日が落ち、夜が訪れた。物々しい最終防衛学園付近にはヴェシネス以外の部隊長達が集結していた。彼らは一様にして驚愕していた。
「どんだけ要塞化しているんだ……」
すっかり折れやすくなった不撓の化神が初手で嘆いていた。
以前までは消えない炎位しか障壁は無かったが、今は地雷だのスタン柵だの、爆弾だの。目を凝らせば落とし穴らしき物まで散見された。更に空中にはドローンが哨戒しており、周囲に目を光らせている。
「ここまで出来るのは正に『スミノ タクミ』への愛ゆえ! 果たして、アタシ達の愛が上回るのか!」
パーミスがクネクネしながら何か言っていた。イヴァーとダルシャー以外の部隊長がゲンナリする中、ゼンタは仮面越しにも分かる位に気落ちしていた。
「あのぅ。本当に私がイヴァー様の代わりを?」
「はい。大丈夫ですよ。ダルシャーと私が校舎内のスピーカーを破壊して回ったら、チュラームタミーの幻覚攻撃でカス共がトリップするんで、それを殴っていれば良いだけです」
正気を取り戻した瞬間、ミンチにされそうなんですが。と、口答えをしようとしたが、よく見ればイヴァーの目が一つも笑っていなかったので何も言わなかった。彼女を気の毒に思ったのか、ヌガンクが肩を叩いた。
「出来る限りは生かして返しますんで……」
「ゼンタ! 頑張れよ! チュラームタミーとお前が足止めしてくれている間。俺は必ずシャンシン達を救い出すからな!」
「不撓やめちまえ」
バラガルーゾからも激励されたが、どうやら彼自身は真正面から戦うつもりはないらしい。相方を助けることを口実に前線を避けようとする男に『不撓』なんて肩書が似合うはずがない。精々、不当辺りだろうか。
だが、ゼンタは一縷の望みを掛けた。我が将、ダルシャーならばきっと。猛者との戦いを求めて、自分の元へ駆け付けて来てくれるハズだと。
「ムヴヴムとタクミは仲良くしているだろうか。迎えに行った時に何と言おうか。やっぱり、ここは『帰るぞ』って短く言った方がカッコいいか?」
「いいですね。私もやってみようかな」
ボケ爺と色バカが捕らぬ狸の皮算用をしていた。
ここで急に叫び出して警報鳴らしたら、全部おじゃんになるんじゃないか。という思考がゼンタの中に過ったが、止めた。そんなことしたら身内に殺される。
「では、行くか」
「はい」
瞬間、浮ついていた空気が一瞬で引き締まった。何かを確認する様に懐にある物を握りしめた後、イヴァーはダルシャーに抱えられた。
2人は最終防衛学園を取り囲む消えない炎を難なく潜り抜け、あらゆる防衛装置に存在すら認識させないまま2人は堂々と侵入していた。
~~
程なくしてのことである。校舎内に流れていたBGMが止んだ頃合いを見計らって、周囲に待機していた侵攻生物達が攻め込んで来た。
その多くは防衛学園に設置された迎撃用の兵器で消し飛ばされていくが、進撃を止めようとはしない。彼らの後ろでは、ツインテールを垂らしたかのような造詣が特徴的な部隊長が応援していたからだ。
「はーい! 皆―! タミーの為にがんばってー!!」
チュラームタミーの応援によって恐怖心が麻痺しているのか、仲間の死体を乗り越え、同胞の死体が落とし穴の中で転がっていようと進行を止めない。
そんな彼らを無慈悲に鏖殺していく迎撃癖の前に突如一つの巨体が現れた。ムヴヴムの∞態とよく似てはいるが、全身は漆黒とも言える程に黒く。相貌が煌々と光っていた。
「殺戮を効率化するか!」
両翼を振りかざし、タレットやドローン達を次々と潰していく。
そのまま地上に展開されている爆弾や柵。落とし穴等も抉り返そうとした所で、巨体の持ち主ことダルシャーは飛びのいた。瞬間、彼が居た所に大鎌と戦斧が突き刺さっていた。
「こんなにお仲間を引き連れて。死に場所を求めに来た老兵にしては随分と準備万端なんだね」
「たわけ。今のワシは息子を迎えに来ただけよ」
蒼月が嘲笑する様に言ったが、ダルシャーはまるで相手にする気が無かった。雫原も続く。
「ムヴヴムなら返してあげるから、さっさと帰れば? 貴方を相手にしているほど、暇じゃないの」
「一人足りんぞ。スミノ タクミがな!」
巨体から繰り出される一撃を避けながら、蒼月と雫原はダルシャーを相手取っていた。最終防衛学園に置いて、周回の間に多数の部隊長を討ち取って来たエースキラーの2人の動きはかつてない程に冴えていた。
――
『うぉおおおお! 俺も行くぞ!! ∞態!!』
侵攻生物とダルシャーが軒並み障害物を排除した後にバラガルーゾが突っ込み、自らの首を掻っ切った。噴き出した血が彼を覆い尽くし、猪のような巨大な獣の姿へと変貌していた。
部隊長達の猛侵攻が始まるかと思いきや、一瞬で侵攻生物達が排除された。下手人はジープに乗っていた。そう、特防隊一の暴を持つ女『川奈つばさ』の襲来である。
「丸子!! バラガルーゾの相手は任せた!」
「行くぜぇええええええええ!」
普段は消極的であるはずの彼には異常な位にやる気に満ちていた。
川奈のジープに乗っていた丸子は、∞態へと変身していたバラガルーゾに飛び乗っていた。すると、我駆力刀を取り出して、巨体の背中をめった刺しにしていた。
「うぉおおおおおお! 澄野ぉおおおおおおお!」
「なんだコイツ!?」
巨大なイノシシの様な体型をしたバラガルーゾは自分の体に張り付いた者に対する攻撃方法を持たない。
故に、その場で転がって振り落とす位しか対処方法が無いのだが、丸子は近くを飛んでいた今馬の手を取って、空中へと逃れていた。
「サンキュー!」
「うわ。手汚っ」
さっさと手を放したかったのか。バラガルーゾが態勢を整えるのとほぼ同タイミングで丸子を放り投げた。すると、背中に付けた傷にガトリング型学生兵器(クラスウェポン)の砲身を突き入れた。
瞬間。バラガルーゾの体内で大量の弾丸が放たれ、跳ね回る。筋繊維を突き破り、骨を砕き、内臓を掻き混ぜ、グロテスクなスムージが作られていた。
「(つ、強い。強すぎる……!!)」
幾ら、強いと言っても∞態に変身した自分を1人で何とか出来る程ではないだろうと高を括っていたが、こんな僅かな交戦時間で致命傷を負わされていた。
だが、自分の体が青い光に包まれたかと思えば、傷とダメージが癒されて行く。正確に言えば、傷が無かった状態に巻き戻されていた。
「あ。丸子先輩、近くにヌガンクいますよ」
「じゃあ、そっちから殺そうぜ!!」
なんで、コイツら。部隊長の能力を把握しているんだ? と思ったが、丸子と今馬が自分をスルーしてヌガンクに向かって行った。バラガルーゾがやることはただ一つ。
「うぉおおおおお! シャンシン! 今、助けに行くぞ!!」
どうやら、ヌガンクは助ける対象に入っていないらしい。
かくして、侵攻生物の断末魔と悲鳴が積み重なり、特防隊の精鋭達がダルシャーと交戦をして、チュラームタミーとヌガンクが狙われ、パーミスがインターセプトがてら彼らの愛を堪能している中、バラガルーゾは校舎へと入って行った。
「喪白殿! あの部隊長を追うでござるよ!」
「そうね!(私達が出来ること殆ど無いし)」
そんな彼を追う様にして凶鳥と喪白も校舎へと入って行った。彼女達もまた出来ることが少ないのかもしれない。
「(生きて帰れますように!!)」
そして、イヴァーに変身したゼンタは前線の連中がこっちまで上がって来ないことをお祈りしながら、ミストマシーンに号令を掛けていた。最終防衛学園は霧に包まれ始めていた。
~~
「キェエエエエエエエ! 覚悟ォ!!」
意気揚々と校舎に侵入したまでは良かったが、バラガルーゾは学園内の構造をよく知らなかった。その上、後を付けて来た2人組に追い回されていたんだから堪ったモンじゃない。
「オラァー! 不撓の化神っつぅんなら勝負しなさい!!」
凶鳥と喪白の2人はやる気だった。なんたって、彼女達は表で暴れ散らかしている奴らと違って掃討戦が得意な訳でも無ければ、ボス特攻と言う訳でもない。かと言って大鈴木の様にガジェットに命令を下せるだけの能力がない。
だからと言って、九十九兄妹の様に状況に応じて適した役割がある訳でもない。周回組においては、彼女達の戦力は微妙と言わざるを得なかった。なので、少しでも功が上げられそうなチャンスに目を光らせていた。
「畜生!」
バラガルーゾは情けなく逃げ続けていた。だが、彼には目的があった。そう、最高の相棒であるシャンシンを救い出すという目標がだ。
「(イヴァーの奴。スミノをどうとか言っていたが、やっぱり好意は人を狂わせるというのか)」
いつの間にか背後から追って来ているのは1人だけになっていた。猛烈に嫌な予感がした。前を向く。向こう側からもう1人が走って来た。
「終わった……」
全てを諦めようとした時、前から迫り来ていた喪白の更に背後から閃光の様に駆けて来る者が1人。すれ違いざまに喪白を気絶させ、バラガルーゾの脇を擦り抜け、彼を追っていた凶鳥と矛を交えていた。
「なにっ!?」
「良かった。貴方位ならどうにでも出来るわ」
見れば、イヴァーは学園内の何処からか取って来たのだろうか。学生鎧を装着していた。凶鳥相手には本気を出すまでもないと言った姿勢が伝わったのか、彼女は叫んでいた。
「なんでござるか。拙者はボスキャラの強さを示す為に、突っ込んでやられるかませでござるかあッ! なめるなッ!!」
威勢よく襲い掛かったのは良いが、直ぐにイヴァーの方が有利に傾いていた。
こればっかりは後方でラストエールばっかして実戦の腕が錆びつきまくった凶鳥と部隊長として特防隊のメンバーと何回も殴り合いをして来たイヴァーとの実力差だった。
「ジャマよ」
凶鳥に対しては目くじらを立てる程、怒ってもいないのか。彼女の武器を弾き飛ばした後は、普通に締め落していた。あまりにあっさりと2人を撃破していたので、バラガルーゾは舌を巻くしかなかった。
「(強い。あまりにも……)」
「バラガルーゾ。シャンシンを助けるんでしょう? 付いて来なさい」
「は、はい!」
有無を言わさぬ姿勢に、バラガルーゾはイヴァーの跡を付いて行くしかなかった。