飴宮と深夜のエロゲ―を楽しんで、自室に戻った時のことである。拓海はあることに気付いた。
「(オレの歯ブラシが無くなっている。まさか……)」
部屋内のクローゼットを見れば、替えの衣類が数着無くなっていたり、バスタオルや生活用品も無くなっていた。
昼間は面影のご褒美に答える為に活力を吸い上げられたので、チェックする余裕も無かったが、飴宮との交流で幾分か精気を取り戻したら気付きたくないことに気付いてしまった。
「(そうだ。川奈の匂いが充満していたから、換気がてらに部屋を開放していたんだった)」
これだけ迫られている中で、鍵を掛けない拓海にも問題はあるが、物品を盗まれるレベルだとは思っていなかった。
となれば、全てが疑わしくなって来る。とりあえず、ベッドの下を覗き込んで見た。蒼月がいた。
「あ、拓海クン。お帰り。夜更かしは良くないよ」
「不法侵入よりはマシだ!!」
彼を引っ張り出してベッドの上で正座させて向かい合った。本当は叩き出したいが、聞きたいことがあった。
「この部屋を物色していったのは誰かって?」
「ベッドの下に潜んでいたから、それ位は分かるだろ?」
「ごめん。いろんな人が入って来たから、誰が何をして行ったかまでは分からないんだ。知っている範囲だと比留子さんがバスタオルを取って行って、歯ブラシは狂死香さんが取っていたなぁ。パーカーは楽クンと晶馬クンが取っていたよ。ちなみに、つばささんが設置した監視カメラは部屋の四隅にあるよ」
もはや、自分にプライバシーは存在していないらしい。もうちょっと飴宮と夜更かしするか、厄師寺の部屋で寝泊まりしようと思ったが、彼女達に危害が及ぶことを考えて止めた。
「一体、オレのどこにそんな執着する要素があるんだ……」
「顔が良くて、仲間思いで、誰よりも頑張る癖に見返りを求めない高潔さ。それでいて、僕達のセクハラを咎めたりして来ない懐の広さとか」
急に褒めまくられたので照れ臭くなって、頬を掻いた。そんな美辞麗句で誤魔化せる被害ではないが。
「そこまで言われたら悪い気はしないけれど……」
「でしょ? 皆、拓海クンと仲良くなりたいんだ。ちょっと不器用でリビドーが先走りがちで迷惑掛けちゃうかもしれないけれど」
「掛けている自覚はあるんだな」
突っぱねない拓海にも責任はあるが、皆で100日を迎える為にもコレ位は甘んじて受け入れようという覚悟があった。
「とりあえず協定的には本番は無しってことになっているけれど……」
「普通に交流してくれ。頼む」
拓海の切なる願いが叶えられることは無いのだろう。時計の短針は1時を指している。幾ら、何でも夜更かしが過ぎる。
「これ以上の夜更かしは良くないから僕も部屋に戻るけれど、深夜の校舎で何をしていたの?」
飴宮と一緒に遊んでいた。と言おうとして、呑み込んだ。何故か言ってはいけない気がしたからだ。脳内で選択肢が現れた。
「図書室で漫画読んで、作戦室のPCで遊んでいたんだよ」
「1人で?」
『1人だった』。これは明確な嘘だ。飴宮と一緒にいたことを隠すことになる。隠す意味が自分でも分からなかったが。
『飴宮と一緒にいた』。事実だ。隠し立てする理由がない。どちらを選ぶか一瞬判断に迷った意味が分からなかったが、拓海が選んだのは。
「飴宮と途中で合流してな。色々と話が盛り上がったんだ」
「そうなんだ。怠美さんが相手ってことは……エッチなゲーム。したんだね?」
「まぁ、そうなるな……」
18歳未満禁止と言われても、咎めて来る奴はいないし大丈夫だろうの精神。幸い、お互いにエロゲ―に慣れていたので妙な雰囲気になることも無かったが。
「興味があるなら、僕らにも言ってね。拓海クンが相手なら……良いからね?」
昼間に面影に調教されたこともあって、自身の恋愛観がガタガタにされている中での耳打ちはとても良く効いた。蒼月が部屋から出て行くのを見届けてから、拓海は無理矢理寝付くことにした。
~~
「皆、提案があるの。もう、最終防衛学園にトラップを仕掛けまくらない?」
翌朝の食堂にて、大鈴木から大胆な提案があった。
今までは拓海が持つ2周目のアドバンテージを崩さない為に、正面からぶつかって行くという指針を取っていたが、ここに来て急な転身だった。ただ、反対の声は少なかった。
「そうだね。もう、いつどういうタイミングで攻めて来るか完全に分からないし」
「なんなら、アイツら。今日にでも攻めて来そうだもんな」
川奈と丸子も同意していた。ここまで短いスパンスで攻めて来られているんだから、もう迎撃用の装置を開発しまくって要塞化するというのも一案ではあった。何よりも。
「また、ヴェシネスが殴りこみに来たら澄野先輩が拉致られるかもしれないっす。アイツの執着は異常ですからね」
今馬が忌々し気に言った。マトモ組が会話を聞きながら信じられない顔をしていた。『お前が言うのか?』と、表情が雄弁に語っていた。
「ちなみに、どんなトラップを作るのでござるか?」
「とりあえず校庭周りにスパイク付きの落とし穴を大量に作って、地雷を埋めて、鉄柵を設置しまくって……」
「なぁ、川奈。それ、オレ達が外に出られなくないか?」
そんだけガチガチに固めていたら、探索にも出られないんじゃないかと思ったが、そもそも資源も何もかも余りまくっているので出る必要も無かった。
「大丈夫だよ。この学園に蓄えた資源だけで100日はやって行けるしね。もしも、素粒子バクテリアとかが発生してもQBリキッドとかも取り揃えているし、物質Ωも取り揃えているよ!」
川奈の口から聞き慣れない単語がいっぱい出て来たが、多分必要な物なんだろう。誰も反対する者はいなかった。
「よし! じゃあ、今日は学園を要塞化しよう! くららさん。この仕事は、君が頼りなんだ!!」
「勿論よ。大鈴木の力を見せて上げるわ!」
餅は餅屋。兵器開発においては一日の長がある彼女は、当然ながら要塞化についても知っていた。様子がおかしい組は納得していたが、マトモ組はやはり困惑していた。
「なぁ、コレ。上手く行くと思うか?」
「きょ~っきょっきょっきょ。こういうのって、強敵が現れて蹴散らされる前振りじゃん。どうせ、そのヴェシネスって奴に破壊されまくって無双アクションされて、オジャンになるってオチが待っているよ」
厄師寺が抱いていた懸念を飴宮が言語化していた。これは多分盛大な前振りなんだと。霧藤も苦笑いしていた。
「でも、何かしている方が建設的だとは思うよ?」
少なくも。何もしていないと、拓海に要らんことをしまくるので、それなら働かせている方が風紀も保たれるということだ。
「よし。じゃあ、拓海クンと雫原さんを除く皆は要塞化の準備を! 2人はご褒美タイム頑張って!」
「え?」
「澄野。行きましょう」
極当然の様に自分達だけ労働が免除された。雫原に引っ張られ、拓海は屋上へと消えて行った。
~~
「(今度は何をさせられるんだ?)」
4日目にマッサージを申し込まれたが、途中で川奈に乱入されて、結局有耶無耶になったが、あの時の続きでも依頼されるのだろうかと構えていた。
暫く、無言だった。すると、すっぽりと彼女の胸に埋もれる様にして抱きかかえられた。
「ごめんなさい。私を助けるために……」
ふと思い出した。そうだった。自分はヴェシネスの魔の手から彼女を助けるために、身柄を差し出した。おかげで雫原を含め、皆が無事であったが。
「気にしなくて良いよ。雫原達が無事なら良いんだよ」
「そうよね。澄野なら、きっとそう言うと思っていた」
傲岸不遜を地で行くかと思っていたが、彼女の意外な一面を見て拓海は多少戸惑っていた。こうして優しく抱きしめられているのも居心地が良かった。久しく、心から安堵できる時間だった。
「それはそれとして、他の女に抱かれた挙句『気持ちよかった』って何?」
安堵タイムは直ぐに終了した。配慮無き発言のツケは必ず回って来るのだ。繕わなかったツケを糾弾されていた。
「いや、その。咄嗟に出てきた言葉で!」
「つまり、本心から思っていたってこと? バカなの? 猿なの?」
ウッキー! と叫んで、場を切り抜けようかと考えたが、そこまで正気を手放すことは出来なかった。
「(何を言っても言い訳にしかならないから、何も言えない!)」
「無理矢理手籠めにされたとか、逆レイプされたとか言えば、あの場も丸く収まったでしょうに」
雫原の言うことは正しい。あの時、自身の中に浮かんだ選択肢にも『無理矢理された』というのもあったが、それを選ぶ気にはなれなかった。
「それは、嫌だったんだ。その、相手側からの想いがちゃんとあったのが分かったから。それをぞんざいに扱う真似はしたくなかった」
「結構、最低な発言をしている自覚はある?」
八方美人みたいなことをしているが、きっとそれ以下の何かなんだろう。とりあえず、浮気野郎ではあるのだろう。
「じゃあ、オレはどうしたら良いんだ?」
商品を手に取る様にして、誰かの好意と対価を吟味して選べばいいのか。
いや、そもそも。どうしてここまで好意を向けられるのか、自身も好意を抱いてしまうのか。拓海自身も分からなかった。
「とりあえず、ここ数日の変態共に付けられた臭いを落とすから付いて来なさい」
雫原は拓海の腕を引いて、バスルームへと入って行った。彼が抗議する隙も無い位に、ハラリと衣服を脱ぎ終えた。
「ちょっと待っ。せめて、バスタオル!!」
「もう、初心なねんねじゃないんだから、これ位で動揺しないの。澄野も早く脱ぎなさい」
すっぽんぽーん。と、拓海の衣服も脱がされた。バスルームにいるんだから全裸は当然だし、アニメや漫画の世界でも無いんだから謎の光が大事な個所を覆ったりもしない。お互いに。
既に雫原の手にはボディソープを染み込ませたボディタオルが握られている。ちょっと乱暴に、ガシガシと拓海の全身を洗っていた。煽情的な手つきでないことが救いだろうか。
「雫原! これ、絶対ダメだろ!?」
「これもセーフの判定よ。じゃあ、今度はそっちの番」
と、ソープが沁みたボディタオルが渡された。何の奇跡か、雫原の体に纏わりついている泡が大事な場所を隠していたので、ギリギリ正気を保っていた。
彼女は非常にスタイルが良い。全身を、傷つけないようにゆっくりゆっくりと洗っていく。胸元まで行った所で、腕を掴まれて双丘の下へと持って行かれた。
「そこもちゃんと洗って。結構、汚れる所なのよ」
「(カルア。助けて……)」
ここにいない幼馴染の名を言った。最も、彼女がこんな光景を見たら助走を付けてぶん殴って来るだろうが。あるいは、他人の振りをされるかもしれないが。
とにもかくにも、拓海にとって。1周目とは比べ物にならない位に危険な時間が過ぎて行ったのは事実で、バスルームから出た後はベッドにぶっ倒れた。……人は興奮すると鼻血を噴き出すらしい。