「拓海クン。その様子だと、昨日は過子ちゃんから色々と話を聞いたんだね」
翌朝の食堂。浮ついた話は無かったが、色々と自分達が置かれている状況の詳細を聞いたが、整理しきれずにいた。
「なんか情報の洪水と言うか。蒼月達は全員把握している感じか?」
「そうだよ。人類ってカスだよね」
鵜呑みにする訳ではないが、腑に落ちることは多い。
侵略戦争の片棒を担がされているとなれば、蒼月でなくとも人工天体にいる者達に忌避感が出ることも無理からぬことだった。
だが、今更戦いを止めることは出来ない。既にフトゥールムとの対立は決定的な物になっているからだ。
「それは別に人類関係なく、僕達がヴェシネスを殺したいだけだから、気に病んだりする必要もないよ!」
「えーっと。色々とオレが酷い目に遭うTLがあるんだっけ?」
「そうだよ。【男娼】TLではねぇ、僕達にプレイを見せつけて来てねぇ。思い出しただけで、殺して来たくなっちゃったよ……」
とか言いつつ、股間にテントが出来ていた。きっと蒼月も男子だから朝立ちぬ。しているだけだと納得することにした。
「それと【誘拐】TLと【花婿】TLの違いが分からないんだけど」
「【誘拐】TLは拓海クンがヴェシネスに拉致されて手籠めにされるんだよね。【男娼】TLと違って、僕らが某配管工兄弟みたいに取り戻そうとして、ぶつかり合う話なんだけれどね」
「オレは姫様か!!」
どうやら立場的に【誘拐】TLの方が拮抗していた雰囲気はある。では【花婿】TLとは何だろうか?
「拓海クンがヴェシネスに告白するTLだよ。あの時のヴェシネスの乙女顔は本当に気持ち悪かったよ」
「見境ないな……」
もしかして、自分はかなりのスケコマシなんじゃないだろうか? いやいや、自分は自分だ。そんな話を聞いていたら、ナンパな男にはなるまいと決意した。
「自分とやった癖に……」
「うわあああ!?」
何時の間にか、背後から近付いて来た今馬が耳元で囁いていた。
既にヴェシネスとイヴァーと致して、後輩とヌチョヌチョしている時点で軟派でない。というのは無理がある。
「今馬クン。21日が過ぎるまで、再戦は禁止だよ?」
「しゃーないっすね。自分、待っていますからね」
耳元で囁かれ、頬にキスをされた。蒼月のことをとやかく言えない生理現象が股間付近で起きていた。
「なんで、イヴァー戦が終わるまで禁止に?」
「この理論は、もこさんが詳しいんじゃないかな。説明、お願い!」
様子のおかしいメンバーの中では口数も少なく、比較的マトモな彼女はのしのしと巨体を揺らしてやって来た。
「これは格闘家とではよくある話なんだけれどね。そう言う悶々を溜め込むことで、勝負の時に一気に解放するのよ。澄野君、TOUGHを読んでいるんでしょ? そういう話もあったハズよ」
高校鉄拳伝の次回作『TOUGH』の方で似たような話があった。うーっ、我慢できない。やらせろ! というのは、決してネタでは無かったと言うことか。
「そうだ! そう言う管理が出来るなら、今日はもこさんと一緒にいて貰おうかな。僕と楽クンはそろそろ制御できなくなりそうだから」
チラッと見たら、丸子は箸の先端をガジガジと齧っていた。誰が見ても欲求不満だというのが見て取れた。蒼月も澄ましているが、股間が凄いことになっている。学生兵器(クラスウェポン)だ。
「報せてくれてありがとう」
拓海はそそくさと食堂を去って行った。喪白もちょっと遅れて付いて行った。
……そして、拓海が据わっていた椅子に移動した蒼月はフゥと溜息を吐いていた、机に突っ伏していた。
~~
「はぁ~~~~~」
VR訓練室。ここではシミュレーターを通して戦闘訓練を行えるが、使っている人間を見たことが無い。そんなことをしなくてもバチクソに強いからだ。喪白は適当な椅子に腰かけて、クソデカ溜息を漏らしていた。
「(そう言えば、本当の喪白とちゃんと接触するのはこれが初めてか)」
1周目では、喪白は既に殺害されていた。あの時に接していたのは、敵部隊長が変身した物であった為、本人としてちゃんと話すのはこれが初めてか。
話に聞いていた限り。彼女は第2防衛学園においてはリーダー的存在であり、フィジカル的にも精神的にも中心的存在だったと聞いたが。
「なんか、疲れていないか?」
「分かる?」
目の前にいるのは体格こそは良いが、心底疲れている少女だった。察してくれたのかが嬉しかったのか、凄い勢いで愚痴を吐き出し始めた。
「そりゃ、皆のことは大事に思っているし。色々なTLでも肩を並べて来たから友達だとは思っているけれど、トチ狂い過ぎてちょっと付いて行けないのよね。でも、こっち側にいないと霧藤ちゃんが何されるか分かんないし、正直滅茶苦茶しんどいのよね……」
喪白もこ。彼女は、気の毒な位に普通の感性の持ち主だった。あんな異常な熱量を持つ奴らに付き合って疲れない人間がいない訳が無い。
「そりゃ、あの熱量に付き合っていたら疲れるよな……」
「熱量もある上、滅茶苦茶強いから力づくで止められないのよね。プロレスラーの肩書が泣いているわ……」
メンバーの中では一番筋骨隆々としているが、我駆力の前では飾り位でしかないのだろう。そう言えば、と。気になることがあった。
「ちなみに特防隊で一番強いのって誰なんだ?」
「ぶっちぎりでつばさちゃんよ? 部隊長戦だと、蒼月君か比留子ちゃんね」
以前の防衛線での暴れっぷりを見れば分かる。1人で延々と侵攻生を排除しまくっているんだから、キルスコアが狂っている。
「つまり、アイツは滅茶苦茶強い上、便利な道具も開発出来て、設備や機器の修理も出来るパーフェクトウーマンなのか?」
「代わりに倫理が一番狂っているわ。澄野君、次に彼女と1日を過ごす時は気を付けなさい。いや、マジで」
既に今馬がラインを破ったので、次からはどうなるか分からない。人工天体は川奈を連れて来るべきだった。
「あ、ちなみに『つばさちゃんを沢山用意し解けばよかったのに』とか言わないようにね。そんなこと言ったら、何が起きるかは想像できるでしょ?」
軽々にそんなことを言えば、モノ作りが得意な川奈がナニをするかは想像に容易かった。色々と親身になって警告をしてくれているのは良いが、喪白は溜息ばかりついていた。
「大丈夫か?」
「大丈夫じゃない~。皆、アタシより強いし。矜持も何もかもボロボロだし」
そもそも、特防隊のメンバーが異常な位にポジティブで頑強な奴らばっかりだが、普通は周回すれば疲弊していく物であり、喪白はまさしく普通だった。
「やっぱり、お前も。なにか疲れるようなTLを?」
「そうなのよ。【血の気】【残酷】【ヤクザ】【筋肉】TL辺りが、アタシの尊厳を悉く破壊していったのよ……」
「物騒なTLばっかだな!?」
R-18の後にGが付くタイプのTLを経過して来たのだろうか。残酷とヤクザは何となく想像できるが、血の気とは何だろうか?
「皆が血の気MAXのイカれたTLよ。銀崎君から『テメーらぶっ殺してやる!!』なんて暴言聞いたのは、後にも先にもあのTLだけよ」
銀崎ですら暴言を吐くTLがあったのか。その様子だと、多分。学園は聞くに堪えない暴言が溢れていたのだろう。
「ちなみに普段から暴言吐いている大鈴木は?」
「キレ過ぎて獣みたいな咆哮しかしていなかった」
侵攻生と壮絶なコロシアイが行われたのだろう。これ以上、根掘り葉掘りするのは止めよう。
「筋肉TLは?」
「皆がムッキムッキで筋骨隆々になるTLよ。身長180cm以下はいなかったわ。何なら、アタシが一番小さかった位。つばさちゃんはダンプカーに乗っていたし、銀崎君はガオガイガーみたいなのに乗っていたし、雫原さんは丸太を振り回して、霧藤ちゃんはM63をぶっ放していたわ。部隊長は死んだ」
プロレスはあくまでショーで楽しませる物であって、暴力その物と言う訳ではないので。そう言うモンばっかり見せられて来た彼女が委縮するのは仕方が無かったのかもしれない。
「なんだろう。今までのご褒美タイムで一番ほっとしているというか。同じ目線で話せている感じがある」
「皆が異常に頑強だからね。澄野君、もっとアタシの愚痴聞いてぇ」
聞いていた話と違って、弱音も吐く普通の少女と言った具合だったが、これが拓海を大いに安心させた。
そして、彼女の愚痴を介して周回している特防隊のメンバーの異常っぷりが浮かび上がっていた。
「女子で一番ヤバいのは、つばさちゃんね。何がヤバいって盗撮から盗聴まで自前で用意できるし、暴力が一番強い。後、澄野君に対する執着が異常なのよ。彼女曰く、周回していて一番結ばれた回数が多いのは私! って主張していたけれど」
「アイツ、まともそうなのに」
むしろ、蒼月みたいに目に見えて危険だと分かるタイプの方が助かるのだが。いや、部屋に盗撮カメラ設置してくる奴がマトモだとは思わないが。
他にも直ぐに情事の話になったりと、恋愛なんてまるで期待できない爛れた空間になっていたし、どの周回でも記憶がない霧藤からいっつも距離を取られていて、凹んでいたとか。
「霧藤はどの周回でも記憶がないのか?」
「そうなのよね。多分、ここら辺は我駆力が関係しているんだと思う。私が憶えているTLでも厄師寺君と怠美ちゃんには周回の記憶があったし。【ヤクザ】TLの話だけれど」
「ヤクザな厄師寺か~。似合ってそうだな」
似非ヤンキーの厄師寺が真っ当にヤクザをやっているのも気になる。飴宮は普段と変わらなさそうだが。
「バカね。厄師寺君はあの見た目で善人だから良いのよ。部隊長の頭蹴りつけて、暴言と唾吐いている厄師寺君なんて解釈違いも良い所だわ」
「そんなの厄師寺じゃない!!」
拓海の心からの叫びだった。人の厄師寺に解釈違いを起こさせるなんて、とんでもない厄師寺が居たモンだ。
「逆にね。怠美ちゃんは『死ね』ってだけ言うのよ。普段イカレポンチな子が飾り付けないで吐く殺意聞いて思ったわね。あ、コレが本物かって」
「オレ、そのTLでやって行ける自信ないよ……」
「ちなみに。そのTLで、澄野君。部隊長を樽に固定して『何本目に死ぬかやろうぜ!』って、我駆力刀を使った黒ひげ危機一髪をやっていたわ」
出来るだけ。他のTLを思い出さない様にと、拓海は静かに願っていた。きっと思い出した瞬間、自分はとんでもない怪物に変貌するんだろうと。
「逆に。喪白はなんで染まらないんだ?」
「えーっとね。皆、澄野君に影響を受けるのが大きいんだけれど。その、ホラ。アタシと澄野君って、結構距離あるじゃん?」
特防隊のメンバーの中では1周目に遭遇していなかったし、他のメンバーよりも縁が薄いというのは否めない。
「オレと仲良くない方がマトモでいられるのか……」
「あぁ、その。誤解しないでね? 澄野君のことをどうでも良いと思っている訳じゃないの。そう、友達。希ちゃんと同じ大切な友達と思っているの」
慌てて取り繕ったが、決して喪白を責めたつもりはない。むしろ、マトモでいてくれることは有難かった。
「ごめん、責めるつもりはないんだ。むしろ、それ位に冷静な奴がいた方がありがちと思ってさ。ほら、先日の話でも霧藤を説得してくれたし」
「あの時は取り繕ったけれど、正直。今の希ちゃんじゃ、イヴァーは相手に出来ない。それ位に強いの。だからね、言うべきではないと思うんだけれど。澄野君。彼女のことを、お願いね?」
川奈魔神が何でもしてくれるという訳ではない。久方ぶりに学友らしい会話を楽しみながら、この日はゆっくりと過ぎて行った。