最終防衛学園 ~貞操危機編~   作:ゼフィガルド

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【好き好き編】14日目

「(今の所、誰かが死んだりすることも無く上手くやっているけれど)」

 

 強いて言うならSIREIが行方不明になっているのが気になるが、多分。始末されたのだろう。このまま100日目に辿り着けそうな雰囲気はあるが、あまりに謎が多い。

 

「どうしたの。拓海クン?」

 

 隣ではいつものように、蒼月が自分の朝食に手を付けて来るが咎める気にもなれない。何故、彼にここまで慕われているのか?

 1周目の世界では、認識障害のせいで人類や自分達を憎んでいたというのに。彼の変わり身が凄い。同じ様に周回する中で治療されたのだろうか?

 

「いや。2日目の時は誤魔化されたけれど、今のお前ってどういう状況なのかと思って」

「今は、ある程度の事情を把握しているんだったね。結論から言うと改善したとも言えるし、悪化しているとも言えるね。少なくとも、拓海クンの姿も正しく把握できているよ。赤髪の中に黒いメッシュが入っているのが面白い髪色だよね。それと、とても力強い瞳をしている。このまま吸い込まれて行きそうな」

 

 先日、自室にて褒められまくったが、今も彼の好意が伝わって来る。嘘を言っている雰囲気は無かった。嘘だとも思いたくなかった。

 

「本当に治っているんだな。じゃあ、悪化しているって言うのは?」

「これに関しては皆で協議させて欲しい。つばささんからも聞いたけれど、知れば害になる情報って言うのもあるから」

「例えば?」

 

 今まで、ニッコリと笑っていた蒼月の手が極自然に拓海の喉元へと置かれていた。動作を意識することが出来なかった。

 

「実は僕が人類のことが嫌いで、嫌いで、君達を殺そうとしていた。って、言うのが分かったら、僕のことを信じる気にはならないでしょ?」

 

 説得力が凄かった。何も蒼月に限った話ではない。今は皆が無条件に自分を慕ってくれているから良いが、不和を起こしたパターンもあったはずだ。

 

「と言うことは、今。オレに恨みを抱いている人間がいないって言うのは、かなり運が良いのか。それとも……」

「拓海クンが好きって気持ちの方が上回っているのかもね! 僕みたいに!」

 

 一体、自分がどんなことをやったのかは気になった。だが、同時に心に引っ掛かることもあった。

 

「(でも、皆が好きな『澄野 拓海』は皆が体験して来た周回の中にいたオレで。今、ここにいるオレじゃ無いんだろうな。……カルアと霧藤みたいに)」

 

 なので、皆を責めたり咎めたりする気はない。誰かに誰かの姿を重ねてしまうのは、自分もやっているからだ。

 ふと、今日は食堂が静かなことに気付いた。どうやら、今までの話は周りにも聞こえていたらしく、マトモ組以外は目線を逸らしたり、チラチラとコチラを見て来たりと。思うことは多いらしい。

 

「今日もご褒美は一旦お預けしておこうか。拓海クンはゆっくり休んでいてね」

 

 朝食を取り終えると、蒼月はいつものメンバーを引き連れて食堂から出て行った。先程言っていた『協議』をする為だろう。

 残ったのは飴宮や厄師寺達、マトモ組だ。良い機会だったので、彼らがいる宅へと移動した。

 

「人気者は大変だよね。きょ~っきょっきょっきょ」

 

 飴宮がいつものように茶化して来るが、これは事態が重くなり過ぎないようにと言う彼女なりの気遣いなのだろう。

 昨日に、厄師寺とも話したので事情は伝わっているだろう。となれば、残るのは後1人。だが、何と切り出した物だろうか。

 

「もこちゃん達に聞いてもはぐらかされて、事情はよく分からないんだよね。なんて言うか、私だけが蚊帳の外みたいな」

 

 霧藤もやはり疎外感と言うのは感じていたらしい。元より、合流組であること。そして、他の面々が蔑ろ……とまではいわないが、彼女と距離を取っていることもあった。

 

「ポジティブに考えるなら、危険な目に遭わせたくないってことだろうけれど」

 

 可能な限り善意で考えた結論を述べた。とは言え、飴宮と厄師寺も気まずそうな顔をしている。拓海も分かっていた。

 

「そう。だと良いんだけれど……」

 

 霧藤の顔に浮かんでいたのは焦燥、不安など。ネガティブな物だった。

 これは拓海にだけは分かってしまう。何故なら、自分は霧藤に並々ならぬ想いを抱いている。正確に言えば、彼女を通して見る幼馴染に。だが。

 

「(その感情が飛躍するって言うパターンは想像に難くない。1周目の世界で、彼女が『カルア』であることは分かっているんだ)」

 

 何かの拍子で彼女が記憶を取り戻した場合にどうなるか。いや、そうで無くとも。彼女の人柄に惹かれてと言うことは往々にしてあり得る。

 

「大丈夫だって~! のぞみんには怠美達がいるよ! 一緒にエロゲ―やろう! 拓海は慣れちゃって反応が薄いんだよね~」

「……え? 澄野君。エッチなゲームしているの?」

「いや、その。エッチなのが目的じゃないんだ!」

 

 飴宮はけらけらと笑っていたが、霧藤はドン引きしていた。拓海もまた凡百な言い訳を並べていたが、どう取り繕っても事実は変わらない。

 

「いや。俺も偏見はよくねーって思ってやったけれど、面白かったぜ!」

「厄師寺君もしたんだ……」

 

 厄師寺も頷いていた。そう言うのに縁が無さそうな彼が唸るのだから本当に娯楽物としては悪くないらしい。公言する物でもないが。そろそろ話を転換させないと、自分の肩書が変態になりそうだったので無理矢理変えた。

 

「そう言えば気になったんだけれど。第2防衛学園にいた頃から、皆。あんな感じだったのか?」

 

 そもそも合流の手際が良過ぎる。SIREIを何処かへと追いやり、それを口実にして合流する。スクールバスに大量の食糧が積んであったことも鑑みれば、予め事情を知っていたとしか思えない。

 

「うん。気遣ってくれているのは分かるんだけれど、私だけ壁を作られているみたいだった」

 

 蔑ろとまでは言わないが。むしろ、表だって疎んじられていないだけ余計に距離を感じてしまっているのかもしれない。

 

「なんで、俺達だけ。記憶がねぇんだ?」

「あ、怠美分かったかも! きっとあれだよ! 学園生活の序盤で時報がてらに殺されるから、その先がないんだよ! クソッ! デスゲーム見逃した!」

 

 軽く言ってくれているが、その可能性もあるのかと思った。

 そもそも100日を経験する前に死んでしまったら、記憶が無いのも当然だ。殺されるだけの記憶なんて物があっても害にしかならない。

 

「縁起でもねェこと言うなや。少なくとも、今はそうじゃねぇんだからよ」

 

 少なくとも侵攻生に殺される可能性は激減したにせよ、ヴェシネスと言う脅威はそのままだし、今後も何が起きるか分からない。

 

「でも、未だ気になることがあるの。その、100日目を迎えても。私達って本当に解放されるのかな?」

 

 霧藤が口にしたことは、拓海も疑問に思っていたことだ。

 そもそも、本当に100日で解放されるなら、どうして皆には周回の記憶があるのだろう? 自分が戻って来たのは、霧藤を助けて皆で100日目を迎える為だが……。

 

「(途中で妥協しそうな気もするんだが)」

 

 全員は無理にしても特定のメンバーだけで100日目を迎えて宇宙へと行ったパターンもありそうなものだが。

 

「こういう可能性系の話は無限に散らばるから考えてもアレだけれどね。エロゲ―じゃなくて、ギャルゲーの話で行くと『シュタインズゲート』みたいな話もあるし」

「アレ? お前、普通のゲームもするんだ」

「ニトロプラスが関わっているからね! 思えば、拓海の置かれた状況ってオカリンに近い物もあるよね」

 

 飴宮はかなりの偏食家でメジャーな所や普通な物はしないんじゃないかと思っていたので意外だった。そう言えば、幻覚を見せて来る部隊長と戦った時に『ちいさくて可愛い奴!』とか言っていたので、普通のも見るんだろうか。

 

「でも、良いかも。のぞみんや猛丸にも拓海が置かれている状況を説明できるかもだし。本当はゲームの方でやりたいけれど、アニメの出来も良いし。皆でアニメの方を見ようよ!」

 

 アニメの方が入り易いというのもあったのだろう。何よりPC画面と違って、プロジェクターもあるから大人数でも視聴し易い。

スナック菓子やらジュースやらを調達して、飴宮の部屋で上映会をすることになった。

 

「ちなみに。ゼロも含めて、全話ぶっとおしだから」

「え?」

 

~~

 

 途中で休憩を挟みつつ、シュタインズゲート上映会は1日を掛けて行われた。

 全話を見終えた頃には夜になっていた。名作を見た充実感に加えて、飴宮の解説もあったので、厄師寺と霧藤も拓海の置かれている状況をある程度理解できるようになっていた。

 

「でも、澄野君の置かれている状況はオカリンと似ている様で違うよね?」

「そうだね。世界線。だと噛みそうになるからTL(タイムライン)って言い方にするけどさ。特定の事象に収束するって訳じゃないよね?」

 

 飴宮の言うことに頷くことは出来なかった。特定の誰かが必ず死ぬ。という訳ではないとは信じたい。自分だって1周しかしていないので、確定事項が分からないのだ。

 

「精々が100日目に脱出ポッドが出現するって位だけど。多分、辿り着かないパターンもあるだろうし」

 

 何も最終防衛学園が陥落するという訳ではない。自分達の意思で学園を去るパターンもあるかもしれないし、侵攻生と和解するということもあるかもしれない。

 

「これを踏まえた上で、怠美達が何処に向かいたいか。ってのがポイントだよね。皆で100日目に辿り着きたいのか、ループを終わらせたいのか。そもそも、なんでループが起きているのかとか」

 

 こういう話をしていると。例え、100日目に全員が生存していても2日目に戻される様な気がした。勿論、皆と一緒に生き抜きたいのもあるが。

 

「その上で、俺は東京団地に戻って幼馴染に。カルアにもう一度会いたい」

「澄野君の幼馴染だよね。私とそっくりって言う」

 

 本人の前で言うのは気が引けたが、今更。距離を取られることはないと信じての発言だった。

 

「だったら、会えたかどうかだけでも他の奴らに聞いてみたらどうだ?」

「いや、遠慮する……」

 

 決して、厄師寺に悪意があった訳ではない。だが、拓海としても聞くに聞けない内容だった。

 もしも、あの日の襲撃で彼女が死んでいたと言われたら。やり直しの効かない範囲で亡くなっていると言われたら、この先も戦っていける自信が無かった。

 

「(そして。実で言うと、薄々。そんな気はしている)」

 

 自分に何かをして欲しい場合の交渉材料として、これほどまでに打って付けの物があるというのに誰も口にしないのが気になっていた。

 ひょっとしたら『協定』なる物で決まっているのかもしれないが、自分には明かせない『害となる情報』なのかもしれない。

 

「分かんないなら、分かんないで良いじゃん? 怠美は、皆が誰かを傷つける様な奴らじゃないとは思っているからさ」

 

 デスゲームだとかコロシアイ云々言っていた奴が吐くセリフではないと思った。だが、彼らの中に一定の信頼はあるとは信じたかった。

 

「なんなら。俺達も霧藤と似たような理由で遠ざけられているのかもな」

「危険な目に遭わせない為にってことかな。それでも」

 

 距離を取られるのは寂しい。というのは分かる。分からないことだらけだが、分からないことは分からないなりに話し合う時間と言うのは有意義だった。

 すっかり、視聴で消耗しきったメンバーは一旦自室に戻ることにした。ベッドに潜った拓海はぼんやりと考えていた。

 

「(そう言えば、もう1人。メンバーが居た様な)」

 

 どういう訳か。一向に姿を見せないのが気になりはしたが、いつになく重い瞼をピッタリと閉じて、夢の中へと落ちて行った。

 

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