夢を見る。というのは、眠りが浅い状態にあるらしい。これだけ特殊な状況でゆっくりと体を休めるというのはやはり難しかった。
とにかく色々な夢を見た。自分【TS】したかと思えば、皆が糞ほど暴言を吐きまくる【血の気】に満ちた展開。手あたり次第、全員とヤる【肉欲】に支配された展開など。リアリティに満ちた物もあれば、荒唐無稽な物もあった。
「(もしかして、これが皆の言っていたTLか?)」
拓海が目を覚ましたのは26日目の深夜だった。朝食を取ってから二度寝して、こんな時間まで寝ていたことを考えると、余程寝不足だったらしい。
「(そうだ。もしかしたら、蒼月が……)」
部屋に運んでくれたから、もしかして今もいるのかと思ったら。部屋の隅で椅子に腰かけて寝ていた。どうやら本当に自分の安眠を守ってくれていたらしい。
「(考えたら、アレだけ人類や皆を憎んでいたコイツがこんなに協力的になるなんて。どんなTL通って来たんだ?)」
彼の認識障害は治療されたと聞いているが、それまで積み重ねてきた物まで是正されるのだろうか? 話を聞いてみたくはあったが、こうして寝ている彼を起こすのは申し訳ない。
ベッドまで運ぶことを考えたが、身長差もあって無理だった。なので、シーツを掛けておくに留めて、自分は外に出た。夜風に当たり、1人でいると今まで考えて来なかったことが思い浮かんで来た。
「(今の所は、誰も犠牲になっていないんだよな)」
特防隊のメンバーだけではなく部隊長達ですら誰一人犠牲になっていない。強いて犠牲者を言うなら、侵攻生物とSIREI位か。
「(100日目がゴールだって言われているけれど、オレはイヴァーや皆を殺すという選択肢は取りたくない)」
もしも、1周目なら謎の侵略者達として始末も出来たが、既に彼女達がコミュニケーションも取れる存在だと分かっている。
「(それにまぁ……)」
肌を重ね合わせたことも。思い出して頬が赤くなって来た。今の自分は爛れた生活を送っているが、それでも初体験は記憶に残っている。
「何を考えていたの?」
ボゥっと我駆力が集まる気配がしたので、振り向いてみればシオンが居た。ここ最近は会えなかったので久々だ。
「これからのことを。前は流されるままに100日目を目指していたけれど……」
「今はどういう100日目を迎えたい?」
人工天体に帰ることか。カルアや皆が待つ東京団地に戻ることか。
いや、もしも自分が欲望のままに未来を選べるとしたら。このフトゥールムを手中にして、王になることも不可能ではないかもしれないが。
「皆と一緒に迎えられたらって思うよ。それ以上は望んじゃいない」
欲張った所で碌なことにはならない。自分が求めるのはあくまで平穏で普通な日々で。その隣に、友人達がいてくれたら良い。
「その皆って言うのは何処まで含まれる?」
「お前と。それに……イヴァーやヴェシネス、部隊長達も一緒にとは思う。人類が始めた戦争だけれど、オレ達には関係ない」
お互いに理解も何も無かった故に殺し合うしかなかった。だが、今は自分が鎹になって、何とか繋ぎとめられる可能性がある。ならば、賭けてみたい。
「良いと思う。このまま殺し合うよりはずっと」
「和解に成功させたTLってのはあったのか?」
「あまり多くはないけれどね。幾ら、澄野達が和解したとしても、フトゥールム人が受けて来た被害や恨みが晴れる訳じゃない。それに人工天体の面々からしても、現地人が生き残っているのは邪魔だから」
フトゥールムとの確執、人工天体の干渉。思った以上に立ちはだかる壁は大きい。だからと言って、最初からあきらめていたら何も手に入らない。
「それでもやりたい。特防隊の皆や部隊長達がオレに好意を寄せてくれているなら、それに応えたい」
「今の澄野。霧藤さんにそっくり。何でもハイハイって頷き過ぎない方が良いよ。じゃないと、とんでもない目に……いや、もう遭っているか」
防衛学園に置いて爛れた日々を送っていることは、シオンも把握していた。ふと、気になったことがあった。
「お前は記憶もちゃんとあるけれど、態度はフラットなんだな」
「ここら辺は我駆力云々も絡んでいるんだろうね。ただ、皆ほど情熱的じゃなくても、澄野のことも大切に思っているよ」
面と向かって言われるとなんだか照れ臭かった。同時に嬉しく思った。自分が誰かに大切に想われていることは嬉しい。
「オレが知っている1周目じゃ一緒に行けなかったら、今度はお前とも一緒に100日目の先に向かいたいよ」
「期待しているよ」
誰に聞かれる訳でもない深夜の会話。再び眠気が来るまで、暫しの間。シオンとの歓談に興じていたのだが。
「所で。澄野は誰が一番好きなんだ?」
「えっと。その、まだ自分でもそう言う感情が分からないというか……」
途中から本当に男子みたいな会話になっていた。改めて、コイバナとなっても誰が好きなのか? というのは自分でも把握しづらい所がある。
「霧藤さん?」
「好きとはちょっと違う気がするんだよな。大事な存在ではあるが、恋愛とはまた違うというか……」
未だに『柏宮 カルア』と重ねている部分はあるし、例のビデオレターで疑惑は強まるばかりだ。敢えて、近い感覚で言うなら『家族』だろうか?
「凶鳥さん?」
「第2防衛学園の女子グループはなんて言うか、愉快な女友達というか」
本人達に聞かれたらぶっ殺されかねない評価だった。とはいっても、イルブリードを勧めて来たり、TOUGHを勧めて来る奴を恋愛対象にするのは難しい。喪白は良い奴だが、それ以上の印象がない。
「じゃあ、面影?」
「なんで男が出て来るんだ?」
「だって、彼としている時の澄野はとても楽しそうだったから」
確かに人体への刺激という点で、アレだけの快楽は経験したことが無かったし、今後も無さそうな気がする。何より、面影自身が気遣いやら何やらが出来る良い奴だということはあったし。
「そこは置いておこう。うん」
「そっか。じゃあ、過子ちゃんは飛ばして今馬?」
「後輩として守りたいとは思っているが、恋愛としては……」
と言いかけて、あの夜を思い出した。あの艶めかしい容姿や仕草は心を惑わせるが、恋愛とかそう言うのではない。サラッと、過子が飛ばされているのは傍目から見てもマスコット位にしか思われていない為か。
「本命はやっぱり雫原さん?」
先日の一件を思い出す。思い出すだけで茹蛸になりそうな位に顔が真っ赤に染まった。なんだか、心臓もドキドキしている。
「かも、な」
「もしくは、川奈さん?」
「実で言うと、まだコミュニケーションがあまり多くないからそんなに……」
雫原とは濃厚な絡みがあったが、川奈とは未だに接触回数が少ない。だからと言って、ぞんざいに扱っている訳ではない。
むしろ、話だけを聞けば自分の為に一番尽力してくれているのは彼女だ。そこまでしてくれる子に関心が向かわない訳がない。
「……そっか。じゃあ、飴宮さんは?」
「一緒に居て楽しいというか。なんて言うか、変な話だけれど。カルアと一緒に居た時を思い出す様な感じがするんだよな」
「見た目は全然違うのに?」
「そうじゃなくて。なんて言うか、距離感? って言うのか。楽しいこととか。そう言うのを共有し合おうって言う空気というか」
時折、怒られたりもするけれど。なんだかそれも心地良く思える位の関係性。話をするだけの知人レベルの友人ではなく、もう少し仲が深い友人というか。
「澄野。なんだか、楽しそうだね。他の人達のことを話す時とは明らかに違う」
「そうかな?」
「それだけ関係を構築している最中なのかもね。なんか、こういう話をするのも楽しいよね」
「だよな。なんかさ、最近は戦いとか未来のことばっかりで。こういう馬鹿話をしている時が一番楽しいんだよな」
それは過ぎ去ってしまった日常に対する憧憬か。思ったよりも話をしていたこともあって、また眠くなって来た。
「そう言えば、シオンはなんであんまり姿を現わさないんだ?」
「あまりたくさんの人と話すと疲れるから。それに、皆が活動的だと我駆力が渦巻いていて、表に出難くて」
我駆力云々を除いても、シオンは控えめなのであの混沌とした場に混ざるのが苦手なのだろう。
「また、深夜にこう言うことがあったら気楽に来てくれよ。オレも色々と話したいからさ。……まぁ、ちょっと眠くなって来たからまた寝るけれど」
「うん。お休み」
シオンに見送られて、拓海は再び部屋に戻った。すると、いつの間に蒼月がいなくなっていた。机の上には『ありがとう』と書かれた紙があったので、彼の義理堅さに感謝しつつ、拓海は3度寝に入っていた。