目で俺に指導してくれるのではないかとイメージしているが、実際はどうなのかはまだ分からない。

 

 そんなイベントを前にしているのだが、正直に言えば今の俺は柄にもなく緊張している。俺自身、アイドルに技術を教える力はあると自覚しているが、アイドルに教えることを生業にするのは訳が違う。その行為に対してそれなりの責任が伴うということだ。つまり、俺にとって新たなチャレンジになるもんだから、その始まりの前はいくら楽観的で大胆不敵な俺だとしても多少緊張してしまう。まあ、なんとかするしかないと腹を(くく)って挑みたいとは思うが。

 

「さて、待ち合わせ相手は来るのかな……?」

 

 予定時刻まで5分くらいなんだが、教員室からあの人が出てこないだろうか?

 

 そう思っていると、目の前の引き戸がガラッと開かれ、一人の女性が現れた。

 

「あ、もう来ていたんですね。居たのなら声を掛けてくださいよ〜」

 

 下から盛り上がったショートの茶髪で、白を基調としながら紺の横線が入ったシャツにエメラルドグリーン色のロングスカートを履いたその女性は、俺を見つけるとそう言ってきた。

 

「いや、迎えに来るまで待てと言ったのは貴方じゃないですか……まあ、久しぶりですね。根緒(ねお)先生」

「私のことを苗字で呼ぶ人は君ぐらいですよ。お久しぶりです、神山君」

 

 この人が、俺をここに呼び寄せた張本人。俺がアイドル時代に一時期お世話になった根緒(ねお)亜紗里(あさり)先生だ。俺が先生と呼ぶように、アイドルの栄養管理やスケジュール管理についてアドバイスや理論を教えてくれた、俺にとっては先生みたいな存在だ。恐らく先生がこの学園に来る前のことだったんだろうが、いつからここにいるのかは分からない。ちなみに根緒っていう苗字が近未来な感じがして気に入っているのだが、本人はそこまでなようだ。

 

「まさか貴方までこの学園にいるとは驚きましたよ。『どれだけ俺の知り合いがこの学園には居るのか』って驚いてばかりなんですが」

「私の方こそ、学園長と神山君に繋がりがあったなんて初耳でしたよ……ちなみに聞きますが、現時点で何人の知り合いと会ったんですか?」

「えー……三人ですね。学園長を除いて」

 

 数日間この初星学園で再会した人を数えてみると、合計四人だった。しかもそのうち三人が生徒というね。二人は幼馴染、一人は元同業……なんだかここまでくるとまた誰か再会しそうな気がする。というか、思い当たるやつがまだいるんだが……

 

「それは多いですね……なら忠告しておきますが、相手が生徒ならば、あまり親しくし過ぎないように。君はもう先生の立場なんですから」

「あーはいはい、それは重々承知していますよ」

 

 あー出た、根緒先生の説教癖……全く、この人はスイッチが入るといつまでも説教をかましてくるもんだから困るもんだ。もうちょっと簡潔にまとめられないものだろうか? 

 

「めんど……」

「何か言いましたか……?」

「いえ、何も」

 

 おっと、少し本音が出てしまったようだ。これで説教は勘弁してほしいわ……まあ、言ってることは真っ当なんだけどね。

 

 そう思って反応を伺うと、先生は何もなかったように説明をし始めた。

 

「……まあ良いでしょう。本題に移りますが、これから君はこの学園の一教師・トレーナーとして携わってもらいます。その上で、仕事を共にする仲間とコンタクトを取ることは、とても重要なことだと思いませんか?」

「……えぇ、ごもっともですね」

 

 確かに、いかなる仕事やプロジェクトでもスタートダッシュを上手く切ることで全体が上手くいきやすくなる。こういう機会は大事にすべきだと思う。ここは面倒臭がってはいけない。

 

「そこで、今から君がお世話になるトレーナーの方々と顔合わせをしてもらいます。既に人は集めているので、トレーニングルームに行きましょう」

「うっす」

 

 そんな会話を交わしてから、俺と先生でトレーニングルームに移動することになった。さっき姫崎に案内してもらったから、場所は大体分かる。

 

 ……というか、根緒先生はこの学園で誰に対して何を教えているのかを聞いてなかったな。アイドル科か? それともプロデューサー科か?

 

「根緒先生、一つ気になったことがあるんですけど、良いですか?」

 

 俺の前を歩く先生に向かってそう声を掛けると、苦笑いした様子で俺に振り返った。

 

「はい、良いですが……やっぱり苗字呼びはなんだかむず痒いので、あさり先生って呼んでくれません?」

「あぁ……そういえば苗字呼びが苦手なんでしたね。でもどうして今になって? なんか今更な気がするんですけど」

 

 確かに先生と初めて話した時に似たような反応を示されたのだが、その後も普通に根緒先生って呼んでいても何も言われなかったんだよな。それが今になってまたそう言われるのが疑問だ。

 

「今だからです! あの時は短い付き合いだと思って許しましたが、これから関わる機会も増えていきますから。それに……この学園の生徒からはそう呼ばれてますので!」

「ふーん……でもさっきまで苗字で呼ぶのは俺だけとか言ってましたが、本当に良いんですかねぇ……?」

「……先生、そろそろ怒りますよ?」

 

 あっマズい、先生の沸点に到達しそうだ。これ以上抵抗するのはやめておこう。俺的には良かったんだけどなぁ、NEO先生。

 

「あーすみませんって……じゃあ、あさり先生」

「はい、何でしょうか? 神山君」

 

 呼び方を変えると、打って変わって優しさを感じる声色で根緒先生もといあさり先生はそう返してきた。

 

「あさり先生って、今は何の先生をやってるんですか? アイドル科の先生とか?」

「いいえ、私はプロデューサー科でプロデューサー学について教えていますよ?」

 

 残念。予想は外れてプロデューサー科の方だった。プロデューサー学というのはあまりよく知らないのだが、おそらくプロデューサーに必要な知識を総合的に学ぶ分野なのだろう。

 

「あー、そっちだったか……というか、俺プロデューサー科で教える訳ではないのに、どうしてあさり先生が?」

 

 あさり先生ではなくとも、アイドル科の先生に案内させた方が最適なのではという疑問が生まれていた。

 

「それは私にも分かりませんね。私は学園長から依頼があって神山君のサポートをすることになってるので」

「学園長さんよ……」

 

 十王の爺さんが仕向けたとはな……一体何の意図があるのか分からんが、もしかすると俺と先生の繋がりを知っていたのかもしれないな。そうだとするなら合点がいく。

 

「でも、プロデューサー科はアイドル科と密接な関わりがあり、アイドル科に関しても詳しいので心配要りませんよ?」

「そうなんですね……『アイドル有ってプロデューサー有り、プロデューサー有ってアイドル有り』ってところですか?」

「その通りです! 流石、アイドルの志はしっかりしていますね」

「んー、それはまるでそれ以外は駄目みたいな言い方じゃないです?」

「それは自分の胸に聞いてみてください」

 

 おー、笑顔が怖いねぇ……確かにアイドルの志は並大抵のものではないのは勿論のことなのだが、他もそりゃあ素晴らしいんだぞ?  

 

 ……なんだか、あさり先生と話しているとあの頃を思い出すなぁ。タイムマシンがあって一度だけ過去に戻れるとするならば、やっぱりあの頃かなぁ……

 

 そうやって懐かしんでいると、先程も通ったトレーニングルームが見えてきた。また少々傷心的になってしまってたかもしれないが、ここから切り替えていくか。

 

「お、トレーニングルームってここです?」

「そうです。ここで待ってもらっているので、早速入りましょう」

「了解」

 

 そう言ってあさり先生が扉を引き、部屋に入っていくのについていくと、中には三人の姿が見えた。

 

「お待たせしました〜! 彼を連れてきましたよ」

「お、来たか!」

「やっぱりテレビで観る以上にナイスガイだねぇ」

「ふふっ、髪色が違うと印象も変わりますね」

 

 あさり先生が声かけると、その人達は俺に対して三者三様の反応を示した。この人達が俺に指導をしてくれるトレーナーさんなのだろう。

 

「神山君、この人達が君に指導をしてくださるトレーナーさんです。既に貴方がアイドルだったこともお伝えしています」

「あ、初めまして。元々アイドルで、今年からここで生徒に教えることになりました、神山唯仁です。よろしくお願いします」

 

 丁寧に深く一礼して自己紹介を述べると、トレーナーさん方は一人一人名を述べていった。

 

「おう、よろしく! ダンストレーナーの若島(わかしま)志希(しき)だ」

「ビジュアルトレーナーの沢城(さわしろ)ユウだよ。これからよろしくね〜」

「ボーカルトレーナーの中野(なかの)美里(みさと)です。これから共に頑張っていきましょうね」

 

 どうやら三人それぞれが得意な分野が異なっているようだ。

 

 まず真ん中にいるのが、ダンストレーナーの若島先生。爽やかな茶髪のショートヘアで、男勝りな口調が特徴的な女性だ。次に俺から見て右にいるのが、ビジュアルトレーナーの沢城先生。前髪の右側を上げている黒髪のショートヘアで、エメラルドグリーンの耳飾りが特徴のお洒落なお姉さんという印象の女性だ。最後に俺から見て左にいるのが、ボーカルトレーナーの中野先生。黒髪のポニーテールで、品行方正で物腰柔らかい印象を受ける女性だ。

 

 それぞれが紹介を済ませると、あさり先生が声を掛けてきた。

 

「自己紹介は済んだようですね。では私はこれでお暇しますので、後はお願いします」

「おっけー、あさりちゃんサンキューね!」

 

 そうしてあさり先生はトレーニングルームから退出していった。すると、ダンストレーナーの若松先生が俺に話しかけてきた。

 

「よし、それじゃあ改めて、私達の方から色々説明するな?」

「はい、お願いします」

 

 それから、それぞれのトレーナーさんからレッスンの概要や今後の流れについて話を聞いた。全体的にざっくりおさらいをすると、序盤は基本的には三人のトレーナー達のアシスタントとして、彼女達が受け持つレッスンでお手伝いをするということだそうだ。つまり、三人がそれぞれ受け持つダンスレッスン、ボーカルレッスン、ビジュアルレッスンに入れ替わりで俺が参加するということになる。それを通して、教師として慣れていき、頃合いを見て単独でレッスンを開いたり、授業を開けるようになるみたいだ。

 

 俺がイメージしていた通り、内容は教育実習と似た感じだな。俺が教育実習生ではなく、一講師としてというところが違いだろう。

 

「……とまあ、アタシの方からはこんな感じかな? これまで全体で何か気になることある?」

 

 ビジュアルトレーナーの沢城先生が説明を終えた後、全員の説明が終わったのを見て、そう訊いてきた。

 

「んー……今のところはないです。おそらく、これから生徒達に教えていく中で生まれてくると思うので」

「ほう、なかなか興味深いことを言うな?」

 

 俺に対して、ダンストレーナーの若島先生が不敵な笑みを浮かべていた。

 

「まあ、俺としてはアイドル達と真剣に向き合っていきたいので」

「なるほどな……流石、元トップアイドル様って感じの心意気だな」

 

 なんだか色々と含みがあるような言い回しだが、おそらく俺の力量を見極めようとしているように見える。まあ、トップアイドルだからといって、アイドルの卵に教える講師になれる訳ではないからな。だが、そこは俺の実力で認めてもらおうかな。

 

 そんなことを企んでいると……

 

「えぇ、彼が気にかけたアイドルは軒並みトップアイドルに成長したという噂がありますし、彼のアイドル育成の腕にも期待ですね」

「えっ、マサってそんなに凄いことやってたの!?」

 

 ボーカルトレーナーの中野先生が饒舌に語り始め、それに対してビジュアルトレーナーの沢城先生が驚きを見せた。ちなみにマサというのは、滝河匡斗の愛称だ。

 

 その噂についてメディアにその話題で出演したのは片手で数え切れるくらいで、それもそこまで大手じゃない番組だったんだがな……もしや、ファンだったりするのか? 

 

「その噂って本当なのか? 神山」

「まあ、間違ってはないですね。にしても、中野先生でしたっけ? よくご存知でしたね」

「あっ……えっと、そうですね。滝河匡斗さんが現役の頃はよくライブに行かせていただいてました」

 

 やっぱりか! ここに来て初めて本当のファンに出会ったな。

 

「そうそう、美里ちゃんはマサの大ファンなんだもんね〜」

「実は神山が来る前、見たことないくらいソワソワしてもんな?」

「ちょっと二人とも!? それは言わないって約束でしょう!?」

 

 Oh……しかもなかなか熱のあるファンときたか。俺が引退してからもそんなに考えてくれてるなんて、本当にありがたいものだな。

 

 そう分かったのなら、一つお礼をしないとな。

 

「そうでしたか……ふふっ、僕のことを応援してくれてありがとうございます。これから僕と一緒に頑張りましょうね」

「……! は、はい!!」

「うわぁ……」

「これがマサの力かぁ……」

 

 俺が滝河匡斗の時の低音で凛々しい声色で感謝を述べると、中野先生は頬を紅く染め、とても幸せそうな表情になった。それを見た若島先生と沢城先生は外野でそれぞれ苦い反応と感心する反応を示していた。一方で中野先生は、半ば放心状態に陥っていた。

 

 ……ちょっとやり過ぎたか? でも、個人に対してのファンサってこんな感じだったよな? アイドル辞めてからしばらく経ったが、その感覚は忘れてないはず……

 

「……んん、中野先生。戻ってこい」

「……はっ! し、失礼しました」

 

 若島先生が中野先生の肩に手を置いてそう告げると、中野先生は正気に戻ったようで、ビシッと姿勢を正した。まさかトレーナーさんの中に俺の大ファンがいるとはな……とても嬉しい反面、それが仇で支障が出ないかとか、俺自身彼女にどう関わればいいのかとか……まあ、それはその時考えれば良いか。

 

「それじゃあ、私達からは以上だ。最後にこれを渡す」

「ん? これは……生徒名簿ですか」

 

 すると、若島先生がいつの間にか手に持っていた資料を俺に渡してきた。おそらく俺と中野先生の件の間に取ってきたのだろうが、その資料には生徒名簿と書かれていた。

 

「アイドル科の生徒の基本情報と、昨年度までの成績が載ってる、アタシ達教員側しか持ってない極秘資料だよ〜。外に持ち出したら即アウトだから、丁重に取り扱ってね?」

 

「おぉ……これは、凄いですね」

 

 確かに表紙に㊙︎と書いてあるし、中身を見てみると今年入学する新一年生から三年生までの情報が載っている。なんか寸評みたいなものも載っているし、昨年居た生徒に関しては成績まで載っていた。これは下手に外とかで見れないやつだな……

 

「ふふっ、後で教員室に案内しますので、そこに置いておいてからゆっくり読んでくださいね。ちなみに、私達が最初に受け持つ授業は新一年生なので、そこから覚えていくと良いですよ」

「分かりました。しっかり熟読します」

「んー、いい返事だね〜」

「……あー、そうだ。あと一つ、伝えておきたいことがある」

 

 すると、若島先生が真剣な面持ちになった。ただならぬ様子を感じ取り、俺はより彼女の言葉に耳を傾けた。

 

「おまえが一番分かってると思うが……ダンスレッスンの時は、()()()()()()。学園長から話は聞いてるから、私達もなるべく配慮するつもりだ」

「……はい。ありがとうございます」

 

 中野先生と沢城先生も不安げな様子で俺を見ていた。俺の引退理由を知ってるってなると、ファンである中野先生はどう思っているんだろうな……

 

 そんなことを考えていると、若島先生が手をパンッと叩き、場の空気を仕切り直した。

 

「……よし、辛気臭い話は終わり! それじゃあ明日から新学期に向けてきっちり準備していくから、おまえも覚悟しとけよ!」

「か、覚悟ですか? 一体何をやらせようとしてます……?」

「そんなに怖がらないでちょうだい、ユイちゃん。私達の手伝いをするのと、アナタの今の実力を見せてもらうだけだから♪」

「いや、言葉に裏を感じる!? しかもその手伝うって、俺をこき使わせようとしてません!? というかユイちゃん!?」

「まさか……おまえと私達が似た立場なのに扱いが違うことに不満を抱いてるとか、そんなことは無いぞ?」

「いや明らかに不満あるじゃないですか! 絶対その不満を俺にぶつけてくるでしょ!!」

「大丈夫ですよ。私と頑張っていきましょう?」

「中野先生……!」

 

 仕切り直したは良いものの、何故こうなった……まあ、元アイドルとはいえ、トレーナーさん方からすればこの特別講師っていう肩書きと扱いは釣り合わないよな。まあ、それだけ十王の爺さんが俺の実力を買ってくれているからだろうけど。

 

 ……よし、俺のまず第一目標はトレーナーさん方に認められることだな。何をやらされるか知らんが、全力で食らいついてやる。

 

 





 今回はここまで!

 今回は三人のトレーナーが原作では名前がついていないということなので、独自で名前をつけさせていただきました! 今後もよく登場すると思うので、お楽しみに!

 ではまた次回!
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