どうも。
第五話です。
今回も新たなキャラが登場します。
では早速どうぞ。
事務作業というものは、アイドルからは最も縁遠い仕事だと思う。なぜなら、アイドルは表舞台に立つのが仕事なのに対して、事務作業は裏方で行う仕事だからだ。
だが、学生のアイドルならそうとは限らない。今俺の目の前で真剣に書類と向き合って処理している初星学園生徒会の面子が、それを物語っているだろう。
元アイドルの滝河匡斗もとい神山唯仁は、その中に居る。今回初めて生徒会の仕事を手伝っており、書類を捌いているところだ。
「えー、次の書類は……これか」
俺に手渡された書類の量は、大したものではないように見えたが、いざ処理をしようとすると思っていた以上に考えることが多くて、今の時点で若干の疲労感を覚えている。こういう事務作業は、グループから個人に活動を切り替えた時に移籍した事務所でたまに手伝わされたことがあったが、やはりその時とは勝手が違うからすぐには慣れない。
「あっ、これって何だったっけか……姫崎! これどう処理したら良い?」
「はい! あっ、それはですね───」
このように、俺の一存で判断できないことは逐一姫崎に訊いていかないといけないって感じだ。なんだか新人アイドルの頃を思い出して初心に帰るような感覚を覚える。こうやって経験を積んでいって一流になっていくんだよな。
「あぁ、そういうやつか。なるほど、ありがとう」
「いえいえ! それにしても凄いですね。ここまですぐ覚えられるなんて……」
姫崎は、俺が処理し終えた書類を見て感心しながらそう云う。
「まあ、物覚えは良い方だからな。ただ、慣れてないからか少し疲労感を感じるな……」
「トレーナーさんとの打ち合わせもあったって話でしたもんね……少し休憩するのはいかがですか?」
あっ、そうだ……午前中はトレーナーさん達にみっちりトレーニングさせられたんだった。俺自身アイドルを辞めてからしばらく経ってるし、現役時代から続けてきたルーティーンは続けているとはいえ、明らかに体力はその時から衰えていたもんだから、大したトレーニングじゃないはずなのに疲れてしまった。それにトレーナー三人衆が度々煽ってくるもんだから余計疲れたわ……
まあ、この程度で音を上げる俺ではないが。
「そう言ってくれるのは助かるな。でも、与えられた仕事を終わらせるまでは続ける。これでも少ない方だろ? なら、ここでへばったらダメだ」
「そうですか……ふふっ、分かりました」
俺がそう告げると、姫崎は優しく微笑んで応えた。
それからしばらく作業を続けていると、星南がやってきて声を掛けてきた。おそらく休憩時間なのだろう。
「あら、もうそこまで終わってるの? 貴方、私と会ってない間に随分手際が良くなったのね」
どうやら俺が処理し終えた量が彼女の想像よりも多く、感心したようだ。
「なんだ、昔の俺は手際が悪かったか?」
「もう、分かってる癖に……元からなんでもこなせてはいたけれど、まさかここまでになっているとは思わなかったわ」
「まあ、慣れない現場でも乗り切ってきた経験が生きたってところかな。そういう
「……」
俺が素直な感想述べると、何故か星南は不機嫌そうな様子で腕を組んで俺を睨んでいる。
「……ん? どうした、そんな黙って」
何か気に障ることを言ってしまったかと思っていると、予想外の反応が返ってきた。
「……何で名前で呼んでくれないの?」
名前……もしや、俺が苗字で呼んだことか?
「えっ、そりゃあ……俺は教師で、お前は生徒な訳だし、こういう場では苗字で呼ぶべきだなと思ったからだが。な?
「その通りだ。あまり馴れ馴れしく名前で呼び合うべきではないぞ、会長?」
前日までは再会した喜びも相まってか、幼馴染として名前で呼んでしまっていたが、今は立場が違う。姫崎を苗字で呼んでいるのもそういう理由だし、苗字呼びに統一した方が良いと思ったのだが……
「ダメよ! 唯仁が私のことを星南と呼んでくれないと気が狂うじゃない!」
「いや気が狂うとか言われてもよ……」
どうやら星南はまだ納得がいかないようだ。確かに俺自身も星南のことは『星南』と呼んだ方が気が楽っちゃ楽なんだが……
「確かにレッスンでは私も唯仁のことを先生って呼ぶことにしようと思うけれど、ここの場くらいは良いじゃない。どう呼んだって差し支えないはずよ?」
「いやいや、お前は良いとしてもな……!」
露骨に拗ねた様子を見せる星南。
あんたは生徒会をどういう場だと思ってるのか……
まあ、百歩譲ってここの場の全員に名前呼びしているのなら問題ないんじゃないかとは思うが、姫崎がいる以上無理だ。なんといっても、姫崎も馴れ馴れしく名前呼びをしている奴らの中にいるのは居心地が悪いに違いないと思うんだ……それを無視してまで譲歩はできねぇ!
そう思っていたのだが……
「良い? 私のことはちゃんと星南って呼んで頂戴。私が許可するわ」
「いや、ちょっと十王……」
「星・南♪」
「……星南」
「ふふっ、合格よ♪」
彼女の抗えない圧にあえなく屈したのだった。どんだけ俺に名前を呼ばせたいんだよ……別にこの学園の外だったら普通に名前呼びするのに。
「はぁ……やれやれ」
「あはは……」
すぐ横で燕は呆れ、姫崎は苦笑いしている。
クソ……こうなったら星南だけ名前呼びするのがおかしくなって、燕も名前呼びになるだろ? そしたら姫崎だけ苗字呼びになっちまうんだよなぁ……
「すまん姫崎、幼馴染の中一人で少し居心地悪かったりするだろ?」
「いえいえ、そんなことは……むしろ私も───」
「ん? 私も……?」
「な、何でもないですっ!」
姫崎が言いかけた言葉……まさか、名前で呼んで欲しいなんてことじゃないよな? もしそうだとしたら、こっち的には気が楽になるのでありがたいんだが……なんだか、こんなこと言ってるといずれ『名前呼びで良いや』ってなりそうで良くない気がする。
「そ、そういえば会長! 入学式の式辞の用意ができました!」
「あら、ご苦労だったわね。なら、当日すぐに用意できるようにしておきなさい」
「かしこまりました」
慌てた姫崎が出した話題は、入学式の準備に関することだった。
この初星学園に今年度から入学する新入生を迎える入学式も、来週に迫っていた。
「そういや、もう入学式か。お前らも参加するんだよな?」
「えぇ、今年から入ってくるアイドルの卵をその目に焼き付けてくるわ。もしかして、貴方も参加するの?」
「あぁ、俺も教え子になるであろう未来のスター達をその目で見たいしな」
新入生に関する情報は、先日トレーナーさん方から頂いた生徒名簿を読み込んである程度頭の中に入れたつもりだ。その中でも何人か実力的に気になった奴がいたし……まあ、予想通り知り合いもいたし、そいつらを間近で見ないと分からないこともあるから、入学式を見に行かないという選択肢は俺に無かった。
「ふふっ、それなら大歓迎よ。学園長に許可を取ってから来ると良いわ」
「あぁ、そうするよ」
じゃあ取り敢えず、十王の爺さんもとい学園長に許可を取りに行かないとな……また長時間話に付き合わされないと良いが。
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生徒会の手伝いを終え、俺は学園の校舎から大きな広場へと足を伸ばしていた。
広場の中心には噴水があり、周りにベンチや緑が囲んでいて、瞑想をする場所としては丁度いい環境だった。
……そう、俺は今からそのベンチに座って瞑想をしようとしているところって訳だ。瞑想と聞くと、胡座をかいて足元でムドラーというヨガでよく見る手の形を作って行うというイメージを持つかと思う。
しかし、外のベンチでそんなことをするのはあまり心象よろしくないので、ここではただ単純にベンチに座って目を瞑るだけだ。目を瞑るだけでも、視覚という五感の一つを遮断することになるから、他の感覚を研ぎ澄ませられるって訳だ。それに、噴水の音と木々のさざめきが心を落ち着かせるので、このスポットは瞑想にピッタリってことだ。
「さて……始めるか」
俺はベンチに座り、姿勢を正して目を瞑った。
今日は午前中にトレーナー三人衆の指導を受けて、午後の始めくらいに生徒会の手伝いをした後なんだが、結構疲労が溜まってるかもな……こんなことなんていつ以来だろう? 現役の時も過酷なロケの後はこんな感じだったかな……
あっ、なんだか意識を保つのがキツくなって……き、た……
不覚なことに、俺は瞑想の途中で意識を無くして眠りについてしまった。
「ん……はっ!?」
そして気がついた頃には、日が目に見えて分かるくらい傾いていた。
「マズい、本当に寝ちまうとはな……」
まさか自分がどれくらい疲労しているのかも把握できず、あまつさえその場で爆睡をかますなんて……俺も落ちぶれたもんだなぁ……
まあ、こうしてても仕方ない。さっさと別の場所に移動するか……そう思ってベンチを立ち上がろうとした時だった。
「すぅ……」
「……は?」
なんと、俺の左隣に座って眠っている人が居たのだ。見る限りここの制服っぽい服装なので、ここの生徒なのだろうか?
前髪がぱっつんの紺色の肩に掛からないくらいのショートヘアで、口元のほくろと、右耳の横についた白い花と稲の穂みたいなアクセサリーが組み合わさった髪飾りが特徴的な、燕とはまた系統が違う大和撫子を思わせるような雰囲気を持った女の子だ。
この風貌に何か既視感を覚えたのだが、もしかすると今年の新入生か? 生徒名簿の新入生のところに居た覚えがある。だとしたら、まだ新学期は始まっていないというのに、何故ここで寝てるのか謎だな……
取り敢えず、こんなところで女子生徒が無防備で寝ていてはダメだということを伝えなきゃいけないか……めんどくさいが。
「はぁ……おーい、起きろ」
俺はベンチから立ち上がり、その女子生徒が反応するまで肩を揺すった。
「んん……ふぁぁ……」
すると、意識が覚醒したのか、大きな欠伸をして目を開いた。
そして俺の方に目を向けると、のほほんとした様子で俺に話しかけてきた。
「……あら、お目覚めになられたのですね。おはようございます」
「おはよう……じゃなくて!! お前はこんなところで何をしている!?」
俺は、彼女のあまりにも警戒心のなさに呆れていた。開口一番がおはようございますってよ……確かに挨拶は大事だけど、慌てもしないなんてな……
俺が盛大にツッコミを入れると、彼女は不思議そうな様子だった。
「何をと言いますと……ただ私は、いつものベンチで寝ていただけですが」
「いやいや、この時期にここで寝るなんておかしいだろ!」
「それを云うのなら、貴方も同じなのではないですか? 随分熟睡されていたので」
「あー……それはそうだが」
俺はそれを指摘されて、返す言葉が見つからなかった。
「なら、貴方も私と同じ目的だったということですね。私はもう少しここで眠りますが、貴方もいかがですか?」
彼女は妖艶な笑みを浮かべ、俺が座っていたところを手で示し、優しい声色でそう誘ってきた。こいつ……なかなか図太い神経だし、初対面の相手を誘うなんて怖いもの知らずな奴だなぁ……
普通の奴ならこの誘いでイチコロだろうが、俺はそうはいかない。それよりも、彼女に確認したいことがある。
「いや、遠慮しておく。それより……お前はもしかしてここの学園の新入生だよな?」
俺がそう訊くと、彼女は少し目を見開いた。
「まあ……
「それは当然だ。何せ、俺は来年度からここで講師をやらせてもらう者だからな。てか、お前は今
「はい。私はここの中等部からの内部進学なので」
なるほど……初星学園には高校だけでなく、中学校もあるんだな。そうすると、新入生の中でもこの学園に対する慣れに差があるってことか。この情報は新入生に対する指導で役立ちそうだ。
「ふーん、そうか……自己紹介が遅れたが、俺は神山唯仁。お前は確か……」
「
俺が自己紹介を切り出すと、彼女もとい秦谷はベンチから立ち上がり、礼儀正しい綺麗なお辞儀をして応えてくれた。この礼儀作法がしっかりしている感じは、おそらく由緒正しい家で育ったからだろう。星南もそうだが、もう一人俺の幼馴染で名家育ちの子がいて、そいつも礼儀作法がしっかりしていて、まさに生粋のお嬢様って感じだったな。まあ、そいつとも近い内に会うんだがな……
「さて……私はもう寝ますね、おやすみなさい……」
「あちょっ、おい!」
どうでも良いことを考えていたせいで、秦谷は再びベンチに座り込んで眠り始めてしまった。
なんか、こいつを叱っても途中で怒る気が失せてきたんだよな……これは次までに対策を練らなければならない。
なぜそこまでするのか? ……それは、俺が生徒名簿で秦谷の写真を
「練習サボるやつか……トレーナーさん達は苦労しそうだな」
こういう奴を指導するのは……腕が鳴るな。
今回はここまで!
拗ねた星南からしか得られない栄養素はある。
そして美鈴が本作初登場!
昼寝して起きたら隣に美鈴が寝てて欲しいですよね……
N.I.A編が思ったよりも早く実装されますが、ストーリーがどうなるか気になりますね。
次回から初星コミュの内容が入ってくる予定です。こちらの展開もお楽しみに!
ではまた次回!
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