来るべきXデーこと。21日目は明日に迫っていた。最終防衛学園側でもバタバタしている様に、部隊長達もバタバタしていた。
「現在、部隊長は12人中5人が捕まっており、兵隊こと侵攻生物達も大半は使い物になりません。詰みです」
部隊長を代表してゼンタが現状を報告した。というのも、拓海を奪還する為にやって来たイカレポンチども。特にジープを乗り回していた女が1人で何百体もの侵攻生物を葬り去って行くんだから兵隊が戦力になっていない。
「本当にお前らは使えんな。もう、吸収して偉大なる私の糧になる位しか使い道がないのか? イヴァー、景気づけに1人位。吸収していくか?」
「ままままま。待って下さい! その為の私です! ほら、私の能力を思い出して下さい! 変身。そう、変身です!」
『調和の化神』と言われている彼女は他者の容姿や能力だけでなく、記憶までコピーして変身、複製することが出来るのだが。
「なるほど。澄野とコッソリ入れ替わって、向こうでネタバラシをしてくれるのね。バレたら即吸収コースだと思うけれど」
イヴァーがニッコリと物騒なことを言っていた。攪乱や潜入と言った面では無類の強さを誇るゼンタの能力だが、バレたらどうなるかは言うまでもない。と思っていると、チューラムタミーが控え目に挙手していた。
「でも、あのキチ〇イ共の目を誤魔化せるの?」
幾ら容姿を寄せようとも、異常と言えるほどの執着を抱いている連中の目を誤魔化せるかどうかは微妙な所だ。ゼンタも言葉を詰まらせていた。すると、今まで黙っていたパーミスが震えていた。
「ここは! 信愛の化神として言わせて貰いますけれど! 連中の愛を前に、多少の誤魔化しは無駄としか言いようがありませんッッッ!!」
「何言ってんだお前……」
不撓の肩書が泣いている位には及び腰になってしまったバラガルーゾがドン引きしていた。ただ、彼女の発言に興味があったのかヴェシネスが促した。
「続けろ」
「なので、スミノ タクミに変身して替え玉とか意味がありません。同様に連中の誰かになり変わっても意味がないでしょう」
基本的に複数行動しているので、誰かになり変わっても……行動を誘導出来るかもしれないが、あまりに不安定だ。
「じゃあ、私の出番は無いってことですか?」
ゼンタがホッとしていた。敵陣に単身突っ込まされるとか、死刑宣言みたいなモンなので、回避できそうな流れは喜ばしい。だが、パーミスは首を横に振った。
「いいえ。ゼンタは皆さんの気を引いて貰います。そう、イヴァー様になり変わってね」
「私に死ねと?」
イヴァーになり変わると言うことは、即ち。特防隊のイカれたメンバーを相手にしろと言うことであり、変身能力と複製位しか出来ない彼女では瞬く間にボロ雑巾にされてしまうことだろう。
「なので、ヴェシネス様に進言させていただきたい!! 覇道の化神。ダルシャー様を開放して、連中にぶつけましょう!」
「簡単に言ってくれるな。幽閉した私のメンツもあるのだぞ?」
この場にいないもう1人の部隊長格。ヴェシネスとも比肩しうる存在であるが、部隊長達を二分しかねないと言うことで幽閉されている。
「全ては愛の為です!! ダルシャー様はご子息やアダムキュー達の救出の為! そして、イヴァー様はスミノ タクミを奪還する為! バルガルーゾはシャンシンを取り戻す為!! 今回の作戦は愛がメインなのです!!!」
どうやら、部隊長の中にも特防隊のメンバーに劣らぬ狂人がいるらしい。指名されたバラガルーゾは『何言ってんだこいつ』みたいな顔をしていたが、ヴェシネスとイヴァーは拍手を送っていた。
「素晴らしい。詰まらぬ蟠りを捨てる必要性はよく分かった。ダルシャーを解放しよう」
「え?」
「その通りです。小細工無用!! 愛との勝負には愛でぶつかるべきです! アタシも共に赴きましょう!!」
コレにはゼンタも呆けるしかなかった。まさか、本気でこのイカれた作戦を敢行する気じゃないだろうかと。そして、バラガルーゾも声を上げた。
「あの。ごく自然に俺も作戦に駆り出されるように聞こえるんですが」
「なんだ。お前は自分の妻を取り戻しに行かなくても良いというのか?」
「まさか、栄えある部隊長の中でそんな腰抜けがいる訳ありませんよね? ましてや、不撓の化神が戦う相手を選ぶなど」
ヴェシネスとイヴァーにパワハラれたら、バラガルーゾも出撃せざるを得なかった。ただ、彼も地獄の巻き添えに提案をしていた。
「だ、だったら。今回の作戦は陽動が大事だ。チューラムタミーと耐久の為にヌガンクも出るべきだ!」
「は!? 巻き込まないでよ!?」
突如として白羽の矢が立ったので彼女は全力で拒否していたが、ヴェシネスらからジロリと睨まれた。
「偉大なる私の妹が赴く作戦だ。チューラムタミー、ヌガンク。お前達にも同行する名誉を与えよう」
「……はい」
「分かりました。出来る限り、頑張って全員を生還させたいと大観ます」
マスクの下でシワシワ顔になっているチューラムタミーを慰める様に、ヌガンクが彼女の肩を叩いていた。かくして、ヴェシネスを除く残りの部隊長全員が出撃するという超大規模作戦になろうとしていた。
~~
「という訳で、ダルシャー様が解放される運びになったのですが」
ゼンタの困惑は収まらなかった。部隊長達を二分するとか、色々な理由があって幽閉されていたダルシャーがあっさりと解放されたからだ。
彼もまた、部隊長としてマスクを装着していたので素顔は分からなかったが、佇まいや、放たれている雰囲気はヴェシネスに比肩しうるだけのものがあった。
「ちょうど良い。ワシも件の学園には用事があったのだ」
かつて、彼の部下として働いていたゼンタはマスクの下で目を輝かせていた。
また、覇道の化神と共に戦えるのだと。そして、囚われたムヴヴムや仲間達を助けて、あの黄金色の日々が戻って来るのだと。
「それでは、ダルシャー様!」
「我が息子であるムヴヴムとスミノを迎えに行くぞ」
「…………え?」
もしや、幽閉期間が長くて、せん妄状態に陥っているのだろうか。いや、まさか。自分が敬愛する猛将が、そんな世迷いごとを。きっと、聞き間違いだ。
「どうした。作戦は明日だろう? 少しでも早く、勘を取り戻したい」
「そ、そうですよね! ムヴヴム様やアダムキュー、パクロンのことも助けに行きませんと!」
「おい。スミノのことを忘れているぞ」
気のせいじゃなかった。自分の記憶の中では交流など無かったハズなのだが、一体何が起きているというのか。
「あ、あの。一体、スミノとはどのような関係で……?」
「む? あ、そうか。思い出しておらんのか。よし、では語ってやろう。アレはワシが連中の拠点に攻め込んだ時の話でな」
イカレた同僚、パワハラ上司の妄言なら我慢できたが、敬愛していた師とも言える存在から妄想を聞かされるのは堪ったモンじゃなかった。
今日1日だけで、ゼンタのメンタルはゴッソリと削れていた。調和の化神は身内に掻きまわされていた。
~~
「という訳で、カミュン。明日、澄野を迎えに行くよ。ついでに希も」
『母上は何故、最終決戦を?』
その日の夜。イヴァーは通話をしていた。相手の姿がホログラムで映し出される物であり、通話相手は澄野達よりも背格好の低い少女だったが、立ち振る舞いは堂々としていた。
「あの学園の中に居たら、澄野は食い物にされるの。私は【嫌われ】【肉欲】【ペット】【監禁】TLで連中の本性を見て来ているんだから……!」
イヴァーの顔面に血管が浮かび上がっていた。普段は穏やかだが、やはりヴェシネスの妹と言うこともあって、ブチギレている時は本当にそっくりだった。
『いや、アレは状況が連中を狂わせただけで本性と言う訳では』
「ならば、間違いが起こる前に保護するべきよ!」
『まさに、母上が拉致監禁と言う間違いを起こそうとしている様に思えるんじゃが……』
同じ穴のナントヤラだろうか。とは言え、こうなったイヴァーが話を聞かないということは分かっているか、それ以上の説得はしようとしなかった。
「大丈夫。希もキチンと連れて来るから。お姉ちゃんとお父さんが出来るよ」
『母上の『女』の部分なんて知りたくもないんじゃが』
実際の所、イヴァーと澄野の年齢を考えたら夫婦関係というのが若干気持ち悪く思えるが、そこん所は周回で培った関係性でねじ伏せていた。
「無事に連れて帰って来られたら、ケーキを振舞うから楽しみにしておいてね」
『ケーキってアレか? 母上の女体盛ケーキか? もしも、やったら。今度から母上って呼ばんからな』
「じょ、冗談よ……」
本当に冗談だったんだろうかという不安がカミュンの表情にありありと表れていた。通話もほどほどにして、イヴァーは溜息を吐いた。そして、得物である鎌に映り込んだ自分の姿を見て口角を釣り上げていた。
「待っていてね。澄野、希」
間もなく、最終決戦規模の戦いの日が訪れようとしていた。巻き込まれた面々は堪ったモンじゃないが。