どうも!
第六話です。
今回から初星コミュの内容が入ってきます。
それではどうぞ。
「私は、初星学園の門をくぐりました───」
厳粛な雰囲気の中、一人の女の子が講堂のステージ上で堂々とそう告げると、その場から大きな喝采が起こった。
神山唯仁こと俺は、ステージの下手の裏でその様子を見守っていた。
今日はついに入学式。アイドル、もしくはそのプロデューサーを夢見て足を踏み入れた選ばれし者達がここに参加している。天気は晴れ、春らしい陽気と桜の煌びやかなピンクが学園中を彩っている、まさに入学式に相応しいコンディションだ。
俺がここに訪れた理由はただ一つ。近いうちに教えるであろうアイドルの卵達を、早くこの目で見ておきたかったからだ。今、ここから見える新入生の中にも、アイドルの原石がいるかもしれないのだからな。『笹食ってる場合じゃねぇ!』といった感じの勢いで駆けつけるのも無理はない。
改めて新入生達のことを観察してみると、緊張していて顔が強張っている子と、もう慣れているといった様子の子がいた。おそらくそれが、内部進学か外部から来たかの違いだろうか。
ただ、ついさっきステージで新入生代表挨拶をしてた子……確か、
背丈が星南や姫崎といった面子に比べると低く、一見小柄なように見えるのだが、この子が新入生の中で入学試験が最も優秀だった、所謂首席らしい。普通ならば、身長の低さはアイドルにとってマイナスであり、それで首席なのかという疑問も出るだろう。
しかし本人を間近に見ると、首席となった理由がすぐに分かる。小柄ながらも適度に筋肉がついているように見えて、身体能力がとても高いことが伺えた。そして落ち着いた様子で代表挨拶をこなせていることから、とても知性が高い子であることも分かった。要は頭が良くて運動神経も抜群という、まさにオールラウンダーといったところだ。
彼女のオーラを含めてもっと色々と観察してみたかったが、時間が足りなかったな。まああまり人のことをジロジロと見るものではないし、これでも程々にしたんだよね。
そんな訳で俺は、まだ入学式の途中ながらも、会場を抜け出して外に向かっている途中だ。高校時代によく仲良くしていた後輩と待ち合わせているからなのだが、待ち合わせ時間を入学式途中に指定したのはその後輩で、他の用事も兼ねているからだそうだ。新入生だというのにそれで大丈夫なのかと思うが、入学式以上に大切なことがあるのだろう。
「さて……アイツはもう居るかな?」
会場である講堂の外に出て辺りを見渡すと、きっちりとしたスーツを着た男の姿が見えた。あの堅苦しい感じは……間違いなくアイツだろう。
「よう
「神山先輩……お久しぶりです」
俺がそいつに声を掛けると、少し微笑みながらも落ち着いたバリトンの声でそう応えた。
名は
「無事にプロデューサーとして一歩を踏み出したな」
「ええ、なんとかここまで漕ぎ着くことができました」
高校時代から学がアイドルのプロデューサー志望であることは知っており、今思えばその時は彼は初星学園に入るという話もしていた。まあ、当時はこんなことになるなんて、つゆとも知らなかったからな。
「そんなこと言って、実は楽勝だったりしたんじゃねぇか?」
「いやいや、そのようなことは……まあ、トップアイドルを導くプロデューサーになるためにそれくらい乗り越えなければいけないのは、間違いないですが」
「ハハッ、やっぱ流石は学って感じだな」
大きな目標を掲げて突き進むところは相変わらずって感じだな。俺はそういう奴とは気が合うし、少し気難しいところもある彼だが、やはり話していて楽しいものさ。
「ところで、先輩がこの学園にいると聞いた時は驚いたのですが……」
すると、学は自身の眼鏡のポジションを指で調整してから、そう訊いてきた。
「あー、そりゃここの学園長から召集がかかってだな……っていうか、本当に驚いたか? なんだかそこまでって感じだった気がするんだが」
「そんなことはありませんよ。ただ意外性を感じたかと聞かれると、そうでもないなと思ったので、それはあるかもしれませんね」
「あー、なるほどな」
俺達二人が待ち合わせの連絡をする前に、俺がこの学園で働くことを告げたのだが、思っていたよりも淡白に返されたものだから戸惑ってたんだよな……まあ確かに、俺が冒険家になるって言ったらそれこそかなり驚くだろうが、まだアイドルに関わることだからな。
そうやって納得していると、学の表情が陰った。
「……それを言うと、俺としてはむしろ
「
そう、俺がアイドルを辞めた時に一番最初に連絡が来たのが学だった。情報が回るのが早いなと感心していたが、本人は俺が想像していた以上に深刻的に捉えていたようで、何度も着信を掛けてくれていた。その後事情を説明して、あまり深刻な状況ではないことを理解してもらった。
「あれから、お身体の具合はいかがなのですか……? 何か、生活に支障をきたすことは……」
こうやって、たまに俺の身体を案じてくれていて、近況を報告していたりした。
「……心配してくれてありがとな。あれから過度な運動は控えてるし、日常生活に問題は感じてないよ」
「そうですか……それは何よりです」
俺がそう伝えると、彼は少しホッとした様子で胸を撫で下ろした。彼が俺を心配してくれるその様は、まるでプロデューサーがアイドルの健康を管理するかのようで、学が俺のプロデューサーになったように思えたな。まあ、その時俺はもうアイドルではなかったんだが。
そう考えていると、学は真剣な様子で俺に向き合った。
「──もう、芸能界に戻るつもりはないのですか?」
学のその問いは、俺にとって答えるに難くなかった。
「……無いな。踊れない俺なんて
未練がないかと聞かれたら……無いとは言えない。でも、今は出来る範囲で俺の経験を活かしていきたいと思うし、何より気にかけてくれた人達に心配を掛けさせたくない。
俺の返答を聞いた学は、少し考え込んだ後……
「そうですか……なら、俺と似たような立ち位置になるということになりますね」
少し笑みを浮かべてそう言った。
「そうだな。アイドルをサポートする者同士、だな?」
「はい。ただ、先輩はトップアイドルの経験者ですから、アイドルの目線でまた様々なことを教えてもらうことになると思います」
「おう、いくらでも頼ってくれよな。でも、お前はアイドルのプロデュースに関する知識が豊富なのは知ってるし、こっちこそまた色々と教えてもらおうかな」
「それについては、俺の力の限りお教えできればと思います」
プロデューサー候補生と講師か……本来なら明らかに講師の方が色々と教える側になるとは思うが、俺も言うなればまだ講師候補生だ。お互い色々ノウハウを教えられる、対等な関係も悪くないだろう。
「さて、真面目な話はここまでにして……お前とは語りたいことが山ほどあるんだが────」
そうやって話題を切り替えようとした俺だが……
「すいませ〜〜んっ!!!」
突然横から大きな声が聞こえ、そちらの方を向くと、一人の女の子が走ってこちらに駆け寄ってきていた。
「入学式って、もう始まっちゃってますかっ!?」
「もう終わるところです。今から入っていくのは……難しいでしょうね」
「うひゃぁ〜、入学式当日から大遅刻〜!」
駆け寄ってきた彼女の口ぶりから、おそらく彼女もこの学園の新入生なのだろうということが推察できた。
「まあ……ワンチャン途中から紛れ込んでもバレないんじゃない? 多分そろそろ新入生達が移動するだろうし、その時とか?」
「ホントですか!? じゃあそうします! ナイスアイディア!」
おい、今適当に出した案を飲むんじゃないよ。しかもそれバレたら間違いなく担任の先生に叱られるからな。
「あぁっ、申し遅れました! あたし、アイドル科の新入生で
花海───俺はその苗字をついさっき聞いていた。
朱色がかった肩に掛かるくらいのセミロングヘアの右側をお団子状に結んでいる女の子だ。新入生代表挨拶で居た花海咲季と、この花海佑芽と名乗る少女は双子関係なのだろうか? 双子にしては見た目に大分違いがあるし、同じ学年の姉妹の可能性もあるかもしれないが……
「こちらこそはじめまして。私はこういうものです」
一方、学は何も動じることなく自身の名刺を渡していた。
「おぉ〜、菖堂さん……プロデューサー科の方だったんですね! ……もしかして、あなたもプロデューサー科の人ですか?」
俺もプロデューサー科の人間と間違えられるとは……俺は学とは違ってジャージの服装なんだが。
「いや、俺はアイドル科の教師で、神山唯仁ってもんだ」
「先生でしたか!? えっと、あたしが遅刻したこと、叱らないんですか……?」
どうやら、俺が先生サイドの人間であるにも関わらず遅刻に対して何もしないことが不思議なようだった。
「あー……最初は慣れてないだろうし、仕方ないと思う。だが、今度からは気をつけろよ?」
「はい! ありがとうございますっ!! 優しいんですねっ!」
あまりこういうことで怒る気力が起きないし、最低限忠告しておけば良いだろう。
……こんなことを言っているとまたNeo……んん、あさり先生に怒られるだろうか?
そんなしょうもないことを考えていると、佑芽の視線は学の方に向かっていた。
「あっ、そうだ! 菖堂さんにお願いがあるんですけど────もしよろしれば、あたしをプロデュースしてくれませんか!?」
「──唐突ですね」
「はい! あたし、アイドル初心者なので! 菖堂さんが一緒に居てくれたら心強いなって!」
会って早々に逆スカウトをするとは……こいつ、なかなか肝が据わっているな。
……しかし、それ以前に俺はあることに酷く困惑していた。
「なあ学、こいつ生徒名簿に載ってなかった気がしてるんだが」
「……奇遇ですね。俺もそこに疑問を感じていたところでした」
そう、俺はある程度新入生の情報を生徒名簿からインプットしていたのだが、花海という苗字の生徒は先程言った首席の子しか居なかったはずだった。だとすればこいつは一体何者なんだ……?
「──ところで花海さん、お名前が生徒名簿に載ってないのですが、それは……」
学がそう確認をすると、彼女からとんでもない回答が返ってきた。
「ふっふっふ……! それは入学試験の成績がギリギリで、補欠合格だったからですねっ!!」
「この話は無かったことに」
「ちょちょちょちょ、ちょ〜っと待った!!」
「いやいやいや、それを聞いたら普通そうなるだろ……」
「神山先生まで!?」
補欠合格、か……そうなると生徒名簿にも載らないんだろうか? まあ、本当に直前に入学辞退があれば載せる猶予もないなんてこともあるんだろうな。
まあどちらにせよ、補欠合格であることを宣言された以上、俺たちのアイドルとしての評価はダダ下がりになっちまうな。
「た、確かに筆記試験も実技試験も少しダメだったかもしれません……いや、全然ダメダメだったかもしれません。でも! 試験では計れない実力の持ち主かもしれないじゃないですか!!」
しかし、一度断ったにも関わらず、彼女はめげることなくアプローチを続けてきた。俺は彼女のその姿に、ほんの僅かな可能性を感じた。
「それは無理がある、と言うところではあるが……少しチャンスをあげても良いんじゃないか、学?」
「た、確かに……んん、ではまず、アイドルを志望した動機を教えてください」
「えっ?」
学が訊いた質問が唐突だったのか、花海は疑問符を浮かべた。
「面接みたいなもんだ。お前をアイドルの道へと突き動かすものは……何だ?」
俺が彼女の理解を手助けすると、彼女は質問の意図が分かったのか、話し始めた。
「それは、ですね──────勝ちたい人が、いるんです」
先程までの愛嬌のある様子とは打って変わって、彼女の表情は真剣だった。
「生まれた時からずっといて、色んな競技で何度も何度も競い合って、一度だって勝てたこともなくて……本当に凄い人で、尊敬してて」
彼女の語るその口調から、その相手に対する思い入れの強さが伝わる。
「だけど……だから……今度こそ、絶対に勝ちたいんです」
勝ちたい……か。俺はその言葉を聞いて、アイドル時代の頃の記憶を思い出した。
「その人は……この学園に?」
「はい、だからあたしはここにいます。あたしは初心者で、アイドルのこと、よく分かっていなくて……自信があるのは運動くらいで、才能なんてそんなにないのかもしれません」
彼女は、自身が置かれている立ち位置を理解しているようだった。
「────でも、勝ちたい気持ちだけは負けません。きっと、誰にもです。必ず勝ちます。そして、学園で一番のアイドルになります! 自分で言うのもなんですけど、良い物件ですよっ! いかがでしょーかっ!?」
「……先輩、どう思いますか?」
俺は学にそう訊かれ、少し考え込んだ。
実は花海の自己PRを聞いている最中に彼女を視ていた。アイドルのオーラは今のところ皆無に等しいのだが……
「そうだな……
「そうですか……花海佑芽さん」
「はい!」
おそらく学は俺の意見を聞いてプロデュースするかを判断しようとしているのだから、ここでプロデュースアイドルが決まるのだろう。俺としても、こういう奴は育て甲斐があるだろうしな。おめでとう学、入学式当日にプロデュースアイドルが決まるなんて、順調過ぎるスタートじゃないか。
……と思っていたのも束の間。
「お断りします」
「はい! ……って」
「「えぇ〜!?」」
学園に俺と花海による驚愕の叫びが響き渡ったのであった。
今回はここまで。
講堂の前でPと佑芽が会話するシーンは、初星コミュの一番最初のシーンで印象に残っている方もいらっしゃるのではないでしょうか?
ついに一年生達も入学してきたということで、今後花海姉妹以外のキャラもいずれ本作で登場してきますのでお楽しみに!
それではまた次回!
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