最終防衛学園 ~貞操危機編~   作:ゼフィガルド

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【好き好き編】12日目

「(なんで僕が……)」

 

 彼の名は『クェンゼーレ』。『醜悪の化神』と言う、悪口みたいな二つ名を持つ彼は卑屈な性格も相まって、部隊長内ではヒエラルキー最下層を突っ走る男だったが、唯一飛行能力を有していた。

 普段は基地で留守番しているのだが、ヴェシネスから最終防衛学園の様子を見てこいと言われて、使いパシリをさせられていた。

 

「(でも、上手く行けば)」

 

 冴えない男特有の誇大妄想をしていた。ヴェシネスのことはどうでも良い所か嫌いだったので、彼女に好かれるという未来図を予想していた訳ではない。

 肝心なのは、自分がスミノの拉致に成功したパターンだ。当然、大事な人達を攫われた侵略者共はブチギレる。そして、ヴェシネス達と全面戦争をして共倒れになる。残ったのは、自分と彼の2人だけだ。

 

『エヒヒッ。フヒッ。これから二人で世界を再興していこうね』

『そうだな。お前となら……』

 

 キラキラとオトメチックな雰囲気が妄想内の自分達を彩っていた。

 この世界では接点が薄いが、別の世界では彼と確固たる絆を結んだ。ならば、ここでも行けるはずだ。部隊長の能力として、産卵も得意としているので神の子を産もう。と、意気込んでいると最終防衛学園が見えて来た。

 

「え」

 

 炎の壁に囲まれているので、行くとすれば手前位で留めておこうと思ったが、どういう訳か校舎が針山みたいになっていた。見れば、1本1本が何かしらの砲塔であることに気付いた。一斉に砲口がコチラを剥いた。

 

「ってぇ!!」

 

 遥か、眼下から号令が響いた。大気が震え、自身に目掛けて大量の砲弾が飛来した。だが、侮るなかれ。クェンゼーレも部隊長である。

 

「僕を嘗めるなよ!!」

 

 飛行船の様な形態をとっていたクェンゼーレのボディが変形して、戦闘機の様なシャープなフォルムへと変わった。

 止まった場所しか狙えない砲弾程度では捉えられない。すると、今度は校舎の屋上の床面が変形して、対空ミサイルが放たれた。

 

「(多分、これ普通の兵器じゃないんだろうな……)」

 

 熱源を感知している雰囲気はなく、真っすぐに自分に向かって来た。恐らく、彼らの言う所の『我駆力』の素となっている『異血』に反応しているのだろう。

 ならばと、彼は侵攻生を産み落とした。最終防衛学園を襲撃する為ではなく、自身の異血を混ぜた生物を生み出すことで、ミサイルに対するフレアの様な効果を期待してのことだった。彼の目論見通り、ミサイルは生み出した侵攻生達の方へと向かって、命中、爆散した。

 

「(やった!)」

 

 もう、こうなったら消えない炎の壁を突っ切って拉致してやると、調子に乗った先のことである。今度は大量のドローンが殺到した。異血で作られた爆弾を搭載した、自爆型の物だった。

 クェンゼーレは直ぐに航空機関砲を生やした。異血の弾丸を作っても良かったが量は作れない。ならば、生み落とそうとした侵攻生の骨肉を砕いて、成形した即席の有機弾で迎撃していた。

 死体の肉片弾がドローンを撃墜、あるいはローターに付着して、次々と落としていく。あまりに殺意に満ちた迎撃の数々を正面から突破していた。

 

「うわ、アンタ。そんなに強かったんっすね」

 

 兵器群の数々を突破した先には、忌むべき侵略者が居た。大翼を生やした少年が冷ややかな笑みを浮かべていた。クェンゼーレは彼を知っている。

 

「イマ か。君の顔は見飽きたよ」

「奇遇っすね。自分もだよ。アンタ1人? 相変わらず、扱い悪いな~。もう、こっちに来ない? 裏切るなら、澄野先輩と会えるかもよ?」

 

 ちょっぴり惹かれる交渉内容だった。こんな高速戦闘をしている中での一時停止は致命的だった。

 今馬の背後から飛んで来た一撃が、クェンゼーレの翼をぶち抜いた。屋上を見れば、こちらに向けて銃口を構えている過子の姿があった。

 

「くそぉおおおお!!」

 

 飛行能力が削がれ、最終学園の校庭へと落ちた。そこは地雷原だったのか、落ちた瞬間に爆発して、吹っ飛びまくった。最終的にはボロ雑巾のようになったクェンゼーレが捕縛されていた。

 

~~

 

 拓海は絶句していた。飛行形態を持つ部隊長と戦った覚えはあるが、あんな可変能力を持っているなんて聞いていない。

 

「いい!? 捕縛した奴はドルメン式に掛けなさい!! アイツの移動能力と哨戒能力は便利だからね!」

「嘘付きぃいいいいいいいい!! スミノに会わせてくれるって言ったじゃないかぁああ!」

「なんで、そんな美味い話があると思ったんっすか?」

 

 大鈴木の無慈悲な命令に泣き叫ぶクェンゼーレ。それを嘲笑する今馬。という、この世の終わりみたいな光景が繰り広げられていた。

 

「いや、ちょっとやり過ぎじゃないか……?」

 

 ようやく、事態の把握を把握できた拓海が言葉を絞り出した。大鈴木と今馬が不服そうにする中、擁護されたクェンゼーレは目に見えて喜んでいた。

 

「ひひひ。やっぱり、スミノは良い奴だなぁ」

 

 ネットリと鼓膜に張り付く様な粘着質な声だった。向こうの本拠地で少し話したことがある程度なのに、嫌に距離が近かった。

 

「澄野先輩。他の部隊長と違って、コイツは空飛べるから便利なんっすよ。学園の要塞化も済んだんで、空のタクシー。必要でしょ?」

 

 お前なぁ。と言いかけて、拓海は言葉を呑み込んだ。

 現在、部隊長達は中庭の檻に閉じ込められ、同じ部屋でNIGOUが作業をしているので話を聞けずにいたが、今はチャンスじゃないだろうか? という、拓海の考えを見抜いたようにして、蒼月がヌッと現れた。

 

「拓海クン。後の処理は僕達に任せてよ。昨日、今日とくららさんが頑張ってくれたし、ご褒美の方をお願いね!」

「当然ね。早速、有効性を試せたしね」

「いやだぁあああ! スミノ助けてぇえええええええ!」

 

 クェンゼーレがドナドナされて行くのを見守るしか出来なかった。そして、拓海は大鈴木と一緒に部屋に向かおうとしたのだが。

 

「そこは!! 粘れよ!!」

「や、やっぱりそうだよな」

 

 一般通過ヤンキーこと厄師寺に突っ込まれた。最近は自分の意思より周りに流されがちになっている自分を反省して、どうにかクェンゼーレは牢屋にぶち込む、いつものコースに落ち着いた。

 

~~

 

「余計な邪魔が入ったけれど」

 

 拓海の部屋に上がった大鈴木は、慣れた手つきでプロジェクターを設置していた。なんとなく今から何が始まるのかを察した。

 

「お。映画鑑賞か?」

「そうよ。このアタシが選んだ珠玉のラインナップを見なさい! もう、制覇したと思っていたアーガイブの奥底に眠っていた、とんでもない代物よ!!」

 

 先日の雫原の一件と比べるとなんと平和なことか! 思わず、拓海は自らの頬が綻んでしまうのを感じていた。

 プロジェクターから珠玉の作品が3つほど投射された。果たしていかなるラインナップか……。脳内で選択肢が出現していた。

 

「えっと。まず一つ目は『ザンキゼロ』。現代文明が滅びた世界で8人の男女によるサバイバル物……。まぁ、8人もいれば上等ね」

 

 確か、遺伝的多様性か何かの関係で人間は一定数の数がいないと滅んでしまうんじゃないかと言う話を思い出していた。

 

「他には『ダンガンロンパ』。超高校級の才能を持つ少年少女が学園に閉じ込められて、コロシアイ学園生活を送らされるというサイコポップな話。となると、私は超高校級の令嬢ね」

 

 なんだろうか。フィクションの話をしている気がしないし、飴宮辺りが喜びそうな話だと思った。そして、最後の1本。

 

「『イルブリード』。ホラー映画の監督が作った死の遊園地に挑む大学生の話。大人気ゲームの実写化……。え、なにこれは」

 

 普段は尊大な大鈴木でさえ呆気にとられる内容だった。いずれのタイトルも実に面白そうだったが、体力や気力的に考えても見られる映画は1本だけだろう。

 

「よし! 『イルブリード』を見よう!!」

「このラインナップで敢えて、コレを選ぶ神経が信じられない。アンタが澄野じゃなかったら、この時点で破談していたわ」

 

 別にイルブリードのタイトルに惹かれた訳ではなく、普段尊大な彼女が戸惑いを見せたという所に、拓海の中でちょっぴりサディストな気持ちが湧き上がった故の選択だった。

 折角選んだのだから映画も映画で楽しもう。という、ポジティブな考えは開始5分で打ち砕かれた。

 

『ジミィイイイイイイイイ!』

 

 死のアトラクションをクリアしていくという形式自体が狂っているが、どの内容もシャブでもキメてんじゃないかって位だった。

 例えば、始めの章はホテルの営業をしていたオーナーが野球好きの息子の復讐の為に、入園者を焼き殺すという。リアリティとかロジックを全て放り出したかのような内容だった。なにかと整合性を求める世論に対する挑戦を含んだ内容だったのかもしれない。多分、そんな意図はない。

 

「レビューには『脳みそを冒されたので、これからの関連創作物全部に出します』とか『あぷぷー、ぷりぷりー』とか。ヤバいのがいっぱいあるわ」

「オレは何でこんな物を……」

 

 拓海は己の軽率な行動を後悔した。自身の選択はいつ、いかなる時でも真摯に誠実に考えなくてはならない。

 映像内で、巨大化したホテルのオーナーを操るスタッフを殴り殺している主人公は、きっと自分にそう言うことを教えてくれているのだ。

 

「でも、不思議とテンポは良いから見れるのよね」

「味はあるんだよな」

 

 良作は3日で飽きるが、クソ映画は3時間で慣れる。という金言は、皆もご存じの通りだが、色々と言っていた拓海と大鈴木の2人も映画に見入っていた。

 決して浪費した時間を取り戻すために、最後まで見てやるというコンコルド効果に囚われている訳ではない。貴重で有意義になるはずの100日間の内の1日が見事に浪費されて行く。

 どういう訳か、この映画はクッッッッッッソ長時間であり、6時間位ぶっ続けで上映された。もう、こうなったら2人にピンクな空気が発生するはずもない。大鈴木の被り物のトマトは有害な映像に耐え切れずに所々痛んでいた。

 最後は全裸になった主人公がマシンガンで怪物化した父親を撃ち殺して終了した。……そして、このアトラクションを通じて恐怖を忘れていた主人公は、人並みの感性へと回帰するのだ。無理があるだろ。

 

「「……」」

 

 拓海と大鈴木はこの一大スペクタクルを噛み締めていた。きゅうりよりも栄養が無いが、2人の中には得られる何かがあったのだろう。

 今日1日は他の感動や情景はいらないとばかり、2人はスッキリと別れて互いの部屋へと 戻って行った。この日は拓海も気持ちよく寝れるかと思ったが、イルブリードの悪夢に苦しめられていた。

 

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